作品タイトル不明
滅龍四天王『毒竜』グイバー②/蛇と蜘蛛
毒。
グイバーは背中に翼、頭部にツノ、両腕をドラゴン化させると、全身から汗のように『毒液』が噴き出す。
その毒は、まるで意志を持つかのようにグネグネ動く。液体が形となる。
グイバーは前傾姿勢となり、翼を広げてニヤッと笑う。
「『 毒蛇竜(ヒュドーラ) 』……出し惜しみしない。これがボクの最強形態さ」
「いいね、初っ端から全力かよ」
「出し惜しみは二流、負けの言い訳は三流以下のゴミさ。毒に溺れな」
「へっ……こっちだって!!」
スレッドの両指から伸びた糸が編み込まれ、小さな《蜘蛛》となる。そして、糸が千切れると、大量の子蜘蛛が地面に、木に、岩に、葉っぱにくっついてカサカサ動き出す。
「『 白ノ子蜘蛛(ホワイトスパイダー) 』───行くぜ!!」
スレッドは子蜘蛛と共に飛び出す。
真正面から。グイバーは笑い、毒液を噴射する。
「『 白ノ螺旋(ホワイトスクリュー) 』!!」
だが、糸がドリルのような形状になり回転。毒液を弾き飛ばす……が、糸もボロボロになった。
子蜘蛛がグイバーに飛びつくが、全身を毒で覆ったグイバーに触れた瞬間溶解する。
「飛ばす毒と纏う毒じゃ濃度が違うよ。今のボクは、カジャクト様以外触れることはできない」
「そりゃいいね!! 飛ばしていくぜ!!」
スレッドは歓喜。
糸を様々な形に変えグイバーに飛ばすが、全て溶かされる。
そして、グイバーは両手を毒で覆い、スレッドに接近戦を仕掛ける。
相性は、最悪だった。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
「まずいな……」
俺は一人、呟いた。
隣にはロシエル。だが、何も言わない……と、思ったら。
「勝てないよ、あいつ」
なんとロシエルが呟いた……ボソッとだけど。
「確かに……相性は最悪だ。スレッドはどちらかといえば中距離向けの攻撃が得意だ。神器もそれに合わせている……でも、スレッドの攻撃はどれもグイバーには通じていない。そしてグイバーは、毒による防御をして、スレッドの苦手な接近戦を得意としてる……」
「このままじゃ、そのうち捕まる───ほら」
そう言った瞬間、グイバーの手がスレッドの神器を掴んだ。
ジュワジュワと、神器から煙が昇る。
「ぐ、っぁあああああああああああ!!」
「あれ、痛いの?」
スレッドは叫ぶ。
そう、痛いんだ。神器の硬度は並みの武器を遥かに凌駕するが、壊せないわけじゃない。
神器のダメージは肉体じゃなく、心に響く。
ガラスを爪でひっかくような感じを煮詰めたような、そんな苦しみが襲うのだ。
そして……神器を破壊されたら、誰であろうと死ぬ。
「う、っぎぎぎぎぎぎ!! い、ってぇな、この!!」
なんとスレッド、空いていた左手を糸で包み、グイバーを殴り飛ばす。
糸は溶けるが、衝撃を完全に溶かすことができず、グイバーは吹っ飛んだ。
スレッドの右腕の神器はボロボロだった……これは痛い。スレッドも大汗流し、身体が震えて痛みをこらえている。
「はは」
グイバーは起き上がる。
殴られた衝撃で口から血が出ていた……あれ、もしかして。
「見えたぜ。てめぇ、糸をグルグル巻きにした手で殴れば効くな? そーかそーか、確かに糸は溶ける!! だが、溶けきる前にてめーをぶん殴れば、ダメージは通る!! はっはっは、そうかそうか!!」
なんか急に納得して元気になったな。
するとスレッド、両腕に糸を何度も何度も巻き、巨大な『拳』を作りだした。
「おい!! 男らしく殴り合いしようぜ。まさか……逃げねぇよなあ?」
「…………」
グイバーはニヤリと笑う。
逃げるわけがない。ウェルシュもジラントも逃げず、相手の有利な形にして全力で戦ったのだ。
ぶっちゃけると……もっと卑怯な手段を取れば、間違いなくサティもエミネムも負けていた。勝てたのはマグレにすぎない。
スレッドも、グイバーに正々堂々を求めている。
そしてグイバーは。
「このまま遠距離で毒を飛ばし続ければ、きみはいずれ力尽きて死ぬね」
「……あ?」
「でも、ボクはやらない。スレッド……きみ、まだ本気じゃないだろ? あの女の子たちみたいに、『先』があるんだろ? だったら、それできなよ」
「……お前、マジで言ってんのか?」
「もちろん。相手の全力を全力で迎え討ち勝利する……それが最強の竜族に相応しい姿さ」
「…………」
「まあ、こんな気持ちになるのも……ウェルシュとジラントのせい。そして、姐さんに情けない姿、見せたくないからだけどね」
「……クッソが。震えるくらいカッケェじゃねぇか」
両手の糸をほどき、スレッドは頭をガシガシ掻く。
そう……カッコいいのだ。
敵とは思えないくらい堂々として、卑怯なところを見せず、それを恥としている。
竜族。悪いルプスレクス……俺はこいつらのこと、お前と同じくらいカッコいいと思ってる。
「グイバー、この結果がどうなろうと、オレはもうお前のこと、魂のダチだと思ってるぜ!!」
「何それ。ッボクはただ、情けない姿を見せたくないだけさ」
スレッドはもう、何も言わない。
グイバーは翼を広げ、前傾姿勢になる。
そして、全身を濃い緑色の毒で包み込む。毒の形状がまるでドラゴンのようになった。
「『 毒竜(ヴェノムドラゴン) 』」
スレッドは両手を交差する。
すると、神器が淡い純白に輝き、両五指からあり得ない量の『糸』が噴き出した。
「行くぜ、『操神臨界』!!」
臨界。
神スキル持ちの最大最強最終戦闘形態。
糸がもう数えきれないほど伸び、スレッドの背後で形となる。
糸が巨大な『柱』を周囲に何本も作り、そこに『蜘蛛の巣』が張り、そして……純白の、十二本の足を持つ巨大な『蜘蛛』が、蜘蛛の巣に張り付いていた。
「括り絡ませ、『アトラク・ナクア・アトラナート』!!」
巨大な純白の蜘蛛……これが神スキル『操神』の姿。
おぞましい、というよりは……どこか神々しさがあった。
スレッドは跳躍すると、アトラク・ナクア・アトラナートの頭に飛び乗る。
「行くぜグイバー!!」
「来なよ、スレッド!!」
対するは、毒の竜。
液状化したドラゴンが、白の蜘蛛に襲い掛かる。
すると、蜘蛛の巣を支える柱……合計でニ十本くらいある内の一つが解け、毒竜に絡みつく。
だが、毒で溶ける。
「甘いね、この毒はボクの毒で最も濃度の高い───」
だが、止まらない。
支柱が解け、巻き付く。そしてアトラク・ナクアの口からも大量の糸が吐き出され、毒竜を包み込む。
「溶けても溶けても、括り、巻き付き、絡めとる!!」
次第に、糸を溶かす限界を超えたのか、糸が毒竜に巻き付ては絡めとる。
すげえ……液体を糸で絡めとるなんて初めて見た。
糸でグルグル巻きになった毒竜に、残った支柱が全て鋭利な『杭』となる。そして、毒竜に向け一気に放たれた。
「『 白ノ終末糸(ホワイト・スパインビュート) 』!!」
杭が毒竜に一気に刺さり、爆発するように糸が弾け飛び、ボロボロになったグイバーが地面に叩き付けられた。
同時に、アトラク・ナクアが消えた。
体力を根こそぎ持っていかれたスレッドが真っ青な顔でグイバーの元へ歩き……手を差し出した。
「オレの勝ちだ」
「……ははっ」
グイバーは手を掴み、二人の戦いは幕を閉じた。