軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そう、お兄ちゃんならね

フレイは監視用結界で、ライアスの部屋で行われた密談を余さず見ていた。

しかし、これはハルトが特に何かを察したからではない。

彼女にはふだんから、城の監視を命じていた。

何かしらの仕事を与えなければ、フレイは余計なことをしでかす。ハルトが十年付き合って導き出した結論だった。

「しかし、いったいなんの話をしていたのだ?」

話はすべて聞いていたが、実際のところ彼女には彼らの意図がつかめていない。

目標とはなんだろう? 誰かを抹殺するためのようだが、どうして召喚獣を呼び出すなんて面倒なマネを?

「まあ、ハルト様ならすべてお見通しだな、うん」

監視用結界は映像を記録もできる。ハルトが見逃すはずがない、とフレイは確信した。

「これはきっと些末なこと。私が報告せずとも、あのお方はすでに把握しておいでだな。うん、ハルト様だものな」

大事なことなので繰り返そう。

フレイに監視用結界を預けているのは、彼女が余計なことをしでかさないためである。

彼女から有益な情報がもたらされるなど、ハルトはまったくこれっぽっちも期待していなかった。

以前は『ネズミの隠れ家を発見』だの『料理長が不倫しているとの噂をキャッチ』だの、無駄な報告ばかり。ハルトはそれを嫌い、『細かいことはいちいち報告しなくていい』と言いつけていた。

この城は、平和なのだ。

結果、フレイは監視だけして、まったく報告しなくなった。

「なんだかよくわからんが、ハルト様の恐ろしさを知るがいい! ふっ、ははは、ふははははっ!」

尻尾とともに箒をふりふり。フレイの高笑いが廊下に響いた。

一方の、ハルトはと言えば――。

☆☆☆☆☆

「ふがっ!? ………………今、何時だ?」

すっかり熟睡していたな。外はもう真っ暗だ。あー、よく寝た。

ライアスと一騎打ちしてやたら気疲れしたからなあ。戦闘自体はぬるくても、知らん人たちの注目を浴びたのが堪えた。

もう晩餐会は終わるころかな? 俺はパスしたから、腹の虫が騒ぎ出す。

ベッドから離れ、しばらくだらだら過ごしていると。

「あにうえさま! おしょくじです!」

バーンとドアが開かれ、幼女が飛びこんできた。我が妹シャルロッテ。びっくりしたなあ、もう。

その後ろからもう一人。俺だ。正確には俺のコピーアンドロイド。

「起きたのか。いいご身分だな。俺を晩餐会に行かせておいて、部屋でぐうたらとは恐れ入る。お前も俺ならわかるよな? 俺が、どれだけ辛かったか!」

目がマジだ怖い。まあ、わかるよ。知らん人たちに囲まれての食事でしょ? 俺なら耐えられない。だからコピーに行ってもらったわけだし。

「はぁ、もうね、やんなるよな。お前が嫌なこと全部俺に押しつけてさ。俺ってお前のなんなの? 都合のいい男? まあ、そう作られたんだろうけどさ」

俺のコピーは床にごろりと転がった。ふて寝か。すっかりやさぐれてしまったな。変に学習機能とかつけてるから、フラストレーションが溜まりまくっているようだ。一度どこかでリセットしなくちゃダメかも。

ひとまずコピーの頭に手を触れた。俺の姿が縮んでいき、美少女フィギュアになる。ビキニアーマーでぼいんぼいんなやつだ。普段はこうして、俺に愛でられている。ちょっと複雑な気分。

俺はシャルが持ってきた晩餐会の余り物をかっ食らう。いつもより豪華だ。さすが王子に王女様。いつもの客とは質が違う。

食事している間、シャルは晩餐会での出来事をしゃべくりまくっている。

「――というわけで、おうじにさそわれて、あしたはわたくしもごいっしょなのです」

「なんでお前まで?」

ロリコンかよ、と思ったが、相手もまだ九歳だ。

でもなあ、コピーアンドロイドから得た情報(元に戻すとき記憶が流れ込んでくる)によれば、べつにシャルを意識している風ではない。むしろ俺(のコピー)をちらちら睨んでいた。

本当に話し相手がほしいのか? だとすれば、俺を指名するのは嫌だからシャルにしたのかも。うーん、わからん。

「わたくし、とてもたのしみです」

にこぉっと天使みたいな笑顔が眩しい。まだ幼いシャルは、城から外へでることはほとんどないのだ。

ともあれ、シャルも同行するとなれば――。

明日の視察は城から東へ、ちょっとした森を突っ切ったところにある農業地帯だ。

城に近いから野盗の類はほとんどいないし、フレイが付近の魔物を配下に置いているので、ほぼほぼ危険はない。

でも妹が外出するのに、お兄ちゃんなら万全を期すべきだよな。

監視用の結界を飛ばし、明日の視察ルートを調査する。迷いゴブリンとかいたらフレイを差し向けるつもりだ。

「……ん? なんだ、こいつら?」

農地へ向かう森の中。街道からすこし奥へ入ったところで、ローブ姿の奇妙な集団を見つけた。

円になって何やらつぶやいて、その内側には魔法陣が光を放っている。

「しょうかんの、まほうじんですね」

シャルは瞳をキラキラ輝かせて、続けた。

「あにうえさま、あくのそしきが、なにやらたくらんでいるのでは?」

そうと決まったわけではない。むしろ父さんが道中の安全配慮のため何かしていると考えるのが自然だ。

だが七歳にして中二病を発症している彼女に、常識的回答は 禁忌(タブー) 。

「どうやら、俺の出番のようだな」

「っ!? しゅつげきですか!?」

「お前はここにいろ。真相は、俺が明らかにする」

全身黒スーツに黒ヘルメット。大人サイズの体格に外見上成り変わる俺。妹用の、陰なる正義のヒーローモードだ。

俺、この格好で盗賊とか魔物とかと何度戦ったことか……。シャルよ、早く目を覚ましてくれ。

「今日こそ連中の正体を暴いてやる!」

「あにうえさま、ごぶうんを!」

こうして俺は、闇夜を切り裂いて現場へと急行した――。