軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第29話 推しヒロインの呼び方

「これで、一通り終わりですね。お疲れさまでした。文学先輩、お手伝いいただいてありがとうございました」

「うん、桐藤さんもお疲れ」

放課後、俺は桐藤さんに生徒会の実務を手伝って欲しいと呼び出されていた。

手伝いの内容は備品の整備だったので特に問題が起きることなく無事に終わった。

腕と腰が痛いけど、そんな素振りを見せないように振る舞う。

「すいません、今日は会長と副会長が別件で不在なので、つい文学先輩に頼ってしまいました」

「ううん。こういう時くらい頼ってよ。俺は……桐藤さんの先輩なんだし」

「…………ありがとうございます。おかげさまでバリエーションが増えました」

「え? バリエーション?」

「あ、いえ、なんでもありません。やっぱり文学先輩は頼りがいがありますね」

いつも通りの完璧な笑顔の桐藤さん。

バリエーションってなんのことだったんだろう。気にはなったが、桐藤スマイルの前に押し黙ってしまう。

「文学先輩、そっかくですしよければこれから生徒会室でお茶しませんか?」

「あ、ごめん。じ、実はこれから用事が……」

「あら、残念。振られてしまいましたね……」

「え!? あ、いや……その、実は天馬くんと先約があって、決して桐藤さんを蔑ろにしてるわけじゃっ!!」

「ふふ、大丈夫ですよ。ちゃんとわかってますから。楽しんで来てくださいね」

……完全にからかわれていた。

クスクスと笑う桐藤さんに見送られながら、空き教室を後にする。

廊下を歩きながらスマホを見ると天馬の仕事も終わったようで、一花と七瀬も天馬のメッセージに反応していた。

俺もメッセージを送り、集合場所へと向かう。

今日は天馬と一花と七瀬と俺、4人で晩御飯を食べに行く約束をしていた。

このメンツの中に加わってもいいのだろうかと思いつつ歩いていると

「うーん。前髪が決まらない……」

学校に置いてある鏡を見ながら真剣に髪を整えている七瀬の姿が。

どうやら、悪戦苦闘しているようだ。

「うんっ、いい感じ。ちゃんと……可愛い……よね?」

「七瀬さん」

「うひゃあ!? ぶ、文くん!? い、いつからそこに!?」

「えと、前髪を整えているところから」

「い、一番見られたくなかったところじゃんっ」

うぅ……と顔を赤くさせる七瀬。

「……大丈夫だよ。今日の七瀬もその、可愛いから」

「え、あ、うっ……そ、そっか……えへ、へへへ」

「うん。きっと天馬君も可愛いって思ってくれるって」

振られたとはいえ、天馬は七瀬にとっては好きだった人だ。

少しでも自分を可愛く見られたいと思ってもそれは何もおかしなことではない。

「……ぱんち」

ぽすと俺の胸に可愛いパンチを繰り出してきた。

あれ……? もしかして会話の選択肢ミスったかな……

「私は、文くんが可愛いって思ってくれたらそれでいいの」

「え、う、うん……」

俺の意見をそんなあてにしないで欲しいんだけど……

俺の心情を察したのか、七瀬は呆れたようにため息をつくと俺の腕を肘で突いてきた。

その後、天馬&一花ペアを合流し、あるカフェに入った。

その喫茶店とは七瀬が振られた日、彼女と二人で行ったカフェだ。

まさかこの4人で再びここに来ることになるなんて。

本当にあれから色々とあったなぁ。と少し懐かしさを感じつつ席に座る。

「文学くん、この店のエビフライは絶品なんです。タルタルソースがとても美味しくて」

「え、そうなんだ」

メニューを開いて眺めていると一花がオススメを教えてくれる。そういえば、ここは3人でよく来てたんだっけ。

よし、ここは先輩のアドバイスを取り入れよう。

「……それじゃ、ハンバーグ&エビフライセットにしようかな」

「ちなみに山葡萄のジュースもオススメで……天馬くん? どうして笑っているんですか?」

「いや……一花が張り切ってるのを見ていてつい……昨日、自分が文学に色々と教えてあげるんだってウキウキだったもんな」

「も、もうっ! 天馬くん!! それは言わない約束だったじゃないですか!」

ぷくーと頬膨らます一花によしよしと頭を撫でる天馬くん。

この二人、俺をダシにしていちゃついておられる。

「文くーん、次のページお願い」

「あ、うん……」

メニューを隣で覗き込んでいる七瀬の言われるがままにページめくる。

七瀬の距離がめちゃくちゃ近い、普通に肩と肩がぴったりと触れ合っている。というか、もはや俺の肩にもたれかかっている。

「お決まりでしたら、お伺いします」

店員さんが注文を聞きに来てくれたので、各自それぞれ注文をする。

俺は一花のオススメであるハンバーグ&エビフライセットのドリンクを山葡萄ジュースにした。

しばらく4人で雑談をしていると、店員さんが料理を持ってきてくれた。

「……文くん、少しお話しがあります」

「え、は、はい……」

エビフライをタルタルソースにつけて食べようとした瞬間、神妙な顔つきの七瀬が口を開いた。

「文くん、私達って親友じゃん? これまでいろいろなことがあって、私たちの絆もかなり深まったと思うんだよね? だからさ、そろそろ七瀬さん呼びを卒業しない?」

「……えと、名前で呼んでる時もあるよ?」

「それはなでなでタイムの時だけじゃん!!」

「あ、はい……」

怒られちゃった……

「でも、どうしていきなりそんなことを?」

「……私のことは名字呼びなのに、最近知り合ったばかりの木村くんはあだ名で呼びあってるじゃん」

……どうしてそんなに気にしてるんだろう?

「文学くん。それはいけませんよ」

まさかの一花からの追撃がくる。

「呼び方というものはある意味、その人との距離感を表します。それに文学くんは私と天馬くんのことを『花さん』と『天馬君』と呼んでいるのに、ひよりちゃんには『七瀬さん』これでは仲間はずれみたいです」

「それは……確かに、そうかも?」

「そうです……私たち4人はこれから永いお付き合いになるのですから、そういうのは気にしないといけません」

なんか、ながいのニュアンスがおかしくない?

「………………文学くん」

「………………文くん」

ジト目でこちらを見てくる七瀬&一花。

……二人の圧がすごい。

助けを求めるように天馬を見るが、諦めろと言わんばかりに首を振られた。

「……わかった。それじゃあ、これからはひよりって呼びます」

「……あだ名じゃないんだ。ひーちゃんとか」

不服そうにひよりは呟く。

ひよりさん。それはきつい……男でひーちゃんはきつい。

「でも、名前の呼び捨てってひよりだけじゃないか? 俺は天馬君だし、一花は花さんだし、涼太は涼君だろ?」

「……確かにそうですね。つまり、ひよりちゃんだけ特別ってことですか?」

「え、まぁ……そうなるかな」

確かにそうだけど。でも、そんな理由でひよりが納得するだろうか?

「そ、そっか……私だけ、特別かぁー……ならいいんだけど……えへへっ」

あれ? なんか嬉しそうだぞ?

嬉しそうに笑みを広げるひよりを見て、天馬&一花は呆れ顔のニヤニヤ顔で口を揃えて言った。

「やっぱり文学は人たらしだな」

「やっぱり文学君は人たらしですね」