軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

毒がなければ食べ物です

突然の襲撃を警戒して夜間の見張りを続けたのだが、ドラゴンが寝ていた場所だけあって襲いかかってくる魔物はいなかった。

夜が明けたので、俺たちは朝から森の奥を目指して進む。

クレアはやはりゴネたのだが、ルナの「真実はこの奥にあります」という一言であっさりと折れた。

せっかくのロケーションだけど採取はしていない。沼の近くにはたくさんの植物が生えていたので、役に立つ薬草は生えていると思うのだが……。

呑気に採取をしている時間が無いのだから仕方がない。でもこの沼にはもう一度来たいと思う。方角を覚えているので大丈夫だろう。

「リーズ、俺も途中までは捕捉していたから、俺が見失った先から案内を頼む。

嫌な予感がしたらすぐに言ってくれ」

「うん。任せてー」

森の中の索敵は、俺よりもリーズのほうが高性能だ。経験の差があるので細かい判別は俺のほうができるのだが、単純な察知ならばリーズの勘の良さには敵わない。

ただし「任せてー」を信用し切るにはちょっとな……。リーズはアホ(いい意味で)だからなあ。

「リーズさん、ドラゴンの気配が突然消えてしまったんですよね?」

「そうだよー。何でかわかんないけど、いきなり消えたよ」

ルナの問にリーズが答えた。ドラゴンを倒す程の強力な敵が居たのであれば、さすがに気が付く。となれば、答えは……。

「結界か?」

「そうですね。おそらくそうだと思います。エルフの結界は強力だったと聞きます。

結界の魔道具は見つかっていないので、どういうものかはわかりませんが……」

エルフに関する伝承は、僅かながら王国で見つかっている。ルナが文字の解読と魔法の解析を担当していた。

他の宮廷魔導士でもできなくはないが、ルナが一番得意だったようなので、今の魔導院は大変な目に遭っていると思う。

しかし、なぜ王はあっさりとルナを手放したのか……。ルナの役割を知らなかったのかもしれないな。ルナはまだ若いし、重要な役だとは思っていなかったのかも。

「何か居るよ!」

リーズが何か感じたようだ。先を急ぎたい気持ちもあるが、食料を確保したい気もする。距離を保ちながら食べられそうな獲物なら確保しよう。

「何かわかるか? 速度と方角は?」

「わかんない。左の方から来てるよ」

リーズに確認をしているうちに、俺でも察知できる距離まで接近されていた。敵には捕捉されていたようだ。

「間もなく接敵! 戦闘準備!」

この距離では逃げられない。移動速度も速いから、高確率で追いつかれるだろう。できれば美味しい魔物であることを願う。

「見えました! マンバです!」

ルナが叫ぶ。俺も敵を確認できた。全長10m以上ある鮮やかな緑色をしたクソデカイ蛇だ。体長の割には細身で、直径は20cmくらいだろうか。

蛇は俺たちの目の前で鎌首をもたげた。口を大きく開け、真っ赤な口の中と大きな牙を見せつけて威嚇している。たぶん毒蛇だな。噛み付くタイプの蛇だ。

「毒に気を付けて! たぶんグリーンマンバよ。噛まれたら死ぬわ。歯から毒液を飛ばすこともあるわよ!」

クレアが矢継ぎ早に注意を促した。でも、この世界の魔物の毒は物理半分魔力半分。植物毒より強力なのだが、魔法で解毒できるので脅威ではない。

しかし、グリーンマンバなら地球にも居るぞ。もっと小さいけど。気性が荒くて毒が強いことで有名な凶悪な奴だ。大きさを除けば見た目は似ている。

でも、地球産のマンバなら威嚇する前にガブッといっちゃうから、こっちのマンバは多少優しいな。

威嚇してくれているあいだにナイフを構えよう。幸い、マンバの直径ならナイフで両断できる。

「魔法は使うな! 大事な食料だ!」

「え……?」

「あんた、これ食べるの?」

ルナは戸惑いの声を返し、クレアは質問を返してきた。

食べないの? 蛇だよ? 国によっては人気の食材だよ?

「毒でもあるのか?」

「毒があるのは頭だけよ。でも蛇を食べるなんて気持ち悪いじゃない」

気持ちが悪いというだけで食べないのは人生損していると思う。タコとか貝とか、気持ち悪くても美味しい食べ物はたくさんあるのに。

……蛇がそうだとは言わない。骨は多いし固いしちょっとクセがある。万人受けする食材ではない。

蛇に視線を移すが、「シャーー」と音を出しているだけで攻撃を仕掛けてくる様子はない。

「毒が無いなら食える! 大丈夫だ!」

俺がそう言うと、リーズがスッと蛇に近付いて、サクッと頭を斬り落とした。威嚇なんかしているから……。

リーズの武器は薙刀的な長柄なので、ある程度の距離を保ったまま斬り付けることができる。蛇は頭を持ち上げて斬りやすくしていたんだから、狙ってくれと言っているようなものだ。

「これおいしいの?」

リーズが蛇の尻尾を持って引き摺りながら聞いてきた。食べられると聞いてすぐに行動に移したのか。

なかなかアグレッシブだな。この行動力は見習いたい。

「美味しいかどうかは人それぞれだな。調理方法によってはかなり美味いぞ」

唐揚げがおすすめ。でも油が貴重だから串焼きになる。串焼きだと結構固いんだよなあ。

「コーさんがそう言うなら、食べてみます……」

ルナが何かを決意したような表情で言う。決死の覚悟で食べるものではないぞ……。

リーズが仕留めた蛇は、その場で軽く血抜きをしてバッグに詰め込んだ。今日の夕食になる予定だ。残りは燻製だな。

「ところで買い取り部位は?」

「革と頭です。毒の牙が危険なので、頭ごと納品します。冒険者の中には肉を食べる人も居るとは聞きましたが……」

現場で働く人はやっぱり食べるんだな。街の人は蛇を見慣れていないだろうから、食べるという発想が無いんだろう。

「革は後で剥ぐよ。頭はそのまま持って帰ろう。

ところで、クレアは冒険者なのになぜ食べないんだ?」

「アタシは蛇が出るような場所で活動したことなんか無いわよ! 運悪く鉢合わせちゃったら、威嚇されているうちに逃げるのっ!」

不思議な生態だな……。結構離れた場所からわざわざ移動してきて、攻撃もせずに警戒だけして逃げられてもスルー。この蛇は、いったい何がしたいんだろう。

結局俺たちの目の前に現れた魔物は、蛇1匹だけだった。その後は何事も無く、無事にドラゴンが消えた地点に到着した。

結界が有るのでは……という予想だったのだが、それらしき魔道具や魔力の痕跡は見当たらない。どう見てもただの森である。

しかし、この付近では方向感覚が狂う。何かの仕掛けがあるのは間違いないようだ。

「ルナ、どうだ? 何かわかったか?」

ルナは空中に手をかざしたり、地面を触ったり。せわしなく動き回っていた。辺りを見回しながら「うーん」と唸っている。

「わかりません。魔力のようなものは感じますが……」

俺も探ったほうが良いだろう。辺りをくまなく調べていると、不自然な場所に石が据えられていることに気が付いた。地面に突き刺さっていて、60cmほどが地面から出ている。

この石は周りにある石とは種類が違うし、人の手が加えられたようだ。黒曜石の原石のように、くすんだ黒い色をしている。

「ルナ、この石なんだが、おかしくないか?」

「石……ですか? どこにでもあるような石ですけど……」

「こんなの普通の石じゃない。もっとちゃんと探しなさいよ」

クレアが石の頂上をぽんぽんと叩きながら言う。その横でリーズが石の側面を撫で回している。手が汚れるから止めなさい……。

「いや、ルナに調べてほしい。ただの石ならそれでいいんだ」

クレアとリーズの手をどけながら言った。

ルナが石を調べようと手をかざした瞬間、キーンという音と共に石が真っ白な光を放つ。

……光は数秒で消えたが、あまりにも強い光で目が眩む。ようやく目が慣れたところであらためて辺りを確認するが。

「何も変わってないな」

「そうね。なんだったのかしらね」

「待ってください。何かを感じませんか? 誰かに呼ばれているような……」

「? 何も感じないよー?」

リーズでも感じないか。俺も何も感じない。相変わらず方向感覚は狂っている。でも何かが起きたのは間違いない。ここはルナの感覚に頼ろう。

「ルナ、どこから呼ばれているか、わかるか?」

「こっちですね……」

ルナはそう言って森の奥に迷いなく進んでいく。獣道すらも無く方位がわからない、下手に動くと遭難しそうな森なのだが、まるで道が見えているかのように進むルナ。

俺はさっきから気配察知がまともに機能していない。察知できる範囲がものすごく狭くなっているのだ。他に頼れるものは無いので、ルナの後をはぐれないようについていった。

すると、ルナが進む先に突然開けた場所が見えた。

「これは……」

目の前に広がるのは、森を切り開いて作られた大きな村だった。

ログハウスのような家が並び、道が引かれている。遠くから動物の鳴き声も聞こえる。村のいたるところに畑があり、少量の作物が実っていた。

「本当に……ありましたね……」

「そうだな」

「これはすごいわね……こんな所に村があるなんて聞いたことがないわ」

可能性は極めて高いと思っていたが、本当にあった。エルフの隠れ里だ。

クレアも驚きを隠せないようだ。つい昨日まではエルフという存在すら知らなかったんだ。驚くのは無理もない。

リーズは無言のまま目を輝かせて辺りを見渡している。うっかりはぐれたりしないように腕を掴んでいるのだが、今にも振りほどいて駆け出しそうだ。

「俺たちは喧嘩をするために来たわけではない。できるだけ穏便に行こう」

さっきの蛇を手土産にしてもいい。食べる文化があるかはわからないが、手ぶらで来るよりはマシだろう。

「昨日のドラゴンが出てきたらどうするつもり? 戦闘は避けられないんじゃない?」

「その時は殴って止めるさ」

「こんさんが殴ったら死んじゃうよー?」

失礼な。身体強化の出力を調整すれば手加減が可能なのだよ。いつもは全力でぶん回しているだけだ。

「……ドラゴンが出たときは、私たちだけでがんばりましょう……」

ルナまで何を言っているんだ。一応俺の魔法は威力の調整ができるんだぞ? そういえば強化する方向への調整しかしたことがないな……。

俺はなるべく手を出さないように気を付けよう。

まずは第一村人の捜索だな。できれば争いは避けたい。温厚な人が近くにいれば良いのだが。