軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

滅龍四天王『空竜』ジラント②/東西南北に吹く風

空中戦。

エミネムとジラントは、もはや視認が難しい速度で戦っていた。

エミネムは自身が操る槍を五本、推進力として使い、手には『風神器ビーナスゴスペル』のみ。

槍一本では、今のジラントを倒すことができない。

速度だけは拮抗している。

「……このままじゃ」

風による推進力も無限ではない。

内側から魔力、体力がごっそり削られていくのをエミネムは感じていた。

それに対しジラントは。

「ははっ、どうしたの? もうバテた?」

「くっ……」

体力、気力に余裕があるのか、ポケットに手を入れたまま。

ツノ、両足、翼のみドラゴンに変身可能。外見は人間なのに、とんでもない強さだった。

思わず、エミネムは聞く。

「『 理想領域(ユートピア) 』を持たない竜族……これで領域まで使われたら、まさに無敵ですね」

「あー、やっぱそう思う? まあ、ボクもそう思うけどね……でも竜族ってさ、頭悪いから。魔法とか使うんだったら火を噴くのが早いし、領域なんてごちゃごちゃした術式なんて理解できないんだよ。だったら初めから、強大な魔力で身体を強化すればいい……ってわけ」

「……なるほど。確かに、そうですね」

意外にも、話せば乗ってくれるジラント。

エミネムは追加で聞いてみた。

「あなたは魔力を翼に与え、推進力としているんですね」

「うん。正確には、翼から魔力を噴射して力にしてる。ウェルシュは炎を、グイバーは体内の毒を、ラドンは……おっと、これは言っちゃ駄目かな。まあ、他の魔族みたいに頭使った魔法なんて使わない。竜族は魔族で唯一、己の内に眠るドラゴンの力を解放できるからね」

「その頂点が、『滅龍』カジャクト……」

「そう。姐さんは最強なんだ。ドラゴンの血を完全に制御し、さらに内に眠る七大魔将としての力……姐さんは、七大魔将最強。ボクは魔王よりも強いと思っている」

「……ふふ」

エミネムは笑った。

それにカチンときたのか、ジラントが睨む。

「……何がおかしいのさ」

「いえ。あなたは……純粋ですね」

「はあ?」

「強い者を認め、自分の気持ちを素直に吐き出せる。ふふ、魔王より強いなんて、魔族の立場から言ったらまずいんじゃないですか?」

「かもね。でも、これがボクの気持ちだし」

「……いいな」

「……は?」

「私も、そんな風に素直になりたいです」

「はぁぁ?」

ジラントは首を傾げた。

エミネムが何を言っているのか、理解できない。

「ジラントさん」

「……は? さん付け、って」

「全力で───……叩き潰します!!」

「いや、この流れで何で? 人間って意味わかんない……まあ、お喋り飽きたし、いいけどさ!!」

ジラントは翼を広げ、魔力を放出する。

絶大な魔力。人間の数倍、数十倍……それ以上。

エミネムは槍を掲げた。

「私は、見せます」

ビーナスゴスペルに暴風が纏わりつく。

「私の成長を……そして、全力を!!」

ジラントは気付く。

自分の魔力以上に、エミネムから力が溢れている。

この感覚、つい先ほど感じたのを同じ───……人間の切り札だ。

今なら一瞬で首を狩れる。でも、ジラントはしない。

笑っていた。ウェルシュと同じだった。

誇り高き竜族として、エミネムの全力を受け止めたかった。

ジラントは思わず、遥か下の地上にいるカジャクトを見た。

「───うん!!」

カジャクトは、笑っていた。

歯を剥き出しにして笑顔を見せ、親指をグッと立てた。

ジラントは震えた……そのやさしさ、信頼に。

そして、ジラントの上半身に、緑色の外殻が形成され、両腕にも外殻、足を包む外殻もさらに強化された……土壇場での覚醒。

ハーフから、スリークォーターの竜族へと進化した。

「エミネム!! 来なよ、本気で堕とすからさぁ!!」

ジラントは誇りを賭け、エミネムを迎え撃つ。

◇◇◇◇◇◇

エミネムは、先のサティの戦いを見て確信していた。

「───きっと、できる」

神器……サティは短時間で爆発的な力を発揮するタイプ。だがエミネムは出力の調整をして、普段使いの武器にするまで威力を落としていた。

威力を落とした状態であるが、どんな名槍よりも切れ味があり、手に馴染む。

それと同様に……もう一つあった。

「私の声を聴いて……力を貸して!!」

内側に眠る『神風』の力……その、本当の姿。

エミネムは確信していた。

この力は───自分の言うことを、聞いてくれると。

槍を掲げ、叫ぶ。

「『神風臨解』!!」

暴風が巻き起こり竜巻がエミネムを包み込む。

そして、竜巻が消えると同時に現れたのは───あまりにも美しい『鳥』だった。

十二枚の翼を広げ、エメラルドグリーンの風を吹き散らす。

エミネムは、その鳥の背中に立ち、ビーナスゴスペルを構えていた。

「『スピリティス・プネウマ』!!」

神器と臨解の同時使用……エミネムもまた、人類が持つ最強の力を手にした。

ジラントは髪を掻き上げ、牙を剥きだしにして叫ぶ。

「最ッッッ高だね、エミネムぅぅぅぅぅ!!」

音速を超えた、サティの雷以上の速度でジラントは突っ込んできた。

エミネムは叫ぶ。

「そうですね、最高です!!」

プネウマの翼が開かれ、エメラルドグリーンの暴風が舞う。

すると、気流を乱されジラントの速度が落ちた。

それだけじゃない。エメラルドグリーンの風が、大気を支配……全ての風が、エミネムの力となった。

エミネムは槍を掲げ、叫ぶ。

「『 北風(ボアレス) 』!! 『 西風(ゼピュロス) 』!! 『 南風(ノトス) 』!! 『 東風(エウロス) 』!!」

東西南北から、エメラルドグリーンの風が形となって現れる。

天翔ける馬、魚、トカゲ、オオカミ。それらがジラントを包囲、逃げ場をなくした。

「は、はは……なんだ、空って……ボクだけの物じゃないのか」

敗北を悟ったジラントは笑い───全てを受け入れた。

「『 東西南北聖風神嵐(ウェンティーズ・ゼファー) 』!!」

全ての風がジラントを襲い───ボロボロになったジラントが落下。

そのまま地面に叩き付けられそうになったが、カジャクトが受け止めた。

「あんたの負け。どう?」

「うん……でも、なんか気持ちいいや。ウェルシュの気持ち、わかったよ」

晴れ晴れした笑顔で、ジラントは敗北を受け入れた。

こうして、エミネムとジラントの戦いは、エミネムの勝利で幕を閉じた。