軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

正義の組織をプロデュース

どうやら王妃ギーゼロッテに魔神とやらが取り憑いているらしい。相変わらずはた迷惑な女である。

もはやわりとどうでもいい奴だが、放っておくと面倒臭いことになっちゃうわけで。

ここはもう国内のパワーバランスがどうとか言ってる場合ではなく、さくっとこっそり不意打ちしてこの世界からご退場願うのがいいよね、と俺の中ではいちおうの結論に至った。

しかし、である。

帝国領内の山の中。夏が近いというのに肌寒い。

木々が生い茂る鬱蒼とした中、どばどばどばーっと大量の水が落っこちていた。滝である。

「なんでワタシがこんな目にぃ~っ!」

ティア教授の絶叫が、はかなく滝の音で掻き消された。

白襦袢っていうんですか? 和服の中に着るやつっぽいの一枚で、頭から滝に打たれている。ちなみに衣装は俺が作った。シャルに頼まれて。

他にもフレイやらリザやらイリスやら、ついでに我が妹シャルロッテちゃんまでも、並んで大量の冷水を浴びまくっていた。寒そう。

「ティア教授、ここが辛抱のしどころです。この苦行を越えた先にこそ、覚醒とかそんな感じでパワーアップするのですから!」

シャルちゃん、がんばっているけど唇が紫だよ? そろそろヤバくない?

「ワタシは戦闘要員じゃない!」

「我ら一丸となって巨悪に立ち向かいましょう!」

「話聞いてよ!? ついでに言えばワタシはレベルカンスト間近だから、覚醒とかそんな感じでパワーアップはしなあーい!」

「覚醒と言えばびっくりパワーアップ。もしかしたら、最大魔法レベルが上がってしまうかもですよ!」

「んなこと絶対ないないのない! ええい、こんなところにいられるか! ワタシはやめさせてもらうからね!」

ずぶ濡れになって飛び出すちびっ子教授。

とりあえず滝に打たれるまでやってくれたのだから責められはしない。シャルに付き合ってくれてありがとう。

「まったく、ひどい目にあったよ……」

ガタガタ震えながらこっちにやってきた。

ちなみに俺は滝を見下ろす崖の上にいた。シヴァモードなのには理由がある。

「おや? シヴァ君、 彼女(・ ・) も連れてきたのかい?」

びっちょびちょで半眼を向けた先。

「いったいこれはなんの遊びなのかしら?」

ザーラ・イェッセル先輩が呆れたようにこぼす。彼女の隣にはぼけーっと俺のコピーが体育座りしていた。

「それに……ここってどこ? 王都近辺にこんな滝なんてあったかしら?」

「ここは帝国領内だ」

「……あの奇妙な扉を通っただけで、国境をも越えたというの?」

「詳しい話はまた今度にしよう。それよりも――」

まずは俺の考えをまとめてみよう。

魔神が取り憑いた王妃ギーゼロッテは放っておけない。だからさくっとこの世からご退場願いたいところだが、できない事情が眼下にある。

「シャルロッテ様、すこし休んだほうがいい」

「だだだだいじょうぶですすす。ここここれくらいいいいいガタガタガタガタ――」

シャルは胸の前で手を組み、寒さを耐え忍んでいる。

これは、修行である。

強大な敵に立ち向かうべく、彼女の言う『覚醒とかしてパワーアップ』を目論んでいるのだ。

ちなみにマリアンヌお姉ちゃんとライアスも誘ったらしいが、

『ごめんなさい、興味はあるのですが生徒会の仕事が忙しくて……』

『滝に打たれる? んなもんで魔法レベルが上がったら苦労はねえよ。バカバカしい』

ライアスお前、そういうとこだぞ! 激しく同意ではあるのだけど!

ともあれ。

シャルは本気の本気で悪の巨大組織、ついでにティア教授がうっかりしゃべってしまった魔神さんの打倒に燃えている。

キャメロットの力をもって、世に平和をもたらすのだ!

そんな中、俺が魔神入りギーゼロッテを闇討ちして倒してしまったらどうなるだろう?

悪の巨大組織――たぶん『ルシファイラ教』とかいう怪しい宗教団体は、国内での活動を自粛してしまうかもしれない。

あいつら国外にも活動の手を広げてるので、そっちに移るんじゃないかな?

つまり、シャルの倒すべき敵がまるっといなくなってしまうのだ。

『さすがは兄上さまですねー(棒』

そんな目からハイライトが失われた称賛に意味などあろうか? いやないです。

ので、俺がお気軽に手を下してはならないのだ。

俺がやるべきは、シャルたちが気持ちよく目的を達成すること。

誰にも気づかれないよう陰からサポートすれば、そうそう危険はないはずだ。フレイとリザだけで戦力的にはほぼ大丈夫そうだし。

そう、プロデュースである。

王都の騒動のときとあんま変わらん。だから大丈夫、なはず。

ついでに言えば、滝修行で魔法レベルが上がることも、たぶんない。哀しいけど、それが現実なのよね。

そこで俺はかねてより計画していた『魔法レベルの概念であるところの背中から生える謎の管の解明』を急ごうと考えた。

それさえわかればこっそりシャルたちをパワーアップさせられるって寸法よ。

その協力者こそ、ザーラ先輩だったのだ!(長かった)

「――君は本当にいいのか? 安全は確保するつもりだが不測の事態が起こらないとも限らない。もちろん安全は確保するつもりだが!」

「アタシの身体を使って魔法レベルの謎を解き明かす……。面白そうじゃない。どうせアタシは誰にも期待されていないもの。何をされたって、もう……」

これ、変な地雷踏んじゃってませんかね? ヤンデレ化まっしぐらな未来しか見えない。

「ほんのり体験したワタシから言わせれば、体の中をまさぐられるような嫌悪感があったね」

「えっ、そうなの? それはちょっと……嫌かも」

ティア教授なに邪魔してんの?

「ま、耐えられなくなったらそう言うわ。まさか、か弱い乙女を無理に凌辱する趣味はないでしょう?」

そんな趣味はないが、だからといってやめてやる義理もない気がする。先に契約書作ってサインさせとくか? 重要なところは見えないくらい小さな字にしておいて。

「どうして黙っているのよ? 不安になるじゃないの!」

仕方ないか。

「わかった。その条件をのもう。しかし君もやるからには、早々に音を上げないでほしい」

「……期待されているってことかしら?」

「そう捉えてもらって構わない」

で、いいのかな? この返し。

不安になったものの、ザーラ先輩はなぜだか吹っ切れたように笑みを浮かべた。

「いいわ。ええっと、背中を見せればいいのよね?」

おもむろに上半身だけ制服を脱ぎ始める。俺のコピーが横でぼんやりしているのに、まったく照れた様子がない。

で、なんの感慨もなくきめ細やかな肌が晒されたわけだが。

「どうしたの? 何かするのではなくて?」

「ああ、いや……」

たしかに、たしかにだ。

今まではすべて服越しに確認していたから、管が背中から直接伸びる様は初めて見た。

いや、それはいい。

地面にくっついてるのとか途中で切れてるのとか、服越しで見た感じと変わりはしない。

でもね。

「なんか、穴が開いてる……」

「えっ? なによそれ!? アタシ、背中に傷なんてないわよ!?」

いや傷とかではなくて、ですね。

管と管は密接しているところもあればぽっかり空いた箇所があり、そこには『ここに管が差しこめますよ!』と主張するかのような、穴があったのだ――それも10個も。

これ、なんなんでしょうね? 俺は困惑した――。