軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

豪快でデラックスなおばさんとの再会

何事もなく朝を迎えた。クレアは別室で身体強化の習得を頑張っていたはずだ。本当に大変なのは手伝いをするルナなんだけどな。

ルナとクレアが部屋に訪れたので、中に招き入れた。

クレアは案の定顔を真っ赤にして恥ずかしそう。ルナは……ぐったりしている。何があったか知らないが、相当大変だったんだろう。

「ちょっと! あんなの聞いてないわよ! 何なのよアレ!」

言ってないもん。事前告知すると拒否されそうだったからね。特に害はないから大丈夫だ。

「副作用でそうなるんだ。みんなが通る道だよ。ルナとリーズもそうなったぞ」

「いえ……私はあんなに酷くありませんでした……」

ルナが肩を落として答えた。そんなに酷かったのか……。クレアの名誉のために深くは聞かないでおこう。

「で、何か感じることはあったか?」

「え? ……それ聞く?」

クレアは耳まで赤くして呟いた……。しまった、聞き方間違えた。

「身体強化についてだ。体の中を魔力が巡っていたはずだ」

「そうね……。正直それどころじゃなかったわ。でも、何となくこれかな? っていうのはあったわよ」

「みんなそうだ。何となくの感覚を忘れるなよ。魔法なんてみんな何となく使っているものだ」

この国の魔法使いは『詠唱すると何か出る』くらいの感覚で魔法を使っているようだ。因果関係や原理はどうでもいいらしい。当然、俺もよくわかっていないのだが……。

「アタシ、魔法使えないわよ?」

そういえばクレアとリーズは魔法が使えないんだったな。でも魔道具が発動できれば魔力があるということだ。

「詠唱ができないだけだろ? 俺もそうだよ。詠唱が全く聞き取れないから、この国の魔法が使えない」

何度挑戦しても聞き取れなかった。ルナもたまに詠唱魔法を使っているが、もう覚える気がないので聞き流している。どうせ神に感謝とか碌でもないことを呟いているんだ。覚えて得をすることが何一つとして無いよ。

「そうなの? でもコーは魔法を使っているわよね……?」

「俺の魔法はエルフの魔法に近いと言われているよ。考え方や発動の仕方が全く違うみたいだ」

「……アタシ、体質の問題で魔法は一切使えないって言われていたの。パパとママもそうだったって……」

「あたしもだよー。獣人は魔法が使えないの」

リーズも使えないそうだ。というか獣人全体がダメなのか。リーズの村のローカルルールである混血禁止は、ある意味間違っていなかったのかもな。人口が少ない村で魔法が使えない者ばかりになったら大問題だ。

しかし……喉や舌の作りの問題じゃないかな。おかしな発音だから、体質によって向き不向きがあるんだと思う。

「たぶん詠唱ができないだけだ。魔力が無いわけではないぞ」

魔道具が使えるなら魔力があるということだ。この国で魔道具が使えない人を見たことがないし、聞いたこともない。

「アタシが聞いた話とずいぶん違うわ……」

「さっきの感覚を忘れるなよ。あれが全ての基本だ。練習していればそのうち魔法も使えるようになる」

全て身体強化が基本になっているからな。どんな魔法でも、試してみたらできた。

たぶん誰でも魔法が使えると思う。みんなで鉄の弾丸を乱れ打ちするパーティとか胸熱じゃないか。最終目標だな。

「練習するわ……。この魔道具、しばらく借りるわね」

「ああ、いいけど使う時は注意しろよ。誰かに付き添ってもらえ」

クレアはもう少し練習が必要なのかも知れない。順番ミスったかなあ……。これをやった後に兵士の訓練を受けたほうが効率が良かった。

結局実戦の中で訓練するのが一番早いんだ。それも、できるだけハードな実戦で。

うーん、どこかに手頃なゴブリンの群れとか居ないかな……。

「ところで、今日は何をしようか? まだ森に入れる時期じゃないから、王都の中に居ることになると思うんだが」

今日は何も予定を立てていない。買い物も終わったし、かと言って狩りに行くこともできない。

「ねえ、することがないなら一度実家に帰ってもいいかしら」

クレアが遠慮深く意見を言った。クレアの実家は『マリーの魔道具店』という店だ。俺も何度も世話になっている。

「ああ、いいんじゃないか?」

「みんなもどう? たいしたもてなしはできないけど」

「いいのか? 家族に俺達が邪魔したら悪いだろう」

「いいのよ。アタシは荷物を取りに行くついでだから」

「そういうことなら俺もついていくけど、ルナとリーズはどうだ?」

「いいよー」

「はい。私も行きます」

ということで、みんなでマリーさんに会いに行く。

マリーの魔道具店は冒険者ギルドからも俺たちの定宿からも近い。クレアはもっと頻繁に帰ってもいいと思うのだが……。

「たまには実家に泊まってもいいんだぞ?」

「無理ね……。あの家にはアタシの部屋がもう無いのよ。物置になっていたわ」

マリーさんならやりかねないな……。スペースができたら即物置にされる。その結果、店内が物置になったわけだが。

店に着いたので、店内に入った。店内の通路には謎の木箱がいくつか点在しており、客の動線を妨害している。……俺たちが掃除したばかりなんだけど?

この人に整理整頓を求めるのはもう諦めよう。

木箱を乗り越えて中に進むと、なにやら言い争いをする声が聞こえてきた。

「何よ。ちょっとくらいまけてくれてもいいじゃない。ケチねぇ」

「そう言われてもぉ、それは特価品ですから~。

もう半額になっているんですよぉ?」

「そう? それならいいけど……。じゃあこっちはどうなのよ」

「それは私の作品じゃなくて、頼まれて置いているだけなのぉ。勝手に値下げできないんですぅ」

間延びした喋り方と、ドスの利いた声の女性。1人はマリーさんなんだけど、もう1人は……。

「じゃあいらないわ。あんたの魔道具が欲しいのよ。他人のなんかいらない」

トドのようなシルエット、遠慮のない言い方、そして圧倒的存在感。間違えようがない。ボナンザさんだ。

俺達が露店を開いた時の客で、センスという通貨単位について教えてくれたおばさんだ。別れ際に「店に行く」って言っていたけど、本当に来たのか。

「ボナンザさん、マリーさんは値下げ交渉が苦手なんだ。勘弁してやってくれ」

2人の会話に割って入った。交渉に割り込むのはマナー違反なんだが、どちらも知り合いだから揉め事に発展してほしくない。

「あらぁ。おかえりー」

「あんたたち、露店のコじゃない。あんたからも言ってよ。この人全然まけてくれないのよ?」

一応覚えていてくれたみたいだ。しかしこの人、本当に微塵も遠慮しないな……。

「ボナンザさんもやりすぎだ。店を見てみろ。露店の時より安いだろ? 値下げする前提の価格じゃないんだ」

露店では値段交渉も楽しみの一つ。だから最初から少し高めに設定してある。でも店舗では正規の値段で売っているので、値段交渉ができない店も多いのだ。

「そう? ……そうね。悪かったわ。じゃあ今あたしが持ってきた物、全部買うわ。いくらかしら?」

ボナンザさんは辺りを見渡して値段に気が付いたようだ。素直に謝り、カウンターの上に山のように乗った魔道具を全部買った。

でも相当な量だぞ……。金貨100枚分以上あると思う。

「マリーさん、これだけ買ってくれるというんだ。少しは値引いてやってくれ」

「そうねぇ。じゃあ金貨だけでいいわぁ。1人でこれだけ買う人は初めてよ~」

「ふふふ。助かるわ。最近ちょっと物騒なのよ。自分と店のコを守るためにはこれくらい必要なの」

ボナンザさんはそう言って山盛りの金貨をマリーさんに渡した。しかしこの人、金持ってるなあ……。商人なのかな。

「店のコってのはなんだ? 何か商売をしているのか?」

「あら、教えていなかったわね。あたしは王都で奴隷商をやっているわ。あんたたちも1人どう?」

まさかの奴隷商でした。見た目的には合っているけどね。この人は完全に悪人顔だから。

しかし奴隷かあ……。地球ではもうあり得ない存在だ。俺は欲しいとは思わないけど、この世界の文化として理解する必要があるよなあ。

「いや、間に合っている。奴隷商だったとはね。物騒ってなんだ? 奴隷商なんかやっていたら年中物騒なんじゃないか?」

勝手なイメージだけどね。奴隷商をやっていて問題が起きないなんてことは無いだろう。年中トラブルが発生していそうだ。

「そりゃそうよ。あたしは敵が多いからね。でも最近特に物騒なの。あんたたちも気を付けなさい」

うーん……。近頃王都の中でいろいろ起きているみたいだな。教会以外にも気を付けることだらけだ。

しまったな。森の調査依頼、断ればよかった。この依頼のせいで王都から出られないんだよ。

「めんどくさいなあ……。さっと解決できないかな」

ついボヤいてしまった。ちょっとイラッとしてしまったよ。教会を建物ごと灰にしたら問題が一つ解決するよな……。焼くか。

「コーさん……何を考えているんですか?」

ルナが呆れた顔で聞いてきた。つい顔に出てしまったようだ。ウソウソ、焼かないよ。後始末が面倒だからね。

「いや、なんでもない。

で、どうなんだ? どう物騒なんだ?」

「あんたたちは知らないほうがいいわ。1人で外に出ないこと、そして薄暗い場所には行かないことね」

「そうか……。忠告ありがとう。気を付けるよ」

俺は世の中に知らないほうがいいことなんて無いと思っているんだけど、喋りたくないことを無理に聞き出す趣味もない。十分な情報は得られたのだから素直に感謝して引き下がろう。

ボナンザと話をしているうちに、マリーさんのお金の勘定が終わったみたいだ。

「お待たせしましたぁ。確認できましたよぉ。こんなにたくさん買ってくれてありがとうございますぅ」

「ありがとう、また来るわ。奴隷が欲しくなったらすぐに言ってちょうだいね。あんたたちなら歓迎するわ」

ボナンザさんはそう言い終わると、のっしのっしと歩いて店を出ていった。ゴ○ラのBGMが聞こえる気がする……。

「すごい人でしたねぇ」

たぶんあの人に初めて会った人はみんな言うと思う。いろいろとスゴイんだ、眼力とか存在感とか。一度会ったら忘れないインパクトを持っている。

「そうだな。露店の時の客だよ。あの時も遠慮なく値切ってきた。そういう人なんだよ」

「ふふふ。悪い人ではなさそうよぉ? あの人のことは噂で聞いたことがあったのぉ」

マジか、噂になっているのか。でもわからなくはない。見た目のインパクトもさることながら、遠慮がない性格で豪快。一度会った人はつい誰かに言いたくなるだろうな。

「特徴の塊みたいな人だもんな」

「そうじゃなくてぇ、あの人は悪い人には絶対に奴隷を売らないのよぉ。だから敵が多いのねぇ」

マリーさんは、感心するように言いながら頬に手を当てて首を傾げた。

なるほど、客を見て売るかどうかを決めているのか。それなら奴隷と言っても悪い扱いにはならないだろうな。俺たちなら売ってくれると言っていたから、俺たちはあの人に認められたということなのかな。

それからしばらくはクレアとマリーさんが2人で話をしていたので、俺たちは邪魔をしないように店内を見て回った。商品ラインナップはあまり変わっていないのだが、荷物が倍増している。

数カ月後にはまた大掃除が必要になりそうだな……。マリーさんこそ奴隷が必要なんじゃないのかな?

ぼんやりと店内を眺めていると、バッグの中からスマホのバイブ音みたいな音が鳴り出した。ビクッとなって恐る恐るバッグを調べると、王から渡された『転写機』がけたたましく震えている。

俺が持つ転写機は、王に報告書を出したり王から何か依頼があるときに使う、掲示板のような魔道具だ。これが反応したということは王から何か知らせが来たということだ。

中を確認すると、ただの出頭命令だった。「時間があるときに、いつでもいいから王城に来い」というだけの内容を、ダラダラと長ったらしく、クドクドと書き込まれていた。

前回の報告に対する回答だとは思うんだけど、物騒な話や教会のトラブルの話を聞いた後だから嫌な予感しかしないよ。

行きたくねー。無視したら怒られるかな……? 昨日王城に顔を出したばかりだからなあ。俺が王都に居ることはバレている。行くしかないか。