軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

他人のピンチは大チャンス

俺達は売り物のポーションと出来立ての『ブロア』を持って王城にやってきた。

仮にも王城の門だというのに顔パスで通れてしまってもいいのだろうか……。でも気にせず進む。

目的地は王城東にある兵営だ。兵士に関わる施設はすべてその辺りに集中している。兵士の詰め所に近付くと、応接室らしき部屋の中から揉めている声が聞こえた。

「だーかーらー! もうこれ以上は安くできませんって!」

「いくらなんでも高すぎるだろう! 前回の半分しか納品されていないなんてどう考えてもおかしい!」

名もなき兵士と身なりの良い若い男が何か言い合いをしている。名もなき兵士とはモテないモブ兵士のことである。名前は知らないし知るつもりもない。

ずいぶんと激しい言い合いをしているが、何の話だろうか。首を突っ込んでもいいのかな?

さらに近付いてよく見ると、テーブルの上にはポーションが並んでおり、そのポーションを巡って言い争っているようだ。

「穏やかじゃないな。どうしたんだ?」

ちょっと迷ったけど首を突っ込むことにした。

2人はぎょっとしてこちらを見る。

「 コー(じゃない方) じゃないか。今忙しいんだ。後にしてくれ」

こいつ、絶対に俺の名前を覚えているよな。 頑(かたく) なに“じゃない方”で通すのは何か理由があるのか? 失礼な奴だ。

「悪いな。少し気になったんだ。そのポーションに何か問題でもあるのか?」

「問題はないよ。いつも通りの品質だ。しかし高すぎる!」

「しょうがないでしょう。材料が高騰しているんです! あなたも兵士なら知っているでしょう?」

そうだった! 今は薬草が高騰中だから、当然製品の価格も上がっている。材料も激安で手に入ってしまったから完全に忘れていたよ。クレアとルナがハッとした顔をしている。2人も忘れていたのだな。

しかしこれは好都合だ。予定よりも高く売れそうだぞ。

「値段はどれくらい上がっているんだ?」

「前回のほぼ倍だよ。100本分の金を払ったのに60本しか納品されなかった」

「これでも頑張ったんです! 他所には50本で売っていますよ」

若い男が口を挟んだ。どうやら出入り業者のようだが、薬師ギルドの人なのかな。

「あんたは?」

「薬師ギルドの販売員です。ここの兵士さんにはいつもお世話になっております」

販売員の男は丁寧に挨拶を返すが、どこかセリフ臭い。たぶんいつもの定型文なんだろうな。その後、彼は俺達に怪訝そうな顔を向けた。

俺たちは怪しい人物には見えないと思うんだけどなあ。俺の左右にはルナとリーズ。2人で俺の手を握っている。背後にはクレアが居て、俺の服の裾を掴んでいる。一般的な 冒険者(ハーレム) パーティの出で立ち……と言えなくもない。

……いや怪しいよ。王城内で手を繋いで歩く集団。たぶん他人から見たら怪しい集団だわ。でも王城でリーズを野放しにしてはいけない。この状態が最善のはずだ。

その証拠に、モブ兵士は何事もなかったかのように商談を続ける。

「もうこの値段でいいから、あと100本持ってきてくれ。最近訓練がキツくなってポーションが全く足りていない」

「無理言わないでくださいよ。ギルドの在庫にも限りがあるんです。材料が入ってきませんから、いつものペースで使われると困ります!」

販売員の男は必死で食い下がる。森に入れないせいで、各所で問題が起きているようだ。

でも俺にはチャンスにしか見えないぞ。

「なあ、俺たちはポーションを売るほど持っているんだが、どうだ?」

売りに来ているんだから売るほど持っていて当然だ。薬師ギルドの人間が邪魔なのだが、話を通さなかったことが問題にならないとも限らない。せっかく居るのだから同席しているうちに話を進めたほうがいいだろう。

「おお! 本当か? じゃあ売れるだけ売ってくれ!」

先に声を返したのはモブ兵士だ。身を乗り出して暑苦しい顔を近付けてきた。

「俺は構わないが、薬師ギルドはどうだ?」

販売員の男は驚いた顔をしている。

「え? あなた方は商人さんですか?」

「いや違う。うしろに居る彼女が薬師見習いのようなもので、個人でポーションを作っているんだ」

クレアが一歩前に出て軽くお辞儀をした。

「そうでしたか。売るのでしたら是非薬師ギルドに、と言いたいところなのですが、どこに売るかは個人の自由ですので。

余ったらギルドに売ってください」

意外にもあっさりと了承してくれた。多少揉めたりオークションみたいになったりするかと思ったんだけど、薬師ギルドは結構自由な所みたいだ。

「よし。じゃあ品質を見て決めてくれ」

ルナとリーズから手を離し、マジックバッグから120本のポーションを取り出してテーブルの上に置いた。

俺には見分けがつかないのだが、品質にバラつきがあるらしい。正規の価格で売ることはできないだろう。

モブ兵士と販売員は、テーブルに並べられたポーションを真剣な顔つきで検分している。

「悪くないですね。若いのにいい腕です。でも何本か良くないものも混ざっていますので、分別したほうがいいですよ」

販売員の男がアドバイスをしてくれた。クレアは嬉しそうにうんうんと頷いている。

俺たちは全部まとめて売るつもりだったのだが、品質ごとにしっかり分けてから売ったほうがいいらしい。次回から気を付けよう。

「おい コー(じゃない方) 、これで全部か? どうせまだ持っているんだろ? 出せよ」

おいおい、言い方がカツアゲするヤンキーじゃないか。飛び跳ねればいいのか?

しかし、本当にまだ持っているんだよな。今出したのは売るつもりのポーションだけだ。俺たちが使うつもりのポーションは別にある。緊急時を考えて1人10本、あわせて40本は自分たちの分として確保した。

まだ値段交渉をしていないのに全部出せとは、なかなか切羽詰っているようだな。どうせまだ作るんだ。俺たちの分を少し減らして売ってやるか。

「クレア、俺たちの分を出してもいいか?」

「いいわよ。せっかくだから全部出しちゃってよ」

クレアはそう言うが、さすがに全部は出せない。手持ちの ポーション(保険) がゼロになるのは心が落ち着かないからな。商人なら全部売るのが正しい選択なんだろうけど、あいにく俺は冒険者だ。

バッグから追加の20本を取り出し、テーブルの上に置く。

「やっぱりまだ持っていたか。全部買おう。薬師ギルドならこれをいくらで売る?」

モブ兵士はニヤリと口角を上げ、販売員に聞いた。ポーションは全部で140本ある。平時なら全部で金貨35枚くらいだが、今は倍になっているらしいから70枚くらいで売れるかもしれない。

「そうですね……。すべて検品できたわけではありませんので、ざっとした計算です。

一般品が約100本で金貨100枚、B級品が約40本で金貨24枚ですね」

高っ! 何で予想の倍なんだよ! いくらなんでも高すぎるぞ。しかしこれはギルドで買うならという話だ。俺の計算はギルドに売るならという話。ギルドはどれだけ利幅を取っているの?

クレアが絶句している。相場を知るクレアでも考えられない高値のようだ。

モブ兵士はこの価格を聞き、難しい顔をしてうーんと唸っている。

「あまりにも高すぎないか? 俺たちは金貨100枚を超えるなんて思っていなかった」

「今は薬草を入荷できる目処が立っていません。ギルドの在庫はもうすぐ無くなるというのに、ポーションが入ってこないのです。

今はギルド所属の薬師さんが駆け込みで売りに来てくれますが、材料がなくなったらそれも無くなるでしょう。もう仕入れ価格を上げてかき集めるしかないんですよ」

「 コー(じゃない方) ! 少し安くならないか? 少しでもいいからまけてくれ」

「少しでいい? じゃあ銅貨1枚まけてやるぞ?」

「おいぃぃ。そりゃ無いぜ……」

悲しい顔で息を漏らすモブ兵士。

まあそんな意地悪はしないけどな。当初の予定よりもずいぶんと高値がついたんだ。安くしても問題ない。

「冗談だよ。全部合わせて金貨100枚でどうだ?」

大幅値引きしているように見えるだろ? でもギルドに売るよりも高値なんだぜ……。この場ではギルドに売ったらの話をしていないが、たぶん金貨70枚前後だ。良くて80枚といったところだな。

「いいのか……?」

「ああ、問題ない。支払いはどうする?」

「すぐに持ってくる。ちょっと待っていてくれ」

モブ兵士が奥の部屋に向かったので、販売員の男と雑談して過ごす。

「なあ、販売員さん。個人が勝手に売っても問題にならないのか?」

「なりますよ。

でも、誰から買うか、どこから買うか、それらは個人の自由です。トラブルを避けたい人は薬師ギルドを利用するでしょう」

自己責任と言いたいのかな。薬師ギルドは信用を売っているわけだ。俺たちもグラッド隊と付き合いがなければギルドに売るつもりだった。利益は減るが、今後はギルドに売ろう。

「そうか。今度薬師ギルドにも顔を出すから、よろしく頼むよ」

「はい、お待ちしています。入荷が無くなりそうだというのに注文ばかりが増えて、大変なんですよ」

先日の訓練で大量消費していたみたいだから、グラッド隊の在庫も底を突きそうなんだろう。どこも大変だ。

「ここの兵士はポーションを水だと思っているんだよ。仕方がないさ」

「いえ、兵士さんだけではありませんよ。他からも大量の注文が来ているんです」

兵士以外にポーションが必要……たぶん教会だろうな。クーデターの準備は着々と進んでいるようだ。警戒を強めておこう。

『バン!』

勢いよくドアが開き、両手に金貨を掴んだモブ兵士が入ってきた。両手からは金貨が溢れ出しそうだ。トレーに乗せるか袋に入れるかしろよ。

「待たせたな!」

「戻られましたね。では、私はこれで失礼します」

販売員の男はモブ兵士が部屋に戻ったことを確認して帰っていった。

まだ聞きたいことがあったのだが、引き止める理由がない。俺たちも帰っていく販売員を見送る。

「金貨100枚だ。確認してくれ」

モブ兵士はそう言いながら金貨をテーブルにぶちまけた。テーブルにはまだポーションが乗っているのに……。こいつ、ガサツすぎるだろう。

俺たち4人で散らばった金貨を集め、数を確認した。

「ああ、100枚あるよ。ありがとう」

「いや、俺も助かったよ。またいつでも売りに来い」

予想以上の収益だった。材料費を差し引いても、道具代が全額戻ってきたぞ。

モブ兵士に挨拶して、兵士の詰め所から出る。次は城内にあるメイドさんの休憩室かな。

どこにあるかは知っているが、入ったことはない。女性しか居ない部屋なんて恐ろしくて入れない。しかし今日の俺は女性同伴だ。勇気を振り絞って休憩室に行こう。