軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

116.単位

「――あっ」

大きなトマトを観察している時、クノンは気づいた。

魔術学校生活一年目の半分が過ぎていたことに。

「これで私の単位は完了です」

いや。

気づいたというか、聖女が気づかせてくれた。

昼食がてら、クノンは聖女レイエスの研究室にやってきた。

もちろん仕事の確認のためである。

その時の世間話で気づいた。

「品種改良は奥が深いですよ。たとえばそのトマトなどとにかく甘いのです。これが世に出たらと思うとわくわくして眠れなく――」

聖女ご自慢の大きなトマトの話は続くが。

クノンの頭は、己の単位のことでいっぱいになっていた。

――果たして今、自分はどれだけ単位を得ているのか。

「魔術を入れる箱」開発の件は、忘れてない。

それゆえに半年で単位を取り切る、というのを目標にやってきたが……

暦にも時間にも無頓着なクノンである。

正直、あまりペースを考えずに活動してきた。

それに加えて。

ジオエリオンと知り合ったことで、予定はだいぶズレ込んだ気がする。

あの出会いは予想外だったから。

予想外に楽しくて、予想外に時間を次ぎ込んでしまった。

まあ、後悔はないが。

ちなみに聖女は、数々の野菜や薬草の栽培・品種改良にて、とっくに単位を取得済みだそうだ。

週一で鉢植えが増えている気がしたのは、気のせいじゃなかったようだ。

「そういえば、クノン君は単位どれくらい取ってるの?」

「私とリーヤは半分くらいだ」

そして、今日はたまたま同期リーヤ・ホースとハンク・ビートも、聖女の研究室に来ていた。

時々ここで一緒に昼食を取る。

それが、今年の特級クラス一年生の約束事のようになっていた。

近況報告をしたり、雑談をしたり、相談を持ち掛けたり。

派閥で別れて、一緒に活動する機会はめっきり減ったが。

付き合い自体は普通に続いているのだ。

「僕は……どうだろう。なんか手紙が届いたりはしてたけど」

単位取得を証明する手紙である。

実績に応じて、住んでいる家や研究室に届けられるのだ。クノンは研究室に届くよう手配してある。

クノンも何度か受け取っている。

受け取った記憶はある。

そして記憶が確かなら、研究室の机の引き出しに突っ込んでいるはずだ。

開封もしないで、そのまま。

大抵夢中になってレポート作成や覚書の清書や読書などしている時に届く。

なので、ほとんど無意識で受け取ってしまいこんでいた。

単位取得のため、いろんなことをしたのは確かである。

その中には、成果や実績と言えるものもある。

が、結局その成果を確認していないまま、今日に至る。

「すぐ確認してみるよ」

クノンは思い出せる限りの活動を数えてみた。

恐らく、十点はまだ取れていないはずだ。

ここからは単位取得を最優先に動き、一刻も早い「魔術を入れる箱」開発に取り組みたいところだ。

「あ、クノンに相談があったんだが」

「え?」

ここに来た目的である確認事項を済ませて戻ろうかと思ったその時。

ハンクにそんなことを言われて引き留められた。

「ほら、『水分を抜く箱』ってのを開発してただろ? その件どうなったか気になってて」

「一応もうできてるよ。まだ試作段階なんだけど」

水分を奪う箱と、完全密閉する箱。

霊草シ・シルラを使った薬を保存するためのものだが、完成自体はすでにしている。

今は、あらゆる耐久力のテストをしている段階だ。

いつまで効果があるのか、どんな環境でも有効なのか。

そんなことをチェックしている。

そして改良、あるいは補強などを加え、ようやく完成となる。

元が保存箱なので、ちゃんと中身の保存ができているかどうか。

とにかく時間をかけて調べる必要があるのだ。

要は、経年劣化の観察である。

中身も箱も調査対象だ。

「君とやっていたベーコン作りから始まって、今は干し肉作りにハマッてるんだ。その箱があれば保存が利くだろ?」

「あ、そうなの!? 僕のベーコンもまだ造ってる!?」

「クノンのじゃないが評判はいいよ。あれで店持てるんじゃないかって何人かに言われた。店やるなら出資してもいいって」

「僕もする!」

「やめろよ。特級クラス出身の魔術師が加工肉屋になるのは、さすがに志が低い」

低いだろうか。

クノンはそう思わないが、しかしハンクの言い分もわかる。

魔術師は貴重である。

特級クラスで卒業すれば、頭に「優秀な」が付く。

そんな魔術師が、まさか加工肉の専門家に。

誰かに、誰かに魔術師の無駄遣いだと言われそうではある。

「メインじゃなくてもいいんじゃない?」

「ん?」

「副業でお店を持つ、商売をする。そう考えたらなしではないと思うけど」

「あ……そうか。副業って手もあるのか」

貴族界隈では副業も珍しくないが、庶民出のハンクは「店を持つ=就職」と考えていたようだ。

軽くハンクの相談に乗って、クノンは自分の研究室に戻った。

で、だ。

「えーと……」

学校から届いていた手紙を開封し、中を確認する。

中身はカードである。

一枚が一点という、単位を示すカードである。

クノンの名と、何に対する単位か簡単に記されており、魔術学校の印が押されている。

そのカードを机に並べてみる。

リーヤ・ホースの飛行実験のレポート。

一枚。

レイエス・セントランスとの霊草栽培の共同実験。

二枚。

ユシータ・ファイ以下数名との水中で活動する共同実験。

一枚。

水属性による飛行方法。

一枚。

以上。

合計五枚である。

「ふうん……」

これに、恐らくもうすぐ「実力の派閥」代表ベイルとジュネーブィズの三人で開発した「保存箱」の魔道具の単位。

それと、霊草シ・シルラを使った魔道具の単位も入るだろう。

あれらはテスト段階なのだ。

まだ提出できないので、今は成果に数えられない。

それを加えるなら、

「七点か八点くらいかな」

と、そんな感じになる。

あと三点。

何をするべきか。

「……サトリ先生に相談してみようかな」

確か、教師の助手や手伝いでも単位が貰える、という話だったはず。

今すぐ実績になりそうな案は思いつかないので、恩師に頼ってみてもいいだろう。

ジェニエにも相談したいし。

「よし」

方針を決め、クノンは立ち上がった。