軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四話 最強の陰陽師、嫌な予感がする

『何年かに一度、街の近くの森でアルミラージが大量発生するんだ。森から出てくることは滅多にないんだけど、たまに行商人の馬車が襲われる。あいつら強いやつからは逃げるくせに、弱いやつにはすぐ襲いかかってくるから……。おかげで商品が入ってこなくなって、こっちは商売あがったりだよ! だから冒険者さん、森であの角ウサギを五十匹ばかり狩ってきてくれないか? お礼は弾むからさ!』

ケルツの商工組合からギルドへ依頼された内容は、こんな感じのものだった。

ずいぶん特徴的な文面だ。たとえ手紙でも、文章をここまで口語調で書いている例は見たことがない。冒険者への依頼というのは、独特の文化があるようだった。

「セイカくん、それまだ見てるの?」

「え? ああ、いや」

隣に座るイーファの声に、ぼくは依頼用紙を写した紙を折りたたんで 衣嚢(ポケット) に仕舞う。

正面に座るアミュとメイベルは、すうすうと寝息を立てていた。

ラカナを発ち、三日。

ぼくたちを乗せた馬車は、無事ケルツの近郊にまで差し掛かっていた。

この分だと、日暮れ前には街へたどり着けそうだ。

イーファに答える。

「依頼の内容を間違えたら大変だからな。念のため確認しておこうと思って」

「えー、大丈夫だよ」

イーファが楽観的に言う。

「街へ入ったら、みんなで一度ギルドの支部に行くんでしょ? その時にも詳しい話を聞けるんだから」

一応、ケルツへ入ってからはそのような予定になっていた。

余所の支部の依頼は、たとえ掲示板には貼られていてもその街に行かないと受けられない。アルミラージの出る森は街の外にあるが、否応なく一度入城する必要があった。

「ケルツってどんな街かなぁ」

「……イーファ、なんだか楽しそうだな」

「うん、楽しいよ」

イーファが笑顔でうなずく。

「だって、お屋敷を出て、ロドネアでしょ? 帝都でしょ? アスティリアに、ラカナ。それからケルツ……行商人でもないのに、こんなにいろんな街へ行けることって、普通ないよ。これって、すごく幸運なことなんだと思う」

「そう……だな。そうかもしれない」

もしもイーファがランプローグ家の奴隷ではなく、普通の農民の娘として生まれていたなら、生まれ育った村を出ることは一生なかっただろう。

精霊が見える目を持て余したまま、嫁ぎ、子を育てて、その生涯を終えたはずだ。

もちろん、そんな静かな生を望む者もいる。むしろ多くがそうだろう。

だけど、イーファがそうでないのなら……逃亡生活に付き合わせることになったとしても、連れ出してよかったかもしれない。

ぼくは小さく笑って言う。

「ケルツは、聞いたところによるとけっこう大きな街だそうだ。城壁の外に広がる大農園で農産物も作っているけど、基本的には商業都市だな。だから、おもしろいものも多いと思うよ」

「そうなんだぁ、楽しみ」

「たまに大雪が降るそうだから、住むには苦労しそうな街だけどね。それと…………いや」

「……? どうしたのセイカくん」

「なんでもない。そうそう、近くにダンジョンもあるおかげで、冒険者が多いそうなんだ。その分ギルドの支部も大きいだろうから、いろいろ話を聞いてみてもいいかもしれないな」

「そっかぁ。ラカナの支部みたいに、ご飯食べるところもあるのかなぁ」

弾んだ調子で言うイーファを横目に、ぼくは小さく息を吐く。

まれな大雪以外にも、ケルツには懸念するところがあった。

帝国の北方に位置するケルツは――――比較的、魔族領に近い街だ。

もちろん、帝国軍が駐留するような国境付近の辺境ではない。ただ、これまでで一番、ぼくたちは魔族領に近づくことになる。

別に、危険はないだろう。

魔族領に近いとはいえ、帝国の大都市だ。まさかその辺に魔族が出るなんてことがあるわけもない。

しかし……どうも、妙な予感がした。

****

「よーし! アルミラージ狩りを始めるわよー!」

寒さが残る春の朝の森に、アミュの溌剌とした声が響き渡る。

あの後、ぼくらの馬車は予定通りにケルツへ到着した。

降車したぼくたちはその足でギルドの支部へ向かうと、そのまま受け付けへ直行し、アミュが持つ認定票で例の依頼を受注すると申し出た。

受け付けの職員は、五級という受注下限ギリギリの冒険者がたった四人で来たことに微妙な顔をしていたが、結局は受注を認め、森の具体的な場所と、討伐数の証明方法を教えてくれた。どうやらアルミラージの頭に生えている角を五十本、持って帰ることが達成要件となるらしい。この角は報酬とは別に買い取ってくれるそうなので、なかなか美味しい依頼だ。

森は、帝国の街道からほど近い場所にあった。

どうやら深い森を切り開いて無理矢理街道を通したらしく、そのせいで獣やモンスターの被害がたまにあるそうだ。そのため、年間を通して似たような依頼を出し、危険な生き物が街道に近づかないようにしているらしい。

昨日の今日で森へとやって来たわけだが、イーファやメイベルも含め皆疲れも見せず元気そうだ。

ただ、ぼくは言う。

「それにしても、寒いな」

春も近いとはいえ、木陰には微かに雪も残っている。

早朝ともなれば、なかなか冷え込みがきつい。

しかし、アミュは得意そうに言う。

「ふふん、 回復職(ヒーラー) のお貴族様はひ弱ね。剣士はこれくらいなんともないわ。でしょ? メイベル」

「平気」

言葉通り、前衛二人はこの寒い中平然としていた。しかも薄着のまま。見ているだけで寒くなる。

ぼくがおかしいのかと思ったが、隣を見るとイーファが寒そうにしていたので、たぶんおかしいのはこの二人の方だ。

まあそれはともかくとして、ぼくは言う。

「……で、どうする。アルミラージを見つけるまで、適当に歩き回るか?」

「その必要はないみたいね」

アミュが目を向ける方向を見ると……そこには、茶と白の毛並みがまだらになった、一匹の兎がいた。

その額には、イッカクのような角が一本生えている。

あれがアルミラージか。

普通の野兎とは雰囲気がだいぶ異なる。やや顔の正面についた目でぼくらを見据える様は、草食獣よりは狼や熊のそれに似ていた。

何の前触れもなく――――アルミラージが地を蹴った。

その角を前に向け、真っ直ぐアミュの方へ突っ込んでくる。

「あははっ、来た来た」

飛矢のような突進を、アミュは杖剣の細い剣身で弾いた。刃が打ち合わされたような、硬質な音が森に響き渡る。

刺突のような攻撃は受けづらいのに、上手いもんだ。

地へ降り立ち体勢を立て直したアルミラージは、次いで自身の後ろに回り込もうとしていたメイベルに気づき、すばやく振り返る。

「投剣は当たらないわよっ、メイベル!」

「わかってる」

と言いつつ、メイベルは数本の投剣をまとめて放つ。

余裕そうに避けるアルミラージだったが、それで完全に怒り狂ったようで、その角をはっきりとメイベルに向けた。

メイベルの両手には、今日は簡単な篭手のようなものが嵌められている。

なんとなくだが……ぼくにはメイベルが、それでアルミラージをぶん殴ろうとしているように見えた。

いつもの戦斧を背負ってはいるものの、すばしこい相手に当てるのは最初からあきらめているのか、手に取る様子はない。

たぶん、一番小回りの利く格闘戦で挑むつもりなのだろう。

アルミラージが再び地を蹴り、メイベルへと駆け出し――――、

「……あ」

すぐに九十度方向を変えると、森の奥へと走り去っていった。

「ええっ、逃げちゃうよ!?」

イーファが慌てたように風の刃を生み出すが、木々や地面を抉るばかりで、逃げる兎型モンスターには当たらない。

そうこうしているうちに、アルミラージは木立の陰に見えなくなってしまった。

「あー、逃げられたわね」

アミュが残念そうに言う。

「角ウサギって、敵わないとみるとすぐ逃げ出すのよね。そこまで強くないけど、これがあるからなかなか倒せないのよ」

「……なあ、アミュ」

ぼくは恐る恐る訊ねる。

「アルミラージって、そんなモンスターだったのか? この調子で五十匹って……いつまでかかるんだ?」

「平気平気」

アミュが楽観的に言う。

「だって、大量発生してるんでしょ? 慣れたらきっとすぐよ」