軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

95.嫌な予感がしたそうだ

「え、ほんと? 初耳だなぁ」

巻き毛がゴージャスな彼女――名をラディア・フ・ル・ローディアという女子の案内で、クノンは第六実験室へと向かっていた。

ラディアは根は優しいようで、クノンの質問には答えてくれる。

あまりいい顔はしていないが。

まあ、しかし、見えないクノンには関係ない。

「じゃあ特級とか二級とか三級とかって、推薦で決まるところがあるんだ?」

「ええ。魔術の師や国の要人が、魔術学校へ推薦状を書くのですわ。それを受けて、入学試験の前に大まかにクラス分けをしておくそうです。

推薦がなければだいたい三級ですね」

今年の入学試験は四人しかいなかった。

一緒に試験を受けた入学希望者は四人しかいなかったので、クノンはそう思っていた。

実際そう説明もあったので、――だから少し疑問だったのだ。

先日まで世話になっていた三級クラスも、一年生だ。

そして今世話になっている二級クラスも、一年生だ。

つまり、特級クラス以外の新入生もいたということだろうか?

その辺が気になって問うと、ラディア含む二級クラス一年生も、クノンと同じ時期に入学したのだとか。

更に問うと、入学試験前からクラスの割り振りのようなものが推薦で決まっていた、らしい。

「じゃあ君たちは二級クラス用の試験を受けたの?」

「そうなりますわね。むろん実力不足なら、希望するクラスには入れないそうですが」

なら自分も特級クラスへの推薦があったということか、とクノンはこの時知った。

――そう、クノンは推薦を受けていた。

師であるゼオンリーと、ヒューグリア王国の王宮魔術師総監ロンディモンドの両名から。

特級クラス入りを望む、と。

クノンの意思も聞かずに。

まあ聞いたところで結果が変わったとは思えないが。

「クノン、言っておきますが」

「ん?」

「わたくしたちは、特級クラスに入れなかったのではありません。望んで二級クラスに所属したのです。

たかが所属クラスで魔術師としての優劣が決まると思っていたら大間違いですよ」

ラディアに威嚇された。

ついでに、付かず離れずで移動している二級クラスの面々にも、穏やかじゃない視線を向けられている。

「いいね。期待してるよ」

クノンはニッコニコである。

「僕、初心者じゃない同年代の水の魔術師と接するの、ほぼ初めてなんだよね。

ああ、わくわくするなぁ。きっと僕の知らない魔術とか出しちゃうんでしょ? 君たちの全てを知りたいなぁ」

――後にラディアは語る。

クノンの笑顔を見た瞬間、とてつもなく嫌な予感がした、と。

眼帯の少年。

名はクノン。

「あそこまで特徴が一致するなら、同一人物だろうな」

一足先に第六実験室にやってきたアゼルは、取り巻き二人と件の新入りについて話していた。

あの少年は、きっと特級クラスの生徒だ。

情報は武器である。

目立つ生徒の噂くらいは耳に入れている。

情報戦は貴族の戦いだ、疎かにする者はいない。

気に入らない。

実に気に入らない。

二級クラスという名称も気に入らなければ、特級クラスという名称の「二級クラスより上のような」存在も気に入らない。

この都市は王侯貴族の存在しない、世界一の魔女が治める地。

ここのルールは彼女が決め、どんな権力にもどんな国にも屈しない。

――という前提はあるものの、実際はそうはいかない。

世界中から権力者の血族や関係者が集まる以上、そこにはどうしても小さな権力社会が誕生してしまう。

特に、今は帝国の狂炎王子がいる。

アレがいるおかげで、帝国貴族が非常に勢いがあるのだ。

均衡が崩れているというか、帝国一強の形ができあがってきているというか。

当然、帝国出身以外が面白いはずもなく。

そのせいで二級クラス全体がかなり荒れている。

――まあ、それは置いておくとして。

「でも、大丈夫ですか? アゼル様」

アゼルたちだけ先に来たので、まだ周囲に人はいない。

だからこそ、取り巻き二人は非常に不安そうな顔をしている。

身内だけだからこそ弱音を晒せるのだ。

それ以外では、虚勢でもなんでも、弱味は見せられない。

「昔から、特級クラスは化け物揃いだって言われていますよね……」

アゼルの魔術の腕は確かである。

三ツ星だし、入学する前からいくつかの中級魔術も習得している。

紛れもなく天才である。

同年代で魔術で負けたことはないし、下手な大人にも負けない。

だが、それでも。

それでも、噂のクノンと比べるどうなのか。

入学して一年足らずで実績を積み、功績を重ね、順調に名を売りつつある、噂に聞くクノンと比べると、どうなのか。

特級クラスは化け物揃い。

この言葉は、二級クラスで腕の立つ者なら、どこかで一度は聞くフレーズだ。

調子がよさそう者に「それでも上がいる」ということを教えるために。

あるいは、挑発してけしかけるために。

「フン。希少属性ならともかく、同じ水属性に負けるつもりはない。

噂では、彼は二ツ星だというじゃないか。たとえ特級クラスだろうと私にとってはただの同年代の格下だ」

鼻を鳴らして堂々と言い放ったその時、ほかの連中に混じってクノンがやってきた。

ニッコニコに笑いながら。

「……」

後にアゼルは語る。

――あの時クノンの顔を見た瞬間、とても嫌な予感がした、と。