軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

372.あれとあれをアレする

温泉が出る魔道具。

アイオンはそれが欲しいらしい。

温泉。

クノンは頭の中にある、温泉の情報を呼び起こす。

そう、確か――

「アイオンさん」

「どう? 温泉できる?」

「ダメですよ」

「え? ダメ? 無理なの?」

「温泉ってアレでしょう? 地面の熱で温められた水、つまり自然の中にあるお湯のことでしょう?」

「う、うん」

――アイオンは戸惑っていた。

クノンの言う通りだ。

温泉とは、まさにそれだ。

それ以外がないレベルでその通りだ。

しかし、クノンの様子はどうにも不満げだ。

温泉に対して、何か含むことでもあるのかもしれない。

「つまり、外であられもない姿になって一糸まとわぬ美しい裸体を太陽の下に、あるいは夕日や夜空の下に解放するという紳士淑女にあるまじき行為を伴うやつでしょう?」

「……」

「僕はそういうのダメだと思いますけどね! アイオンさんを痴女にするわけにはいきませんからね!!」

「痴女……いや、待ってクノン君」

――これは一から説明せねばならないようだ。

「――なるほど!」

クノンは強く納得した。

「温泉は、毒素や温度の関係で人が入れないものが多い。

その反面、人が入れる温泉は、すでに宿泊施設や公共施設として体裁を整えているから大丈夫だ、と。

野ざらしに一糸まとわぬ逞しい裸体を晒す心配はない、というわけですね」

よかった、とクノンは思った。

アイオンは外で一糸まとわぬ赤裸々な裸になるような解放的かつ奔放な女性ではなかった。

素敵なレディは、そんなことはしないのだ。

クノンの仲の素敵なレディ像は、今日も守られたのだ。

「まあ、その……そうなんだよ」

――人の手の入っていない秘湯、というのも結構あって、意外と人気もあるのだが。

アイオンは、その辺のことは言わないことにした。

これでいい。

クノンが納得したなら、これでいいのだ。

それより本題だ。

「温泉ってね、どうも普通の湯とは違うみたいでね。

地面が含む栄養素が水に溶け込んでいて、それが薬の役目にもなってるみたいでね」

「ああ、わかります。場所によっては水の味だって違いますからね」

温かい湯だって、元は水である。

水魔術師であるクノンだ。

水に関してはそれなりに詳しいつもりだ。

「当然、場所によって含まれる栄養素も違うと思います」

そして、先の話を借りるなら。

毒素などが含まれている場合もあるわけだ。

人が入れない温泉がある、というのも、納得できる。

「つまり天然の薬湯ってことですね」

「うん、まあ、そんな感じかな」

「それを魔道具で再現するんですか?」

「できる? というか、温泉じゃなくてもいいんだけど――」

アイオンは語る。

あの魔人の腕開発実験で、クノンが作ってくれた風呂になる「水球」。

あれがとても便利で、忘れられない、と。

ある程度できる水魔術師なら。

風呂の用意くらい、朝飯前だろう。

しかし、属性が違う者にとっては話が別だ。

できれば温泉がいい。

だが、風呂でも問題ない。

入りたいと思った時、ちょっとの手間ですぐ入れる。

そんな理想が叶わないか。

そういう話である。

「たぶんできま――あ」

たぶんできますよ。

クノンはそう返答しようとして、言葉を詰まらせた。

風呂に関しては、もう半分完成している。

それに気づいたからだ。

「……うーん」

そして、迷った。

「クノン君?」

「あ、すみません。ちょっと時間をください」

「う、うん……」

アイオンと別れ、シロトを探して歩く。

彼女の腕を観察する必要がある。

グレイちゃんが出掛ける、と言っていたが。

きっとまだいる。

真面目な彼女だ。

いつもこの時間にクノンが観察しに来るのを知っているので、待っていてくれていると思う。

――まあ、それはともかく。

温泉。

というか、風呂の魔道具。

構造自体はすぐに思い浮かんだ。

簡単にできると思う。

己が水属性だけに、盲点だった。

クノンは魔術で風呂を用意できる。

だからこそ、それを魔道具に落とし込む、という発想がなかった。

師ゼオンリーが、土属性だからこそ思い浮かばなかった、と言っていたのと同じだ。

奇しくも、話のネタも一緒だ。

師は魔建具について、そう言っていたから。

――風呂の魔道具は、魔建具に組み込めると思う。

湯を出すだけの魔道具だ。

構造も単純なので、魔建具の術式に組み込めるだろう。

家が建つのと合わせて。

風呂もできる。

そんな感じになる。

なんなら魔建具で風呂だけ出すのもありだろう。

だが、しかし。

魔建具は公表されたばかり。

これからこの街に、そして世界に広がっていくだろう新技術だ。

そんな大事な時期に。

果たして、更に新しいものを発表していいのだろうか。

少し落ち着いてからの方がいいのではないか。

魔道具に魔道具を組み込む発想も、時期尚早ではないか。

邪魔にならないか。

ややこしくならないか。

いずれ誰かがやるとは思う。

構造的に簡単なので、誰かが思いつくだろう。

それまで待っていてもいいのではないか。

そんなことを考えながら、クノンはロジー邸を彷徨う。

けど、まあ。

魔建具に組み込んだ風呂は、すぐに作ってみるつもりだが。

要は、まだ公表しなければいいのだ。

レディ・アイオンの要望だ。

聞かないわけにはいかないだろう。

紳士であるならば。