軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

良薬はクソ不味い

今日は朝から森の探索だ。久しぶりに冒険者らしい冒険だな。

クレアの訓練のために、手頃な魔物を探す必要がある。ゴブリンが一番良いのだが、この際贅沢は言えない。

何でもいいから探す。リーズにも頼んで探してもらっているが、昨日作った地図でも確認する。

協議の結果、この地図の魔道具は『マップ』と名付けられた。ほぼ俺のゴリ押しである。

感度は良好どころか予想以上の能力だった。地図の検索範囲は、半径約1km。この範囲に入る地形が、勝手に記録される。

生物の反応は約500mとやや狭めだが、大きさと種類がある程度判別できる。

「アタシのことなら、もっとゆっくりでもいいのよ?」

クレアはそう言うが、ゆっくりとは言っていられない。さっさと身体強化を覚えてもらわないと今後の予定に響く。

「いや、できれば今日中に形だけでもどうにかしよう」

クレアの顔が真っ青だ。早くから緊張しているらしい。極度の緊張は良くないな。体が固くなる。

緊張する暇も無いほどの大群を探し出して、緊張をほぐしてやろう。

「こんさん、あっちに何かいるよ!」

来た! リーズからの報告だ。

しかしまだマップの索敵範囲外だ。リーズが指す方向に進む。

数百メートル移動すると、ようやく索敵範囲に捉えた。マップの情報では、中型の反応が多数。多すぎて数えられない。後で数える機能も追加しよう。

どの反応がどの魔物を意味しているかは、まだ未設定だ。これはいつでも追記できるようにしてあるので、確認してから入力する。

初めての反応は相手が何かわからない。目視で確認すると、猿? マントヒヒ? 腰が曲がった二足歩行のけむくじゃらな何かが居た。

ゴリラと言うにはスレンダー、猿と言うにはでかすぎる。よくわからない猿風の魔物だ。

「何だ、あれは……」

「バブーンですね……。この数はかなり危険です。急いでこの場を離れましょう」

ルナから注意を受けた。しかし、もう遅い。1匹と目が合ってしまったのだ。

連中は、鳴き声を上げながら跳んだり跳ねたりと、威嚇行動らしきものを見せながら数を増やしている。

数もさることながら、恐るべきはその敏捷性だ。

障害物だらけの森の中で、上手く逃げられるかはわからない。攻撃の準備をするべきか……。

「待って。急に逃げたらダメよ。

ゆっくり、ゆっくり遠ざかるの。目を離しちゃダメ。こちらからは敵意を見せないで、後ろ向きに歩いて」

クレアが早口でまくし立てた。相当焦っているようだ。

地球でも似たような話を聞いたことがあるんだけど、それって猿にも使える手段なの?

猿に出会ったら一目散に逃げるイメージだったぞ。

ここはクレアの知識に頼る。言われた通り、ゆっくりと後ずさりをした。

「どこまで下がればいいんだ?」

「どこまでもよ。見えなくなるまで後ろに下がって」

言われるがまま後ずさりを続ける。

下がり続ける。

歩き続ける。

少し開けた場所に出た。なぜかここだけ木が少ない。周りがよく見えるので、バブーンがよく見える。

「見えなくなるどころか、近付いてきていないか?」

バブーンどもは、こちらが後ずさりするよりも速い速度で、間合いを詰めてきている。

「囲まれてるよ!」

リーズの一言でマップを確認すると、バブーンはドーナツ状に分布していて、その真ん中に俺たちがいる。

すでに囲まれてしまっていた。もう戦うしか無い。

少なく見積もっても300匹は居るな。クレアの訓練どころではない。さっさと退路を確保して離脱しよう。

素材の回収は不可能だと思ったほうがいい。

「今逃げるのは不可能だ。戦うぞ!」

全員が武器を構える。

バブーンの見た目は猿だ。似たような生態だとすると、ボス猿が統率を取っているはずだ。こういう集団は、ボスを仕留めれば戦意を喪失してバラける。

まずはボス猿を探す。

堂々と先頭に立つ、ひときわ大きな反応が、大きな集団の中心辺りにあった。たぶんこいつがボスだろう。

アンチマテリアルライフルの準備だ。鉄の弾丸を100発浮かべる。ボスは約100m先に居る。狙いを定めて……。

『パァン!』

乾いた音が響き渡り、1匹のバブーンを吹き飛ばした。残念ながらボスではない。未だ命中率が悪いんだ。

『パァン!』

間髪容れず2発目。次もボスの隣のバブーンに命中した。ああ! もう面倒くさい!

『パパパパパパパパパァン!』

30発ほど連射してみた。ボスの周辺に居た奴も含め、ボスの撃破に成功した。

バブーンは突然の出来事に戸惑いを見せたが、戦意を喪失するどころか、益々興奮してこちらに向かってきた。

ヤバい。作戦失敗だ。

「来るぞ!

クレアは俺が見ておく。ルナはリーズのフォローを頼む!」

急接近する数匹のバブーンは、アンチマテリアルライフルの餌食になった。追加の弾丸をセット。

弾丸をすり抜けて接近するバブーンは、ルナとリーズが手分けをして始末する。

ルナは平常運転だな。確実に急所を突いて、一撃で始末している。

リーズは……ちょっとはしゃいでいるようだ。無駄に飛んだり回ったりしながら、バブーンの首を落としている。

問題はクレアだ。クレアの周りにも、数匹のバブーンが群がっている。

見ておくとは言ったものの、今日はあまり余裕がない。今もバブーンの大軍が押し寄せてきているのだ。

しかもここは森の中、奴らのフィールドだ。木の上や木の陰から、遠慮なく向かってくる。

中には木の上から投石をしてくる奴も居る。そんな卑怯な猿には鉄の弾丸を撃ち込んでやろう。射速が違うのだよ。

ルナとリーズは飛んでくる石を上手く迎撃したのだが、クレアは何発か被弾したようだ。

「あの魔道具を思い出せ!

あの感覚を掴めればどうにかなる!」

「わかってる! でもできないわよ!

簡単に言わないで!」

クレアが額から血を流しながら言う。かなり焦っているようだ。

これは良くないな。身体強化の基本は瞑想だ。落ち着きと平常心が何よりも重要になる。

しかし……落ち着かせる方法ねえ……。今落ち着けと指示をしても無駄だろう。

迫りくるバブーンを撃ち落としながら考える。しかし、いい案が浮かばないうちに、クレアの壊れかけた革鎧が完全に壊れた。

時間がない……。

バブーンを放置してクレアの救援に向かおうとしたその時、クレアの手元が一瞬光った。

まさか アレ(身体強化強制ギプス) を使ったのか?

この緊急時に? だが悪い手では……悪いわ!

確かに、アレを使えば身体強化に近い状態になる。ただし、アイドル状態だ。流れる魔力を増やすことで強化に至る。

今アレを使っても、副作用が邪魔になるだけで強化できないはずだ。

ひとまずバブーンを放置してクレアに近寄る。

「大丈夫か?」

「大丈夫なわけ……ないでしょ……?」

クレアは顔を紅潮させ、潤んだ瞳で小さな声でささやく。副作用、出てるじゃん。

しかし、どういうわけかクレアの動きが良くなっている。

見る限り、強化に至るほどの魔力循環は発生していないのだが、目の前のバブーンを確実に対処できている。

ここに来てマクハエラ(偽)が大活躍だ。もともと鋭い切れ味を持った剣なのだが、まるで豆腐でも切っているかのように斬り捨てている。

いくらよく切れる剣だと言っても、それなりに力と技術が要るはずだ。

クレアは、副作用と戦いながらも上手く戦っている。 アレ(身体強化強制ギプス) の効果が切れても大丈夫だろう。

たぶん使いすぎて慣れたんだ。副作用に打ち勝つだけの精神力を手に入れている。

良いこと? なのかな?

……うん、悪くはない。問題無い。

「よし! そのまま頑張れ!」

「よしじゃないわよ!」

クレアは文句を言いながらも冷静に対処できている。しばらく様子を見よう。

今回はかなりの強敵だと思う。ルナとリーズも多少攻撃を受けた。その都度ルナが治癒魔法を使っている。

俺の身体強化は何かの追加効果が現れるようで、俺は『少し先の動きが見える』ルナは『周囲の動きがゆっくりに見える』リーズは『感覚が鋭くなる』だ。

俺はこの効果を利用して遠距離射撃をしている。命中率が悪いのは、俺の技術の問題である。

ルナとリーズも、この効果を利用して接近戦をしている。大抵の攻撃は難なく避けられるはずだ。それでも攻撃を食らうということは、バブーンがそれだけ素早いということなのだろう。

戦闘はしばらく続き、向かってくるバブーンが目に見えて減ってきた。

少なく見積もって300匹と言ったが、300を超えてからさらに300匹くらい始末した気がする。打ち止めが近い。

間引いて逃げるつもりだったのだが、殲滅に近い。俺達の周囲には無数の バブーン(素材) が転がっている。この調子なら回収できそうだ。

しかし……これ全部は入りきらないよな……。またこの場で解体するのか。うんざりだ。サヒルたちを連れてくればよかった。

『パァン!』

これで最後の1匹だ。頭を貫いて終了。何百発撃ったかわからない。おかげで命中精度がかなり上がった。

今の俺なら、バブーンを相手に50mヘッドショットが可能だ。もうバブーンは怖くない。

「終わったぞ!

マップで確認してくれ」

念のため、全員でマップを確認する。大きな生物の反応は無い。戦闘終了だ。

何匹かは逃げていったようだが、逃げるくらいなら最初から寄ってくるなよ。

「終わり……ですね。さすがに疲れました」

「もうくたくたー。帰って寝たいよぅ」

「死ぬかと思ったわよ!」

クレアだけがまだ元気なようだ。俺も疲れたよ。これからの作業を考えると……逃げたくなる。

気を取り直して剥ぎ取りだ。元気に行こう!

「みんな、お疲れ様。さっそくだけど剥ぎ取りを始めよう」

みんなの顔が青ざめた。気持ちはわかる。気持ちはわかるけど、やらなければならないのだ。

このまま放置して帰ったら、寝る前にものすごく後悔する。たぶん数日は引き摺る。

作業の前にクレアを治癒して、ポーションで乾杯。相変わらずクソ不味い。

「ん~! マズイー!」

リーズが吐きそうになりながら言う。それはみんなが思っていることなんだよ。

先日買った材料を見る限り、ただの雑草汁だった。そりゃマズイって。有効成分を抽出するとか、味を調整するとかっていう発想が無いんだ。

「よく効くポーションほどマズイの! 我慢しなさい!」

改善する気、無し!

ポーションは今も昔もこの先も、ずっとクソ不味いままだな。そういうものだと思って諦めよう。

「素材はどの部位だ?」

「あまり前例がない魔物ですので……クレアさん、いかがですか?」

「そうね……狩ったという話はあまり聞かないわ。

でも、素材として買い取りしているわよ。部位は皮と腕ね。

オスの腕は呪術に使えるらしいわよ」

呪術か。魔法とはどう違うんだろう。まあいいや。

オスはボスだけだと思うから、先にボスの所へ行こう。

「あの……どれがオスですか?」

猿なので見分けは簡単だと思ったんだけど、そういうわけにはいかなかった。

ここは弾丸が一番集中した場所だ。木が倒れ、地面が抉れ、ここだけ台風が去った後のようになっている。

「たぶん……これがボスの腕じゃないかなあ?」

ちぎれた腕を拾い上げる。

当然、猿の形は残っていない。序盤の30連射の時点で吹き飛んだ。あの時は素材を回収するつもりが無かったんだ。仕方がないだろう。

「やりすぎです!」

「ゴメン!」

てへぺろ!

反省はしていないんだ! 許してくれ!

「言っても無駄でしょ。絶対反省してないわよ」

クレアが呆れ顔で言う。

バレてるね。今回は仕方がなかった。たぶん次回も仕方がない。

ボスはオーバーキル狙いでちょうどいいんだ。下手に手加減して倒しきれない方が危険だ。

素材のことまで考えて倒すのは、余裕がある雑魚だけ。ボスはいくら余裕があっても油断したらダメだ。

今後もボスっぽい魔物には全力で対処する。

「それだけ危険な奴だったんだよ。素材のことまでは気が回らない」

「いえ……そうではなくて、地形が変わるほどの魔法はちょっと……」

言うほど変わってないと思うよ。ちょっと木が倒れて、ちょっと地面が掘り返されただけ。

元々開けた場所だったんだ。その面積が広がっただけ。大したことではない。

でも、そういうことなら今後は少し気を付けよう。自然破壊は良くない。

「そうだな。今度からは上に向けて撃つよ」

若干冷ややかな視線を感じながら、剥ぎ取り作業を進める。もうこれだけで日が暮れそうだ。ウロボロスの見学ツアーは明日だな。

俺が撃ったバブーンはすでにボロボロなので、後回し。ルナとリーズが仕留めたバブーンはダメージが少ないので、そちらを重点的に剥ぎ取った。

前例が少ないということで、買取金額が予想できない。高い金額が付けばいいんだけど……。

そして、たぶんこれだけでマジックバッグが一杯になる。薬草を入れるスペースが無いぞ。拠点に帰ったら、手持ちの素材で追加のバッグを作ろう。