作品タイトル不明
第31話 月見星乃とボウリング大会
ボウリング大会当日。
私はムスっとした表情でスポッチャに居た。
本当は嫌だったけど、ここで作戦を無視して入江が新しい女子をたらし込んだ後のほうが面倒だと思ったから、ほんと、しょうがなく。
くじ引きという運要素があったけど、無事に入江と同じグループになれた。
男子3人と女子3人の6人のグループで、メンバーはいかにも1軍なウェーイ系の男子とギャル系女子だ。
私はひとまず、入江の隣に黙って座る。
男子は私以外の女子に話かけており、こちらを一切見ない。
原因は私の格好だろう。
ロングコートを着込み、厚底メガネと帽子とマスクで背中も丸めている地味子を通り越して不審者のようなものだった。
これで入江に近づき、他校の女子たちを追い払う。とのことらしい。ちなみに作戦内容は美鈴が考えた。
「えと。空町さん。よ、よろしく」
隣の席だからか話しかけてくる入江。とりあえず俯いたまま無視する。
ちなみに今の私は空町葵(偽名)になっている。
「……もしかして、体調がわるいの?」
俯いたままの私を心配そうに覗き込んでくる入江。
まずい、変な誤解をしている。でも声でバレるだろうし……
そういえば、ひよりがスマホで文字打って会話したら大丈夫! とか言ってっけ…………いや、絶対怪しまれるでしょこんなの。
『私、声がコンプレックスで……いつも文字にして会話してるんです』
「そうだったんだ……」
納得したように頷く入江。
なんで信じるのよ。このバカは。
「まさかリアルでそんな子がいたとは……」
『はい?』
「あ、いや……それにしてもその格好……」
何かを言いたげな入江に再び文字を打ってスマホの画面を見せる。
『なんですか、私のファッションに文句でもあるんですか?』
「え、いや……そんなことは。最近、同じような服装をした女の子に絡まれたから……流行りのファッションなのかなって……」
『そうですよ。あなた、ファッションに疎いんですね』
「え、あ、そうだったんだ……参考になります……来週、月見さんと映画行く時はこの格好をしたらいいのか」
絶対やめて。
そうこうしているうちにボウリング大会が始まった。
男子は自分をアピールするためにストライクを連発。それを見たギャル女子は褒めちぎって黄色い声をあげる。
私の番になり、ボウリングの球を投げる。すると球は右の溝へと落ちていき1本も倒れず姿を消した。
2回目も同じで1フレーム目の結果はガーターだった。
「あはは、ドンマイ、ドンマイ〜」
少し馬鹿にしたような男子の声とクスクスと私を見て笑う女子。私は球技系が苦手で、こうなることはわかっていた。
……だから、行きたくなかったのに。
「………………次は俺か」
入江は一瞬、私をチラ見し、ボウリングの玉を投げた。球はゆっくりと右の溝へと落ちていく。
…………ガーターじゃん。
再び、いや私の時以上にバカにしたような笑いが起こる。
「………………ま、まぁ調子が悪かったかな」
こっちをチラチラ見ながら言ってるんじゃないわよ。
入江の1フレーム目の結果は私と同じガーターあっという間に順番が一周して、再び私の番がくる。
はぁ、また投げるのか……どうせガーターだし、ちょっと嫌だな……
「空町さん。球を投げるときはあの三角の目印を通るように投げると良いらしいよ。体・腕・ボールが正面を向くように意識してみて」
うるさいガーター野郎。
ただ、まぁ……意識はしてみよう。
入江のアドバイス通り目印を意識して、体と腕とボールを正面にして投げる。
……あ、4本倒れた。
「おお、ナイス!」
嬉しそうに笑顔を向けてくる入江につい、なにも言わずに顔を背けてしまった。
その後、あっという間に時間が過ぎ、1ゲーム終わった。
入江が色々とアドバイスしてくれたおかげでそこそこの結果を出すことができた。
1回だけだったけど、まさかストライクを出せるなんて。
ボウリングも悪くない……のかも。
「おーい! ぶんちん! 見てくれ! スコア250乗った!」
「え、すご! ほぼストライクじゃん!!」
男同士でキャッキャしている入江&木村コンビ。そして敵意丸出しで入江を見つめる女子たち。
「ぶんちんの方はどうだったんだよ〜……は?」
木村がスコア表を見た瞬間すぐさま、入江の方へと視線を向ける。そして目線を逸らす入江。
「ぶんちん〜ちょっと向こうでお話ししようか〜」
「あ、はい……」
入江はニコニコの木村にズルズルと連れ去られてしまった。
どこに行ったんだろ……ま、いいか。
スマホに目線を戻して今回の作戦成功をグループメッセージで伝える。
「入江だっけ、なんであんなのが木村くんと仲がいいんだ?」
「それな、顔も冴えないしボウリングも下手くそだったし、このレーンのレベル下げてる自覚ないだろ」
「てか、場違いすぎてなんで来たのって感じ」
「あからさまな当て馬くん要員っしょ」
3番レーンの連中に言われたい放題な入江。まぁ、ボウリングの腕に関しては反論できない。
だけど
………………あいつのこと、なにも知らないくせに。
なんとなく、ここは居心地が悪いのでこの場を離れた。行く当てもなく歩いていると偶然、入江と木村の姿を見つける。
「ぶんちん。今日の目的は忘れてないよな?」
「あ、はい……ストライクを連発して他校の女子にちやほやされたり、あわよくばその後につなげることです」
「ぶんちん……空町さんがバカにされないようにわざと下手な振りしただろ」
…………は?
「お前、俺と同じくらいのレベルまで上達したのに……もったいねー」
「だって……せっかく同じグループになったんだから楽しんでもらいたいし……」
「だからって……他の連中にバカにされなかったか?」
「……まぁ、はい」
「はぁ、なんでお前は……ほんと……」
「でも、空町さんが楽しそうでよかったよ」
そんなことを……屈託のない笑顔で入江は言った。
私は二人にバレないように、この場を離れ、トイレに向かう。
「………………」
化粧台の前に立ち、コートと眼鏡とマスク、帽子を外した。
ひよりが清楚感が出るようにセットしてくれたいい感じのハーフアップ。ちょっと崩れちゃってるけどこれくらいなら整えられそう。
髪型を整い直し、前髪を弄る。
……作戦はもう1つあった。
ひよりが提案してきた作戦で、めちゃくちゃオシャレをした私が入江にべったりして他校の女子たちを牽制する……というもの。
入江にバレるのが前提だったから即却下したんだけど、私の髪をセットしてみたいひよりに折れてなされるがままにひよりに髪をセットしてもらった。
自慢じゃないが、私もひよりたちと同じように男子たちに告白されている。
だから、自分の容姿が優れていることをある程度、自覚してる。
3番レーンに戻ると、男子達の視線が一気にこちらへと向けられる。
「……え、あの可愛い子だれ?」
「空町さんじゃね? え、あんなに可愛かったのかよ」
男子二人が隣に居る女子そっちのけで私をまじまじと見る。さっきまで私を一切見てなかったくせに……
「葵ちゃん……だよね。このあとカラオケ行くんだけどさ、よかったら来ない?」
「俺たちの奢りだからさ! おいでって!!」
「……あれ? 月見さん?」
「文学くん、遅い」
私は自分と入江のカバンを持ちながら立ち上がる。そして、驚いている入江の腕に抱きつき、この場にいる全員に言ってやった。
「今晩は文学くんの家に行くから、ごめんなさい」
「「!?」」
私の爆弾発言で3番レーンがざわついた。
2人の愕然とした表情を見てスッキリし、私は呆然としている入江を引っ張ってスポッチャを出た。
「あの……月見さん? どうしてー」
引っ張られている文学がわけがわからなさそうに聞いてきた。
「ひよりと美鈴に頼まれて、あんた様子を見に来たの。それだけ」
「あ、そうだったんだ……その髪型」
「この髪型については何も言わないで」
「あ、はい。その……もう一人、女の子居なかった?」
「先に帰っていったわよ……あんたにありがとうって言っておいてって」
「そっか……」
安心したように微笑む。
「実は、あんまり上手くいかなくて……ちょっと戻り辛かったんだ。助かったよ」
「………………………」
「結局、月見さんの言った通りになちゃったなーあはは」
私は足を止め、入江の顔をじっと見つめる。
「月見さん……?」
もう今回みたいに回りくどいやり方も面倒だし。それにきっと、こいつはきっと私のような人間がいたら手を差しのべるのだろう。
……今日みたいに。
周りにバカにされても、見返りもなにも必要とせず。
だから、ひよりと美鈴が言えないのなら、私が言うしかない。
「……もう他の女子と遊びに行くの、やめてよ」
「……それって、他校の女子とかってこと?」
「……うん」
「………………………………わかった」
かなり渋った顔をしながら入江は頷いた。
「ほんとにいいの?」
「……まぁ、月見さんのそんな顔を見たら、断れないかなって」
は? 私、今どんな顔してるの……?
「そんな顔って……どんな顔よ」
入江はしばらく考え込んで、苦笑いしながらこう言った。
「言ったら怒られそうだから言わない」