軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

かんたんな仕事3

冒険者ギルドでは大した情報が得られなかった。俺たちはさっさと街を出て、メモに記された場所に向かう。

「盗賊の残党が出るかも知れないから、道中は警戒していこう」

アルコイの冒険者ギルドで得られた情報はこれだけ。おそらく、アルコイの周辺には未発見の残党や、それを追う冒険者たちが集まっている。その人たちと鉢合わせたら面倒だ。まあ、他人を警戒しているのはいつものことだが。

人を避けつつ移動すること、約1時間。約束の場所に近付いてきた。あと数分走れば目的地周辺だ。遠回りを余儀なくされたため、それなりに時間がかかった。

一度ここで立ち止まり、作戦会議をする。

受け取る荷物が危険物だと考えると、人数は減らしたほうがいい。最悪の事態が起きたとき、即座に転移しなければならない。

「荷物の中身は危険物だと考えて動くぞ。安全のため、俺1人で乗り込もうと思う」

俺の言葉に、ルナが待ったをかけた。

「待ってください。私も行きます、私なら、危険にいち早く気付けるはずです。反応は早いほうですから」

ルナは『周囲の動きがゆっくりになる』という能力を持っている。これはやろうと思えば俺もできるが、魔力消費がとんでもないから常時は無理だ。危険物だった場合、初動の対応はルナに任せたほうが確実かもしれない。

「なるほど……了解だ。他のみんなは、いつでも対応できるように警戒を頼む」

「了解」

クレアが返事をして、リーズとリリィさんが頷く。

今回は、リーズの動きが重要になると思う。周囲一帯を警戒して、不審な動きがないかをチェックしてもらうつもりだ。

「それと、スマホは通話状態にしておくぞ。クレアたちも俺と依頼者の会話を聞いていてくれ」

別行動時のお約束だな。連絡は大事だ。

周囲の状況を報告してもらうと同時に、依頼者との会話は全てクレアとリリィさんが精査する。相手の言葉に矛盾があった場合、現場で相談するのは無理だから、離れた場所から報告してもらう。

準備は整った。約束の場所に飛び込む。

「ルナ、準備はいいか?」

「はい。初めての依頼を思い出しますね」

ルナが笑顔で答える。冒険者として初めて依頼を受けたときも、ルナと2人で配達の依頼だった。懐かしいな。

指定されたのは、森の境目のような何もない場所だ。街道から少し外れているが、それほど危険ではない。そんな場所に、小さなテントが設営されている。森の中で活動する冒険者が、拠点を構えているのだろうか。そこには冒険者風の男が1人。ソロ冒険者か、テントの見張り番か……。

それ以外はなにもない。倉庫どころか、人工物らしきものが何も見当たらない。テントの前で寛ぐ男に話しかけてみよう。

「よう、ちょっといいか?」

「なんだ?」

「近くに倉庫があるそうなんだが、なにか知らないか?」

男は訝しげに俺を一瞥すると、すぐに納得したような表情を見せた。

「ああ、あんたが……。ようやく来たか。その依頼者だよ」

その発想はなかったな。この男は商人とは思えない風貌だ。ゴツくて傷だらけで、いかにも冒険者といった見た目。しかも、目の前にあるのは倉庫ではなくテントだ。

「まさか、運ぶ荷物はこのテントの中か?」

「いや、ここはただの待ち合わせ場所だよ。倉庫に案内するが……その前に、依頼を受けたことを証明できるものを見せてくれないか?」

だよな……。このテントが倉庫だと言うなら、怪しまざるを得ない。ただの待ち合わせ場所で良かったよ。日付指定が無い依頼だから、ずっとここで待っていたのだろう。

証明になるものということで、王都の依頼者から受け取ったメモを男に渡す。

「ああ、これだな」

男はメモを受け取り、もう一度俺たちを一瞥した。

「……かなりの大荷物だが、たった2人で大丈夫か?」

「問題ない。大容量のマジックバッグをいくつも持ってきた」

メモに書かれた量が本当なら、マジックバッグ一つで十分に入り切る。無理だったとしても、ルナのマジックバッグがあるから大丈夫。

「なるほど。案内するから、おれについてきてくれ。あ、はぐれないでくれよ。この森は迷いやすいんだ」

男はそう言って森に向かって歩き出した。一見、普通の森だ。油断をすれば迷うだろうが、それは他の森も同じ。ここだけが特別ではないだろうに。

森の中を進むと、木が途切れた。その先では腰の丈ほどの笹が生い茂り、行く手を阻んでいる。土も湿っていて、かなり歩きにくい。向かう先には、気配が一つ。重要な倉庫だという割には、人が少なすぎる。たった2人しか居ないのか……。

藪をかき分けて進んでいると、妙な違和感が感じられた。エルフの結界を抜けるような気持ち悪さだ。

ルナもそれを感じたらしく、俺の耳元で小声で話しかけてきた。

「コーさん……弱いですが、結界です」

結界で間違いないらしい。と言っても、エルフの結界ではないはずだ。エルフの結界はエルフにしか解除できない。誰かが似たような結界を作ったのだろうか……。

この手の結界があるということは、迷いやすいというのも頷ける。

結界を張るほど重要なのに、従事する人間がたった2人だ。やはり怪しい。調査をお願いしよう。

「リリィさん、確認を頼む」

『了解』

スマホのイヤホンから、リリィさんの浮かれた声が聞こえてきた。初見の魔道具ということで、リリィさんのテンションが上っているらしい。結界の調査はリリィさんに任せ、俺とルナはさらに奥へと進んでいく。

藪を抜けると、小さなあばら家が建っていた。倉庫なんて上等なものじゃなく、掘っ立て小屋というにもおこがましいレベルの建物だ。

「おれの案内はここまで。中におれの雇い主が居るから、その人に話を聞いてくれ」

男はそう言って引き返した。この男は、ただの案内役として雇われていたようだ。とにかく、依頼者の話を聞かないとな。

小屋の扉に手をかけると、スマホに反応があった。

『位置についたよー。まわりに人は居ないみたい。魔物も居ないよ』

『追加で報告。結界のせいで中の様子が見えないわ。リリィが結界を解除してるから時間を稼いで』

リーズに続き、クレアが通信を入れてくる。リーズたちの気配は感じられる。おそらく向こうも同じだ。この結界は、気配までは遮断できないのだろう。視界を遮るための魔道具だ。気配はわかったとしても、目視できないのは拙い。雑談をしながら時間を稼ごう。

小屋の中に入ると、大小様々な木箱が積まれていた。その傍らに、体中に包帯を巻きつけた人が座っている。

「依頼を受けてくれたのだね。ありがとう。見ての通り、私は動くこともままならないのでな」

包帯は顔にまで巻かれていて、人相をうかがうことすらできない。声から、かろうじて男性であることがわかる程度だ。

「その怪我、どうしたんだ?」

「魔物に襲われましてな。若い衆どころか頭領も巻き込まれ……」

男は、暗い声でそう言った。よくある……あっては困るのだが、本当によくあることだ。災難だった、としか言いようがない。深く聞くのも悪いだろう。仕事の話に戻る。

「気の毒にな。それで、運ぶ荷物というのは?」

「ここにある箱、全てだよ。一部でも構わない。少しでも多くを運んでくれ」

『コー、待って。その話おかしいわよ。危険な魔物が出たなんて、冒険者ギルドでは聞いてない』

クレアから通信が入る。クレアの言う通り、最近は魔物がおとなしいという話だった。これだけの規模の被害が出ているなら、冒険者ギルドに話が行く。この男は被害のことを誰にも言っていないのだろうか。

ひとまず、男の話を聞いてみよう。核心には触れず、当たり障りのないことから。

「しかし……なぜこんなところを倉庫に?」

「盗賊対策だよ。場所を知られなければ、そもそも襲われることはない。魔物は怖いけど、盗賊のほうがもっと怖いのだ」

確かに、この結界があれば盗賊の目はごまかせるだろう。森の中だけに、魔物に狙われたらオシマイだろうけどな。ここは隠れ家みたいなところだから、襲われたことを兵士に報告するのも躊躇われるんじゃないだろうか。自分たちの首を絞めているようにも思えるぞ。

「街の中のほうが安全なんじゃないか?」

「いや、街の中にも泥棒は居る。それに、我々の商会はとにかく早い輸送を売りにしているのだ。馬車の進路に近い場所に倉庫を置き、そこを中継することでどこよりも早い配送を実現してる。街を経由すると遠回りになるからな」

もっともらしい言い訳だが、それが逆に怪しい。もしこの話が本当だった場合、一介の冒険者に教えていい内容ではない。商会として重要なアイディアだ。かんたんに真似できる方法ではないが、真似をされたら困るはず……。

もう少し突いてみるか。

「だったら、こんな藪の中に建てなくてもいいだろう。荷物を運ぶのも一苦労だぞ」

「それも盗賊対策の一環だ。これだけ開けていれば、誰かが近付けば一目瞭然。下手に目立たないほうが危険なんだ。狙いやすいからな。それと荷物の搬送は、いつもなら20人ほどでやる。今は怪我で動けないが……」

聞けば聞くほど納得させられそうになる。そういう商売だ、と言われれば、わからなくもない。怪しいとは思うんだけど、確信が持てない。

『この話が本当だとしたら、運送専門の商人かしらね……。ごめん、商人ギルドで確認しないと判断できないわ』

俺たちは冒険者なので、商人の事情には詳しくない。この国にも運送業はあると思うが、この男たちが本物かどうかはここでは判断しきれないようだ。

『結界が解除できたぞ。仕組みは違うが、効果はエルフの結界に近いものだ。もっとも、内部の視認を阻害する程度の薄い効果だがな』

クレアの意見を聞いていると、リリィさんからの報告が割り込んだ。さすがリリィさん、仕事が早い。

この結界は、エルフの結界のように人を迷わせるような効果は無いようだ。突破しようと思えばかんたんにできる。先が見えないだけだから、気配を追えばただの森と変わらない。便利そうだけど、警戒するようなものではないな。

下準備は終わった。仕事に取り掛かろう。

「話を聞かせてくれてありがとう。仕事を進めたいんだが、その前に中身を確認させてくれないか」

「……はい? 中身の詮索はナシという契約では?」

男は、包帯の隙間から不審そうな目を俺に向けている。男の言う通り、荷物の中身を詮索するのはいいことではない。だが、そうも言っていられないのだ。

「それはそうなんだが、品目くらいは教えてもらわないと困るぞ」

「商売の種なんで、軽々しく教えるわけにはいかない」

「中身がわからないと、輸送中に壊してしまうかもしれないだろ。取り扱い注意の荷物は無いか、それくらいは教えてくれ」

危険物じゃなかったとしても、極端に壊れやすいものだったりしたら運びたくない。輸送後に「中身が壊れていた」なんて文句を言われたら、面倒極まりないからな。

その他に、違法薬物なんかもカンベンだ。捜査だとしても関わりたくない。

「まあ、いいだろう。箱をどれか一つ選んで、開けて確認してくれ」

男は不承不承に頷き、開封を許可した。どれを開けるかは俺が選んでいいらしい。ただし、男の気配が強くなった。俺のことをものすごく警戒している。

なるほど。開けられたら困る箱があるんだな。よし、この男が最も警戒する箱を開けよう。

全ての箱に手を伸ばし、男が一番動揺した箱を選ぶ。包帯のせいで表情は見えないが、その気配から相当苛ついている様子が見て取れる。

その箱を俺の目の前の床に置き、そっと開封する。すると、中には新品と思しき未加工の生地が詰め込まれていた。

「中身は布か……」

「大事な商品だ。汚さないでくれよ」

そう注意をされながら、箱の中を漁る。上から下までぎっしりと布だ。不審な点は見当たらない。

「他の箱も全部布なのか?」

「いや、全部ではない。だが、見せるわけにはいかない」

男は、不機嫌そうに首を振る。

なぜ? どうしてただの布を警戒していたんだ? 本当に重要な商品だからなのか?

これまでに俺たちが思いついた可能性は、全て悪い方に考えた場合のものだ。どの可能性も低く、どこか納得できない点があった。もしこの男がまともな商人だったとしたら、今までの不可解な点が全て納得できるのではないだろうか。

「どう思います?」

「問題ない。マジックバッグに荷物を入れるぞ」

荷物は危険物ではなかった。しかし、この依頼が怪しいのは間違いない。王都に戻る前に、全ての荷物を確認したほうがいいだろう。