軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第3話 推しヒロインの特別

「…………眠い」

朝、俺は教室に入った瞬間、机に突っ伏して眠ろうとしていた。

流石に深夜2時まで通話してから学校はちょっとキツい。

あと10分……も寝れないかもしれないけど、少しでも仮眠をとっておかなくては……

「おはよー!」

天真爛漫な声が聞こえた。この声は……七瀬だな。

「ひよりおはよ。どうしたの? 今日はちょっと遅いじゃん」

「あ、ほしのん! ちょっと昨日は寝るのが遅くって、いつもの時間に起きれなかったんだ」

ほしのんとは七瀬ひよりの親友である女の子、 月見星乃(つきみほしの) だ。

七瀬は親友の月見星乃やメインヒロインである綾部一花など、ごく僅かな友人に対してあだ名で呼んでいる。

あだ名で呼んでいる友人に対してはかなり懐いており、七瀬ひよりにとっては特別な存在なのだ。

そんな彼女の特別な存在のみ許される『あだ名呼び』はいまだに男子からは出てきていない。

主人公である神藤でさえ天馬呼びだからな。

ある意味、神藤とは違った特別な存在。だから、学校中の男子は虎視眈々とその特別な存在を狙っている。

まぁ、もし仮に現れたとしても『そいつ』はきっと学校中の男子から吊るしあげられるんだろう。

意識が段々うつらうつらとなっていき、後もう少しで眠りに落ちようとしていた。

「あ、文くん!! おはよー!」

その瞬間、教室の空気が変わり、眠りかけていた意識が一気に覚めた。

……ブン君?

『は? 誰だよブン君って?』

『あの七瀬があだ名呼び?』

『しかも男子っぽいぞ……』

聞こえてくるひそひそ声……そして声から感じとれる羨望。

……………きっと文太君という名前の男子がいるんだろう。

だから、早く挨拶を返すんだ文太君。

「ひより? ぶん君って誰?」

クラス全員が思っているであろうことを月見さんが七瀬に聞いた。

「え? そこで寝てる入江文学君」

そこで寝ている入江文学君?

……………………………俺だ。

一気にこちらに集まった。気がする視線。

吐きそう。

「おーい、文くーん。起きないと授業始まっちゃうよ〜?」

こちらに来て、ゆさゆさと体を揺らして俺を起こそうとする七瀬。

ああ、顔を上げたくない……!!

絶対、クラス中の視線がすごいことなってるもん! 顔を上げたら地獄だもん!!

「あ、そっか。昨日私とー」

「おはよう、七瀬さん。今日は実に、いい天気だね」

それ以上は言わせてはいけない。なぜなら俺の学校生活に関わってくるから。七瀬ひよりと深夜まで通話……炎上する要素しかない。

「おおぅ。おはよう。いきなり起きてびっくりしちゃったよ」

「……いつも寝起きはこんな感じなんだ」

「……なるほど?」

我ながらわけがわからないことを言っているが、七瀬は納得したようだ。

「それより、その……文くんとは?」

「へ? 入江文学君だから、文くん」

違う違う。そうじゃない。聞きたいのはそこじゃない。

「あ、あだ名……」

「ああ、うん。私、仲良しの友達にはあだ名で呼んでるんだ〜あ、男子は文くんが初めてか」

はい。そうですね。

「……俺たち、そんなに仲良かっただったけ?」

「まぁ、正直。今はまだそんな仲良くはないかもね」

えぇ……

「だったらどうして……」

「これから、文くんとは仲良くしたいって思ったから……だよ」

それは、昨日のことがあったからだろうか? だとすればそれは……

「……俺、大したことはしてないけど」

「そうかな? 私は結構救われたよ?」

七瀬はあははと笑い、そして真面目な表情をした。

「……救われたんだよ」

俺を見つめる七瀬の瞳。伝わってくる彼女の真剣さに思わず息を呑んだ。

「そ、そっか……」

「そうだよ」

ただ、こくりと頷くことしかできなかった俺を、七瀬は笑顔で返してくれる。

「もうすぐ朝のHR始まるから二度寝はダメだよー」

七瀬はそう言い残して自分の席に戻って行った。クラスメイトの視線が何やら言いたそうな感じがしたけれど、すぐにHRが始まったので助かった。

その後、あっという間に時間が過ぎた。

いつもは昼休みまで果てしなく感じていたが、この日に限ってはあっという間にその時を迎えた。

昼休みになると、すぐグループが出来上がり弁当を食べるクラスメイトたちが俺の様子を観察しているかのようにこちらを見つめている。

こういう時は外に出るのが一番だ。

そそくさと教室から脱出し、廊下へと出た瞬間、七瀬さんに呼び止められる。

「あ、文くん。どこ行くの〜」

「ち、ちょっと学食にでも……」

「そうなんだ。わたしもー」

「ひよりちゃん」

不意に後ろから、可愛らしい声が聞こえた。

その声に思わず振り返るとそこには『てんいち』のメインヒロインである綾部一花の姿があった。

綾部の姿を見ると手入れされた艶のあるクリーム色のストレートヘアーに整った顔立ちの美少女だ。めちゃくちゃ可愛い。これは高嶺の花と言われてもおかしくはない。

「はなちゃん! どうしたの?」

一花は俺に向かってペコリと一礼し、目を輝かせながらひよりに行った。

「ひよりちゃん。よかったら今日は天馬くんと3人で食べませんか?」

どうやら、お昼を誘いにきたらしい。違うクラスなのに……わざわざここまで来たのか。

「あ、えーと……その」

「……もしかして、私と食べるのは嫌……でしたか?」

「え、いや……そんなことないよ?」

煮え切れない反応に曇っていく綾部の表情。その様子を見て青ざめる七瀬。

まぁ、綾部は普通にお昼に誘っているだけだから、拒絶されていると思っているのだろう。

七瀬にも事情があるのだが……そんなことは知っているはずもない。

ぐっとスカートを握りしめる七瀬。

「……………ごめん綾部さん。俺のせいだ」

「……え?」

驚いた表情で俺の方をみる一花。

「実は七瀬さんに恋愛相談をしてもらっていて、昼休みも話を聞いてもらう約束をしてるんだ」

もちろん。そんな話はしていない。完全な嘘だ。

「あ!! ご、ごめんなさい。先約があったんですねっ」

「そ、そうなんだ! ごめんね。花ちゃん」

「いいえ。こちらこそごめんなさい。またお誘いしますねっ」

「うん。ありがと!」

綾部はこちらに一礼して去って行った。

「あー……まだ神藤と一緒にいるのはしんどいでしょ? 別にそれはおかしいことじゃない」

俺だって女の子に振られた後、1ヶ月くらい顔も見たくなかったからな。

「…………持つべきものは理解者だね」

そう言いながら、七瀬は俺の袖を引っ張った。

「私は、本当に恵まれてるなぁ……」

そんな……好きな男子に振られて自分は恵まれているなんて……なんて良い子なんだろう。

そう感嘆していると七瀬は俺を見て何故かおかしそうに笑った。

「それじゃ、さっそく文くんの恋愛相談に乗ってあげようかな〜」

ニヤニヤ顔をしながら肘で突いてくる七瀬。

「……からかわないでよ。それじゃ俺は学食で食べるから」

「あ、私も行く。お弁当持ってくるから待っててよ」

「え? なんで?」

思わず聞くと七瀬は少し恥ずかしそうに目を逸らして言った。

「なんか、今日は文くんと一緒に居たいなって〜……」

え、それってつまり……

「……愚痴以外なら聞きますけど」

「……わ、いじわるだ」

楽しそうに可愛らしいパンチを俺の胸に放ち、七瀬は弁当を取りに行った。

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