軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

恩を売って商品を買う

謁見の間から出た俺たちは、特に用があるわけではないのですぐに王城の外に出た。

城門の近くで今後について打ち合わせをする。

「さて。暇になったんだが、どうする? 何かしたいことがある人、居る?」

「思い当たりませんね……。魔道具でも作りましょうか?」

「さんせーい!」

「それならアタシはポーションを作るわ」

せっかくだからスマホ魔道具でも開発しようかな。たぶん転写機の応用で作れると思う。文字を声にして同時に通信できるようにすれば作れる。

元宮廷魔導士のルナなら構造を知っているはずだから、ちょっと改造すればすぐ作れるだろう。

「足りない材料は無いか? 今のうちに買っておこう」

たいていの材料は冒険者ギルドの近くで揃う。ポーションの材料は職人街で買う必要があるが、薬草以外の材料は多めに買ってあるので問題ない。薬草だけなら冒険者ギルドの近くにある薬屋でも買える。

薬草は採ってきてすぐに使えるのなら楽なのだが、干したり潰したりと手間が掛かるので買った方が早い。売った物を買うという矛盾が気になるので、いずれはどうにかしたい。

「薬草の値段は大丈夫ですか? もう値上がりしていませんか?」

そういえば、すでに買取金額はかなり上がっている。それに合わせて店売りも上がっているはずだな……。

「そうだったわね……。諦めるわ」

クレアは悲しそうな表情で言うが、諦めるのはまだ早いだろう。店によってはまだ安く買える可能性もある。

情報伝達が発達していないんだ。積極的に情報収集していない店はこういう時に出遅れる。

「一応、店には行ってみよう。買える値段なら買ってもいい」

「ありがと……」

というわけで、ちゃっちゃと冒険者ギルドがある南の商店街へ急ぐ。例によって屋根を走るのであっという間だ。辻馬車もタダじゃないからなあ。

冒険者ギルドは大通りに面した場所にある。昼間に屋根から大通りへ飛び降りるのは危険なので、いつもは立ち入らない小道に着地した。

俺達が下りた場所は大通りから少し入った所なのだが、こういう道には小さな個人商店が軒を連ねている。偶然下りた場所だったが、その場所から薬屋の看板が目に入った。

「クレア、ちょうどそこに薬屋があるみたいだ。入ってみないか?」

「……いいの?」

「ああ。普通の値段だったら買おう」

みんなの了承も得て、店の中に入る。店内はかなり狭く、いつもの武器屋よりも狭いくらいだ。俺たち4人が店内に入ったら、もう満員の状態だった。

俺が店の狭さに驚いているうちに、クレアはすでに品定めを始めていた。

「ねえ……これ安すぎない?」

クレアはそう言って一つの壺を指差した。大銀貨5枚と書き殴られているのだが、俺には安いのか高いのかわからない。

「いや、俺に聞かれてもわからないぞ。正規の値段を知らない」

「コーさん、これ一つの中に薬草100株分くらい入っています。考えられないくらい安いですよ……」

えーっと……壺にはシブキ粉末と書かれているな。確か1株大銅貨5枚……だったかな? ということは原価のまんまじゃないか……。いや、冒険者ギルドを通しているから原価を割っているはずだ。

いくらなんでも安すぎる。偽物? 粗悪品?

「質はどうなんだ?」

「悪くないわ。普通の品質ね。普段ならこの量だと金貨2枚くらいよ。他の薬草も安いわよ? どれも相場の半値以下だわ」

その金額なら妥当だ。加工費と利益でちょうどいい値段設定だと思う。それを考えると明らかにおかしい。安売りする理由がわからない。

「店主は居るか!?」

大声で呼ぶと、薄暗い店の奥からのそっと老婆が出てきた。艶のないパサパサな白髪を揺らし、店の隅に立った。

「いらっしゃい。大声を出さんでも聞こえとるよ。儂はそんな年寄りじゃないわい……」

老婆が皺だらけの顔に更に皺を寄せて言った。十分な年寄りだと思うんだけどなあ。

「ちょっと聞きたいんだが、なぜこんなに安い?」

「……儂にも事情があるんじゃよ……。安い分には困らんじゃろ。買えるだけ買っていけ」

確かに安いに越したことはないんだけど、安すぎる物は気持ちが悪い。偽ブランドや盗品を安く売っている店は地球にはたくさんあるんだ。注意しておかないと騙される。

しかしちょっと待てよ……。この婆さんも教会のトラブルに巻き込まれているとしたら……何か聞けるかもしれないな。

「婆さん、聞きたいんだけどいいか?」

「……」

返事をしない婆さん。白々しい顔でとぼけている。聞こえていないわけでは無いと思うんだが……。

「婆さん?」

「…………」

「……おねえさん?」

「なんじゃ?」

クッソババァ……誰がお姉さんだよ。見た目は立派なババァじゃねえか。

「事情ってのは何だ? 教会に何か言われたのか?」

「教会? なんじゃ、それは。儂は熱心な信徒ではないぞ? 寄付しろと言うなら帰れ」

違うのか……。じゃあ不正役人絡みならどうだろう。

「いや、そうじゃない。法外な税金を請求されているとか?」

「しっかり払っとるわい! そんなに貧乏に見えるかの?」

これも違うのか……。俺には関係ない問題なのかな。

「悪かった。あんたの事情に心当たりがあったから聞いただけだ。気にしないでくれ」

「コーさん……。王都の中のトラブルすべてに教会が関わっているわけではありませんよ?」

しまった……。先走ってしまった。恥ずかしい。勝手に俺も関係している気がしていたぞ。

「実はのう……。儂のバカ孫が傭兵ギルドから借金をしておってなあ。すぐに返さんとならんのじゃ」

「傭兵ギルド? そこは金貸しもやっているのか?」

「……恥ずかしいことに、うちの孫は傭兵なんじゃよ。やっと辞める気になってくれたというのに、借金を返すまでは辞められんと言うのじゃ」

なるほど、そういう事か。所属ギルドから金を借りることはよくある事だ。冒険者ギルドも貸してくれる。

へぇ……傭兵になることは恥なのか……。まあたまに犯罪もしているみたいだし、身内にやってほしい仕事ではないな。

しかし借金かあ。孫のために頑張っているんだな。なんだかオレオレ詐欺みたいな話だけど、電話が無いから詐欺ではないんだろう。

「なるほどな。そういうことなら数日待ったほうがいいぞ。もうすぐ薬草の値が上がる。一気に返せるだろう」

ちょっとした親切心だ。この値段で大量購入するのはなんとなく気が引けるからな。

情報収集を怠った普通の商人からだったら倉庫の中身全部買うつもりだったんだけど、この婆さんは本当に困っているみたいだ。

でも勝手に教えて良かったのかな……?

みんなの顔を窺うと、感心したような顔で頷いている。怒っていないみたいだ。

「……ふぁっはっはぁ! お主らはお人好しじゃなぁ。そのことなら知っておるよ。じゃからこそ今安売りしておるのじゃ。仕入れよりも安いがな、とにかく売れればいいんじゃ」

婆さんは大声で笑いながら言った。

今後のことはどうでもいいから、今すぐにでも現金が欲しいということだろう。孫とかいうやつは相当切迫した状況にあるということか。

俺の手元にある金貨は500枚以上。先日のグレイウルフ祭りで稼いだ金が使い切れないで残っている。もちろん全額使うわけにはいかないが、多少減っても問題ない。

「なあ、孫の借金はいくらなんだ?」

「全額ではかなりのもんじゃったが、あと金貨50枚ほどがどうしても足りんのじゃよ。じゃから、ほら。大量に買っていけ。損はせんぞ?」

「なあ、みんな。買ってもいいか?」

みんなのお金だから一応確認。俺の中では買う気満々なんだけど、反対する人が居たら考え直す。

「いいよー」

「買いましょう」

「買えるだけ買うべきね」

全員賛成ということで、金貨50枚をバッグから取り出した。俺が全部買い占めてもいいのだが、借金を返し終えたら価格を元に戻したいだろう。

「これで買えるだけ買おう。どれくらい買える?」

「ぬっ! よいのか……? 儂は助かるが……」

「ああ、気にするな。俺は損をしないどころか、ものすごく得をしているんだ」

「すまんのう……儂が計算してやるから欲しいものを持ってこい」

後のことはクレアに任せた。ポーションを作るのはクレアだし、俺には何が必要かもわからない。まあ、大量に買っても腐るものではなさそうだ。乾燥粉末は日光と湿気にさえ気を付ければなかなか腐らない。

結局、数百個の壺が手に入った。入れ物は別売りかと思ったのだが、土でできた壺は激安だから問題ないそうだ。魔道具で大量生産されているらしい。ガラス瓶は 珪砂(けいしゃ) という鉱石が必要で、加工用の魔道具が無いからアホみたいに高い。

だったらポーションも壺に入れればいいじゃないと言ったら、ポーションが変質するからアウトだそうだ。

支払いを終えたので、 婆さん(おねえさん) に挨拶をして店を出た。深く感謝をされたのだが、得をしたのは俺たちの方だ。相場価格なら金貨200枚分くらい、でも今は高騰中だからもっと高くなる。とんでもない安値だった。

その後は適当に魔道具素材を買って宿に戻った。こっちはすでに値段が上がり始めていたので、革を少し買ったくらいだ。高騰するのは森の中で採れる素材だけかと思っていたのだが、いろんな物が便乗値上げされていてちょっと引いた。

いつもよりも早い時間に宿に戻ると、珍しく仕込み前の宿の店主と鉢合わせした。朝はたまに見かける程度、夜は厨房に籠もっているので会うことが無い。そのせいで、もう何日も泊まっている宿なのにまともに喋ったことがないのだ。

「よう。おかえり。いつも泊まってくれてありがとう。今日はずいぶん早いな」

野太い声がフロアに響く。立派な髭をきれいに切りそろえ、口元に笑みを浮かべている。

腕は丸太、胴は樽のようで、手もゴツくて拳は岩みたい。とても料理をする人には見えない。というか 食材(まもの) を獲りに行く人にしか見えない。

「ああ。ちょっとわけがあってな。しばらく宿に籠もるから、よろしく頼む」

「そうか。ゆっくりしていけ」

店主はそれだけ言って奥に引っ込んでしまった。無口な人なんだろう。人付き合いが苦手な人なのかもしれない……。いや、じゃあ宿の店主になるなよ。向いてないわ。料理が上手いからそれでいいのかもしれないけどね。

それからしばらくは本当に宿に籠もった。クレアは1人でポーション作成、俺たちは3人で魔道具作成だ。

まずは通信機が欲しい。パーティメンバーはできるだけ離れないように気を付けているから基本的に必要ないが、使徒の2人とは常に離れているからな。

俺たち3人で試行錯誤した結果、割と簡単に『スマホ』が完成した。『すごいまほうの通信機』略してスマホ。というかこの世界には通信機という概念が無かった。遠距離通信の手段は『転写機』だけしかないそうだ。

これは公表しないほうがいいだろう。確実に軍事転用されてしまう。

スマホと言ってもインターネットに繋がるわけではなく、ゲームができるわけでもない。形がスマホっぽいだけの、ただの無線機だ。今のところ、宿の中では繋がっている。通信距離は今度確認しよう。

見た目がただの銀板なので、これに向かって喋る奴は怪しすぎる。そのため、ハンズフリーイヤホンみたいな物も作っておいた。これなら独り言がうるさい怪しい人になるだけだ。まだマシだろう。

一応、魔法による個人認証機能は付けておいた。落としたら嫌だからね。ついでに発信機能も付けた。落としたら探すのが面倒だからね。持ち主とある程度離れたら全員のスマホの音が鳴る機能も付けた。絶対に落としたくないからね。

そうだよ、一度落としたことがあるんだよ! 軽くて丈夫で防水機能が売りっていうスマホだったけど、雨の日に川に落としたら流れていったさ。濁流に飲まれて消えていったね。今頃海の底だと思うよ。

この前の訓練で使った威圧の魔法、あれも魔道具化することにした。グラッド教官を数秒で気絶させた魔法だ。どれだけ強くなったとしても、この魔法を食らったらほぼ確実にダウンだ。

使う時は便利だが、使われた時に厄介。だからこの魔法を防ぐための魔道具を作っておくことにしたのだ。 常時発動(パッシブ) 型で脳を保護する魔道具、という感じだな。

アクセサリーがジャラジャラと増えていくのは性に合わないので、シールドの魔道具に機能だけを追加した。魔法攻撃はほぼ無力化できたと思う。

シールドの魔道具は腕輪の形だ。外れにくいから緊急用の防具にちょうどいい。

緊急ついでに、遭難信号も出せるようにしておいた。発信、音、光の中からどれかを選ぶ。スマホでも救助を呼べるのだが、通信距離や現場の状況によって使えないことも考えられる。遭難信号の手段は複数備えておくものだ。

あとは……カメラとかボイスレコーダーが欲しいなあ。冷蔵庫と冷凍庫も欲しい。欲しいものだらけだ。幸い時間は余っている。今のうちに色々試そう。