軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6.アリバイはカンペキだ

「クレアに秘密のお願いがあるの」

上目遣いで申し出る。

どうよ、このおねだり。今の私には色気もへったくれもないけれど、その分、まだ幼い少女のアドバンテージがある。

女性であるクレアには年下の主の秘密のお願い(恥じらいポーズバージョン)の方が刺さるはずだ。

「あのね、ほら、私、ニキビを治す方法を、夢で見たでしょう? あの時ね、変なご本を読んでたの」

「夢で、本を?」

「そう。それもこの国の文字じゃなかったのに、すらすら読めてたのが不思議で。もしかして、こんな文字の言葉で書かれた本が本当にある気がして。気になって夜も眠れなくて」

寝れない本当の理由は、ド屑男がムカつくからなんだけどー。

「まぁ。それはよくありませんね」

「そうなの。だからね、こんな文字の言葉で書かれた本がないか、確かめて欲しいの」

ぴらりと紙を差し出す。

前もってあの国の文字を書いておいたものだ。あちらで見たことのある植物の絵も横に書いてある。まぁへったくそなんだけどね。

「まぁ。ターシャお嬢様は、絵もお上手なのですね」

「お世辞はいいの。下手だって自分でもわかってるから。それでね、下手な絵と文字すぎるから、クレア以外の誰にも見せたくないの。夢で見た本を探してるっていうのも、子供っぽすぎるでしょう? だから、内緒で探してね」

少女っぽい恥じらいをみせる私のお願いに、クレアはくすくす笑って頷いてくれた。

「はい。内緒ですね?」

「ありがとう、クレア。だいすきよ」

「私もお嬢様のことが大好きですよ」

よっしゃー! 通ったぜ。

*****

「完璧な段取りすぎて自分が怖いわ」

一見遠回りに思うけど、たぶんこれこそ、最短ルート。

出来の良くない十歳の末娘が、どれだけ本当のことを伝えたとしても採用してもらえる訳がないのだ。話を聞いてもらえるかすら怪しい。

だからこそ、私に正しい知識があると思って貰わなくてはならない。

「クレアが本を手に入れてくれたら、上手に紛れ込ませておかなくちゃ」

私はやらなくちゃいけないことリストに、また一つ項目を増やした。

「蔵書目録の記録を誰がつけているのか知らないけど、ごめんね」

実際のところ、どの方面の知識が必要になるのかもわからない状況ではある。

けれど、方向性が決まった時には、目録にない本が見つかることになる。誰が叱られるのかは知らないけれど。

とりあえず口先だけでしかない謝罪を呟き、ターシャは本へと視線を戻した。

「ターシャお嬢様。侯爵夫人がお呼びです」

「え、侯爵夫人が?」

「……はい、執務室でお待ちしているそうです」

突然の呼び出しに吃驚しすぎて、ノートに書きこむ手が止まる。しかも母の執務室。父であるヴァロー侯爵の執務室の隣にあるその部屋には、前回含めても一度も足を踏み入れたことがない。

お茶の誘いならサロンかテラスよね。執務室に呼ばれるような真似をしたかしら。

どうしよう。なにしろまだインクが乾いていないの。このまま閉じたら、それこそ数ページ単位でくっついてしまうわ。大損害よ。ノートもインクも安い物じゃないのに。

苦渋の決断により、私はクレアにノートを広げたまま部屋に戻ることにした。

私の部屋ならクレア以外に勝手に入る人もいないし、机の上に広げておいても大丈夫でしょう。このまま図書室で広げておく訳にはいかないもの。

指先に、うっすらインクついてるのも気になるしね。

少し身だしなみを整えてからでなくては侯爵夫人に会う訳にはいかない。

香油を垂らしたぬるま湯で手と顔を洗いさっぱりしたところで、インクを零すことがあっても大丈夫なように着ていた紺のワンピースから淡いピンク色のワンピースに着替える。背中側にリボンが付いているこのワンピースは前回の時も持っていたけれど、クレアがいなくなって着れなくなったものだ。

「よくお似合いですよ」

共布のリボンで髪を結い直して貰った。鏡の中の出来に満足した私は、気合を入れて母に会いに行くことにした。