軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者リーズの初めての報告

全力疾走の結果、夜になる前には王都に到着することができた。

報告は急いだほうが良いという事で、一度宿に立ち寄ってから冒険者ギルドに行くことにした。先に宿に行くのは、部屋の確保と報告内容の打ち合わせのため。言えないことが多いからね。

「これからギルドへ報告しに行くが、報告するのはリーズだ。何を報告するかわかっているよな?」

「わかってるよー。森に何かいたーって言えばいいんでしょ?」

「短い……。端折りすぎだ。そんな報告じゃあ誰も納得しないぞ」

「リーズ、もう少し具体的に言わないとダメよ」

「森に入ったけど手前は何もなかった。

森の奥で薬草を採っていたら嫌な気配がした。確認をすると竜の形をした 靄(もや) を発見し、危険と判断して撤退した。

こう言えばいいんじゃないか?」

ガッツリ嘘だけどね。ウロボロスの存在を納得してもらうためだ。多少の嘘は仕方がないだろう。

「そんな嘘をつかなくても言えないと言えば通るわよ?」

「そうなの?」

「冒険者は秘密を知ることが多いの。犯罪に関わることじゃなければギルドにも言っちゃダメよ」

守秘義務か。意外とちゃんとしているな。言えないで済まされるなら黙秘でゴリ押ししよう。誰からの情報という部分を伏せるだけだ。

やはり先に打ち合わせしておいてよかった。言わなければならないことと言わないことを再確認し、ギルドに向かった。

「お久しぶりです。森の調査はいかがでしたか?」

ギルドでは、いつもの通りエリシアさんが迎えてくれた。もうすぐ日が暮れる時間だというのにまだ仕事をしている。

「エリシアさんはいつ休んでいるんだ? いつ来ても居るじゃないか」

「ふふふ。5日に一度は休んでいますよ? でもすることが無いから仕事をしているだけです。

今日も本当は上がりの時間なんですけど、家に帰ってもすることがありませんから。

ここにいれば食事の心配もありませんし、楽しいです」

ただのワーカホリックだった……。ギルドってかなりホワイトな職場だな。休みも多いし賄いも出るのか。この国は娯楽が少ないから休みを貰ってもすることがないんだな……。

「なるほどな。どうりでいつ来ても居るわけだ。でもたまにはゆっくり休めよ。

じゃあ、さっそく報告を始めよう。まずはリーズから、森の調査結果だ」

リーズは緊張した面持ちでカウンターの前に立った。

「森に変な所は無かったよー。でも竜の形をした靄を見たっていう人が居たから、すぐに帰ってきたの」

打ち合わせ通りだ。エルフの村のことを伏せ、ウロボロスについてのみを報告する。

「靄……ですか……。失礼ですが本当ですか?」

エリシアさんの表情が曇る。嘘はついていないんだが、納得してもらえないと困るんだよなあ。

「なぜそう思う?」

「ここでは良くありませんね。会議室に行きましょう。ギルド長を呼んできます」

どんどん大事になっていくぞ。ギルドも何か情報を掴んでいるのかな。

エリシアに連れられて会議室に入る。椅子に座って少し待つと、ギルド長の筋肉ダルマが入ってきた。名前は……何だっけ?

「やあ。久しぶりだね」

このおっさんは、前に会った時は全力で敬語だった。普通の冒険者として扱ってくれとお願いしたのだが、従ってくれたみたいだ。

「ああ。久しぶりだな」

「まず確認したいのだが、見た目をもう一度説明してくれ」

「えーっとねえ、竜みたいな形をした靄みたいなやつだよ」

リーズが情報を絞り出して答えた。直接見ていないからこれ以上の説明は無理。

「ふむ……。大きさは? どこで見た?」

「俺たちが見た、というわけではない。ある人が目撃し、俺たちに注意を促した。場所は森のかなり奥だ」

「ある人というのは? 信用できる情報なのか?」

「悪いが言えない。信用は問題ない。昔からその靄を追っている人だ」

嘘はついていないぞ。ウロボロスを数百年追い続けている 人(エルフ) だ。

「ふむ……なるほどな。事情があるようだからこれ以上は聞かない。

クレアくんは指導係だったな。嘘偽りは無いな?」

クレアにもエルフの村のことは伏せるように言ってある。余計なことは言わないと思うが……。

「ええ。報告できない事項はあるけど、その靄みたいなのが居るかもしれないというのは本当よ」

「対面したわけではないから確実なことは言えないがな。危険だと判断して撤退した」

「良い判断だ。アレに出会ったら逃げるしか無い。王都に辿り着いたということは、逃げ切ったということでいいのだな?

追われて森の外に連れ出した、なんてことは無いな?」

「ああ。それは保証する。今も森の奥に居るはずだ。

ギルドは何か知っているのか?」

気が付いたら俺が報告している……。リーズに任せたいところなんだが、かなり戸惑っている様子だ。しばらくは俺が応対したほうが良さそうだな。

「我々はアレを『アンノウン』と呼んでいる。剣で切ってもすり抜け、魔法を撃っても効かない。戦闘になったらまず勝ち目はない」

ギルドでも把握しているな。この国のどこかでも暴れたことがあるのか……。

「ギルドではどうやって対処しているんだ?」

「誰かを囮にして森の奥に引っ張る。かなり大きな犠牲払うことになるが、それ以外に手段はない」

「ねえ、アタシそんな話聞いたことないわよ?」

クレアはCランク、世間的には一人前の冒険者と呼ばれる立場にある。知らされていないことに納得がいかないようだ。

「なぜこんな重要なことを公表しないんだ?」

「それをしてしまうと、倒そうとするバカが出てくる。君たちも黙っていてくれ」

クレアは「あぁ」と頷く。心当たりがあるようだ。確かに、プライドが高い高ランク冒険者なら、逃げろと言われて素直に従うとは思えないな。

「なるほどな。

ところで、その あ(・) る(・) 人(・) から倒し方を聞いたんだが……」

「本当か!? 教えてくれ! 情報料は払う!」

必死な形相の筋肉ダルマ。テーブルに身を乗り出して顔を近づけた。暑苦しいから離れてほしい。

おっさんの顔面を、手でグイッと押し込む。

「優秀な魔法使い10人が魔法を撃ち続けるだけだ。吸収できなくなって破裂するらしいぞ」

「なっ……。それは我々も試したがダメだった。確かな情報なのか?」

愕然とするおっさん。そうか。 エ(・) ル(・) フ(・) の(・) 優秀な魔法使いと 人(・) 間(・) の(・) 優秀な魔法使いでは差があるのかも知れない。

「単純に魔力が足りていないんじゃないか? その人の口ぶりでは倒したことがあるようだったぞ?」

「そうか……伝説級の魔法使いが10人いれば倒せるかも知れないな。はははは」

おっさんは無表情で乾いた笑いを発した。10人でダメなら20人で試せばいいと思うんだけど、中途半端な攻撃を大量に当ててもしょうがないのかも知れないな。

「これで報告は以上だ。なにか問題はあるか?」

問題と言えば、リーズの報告だったはずなのに俺が対応してしまったことだろうか。ギルド長が出てくるというイレギュラーがあったんだ。大目に見てほしい。

「大丈夫だ。また何かわかったら報告してくれ。

クレアくん、君の所見はどうだ?」

「今の森は、見た目の上では普通よ。でもいつ危険になるかわからないわ。大至急制限を掛けるべきね。

奥は進入禁止。手前はCランク以上が妥当だと思うわ」

「妥当だな。今日からすぐに制限を掛けよう。

コーくん、その人とはまた会うことができるのか?」

「森の奥まで行けば会えるぞ。正確には、俺とルナとリーズが居ればだがな」

リーズが索敵、俺が敵の排除、ルナが結界の解除。3人で行かないと面倒なことになるからなあ。

クレアは居なくても問題ない。でもついでに薬草の採取がしたいから居たほうが助かる。

「ふむ……。大変申し訳無いが、君たちは引き続き森の調査を続けてほしい。

危険は承知だが、アンノウンが去ったことを確認できるのはその人だけのようだからな。定期的にその人から情報を受け取ってくれ。

護衛が必要ならこちらで用意する」

Fランクが受ける仕事じゃないんだけど、妥当だろう。闇雲に捜索するよりも詳しい人に聞け、ということだ。それができるのは俺たちだけだからなあ。

「護衛は必要ない。面倒が増えるだけだ。

俺は受けてもいいと思うが、みんなはどうだ?」

「私はどちらでも構いません」

「あたしもどっちでもいいよー」

「アタシは反対ね。Fランクが受ける仕事じゃないわ。分不相応な仕事は身を滅ぼすわよ?」

ルナとリーズは俺の決定に従う、と。この2人は俺に意見することが少ないからなあ。

クレアの言い分はよく分かる。やっぱりそう思う? って言いそうになっちゃったくらいだ。

俺が思案していると、おっさんが口を開いた。

「そうか……。では指導係を交代しよう。戦闘に長けたAランクが指導係になるなら問題なかろう」

「問題あるわよ! 問題は指導係じゃないでしょ? この3人はまだランク無しとFランクなんだから!」

クレアがすごい剣幕で怒鳴る。かなり焦っているようにも見えるが……。

俺としてもクレアが指導係から外れるのは歓迎したいことではない。エルフのこととか結構秘密を共有しているからな。

それに、戦うことしか能がないような奴を指導係にされても教えてもらうことが無いんだよ。それだったら王城の兵士に聞いたほうが早いとわかったから。

「指導係が交代させられるなら、この依頼は断るぞ」

「む……そうか……。では私の推薦で3人をEランクにしよう。それなら問題ないだろう」

「そんなことができるのか?」

職権乱用だろうが。これは不正じゃないのかよ。話に聞く限り冒険者のランクアップは相当難しいはずだぞ。

「ああ。元々ランク無しとFランクは人間性を審査するための制度だ。ギルド長である私が問題ないと判断した者なら特例が認められる。

ただし、ランク無しのリーズくんにはFランクになる条件を達成してもらう必要があるがな。

クレアくんも、それなら文句あるまい」

そんな裏技があったとは……。ランクアップは意外と簡単だな。60日を覚悟していたけど、数日だった。これで正式に冒険者になれるわけだ。

でもランク無しには特例すら認められないのか。なかなか厳しい。

「……そうね……仕方がないわね。アタシも付き合ってあげる」

どこか嬉しそうなクレア。喜ぶ要素なんかどこかにあったっけ?

おっさんが口元をニヤリと歪め、口を開いた。

「彼らはもうEランクだから指導係は必要ない。無理して付き合わなくてもいいぞ?」

「え……?」

クレアは絶望の顔をして固まった。

そういえばそうだったな。指導係が必要なのはEランクになるまでだ。クレアとの契約もそうなっている。

かと言って、今離れるのは良くないぞ。リーズはまだランク無しだし、薬草のこととかも全然聞けていない。

「いや、クレアさえ良ければ、もうしばらく指導係を続けてほしい」

「そ……そうよね! アタシはまだ必要よね! 大丈夫! ついていってあげるから! ね!? よろしくね!」

テンションを上げて捲し立てるクレア。笑顔が隠しきれない様子だ。

うーん、喜んでくれるのは嬉しいが、何がそんなに嬉しいのだろうか……。