軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

スケバン

道路を歩いてゆっくり向かったつもりだったが、すぐに防具屋に到着してしまった。もう選び終わっていてくれれば楽なのだが。

ドアを開けて中を覗くと、リリィさんが着せ替え人形になっていた。リリィの周りに、大量の服を抱えたルナとリーズとクレアが群がっている。

そっとドアを閉じた。

「おい! コー君!

店に来たのなら早く中に入ってきてくれ!」

店の中からリリィさんの叫び声が聞こえた。

予想通り、店の中は大変なことになっているようだ。できればこのまま宿に帰りたい。俺の仕事は金を出すことだ。俺に意見を求められても困るんだ。女の服のことなんて男には分からない。

このまま店の外に居ても仕方がない。覚悟を決めて中に入ろう。

「許可証は貰えたぞ。そっちの調子はどうだ?」

「見ての通りだよ。できれば助けてもらえると助かるのだが……」

俺には荷が重いよ。女の買い物に男が口を出したらダメだ。確実に機嫌を悪くする。俺にできることは見守るだけなんだ。

「ゆっくり選んでくれ。リリィが気に入ったものなら何でもいいよ」

「じゃあコレだ! コレしか無い!」

リリィさんが一着の服を掲げた。

色は濃紺、大きな襟が特徴的で、丈が短いシャツのような上着……セーラー服だな。リリィさんは最年長なのだが、年齢的に大丈夫か? いやその前に、何でこの世界にセーラー服があるんだよ。

「あー! それ、あたしが選んだ服!」

リーズが選んだらしい。数ある服の中から、なぜセーラー服を選んだんだ。

選ばれなかったルナとクレアが悔しそうな顔をしている。後でフォローが必要だな……。

「さすがお客様! お目が高い」

店員が口を挟んだ。今日の客は俺たちしか居ないらしく、ずっとつきまとっていたようだ。

「なぜこの服がここに?」

「そうですよねえ。これは船乗りの服ですからねえ。

でも女性向けにアレンジされているのです。他の店には絶対にありませんよ。私の自信作です」

あ、この店員が作っているんだ。それは良いとして、セーラー服は船乗りの服なのか。男が着ているって、何か違和感があるなあ。

リリィさんはさらに、下に合わせる服にプリーツがたくさん付いたロングスカートを選んだ。くるぶしまである長いスカートだ。試着するために店の奥に入っていった。

リリィさんが選んだスカートを見て、クレアの顔がほころんだ。このスカートはクレアが選んだらしい。

どちらも濃紺色で、革製ではなく布製だった。これも蜘蛛か何かの魔物素材なのだろう。予備は革製で統一したいな。

「ルナ、予備の服はどうしようか。いい服はあった?」

「はい……。お気に召すかわかりませんが、これを……」

ルナの元気が無い。リリィさんに選ばれなかったことで、すっかり自信を無くしてしまったようだ。

浮かない表情をするルナから、数点の服を受け取った。

手渡された服を広げてみる。マント付きの革製だ。マントの表の色は真っ黒なのだが、裏地が真っ赤だ。白いシャツと黒いベスト、燕尾服のようなジャケットがセットになっている。パンツはタイトめのストレートパンツだ。

なんというか……ドラキュラのコスプレ衣装みたいだな。

次の服を広げる。こっちは女性用らしく、ベストとパンツの代わりに、くびれが強調された黒いワンピースがセットになっている。それに、さっきと同じデザインのマントだ。男女ペアの服らしい。

上品な仕上がりなのだが、こっちもドラキュラのコスプレ衣装だ。

コスプレみたいなデザインだが、作りと素材が良いので、安っぽさや残念さが無い。気品があって、貴族のような雰囲気もある。これは悪くないな。揃いの服というのがいい。

「予備の服はこれでいいんじゃないかな。これを人数分揃えよう」

日本で着ていたら痛い人だ。でもここは異世界だから問題無い。

「さすがご主人! この服はバートリ伯爵家の執事服の試作品です。どこに着ていっても恥ずかしくないですよ!」

日本で着ていたら恥ずかしいけどな。

でも揃いの服だから、使う機会があると思う。式典みたいな物に呼ばれても対応できそうだ。行きたくないけどね。ちょっとだけ国と使徒に関わっているから、呼ばれる可能性はある。

この店は、基本的にオーダーメイドなのだそうだ。その時の試作品や、イメージ違いで返品された服を店頭で安く売っているらしい。これで安いのか……。

「本当に……これでいいのですか……?」

ルナが自信なさげに言う。

「ああ。こういう服は持っていると便利なんだ。ちょうどいいよ」

ルナの顔に笑顔が戻り、満足げに頷いた。無事、機嫌が直ったみたいで良かった。

予備にする予定の服を細かく見ていると、店の奥へと続くドアが開いた。リリィさんの着替えが終わったようだ。

「どうだ?」

リリィさんが恥ずかしそうに出てきた。大人っぽい顔立ちに、白いリボンが付いた濃紺色のセーラー服とロングスカート。武器はメリケンサックだ。

完全に昭和のスケバンだな。テレビで見たことはあるが、リアルで見たことは無い。絶滅危惧種だよ。

「よく……似合っているんじゃないか?」

「はい! 良いと思います!」

「似合ってるよっ!」

「いいんじゃないかしら」

みんなの評判は良いみたいだ。多少違和感を覚えるのは、日本でのセーラー服のイメージのせいだな。先入観を除けば、よく似合っている……と思う。

リリィさんは服の値段を確認して驚いている。やっぱり高いよね。

「コー君……これは高すぎるよ。違うものにしよう」

俺も価格を確認した。上下で金貨11枚だ。安くはないが、この店の標準的な価格だな。

「問題無い。みんなの服もそれくらいしたよ」

ついでに上着も買っておこう。セーラー服にマントというのは合わないから、革製のロングコートだ。

と思って薄い革のロングコートを選んだのだが、特攻服みたいになった。益々スケバンだよ……。

ついでにクレアの服も新調する。デザインがルナと被っていたから……じゃなくて、クレアの服は自前だからな。パーティの金で買った服ではないんだ。

クレアの新しい服は、俺が欲しかったライダーズの女性用だ。その服の男性用、俺が欲しかったのに……。被るから、もう着られないよ。

色は、上がワインレッド、下が黒だ。なぜか女性用の方は半額以下だった。素材が違うのかもしれない。

「ねえ、なんでアタシまで? 本当にいいの?」

クレアが遠慮気味に言う。

「今着ている服は自分の服だろ。かまわないさ」

パーティ加入前の持ち物は私物だ。装備品はいずれ壊れるから、あまり使わないほうが良いだろう。個人の負担を減らすための“みんなのお金”なんだ。

クレアの私物の革鎧が2つ壊れたから、今回の服はそのお詫びみたいな物だ。

店主に代金を支払い、店を出た。今回の総額は金貨71枚だった。過去最高額の支払いだ。割と痛いが、払えない額ではない。まだ金貨500枚以上残っている。

いつの間にこんなに稼いでいたんだろう……。一回帳簿を整理した方が良さそうだな。

次は武器屋に向かう。こっちは安いから、酷い出費にはならないはずだ。

いつもの『大鷲屋武器店』にやってきた。相変わらず狭い店内だ。前回、4人でキャパオーバーだったのだが、今回は1人増えてすし詰め状態だ。広い店に移転してくれないかなあ。

「おっさん、店が狭すぎるぞ。なんとかしてくれ」

「お、いらっしゃい。店に入るなり、その言いぐさはなんだ。

俺だって広い店を持ちたいんだ。文句を言うなら何か買って貢献してくれ」

もう何度も買っているのだが、値引きしすぎて利益が少ないのは、このおっさんの責任だろう。気前が良いのは良いことだが、利益のこともちゃんと考えてほしい。

そしてこの店は品揃えがマニアックすぎるんだ。使い方がよくわからない武器ばかりを扱っている。面白いのだが、面白いだけでは商売にならないだろう。

「なあ、おっさん。冒険者に武器の使い方を教えたらどうだ? 少しは買い手が付くだろう」

「冒険者ギルドの中は商売禁止だよ。店の宣伝くらいなら許されるが、実演販売は無理だろう」

冒険者同士の個人売買なら問題無いが、店が出入りするのは良くないみたいだ。でも、俺が言っているのはそういうことではない。

「冒険者に訓練してやれと言っている。その時に、そいつに合った武器を紹介するんだ」

「ずいぶんと無茶を言うな。店を開けなきゃならんのに、そんなことをしている暇は無いよ」

店番が居ないから大変だろうが、どうせ客が来ないんだから店を開けなければいい。しばらく続ければ、口コミで評判が広がるはずだ。

でもいきなり試すのは難しいだろうなあ。これは俺の素人意見だ。上手くいく保証は無い。

「暇な時に試してみてくれ。

今日はそんな話をしに来たんじゃない。ナイフが欲しいんだ。武器として2本。

これから長期間外に出るから、予備のナイフも5本ほど欲しい。予備は丈夫で安い物がいいな」

クレアとリリィさんのサブウエポンだ。クレアのマクハエラは私物なのだが、せっかく使い慣れた武器を変えるのは良くない。だから今回はナイフだけだ。

おっさんが持ってきたナイフは、剣鉈のようなごついナイフと牛刀のような華奢なナイフだった。どちらも一見大きな包丁だ。長さは40cmくらいあるから、包丁にしては相当大きい。

「まずはこれ。戦闘用ナイフだ。厚みがあって少し重いが、特殊な製法で作られているから折れにくいうえに曲がりにくい」

作り方まで剣鉈みたいだな。日本の剣鉈も伝統製法で作られるから、折れにくくて曲がりにくい。でも高いんだよ。ちなみに農具だ。

「ふむ……私はこれが良いと思う。この重さがしっくり来る」

「え……アタシは重すぎると思うわ。こっちの方が使いやすいじゃない」

みんなで持ち比べをしている。リリィさんは剣鉈を、クレアは牛刀風のナイフを気に入ったようだ。

「そっちはサクスというナイフだ。素材の加工や剥ぎ取りに使うナイフを、戦闘用に工夫された物だよ。薄くて軽いが、欠けやすくて折れやすい」

それは包丁じゃないのかな……。包丁よりも幅が狭いから、その辺りが工夫されたポイントなのだろう。武器どころか農具ですら無い。これは生活用品だ。

「じゃあ2人はそれを使って。ナイフが無いと野営の時に困るんだ」

「え……さすがに貰えないわ。さっきも服を買ってもらったばかりじゃない」

「ああ。私も必要ない。武器はリリィズナックルだけで十分だ。それに、刃物は使えないぞ」

「ああ、いいから。持つだけ持っていてくれ」

遠慮するくだりはもう十分だから。時間の無駄だから。

恐縮するクレアとリリィさんに、強引にナイフを持たせた。

予備のナイフは、至って普通のコンバットナイフだった。刃渡りも短い。俺の意図をよく理解してくれたみたいだ。

武器として使うよりも、剥ぎ取りや食材加工のために使いたいんだ。王城で貰ってきた包丁だけでは厳しい。

割とゴツいので、戦闘にも耐えられると思う。

今回の武器は全部で金貨18枚だ。絶対に安すぎる。もっと高くても買うのになあ。

予想通り今日の買い物には時間が掛かった。残りの買い物はサクッと終わらせて、さっさとミルジア王国に行こう。