軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

異世界遺跡探訪

朝日が昇る前に目を覚まし、暗いうちから行動を開始する。軽い朝食とお茶を済ませ、探索を始めた。

ハンモックは移動するにも設置、撤収するにも楽だ。しかしテントほど快適とは言えないので、まずはテントの設営に最適な場所を確保したい。

中心地らしき場所を目指しつつ、瓦礫が少ない開けた場所を探して歩く。

崩れた遺跡から少し進むと、目の前に悠然と 聳(そび) え立つ荘厳な宮殿が現れた。崩れていない、当時のままの姿でそこに鎮座している。

「これは……」

苔むした石壁には、木の根が絡みついて一層の迫力を醸し出している。主となる宮殿は、ちょっとしたデパートくらいの大きさだ。その上には、いくつかの木が覆いかぶさるように生えていた。

周囲には複数の建物が現存しており、それぞれが森と調和し、独特の存在感を放っている。

例えるなら、カンボジアのタ・プローム遺跡だろうか。仏像の代わりに迫力のある竜の石像が並んでいる。

「凄いですね……」

宮殿はコの字の形になっている。俺達が立つ場所は草が生い茂り、歩くのも困難な中庭のような場所だ。

宮殿の両翼には無数の窓が開いており、少しだけ中の様子が窺えた。光が差し込む宮殿の内部は、思いの外きれいな状態を保っている。少し掃除をすれば住めそうだ。

左右には出入り口が開いており、今でも中に入ることができる。突然崩れる可能性はあるが、好奇心には勝てないな。

「中に入ってみよう」

みんなで内部の探索をする。宮殿の中はアレンシアの王城内のような雰囲気で、元は王城のような役割を担っていたんだと思う。

調度品や貴重品は何も残されていないようで、机や椅子すらも無い。埃が積もっている以外は何も無い。

「ふむ……この城はまるごと魔道具のようだ。素晴らしい……」

リリィさんが壁を調べながら言う。状態保存の魔法が利いているのだろう。

外装の様子からは想像できないほど形を残している。崩れたような箇所も無く、崩れそうな気配すら無い。

「ねー、こっちに来て! 何かあるよっ!」

宮殿の奥からリーズの声が響いた。なんで離れているんだ? 久々に油断していた。リーズが自由行動をしている。

急いでリーズのもとに駆けつけると、壁に大きな扉が取り付けられていた。見ると、壁を削って扉の形にしただけの、ただの飾りだった。開くはずのないレリーフだ。

彫り込まれたモチーフは、大きな竜と髪が長い女性だ。この宮殿ではどこも植物と竜が彫られているが、ここだけは女性が一緒に彫られていた。

「どうした。この飾りがどうかしたのか?」

「飾り? これ飾りなの?」

「うむ。なぜ扉の形に彫ったのか疑問だが、これは飾りだな」

リーズは「うーん」と首をかしげている。薄暗い中で見れば扉にしか見えないが、しっかりと明かりを照らしたら扉ではないと分かる。もし飾りじゃないとすれば、一種のトラップなのか、それとも宗教的な何かだろうか。

「ねえ、それよりも、この先にも扉があるわよ」

今度はクレアだ。リーズに気を取られて気が付かなかったが、飾りの扉の正面にも、扉があった。今度は本物の扉だ。重そうな石の扉で、無数の木の葉や竜が彫られている。

方向は、さっき居た中庭から見た時の正面で、窓がない壁になっていた場所だ。玉座のような重要な部屋なのかもしれない。

リーズの勘も気になるが、先にこの部屋だな。

「開けられるか?」

クレアとリリィさんが力ずくで開けようと、必死に押したり引いたりしている。しかし、石の扉はびくともしない。

まさかスライドドアでした、なんてことは無いよな?

扉に手を掛けて、力を込めて扉を引いた。しかし、扉には何の変化も無かった。

近くに立っているルナにも手伝ってもらおう。

「ルナ、ちょっとその扉を横に引いてみてくれ」

「え? はい……」

ルナは戸惑いながら扉に手をかける。すると、扉が突然ふわっとした光を放って奥にズレた。ルナがそのまま手を掛けると、重そうな石の扉はいとも簡単に開いていった。

これはエルフの結界と同じ仕組みだな。エルフに反応して開くようになっているんだ。

「開きましたね……」

「むっ! この扉すらも魔道具だったのか! この城は油断できないな!」

リリィさんが目を輝かせながら言う。

この宮殿はいたるところに魔道具のような加工が施されており、多くの機能がまだ生きているようだ。

せっかく開いたのだから、ランタンを手にして中に進む。窓が無いこの部屋は、薄暗いどころか真っ暗だ。空調が生きているようで、中の空気はカラッと乾いていてひんやりと涼しい。アレンシア王城の書庫みたいだ。

「うわー! 涼しー! 痛っ!」

暗闇の中、真っ先に中に入ったリーズがはしゃいで何かにぶつかったようだ。でもいつものことだ。放置しておこう。

明かりを当てて中を調べると、大きな本棚が見えた。そこには無数の本が並んでいる。他のみんなも本棚を見つけたようだ。

公立高校の図書室くらいの広さがある。アレンシアの王城と比べるのが申し訳ないほどの規模だ。空調が機能していたおかげで、ダメージも少ない。1冊を手にとってみるが、崩れたり破れたりすること無く、本としての機能を備えている。

帝国はこの扉を開けられなかったんだ。だから、持ち去られること無くこの場に残った。

でも……俺が勉強した文字じゃない。読めない。エルフ語?

「なあ、これ何語?」

「え……おそらく古代語です。申し訳ありません、私も読めないんです」

ルナが本をパラパラとめくりながら言う。

「これは読めるわよ。言い回しが古いけど、 共通語(コモン) で書かれているわ」

クレアが持った本は、俺でも読めるようだ。どうやら2つの言語が混じっているらしい。この上なく不便だな。当時の人たちは混乱しなかったのだろうか。

「ふむ、古代語か……。使徒の指輪があれば読めるかもしれないな」

善たちが身につけている、翻訳機能がついた指輪のことだ。俺のはレプリカで、王城から出る時に王に叩き返した。リリィさんから借りていた言語補助の指輪も、王城を出る時に丁重にお返しした。

「そうか……。まさか、また必要になるとは思わなかったな。残念だが、もう持っていないぞ」

「うむ、それは知っている。だが、私とルナ君が居れば複製が作れるぞ」

さすがは作った人達だ。俺のレプリカは、宮廷魔導士達が解析して作り直した物だ。完全な物ではなかったが、十分に役に立ってくれた。

王が喧嘩を売ってこなければ、この指輪も貰ってくるつもりだったんだ。王の態度にムカついたから、仕方なく叩き返した。

「すぐに作れるのか?」

「いや、すまないが少し厄介でな。一度、魔導院に行く必要がある」

詳しく話を聞くと、どうやら特殊な資料が必要だそうだ。言語について書かれた資料で、パターン表みたいな物があると言う。

魔道具についての情報なら、2人はほとんどを暗記している。しかし、言語となると専門外だ。辞書のような物が必要らしい。

レプリカの指輪が不完全だった主な理由がこれだ。日本語の資料なんかあるわけないので、推測だけで組み立てた。

仕組みは稼働している魔道具からそのまま複製できるが、内部のデータまでは複製できない。

「そうか。それなら仕方がない。作れる時に頼むよ」

まだ周辺の探索も終わっていない。指輪のために帰還するのも面倒なので、古代語の本は後回しだ。

まずは読める文字で書かれた本を探そう。部屋の広さから察するに、おそらく蔵書は数万冊あると思う。読める本だけを見ても数千冊はあるはずだ。

空調に加え、空気清浄機のような機能も生きているようで、この部屋だけは埃が少ない。割と居心地がいいので、少し本を読んで過ごそう。

「ねえ、そろそろ食事にしない?」

いつの間にかかなり時間が経っていたようだ。俺たちはテーブルと椅子を出して完全にくつろぎきっていた。リーズに至っては、シュラフを出して昼寝をしている。

外が見えないから時間を忘れていた。たぶん外はもう真っ暗になっているだろう。

この時間で何冊かの本を読むことができたのだが、文法が少し違っていてよく理解できなかった。おそらく魔法と魔道具について書かれていたと思うので、また後でもう一度挑戦しようと思う。

「しまったな、探索ができなかった。しばらくここを拠点にしよう」

「さんせーい!」

「そうですね。ここには貴重な資料がたくさんあるようです」

「探せば魔道具も見つかりそうだよ」

「それよりも、早く食事するわよ」

クレアがハラペコみたいなので、さっさと移動する。図書室の中で生活をするわけにもいかないので、この宮殿の一室を生活拠点にすることにした。

さっきの探索で、12畳ほどの広さの部屋が数部屋並んでいるのを見つけた。まだ未探索だが二階もあるかもしれない。

図書室から一番近い部屋を開け、テーブルと椅子を並べ直した。外からは月明かりが差し込んでいる。

この月明かりを見ると、この世界に初めて来た日を思い出す。

突然倉庫に押し込められたんだ。おかげでいろんな物が手に入った。この世界の技術水準も、その日のうちに確認できた。散らかっていたが、居心地が良くて実にいい部屋だった。

食事を終えると、ルナが立ち上がって話し始めた。

「あの……コーさん、皆さん、ありがとうございます。

エルフの国を探すというのは、私の願いでした。

皆さんのご協力で、ここに辿り着くことができました。本当にありがとうございます」

ルナが深々と頭を下げた。ルナが言い出したことではあるが、俺も気になっていた。

俺1人では見つけられなかったはずだ。俺の方こそ感謝している。

「気にするなよ。エルフの国は俺が探したかったんだ。協力してくれてありがとう」

「ふっふっふ。ここまで連れてきてくれたこと、感謝しているぞ」

「珍しい物いっぱい見られたよー!」

リリィさんとリーズは、俺と同じようにここに来ることを望んでいた。リリィさんはそのために俺たちに同行したと言っても過言ではない。

クレアだけは巻き込んだようなものだな。魔道具職人でもないし、エルフに縁があるわけでもない。

「……まぁ、いいじゃない。ついでにアタシの願いも聞いてくれると嬉しいわ」

最後にクレアが俺をチラッと見ながら言う。

クレアの願いは……以前言っていた、ガザル連合王国の何とかっていう地方に行くことかな。ポーションで有名な街だそうだ。

もしかしたら美味しいポーションがあるかもしれない。次の目的地にしよう。