軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

驚きの朝

目が覚めると、目の前にアルバート様がいた。

「…………」

「……起きたのか」

アルバート様が少し寝ぼけたお顔で、そう言った。

いつもよりも幼い表情に『この顔天使だな……』と冷静に思った。しかし何があってこうなったのか、全然理解ができない。

なぜ私のベッドにアルバート様が寝ていて、私はアルバート様の服の袖を掴んでいるのだろうか……?

昨日は、ホラー小説を読んでお茶を飲んで……アルバート様が酔っ払いのように口説き文句を連発して、ドミノを始めて。集中しつつもお茶を飲んだら、それはアルバート様に淹れたお代わり分のブランデー紅茶で。

それを飲んだら急に眠気がきたところまでしか覚えていないけれど……迷惑をかけたことだけは予想がつく。

謝ろう……そう思って息を吸ったその時、不意にアルバート様の手が伸びて、私の髪をさらりと撫でた。

「ーー……今日は、随分と本物みたいだな……」

「ほっ……本物ですが……?」

「……………………!?」

ガバッ!!と、アルバート様がすごい勢いで起き上がって後退り、ベッドから落ちた。

え、何事!?と私が焦っていると、アルバート様が顔を真っ赤にして慌てふためいている。

「えっ、ちょ、ちょっと、旦那様!?」

「…………すまない、寝ぼけていたようだ……」

両手で顔を覆い、絞り出すようにアルバート様がそう言う。

しかし多分、悪いのは私である。

「……私の方こそ、本当に申し訳ありません……!」と深々と正座をして頭を下げた。

部屋に戻る前に、せっかくなので昨日窓の外に吊るしておいたサンキャッチャーをアルバート様に渡すことにした。

窓を開けると冷たい空気が肺を満たして、やっちまった感いっぱいの体が洗われるようだ。背伸びをして、窓の外に吊るしたサンキャッチャーを外す。

「これをですね、旦那様のお部屋の窓に吊るしてくださいね。感受性が豊かになったり運気が良くなるそうです。何より綺麗ですし!」

お詫びを兼ねて手渡すと、まだ先程のショックが抜けない様子だったアルバート様が、嬉しそうに頰を赤らめて受け取った。

「……ありがとう」

こんなに喜んでくれるなんて、健気にも程がある。

完全好意で何かを貰うのが初めて……いや、二度目なのかもしれない。

以前はこんなに喜んではなかったけれど……あの時よりもアルバート様の感情が、豊かになってきたということだろうか。本当に良かった。

感情過多で胸がいっぱいになって、アルバート様から視線を逸らす。不意にいつもは見ないようにしていた場所が目に入った。

「あれは……」

以前、手をつけてはならないと言われた森だ。庭園でちらっと見るくらいではわからなかったけれど、鬱蒼と茂る木々は、何か大きな石碑のようなものを取り囲むように、守るように生えているようだった。

「どうかしたか?」

「……いえ、あれは何かなーって……」

入ったら呪われるスポットだったらどうしよう。そう思って引き攣っていると、アルバート様が「あれは」と一瞬躊躇って、口を開いた。

「……先代と、先代の夫人が眠っている場所だ」

なるほど、お墓か……! 確かにお墓は手をつけてはいけない場所だ。呪われスポットかもなど、失礼な勘違いをしてしまった。

安心した私は「高貴な方は、敷地内にお墓があるんですね」と息をつく。

国教の教えにより土葬が一般的な我が国は、お墓の場所に結構うるさい。墓地として認定された場所以外に埋葬するのは大変だ。

自分の屋敷の敷地内に埋葬するというのは、かなり珍しいと思う。

「先に亡くなった夫人から、先代は片時も離れたくなかったのだそうだ。……夫人は、生家の墓に入りたがっていたらしいが」

「……そうだったんですね……」

国教であるミルム教では、亡骸が土に還ったとき、死後の世界にて生前と同じように生活できると説かれている。

そして前世の日本のように、家族は一緒のお墓に埋葬されることが多い。私は日本のお墓を見たことがないからまるきり一緒とは断言できないけど、とにかく大体同じスペースに埋葬される。

一緒の場所に埋葬されると、先に埋葬された人が死後、後から埋葬された人を迎えに来てくれると信じられているのだ。

実際違う人間に生まれ変わり、こうして新しい人生を歩んでいる私としては、死後の世界が今の自分の延長線上にあるとは思わない。

思わないけれど、そう信じている人には……誰と一緒に眠るかは、とても大切なことなのだろう。

黙ったままお墓を眺めるアルバート様の袖を、少し引っ張る。

「……お腹が空いちゃいました! 朝ごはん、食べに行きましょう?」

「……ああ」

私がそう言うと、アルバート様は少し目を開いて、ふっと笑った。

こうしてずっと、笑っていて欲しいな。

これからのアルバート様の人生には、温かくて優しくて綺麗なものだけがあってほしい。大好きな人に巡りあって、その人もアルバート様のことが大好きになればいい。

そう思うと少しだけ胸は痛むけれど、でも。本当に、心からそう思う。

そうして、数日後。

「やあ! 随分と貴重な品を王家に寄贈してくれるそうじゃないか」

王城についた私とアルバート様を、殿下が満面の笑みで出迎えてくれた。