作品タイトル不明
かんたんな仕事1
ボナンザさんと一緒に行動すると疲れる。今日はもうクタクタだ。王都についてすぐにボナンザさんと別れたので、アーヴィンを連れてさっさとエルミンスールに転移する。
エルミンスールに戻ると、すぐにリーズの叫び声が耳に飛び込んできた。
「もう掃除したくないー! もうやだー!」
リーズは半泣きで廊下に座っている。そのリーズに、クレアが窘めるように言う。
「……だったら、普段からきれいにしておきなさい。ゴミを溜めるから、掃除のときに大変なのよ」
正論だけど耳が痛い。それができない人にとっては、首を絞められるような一言だ。
「まあまあ、リーズにとってはそれが難しいんだ。責めないでやれ」
「あ、おかえり。そうは言ってもね……限度があるから」
クレアもずいぶんとお疲れのようだ。どちらかと言うと、リーズのほうが元気があるくらい。今日の掃除、ほぼクレアがやったんじゃないかな。
会話をしつつ食堂に移動する。すると、ルナとリリィさんは先に帰っていて、夕食の準備をしていた。
「おかえりなさい。ボナンザさんはどうでした?」
アーヴィンは肩を震わせて俯いた。声も出せないようだ。なんだろう……思い出し恐怖?
「ただいま。とにかく大変だったよ。ボナンザさんと出掛けるときは、戦闘準備を整えて向かったほうがいい」
「……そんなに大変だったの?」
俺の背後から声が聞こえる。クレアだ。その後ろにはリーズも控えている。
「いや、何が大変って、死にそうになるような戦闘があるのに、本人はただの散歩だと思っていることなんだよ」
ボナンザさんには一切の悪気がない。それがまたタチが悪い。
「あれは散歩じゃない……遊びじゃない……」
アーヴィンが掠れた声を絞り出した。
「ルナたちはどうだった?」
「変わったことは何も……。若い新人さんに、街の魔道具職人の話をしてきました」
魔道具職人と宮廷魔道士は、似て非なるものだ。目的もやることも結構違う。その違いについて講義してきたらしい。
「お疲れさま。なかなか大変そうだな」
「いえいえ、それほどでもないですよ。思ったより早く終わりましたし」
みんな思い思いの一日を過ごすことができたようだ。いい気分転換になったのではないだろうか。この数日でかなり金を使ったから、そろそろ仕事を再開したい。
「ところで、明日は久しぶりに冒険者ギルドへ行こうと思うんだけど、予定はどう?」
「行くっ!」
リーズがまっさきに手をあげると、みんなもそれに同意した。みんなも「そろそろ仕事を」と考えていたらしい。予定は決まった。明日は冒険者ギルドで仕事探しだ。
次の日。早朝の冒険者ギルドは冒険者たちによって依頼の争奪戦が繰り広げられている。とにかく混んでいるため、混み合う時間を避け、あえて少し遅い時間に行動を開始した。
冒険者ギルドの中は、予想通り閑散としている。依頼票が張り出された掲示板も閑散としている。討伐系の依頼は……今日もナシ。平和だなあ。今日の依頼はこうだ。
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教会本部の修繕
報酬:大銀貨1枚
難易度:F
備考:
崩壊した壁の補修
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護衛・ビルバオまで
報酬:金貨50枚
難易度:C
備考:
所要時間10日~15日
片道のみ
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配達・王都からアレシフェまで
報酬:金貨2枚
難易度:F
備考:
配達量多し
配達方法は各自で準備してください
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他にもいくつか依頼があるけど、全部微妙……。護衛は依頼料が高いけど、10日も拘束されるのは困る。配達の仕事は楽なんだけど、ちょっと安すぎ。
「いい仕事がないみたいだなあ」
「当然でしょ。割のいい仕事は取り合いになるんだから」
クレアの言う通り、いい仕事は早朝に来ないと無くなる。冒険者たちはそのために早起きしてギルドに集まるんだ。俺たちはそれを避けたんだから、文句は言えないな。
「依頼は諦めて、魔物の討伐に絞るか。エリシアさんに話を聞こう」
冒険者ギルドでは、魔物の生息地や出没情報なんかも把握している。張り出していない討伐依頼があるかもしれないし、魔物の情報が聞けるかもしれない。
エリシアさんがいるカウンターに近づくと、エリシアさんに話しかけられた。
「おはようございます。ご希望の依頼は見つかりました?」
「おはよう。いい依頼はなかったよ。魔物の討伐でもしてくる。割のいい討伐依頼はないか?」
「申し訳ありませんが、今は魔物も落ち着いていて、危険な魔物の目撃例がありません」
エリシアさんは、首を横に振って答えた。魔物の襲撃があったばかりのため、街道や街付近の魔物は一掃されてしまった、とのことだ。タイミングが良くないな。
「そうか……楽に稼げる仕事はないもんかなあ」
「ふふふっ。もしあったら、私にも教えてくださいね」
俺のくだらない冗談に、エリシアさんは上品に笑う。それはさておき、仕事の話をしよう。討伐依頼がないのなら、こっちから巣に乗り込むまでだ。
「まあ、あるわけないけどな。王都の近くに魔物の巣みたいなものはないか?」
「近頃は兵士さんたちが張り切っていて、王都近隣の魔物は片っ端から狩られているようなんです。少し遠出をしないと見つからないかもしれません」
悪いことではないんだけど、困るなあ。俺たちの分も残しておいてくれないと。今度グラッド教官に合ったら文句を言っておこう。
となると、買取額が高い魔物を探さないといけないな。そういえば、昨日対峙したケルベロスには賞金が出ないのだろうか。居場所はわかっているから、闇雲に探すより楽だ。
「ところで、ケルベロスは倒しても金にならないのか?」
「ケルベロスのことをご存知なんですね。残念ながら賞金は掛かっていません。素材の買い取りは受け付けますが、苦労の割に高く買い取ることができなくて……」
あれ? 意外だな。強い魔物はもれなく高価買い取りだったのに、ケルベロスは例外なのか。強いくせに賞金も出なくて素材も安いって、手を出すだけ無駄って感じだぞ。
「かなり強い魔物みたいだけど、放置なんだな」
「はい。ケルベロスは自分の縄張りから出ることはありませんから、それほど危険ではないんです。刺激しないために、縄張りには近付かないでくださいね」
昨日思いっきり縄張りに入っちゃったみたいなんだけど、もしかして規則違反だったのかな……。それとなく聞いておこう。
「縄張りに入ったら罰則があるのか?」
「特にないです。危険区域なので、注意喚起をしているだけです。基本的に臆病ですから、向こうからはあまり近付いてきません。出会ったら逃げてくださいね」
あれ? 話が違うぞ。俺は問答無用で襲われたんだけど……。しかも、かなり遠くから。
「何をしたら攻撃されるんだ?」
「ケルベロスは一度敵と認識すると、ずっと覚えているようです。こちらから手を出さない限り問題ありません」
「なるほど……」
ボナンザさんのせいか。ケルベロスの中で、ボナンザさんは仇敵ということになっているのだろう。ボナンザさんと一緒にいた俺たちも同じく仇敵だ。
というか、俺とアーヴィンも覚えられたっていうことだよな……うわ、面倒くさい! あの高台、もう近付かないほうがいいな。すごくいい場所だったのに、もったいない……。
「教えてくれてありがとう。そろそろ行くよ」
「いえ、お力になれず、申し訳ございません。お気をつけて」
エリシアさんに見送られながら、俺達は冒険者ギルドを後にした。あまり有益な情報は得られなかったが、王都付近は金にならないということがわかっただけでも儲けものか。
冒険者ギルドを出ると、入口付近に佇んでいた1人の青年に突然声をかけられた。
「いい仕事は見つかったかい?」
作り笑いが気持ち悪いが、人当たりの良い爽やかな男性だ。歳は20歳くらいだろうか。これくらいの雑談は冒険者同士なら日常だ。適当に答えておく。
「いや、もう残っていなかったよ」
俺がそう答えると、青年は笑顔を崩さぬまま俺の肩をポンポンと軽く叩いた。
「見たところ、君たちはかなり腕が立つみたいだ。君たちにしか頼めない、特別な仕事があるんだ。この仕事を受ければ、楽に大金を稼ぐことができるよ」
話を聞いたクレアが、俺の耳元でそっと囁く。
「怪しいわね……。行くわよ」
「ちょっと待て。話を聞いてみよう」
「そうこなくちゃ。さすが、話がわかるリーダーだね」
青年はにこやかに拍手をした。芝居臭い所作が気持ち悪いが、話の続きを訊く。
「いいから話してくれ。どんな仕事だ?」
「アルコイの街より少し西に行った森に、ある商人の荷物が置いてあるんだけど、それを王都まで運んでほしいんだ。僕のところまで持ってきてくれるだけでいい。報酬は最低でも金貨100枚、成果によって上乗せもあるよ」
かんたんだ。かんたんすぎる。目的地は少し遠いが、ただの配達の仕事だ。たかが配達で金貨100枚って、破格を通り越して逆に危険な臭いがする。
「ちょっと、コー。ダメだって。どう考えてもおかしいじゃない」
クレアが強く制止する。まわりのみんなも不審そうな表情を浮かべている。うん、どう考えても怪しいね。
「いいんだ。もう少し詳しく聞こう。森の中はかなり危険なんじゃないのか?」
「それほど奥じゃないから大丈夫。魔物なんかほとんど居ないよ。安全でかんたんな仕事だ。どう? 受けてくれない?」
たしかにかんたんな依頼だ。どこに高額になる要素があるというのか。
「……いいだろう」
「そうか! ありがとう! 僕はマドフ。詳しくはこの紙に書かれているから、よろしくね」
マドフは、強引に握手をして一枚の紙を渡してきた。その紙を見ると、荷物の受け取り場所の地図と引き渡し場所の詳細が書かれている。荷物の受け取り場所は、マドフの言う通り森の中だ。小さな倉庫があるらしい。
メモを折りたたんでマジックバッグに仕舞うと、クレアが低いトーンの声で呟く。
「ちょっと……どうして受けちゃったのよ……」
不機嫌な様子が見て取れる。まあ、今回は忠告を無視して勝手に受けてしまった仕事だから、不機嫌になるのも仕方がないだろう。でも、俺にも考えがある。
「楽して儲かりそうだったからな。ちょっと待ってくれ」
不機嫌そうなクレアを横目に、転写機を取り出して通信を開始する。すると、珍しくすぐに返信が来た。このままやり取りを進める。
「ねえ、何してるのよ。アタシはこの仕事、やらないからね? 聞いてる?」
「まあ、大丈夫だって。これを見てみろ」
そう言って、クレアに転写機を渡した。すると、ルナたちも転写機に目を落とした。
転写機の通信先は王で、そこに書かれている内容はこうだ。
『怪しい仕事を持ちかけてくる不審者がいる。おそらく何らかの犯罪だ。調査をして報告するから情報料をくれ』
『承知したが、半端な情報は受け取らぬ。首謀者を連れて参れ』
『首謀者を捕まえられるかはわからない。情報のみだ。首謀者を捕まえたら別に報奨金を出せ。情報料は金貨300枚、首謀者は金貨500枚、その他関連人物は1人あたり金貨200枚でどうだ』
『高すぎる。情報料は金貨50枚、首謀者は金貨100枚が妥当であろう』
『危険な調査だ。そこまで安くできない。だが、こちらも譲歩する。情報料は金貨100枚、首謀者は金貨200枚、その他関連人物は1人あたり金貨50枚。これでどうだ』
『それなら良い。適時報告するように』
転写機の内容を読み終えたクレアが、呆れたような目をこちらに向ける。
「な? 楽して儲かるだろ?」
「相変わらず、やることがエグいわね……。アタシも手伝うわ」
クレアがため息交じりに答えると、リリィさんは愉快そうな笑みを浮かべて言う。
「あの男も不幸だな。よりによってコーくんに話しかけるとは」
マジで儲かる仕事なら、王からの報酬は出ないがマドフから報酬がもらえる。もしこれが犯罪か詐欺なら、マドフが捕まって王から報酬がもらえる。どう転んでも俺は儲かるぞ。
ベストはマドフから報酬がもらえることなんだけど、たぶん無理だよね。勧誘手段、仕事内容、報酬、どれをとってももれなく怪しいから。