軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十二話 最強の陰陽師、獣人の王に謁見する

「これでよかったのかなぁ……」

一刻後。ぼくらは蛟に乗り、空の上にいた。

あれから他の悪魔たちを振り払うようにして王宮を脱出し、蛟で飛び立ったのだ。

ぼくはリゾレラを振り返って訊ねる。

「なあ、なんであんなことしたんだよ」

「あなたがそうしてほしそうだったの」

リゾレラは澄ました調子で答える。

「会合の時から、ああいう手合いを苦手そうにしてたの。日暮れ森の里を飛び出したのも、王と直に話したかったから。違う?」

「日暮れ森の里……って、ああ、ルルムの里ね。あー、まあ、そうと言えばそうなんだけど……」

というかバレてたのか。

「……ワタシも、ああいうのは苦手なの」

リゾレラがぽつりと言う。

「求められるからいろんな集まりにも顔を出してるけど……本当は、そんな立場じゃないの」

「……ふうん」

この子にも、どうやらいろいろあるらしい。

本当はどんな立場なのか気になったが、今は長話を聞けるタイミングではなかった。それよりも……と、 ぼくはリゾレラの後ろに座る、アトス王とその従者に目を向ける。

二人とも、目を丸くして眼下の景色を眺めているようだった。

若干申し訳なさを滲ませながら話しかける。

「あのう……なんかすみませんね。付き合わせちゃって……」

アトス王はぼくに目を向けると、首を横に振った。

それから、従者である銀の悪魔へと耳打ちする。

「はい、はい……『我は確かに、力と言葉を尽くすと約束しました。その言を 覆(くつがえ) すつもりはありません。それに』」

そこで銀の悪魔は言葉を切り、一瞬再び、眼下を流れゆく雄大な森へと目をやった。

「『この光景を、生涯忘れることはないでしょう』……と、王は仰せでございます」

「……」

その言葉には、従者自身の思いもこもっているように見えた。

二人とも、別に怒ってはいないらしい。

まあそれならいいかと、ぼくは気持ちを切り替えることにした。

「さて。まだ時間があるから、もう一箇所行けそうだな」

「次に連れ出すなら、獣人の王がいいの。ここから近いの」

「……やっぱり連れ出す前提なのか」

「あそこにも面倒なのはいるの。どうせなら全員連れ出す方がいいの。大丈夫、ワタシに任せるの」

「……まあ、それなら行こうか」

若干の不安を覚えながらも、ぼくは龍を駆る。

****

夕暮れ時に差し掛かる頃、ぼくらは獣人の王都へと到着した。

蛟から街を見下ろしながら呟く。

「なんだか人間の都市に似ているな」

建物の形が近い。

神魔や悪魔の街は異質な石造りばかりだったが、こちらは木材なども使われていてどこか見慣れた感じがあった。

リゾレラが表情を変えずに言う。

「獣人は他の魔族と比べて人間との交流が深いから、向こうの文化が入ってきているの」

「ああ、なるほど」

そういえば、猫人は商業種族だと言っていたっけ。

それにラカナにも、少数ではあるが獣人の冒険者がいて、人間ともパーティーを組んでいた。

速度を落とした蛟の上で、ぼくは目的の建物を探す。

「うーん……王宮のようなものは見当たらないな」

「王宮はないの」

「えっ」

「王は、自分の屋敷にいるの。あそこ」

リゾレラの指さした先には、周囲の建物から一回りも二回りも大きな豪邸があった。

庭も広くていかにも権力者が住んでいそうだが、王宮っぽくはない。

「さあ、早く行くの。日が暮れるの」

「はいはい」

なんだかこの子、妙に乗り気だな……と思いながら、ぼくは蛟を降下させていく。

****

街で起きた騒ぎは、悪魔の時と同じような感じだった。

ぼくは申し訳なく思いながら、蛟を豪邸の前庭へと降ろす。

「うおおおお!? なんだ貴様っ…………ぬわーっ!?」

「止まれ! 止まれ! 止まっ…………ぬわーっ!?」

警備の犬人が二人いたので、再び土蜘蛛の糸で黙らせる。

四人で豪邸へと入り、呆気にとられる熊人の家令にリゾレラが諸々を伝えると、慌てたように奥へ引っ込んでいった。

そして、客間で待たされることおよそ一刻。

「もうっ、なんなの? 約束もなしに来た無礼な客なんて追い返して! フィリはね、暇じゃないんだから!」

「しかしお嬢さま、そういうわけにも……」

家令と口論を交わす声が聞こえてきたかと思えば、客間の扉がバーンッ、と開く。

姿を現したのは、高価そうな衣服を纏った、白い猫人の少女だった。

白の毛並みに青い目。ここにいる他の猫人と比べると、顔立ちにどこか子猫めいた幼さがある。

「神魔のリゾレラなの。覚えてる? フィリ・ネア王」

「……覚えてる。フィリが王様になった時、挨拶したよね。客ってあなただったんだ、リゾレラ」

立ち上がって語りかけたリゾレラに、獣人の王は気だるそうに返す。

「はぁ。家令が慌ててたから、誰が来たのかと思った。それなら最初から…………あれ。あなた、アル・アトス?」

猫人の少女はアトス王に気づくと、目を丸くした。

「悪魔の王が、こんなところでなにしてるの?」

アトス王は、キッとした表情で口を開く。

「ままま、まお……! し、し、し……!」

「……あなたその 吃(ども) り癖、まだ治ってなかったんだ」

獣人の王の呆れたような物言いに、アトス王は顔をうつむかせ、従者に耳打ちする。

「『我は魔王様の臣下として、求めに応じ行動を共にしているのだ』と、王は仰せでございます」

「ふうん……え? 魔王って?」

「この人なの」

リゾレラに促され、ぼくは少々不安になりながらも名乗る。

「お初にお目にかかる。ぼくはセイカ・ランプローグ。一応、魔王ということになっている者だ」

どうかと思う自己紹介を終えると、猫人の少女が驚いた顔をする。

「うっそ~!? ほんもの!? フィリ、ただの人間かと思ってた!」

「……」

ぼくは思わず、リゾレラへ小声で問いかける。

「な、なあ。この子、本当に獣人の王なのか?」

「そうなの」

とてもそうは見えない。

前世でも道楽にふける君主はいたが、もう少し威厳もあった。

この子から種族の内情なんて聞けるんだろうか……?

獣人の王は驚いた表情のまま言う。

「神魔の里にいるって聞いてたけど……ニクル・ノラがなにか失礼なことでもした? もしそうでも、フィリにはなにもできないけど」

「いや、そうじゃない。会合は神魔の里で今も続いているが、ぼくは人間の国で暮らしていたせいで魔族の内情がよくわからないんだ。だから王である君から、獣人族の話を聞きたい」

「え~……? めんどくさいからいや」

心底煩わしそうに、猫人の少女は言う。

「フィリはねぇ、宝石を眺めたり、お昼寝したり、次に何を買おうか考えるのに忙しいの。そういうことは別の人に訊いてくれる?」

ぼくは思わず、リゾレラへ小声で問いかける。

「な、なあ。この子、本当に……本当に王なのか?」

「そうなの」

「……」

こんなのがいるとは完全に想定外だった。

王として振る舞おうとするそぶりすらない。

沈黙するしかないぼくに代わり、リゾレラが言う。

「魔王様があなたを必要としているの。一緒に来て」

「フィリはいやって言ったでしょ。もう、なんなの? 突然やって来て」

「あなたに選択肢はないの。従わないと大変なことになるの」

「ふーん、脅し? その人間みたいな魔王になにができるって言うの? いい加減にしないと兵隊呼んじゃうからね!」

怒り出す猫人の少女に、リゾレラはちらっとぼくを見る。

そして、告げた。

「ドラゴンであなたの家、木っ端微塵にするの。ね、セイカ?」

****

「ふわぁぁぁ~っ!!」

一刻後。

獣人の王フィリ・ネアは、蛟の上で歓声だか悲鳴だかよくわからないものを上げていた。

「すご~い!! 魔王様、ドラゴンなんて持ってたの!?」

「あ、ああ」

「フィリ、これ欲しい! いくらで売ってくれるっ!?」

「いや、売り物じゃないから……」

龍にはしゃぐフィリ・ネア王に、ぼくは若干気後れしながら答える。

こういうの、あまり弟子にもいなかったタイプだな……。

フィリ・ネア王は空からの景色に瞳を輝かせる。

「これ、すっごく稼げそう! 空なら襲われる心配がないから、高価な荷を積めば高い輸送費を取れるかなぁ……あ、でも、富裕層向けの観光に使う方がいいかな」

「『魔王様の眷属をなんだと思っているんだ。そなたはいつも金、金と、そんなものよりもっと民のことを考えないか』と、王は仰せでございます」

「うるさ~い。民なんてフィリ知らない。みんなそれぞれ勝手に生きてればいいわ。っていうか、アトスも王なら自分の言葉で喋ったらどうなのかしら?」

アトス王がしょんぼりとうつむく。

「……なんか、賑やかになってきたな」

ぼくは呟いて、空を見る。

すでに日は沈みかけていた。

「そろそろ今日の宿を見つけないといけないけど……戻るのも難しいしなぁ」

本当は訪れた先の街に泊まるつもりだったのだが、悪魔の街にも獣人の街にも戻りにくかった。

どちらの街でも最後の台詞が、『ドラゴンで木っ端微塵にする』だったためだ。

「魔王様は行き当たりばったりなの。まったく仕方ないの」

台詞を発した張本人が、やれやれといった調子で言う。

「菱台地の里に行くの。そこならワタシが、泊まるところを用意できるの」

「菱台地の里って……ああ、君が住んでいる里か」

「魔族領の真ん中くらいにあるから、次の街に行くにもちょうどいいの」

それなら、頼んでもいいかもしれない。

若干恩着せがましいのが気になったが、ぼくは素直にリゾレラの言葉に従うことにした。

訪ねるべき王は、まだあと四種族分もいるのだから。