軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

団体さんいらっしゃ~い

魔法の練習を終え、ルナはどうしているのかな? と思って確認すると、こちらをじっと見ていた。

どうしたのかな。行ってみよう。

「どうしたの? ずっとこっちを見ていたみたいだけど」

「また危ないことしていましたね?」

ジト目を向けてきた。今日は危ないことなんかしてないぞ。

「魔法の訓練をしていただけだよ」

「すごい音が聞こえてきましたよ?」

「雷の魔法だ」

「え? 高位の魔法ですよ?」

「そうなの? 仲間にも被害が出る魔法だから気軽には使えないね」

「やっぱり危ないじゃないですか!」

確かに、ルナがダメージを受けるのは危ないな。『絶縁体』の魔法は他人にも有効なのかな。

今のうちに試しておこう。

まずは最小威力で。チクッとする程度。

「雷を防ぐ魔法を試してくれないかな。

失敗したら、ちょっとチクッとするかも」

「いいですけど……。本当にチクッとするだけですよね?」

確認を取ったので、『絶縁体』の魔法を掛けた。回復魔法を掛けるような感覚だな。

「大丈夫。じゃあ、行くよ」

ルナは目を閉じて身を強張らせている。なんだかイケナイことをしている気分だな。

『パチッ』

青い火花が散るが、ルナは動じない。ドアノブ静電気くらいの威力はあると思ったんだけどな。

上手く絶縁できているみたいだ。もう少し威力を上げる。

『バチン!』

高圧低電流だ。かなり痛いはずだが、それでも動じない。上手く動作しているな。

これ以上は魔法が効かなかった時に危険過ぎる。

「どう? 痛かった?」

「いえ、音は聞こえましたが何も感じませんでした」

ひとまず成功だな。でも落雷の魔法は一人の時だけにしておこう。

「ありがとう。上手く防げるみたいだ」

しばらく二人で休んでいると、何か気配を感じたので気配察知に集中する。

森の方から数体の反応。この前のオーガのような強い気配は感じないが、人間の気配ではない。

「ルナ、何か来る」

「はい!」

俺たちはナイフを構えた。剣を使わないのは何となく。ナイフで十分な気がしたんだよな。

現れたのは緑色のちっちゃいおっさんがぞろぞろと20体ほど。団体さんだ。

「ゴブリンです」

「これがゴブリンか。買取価格はいくらかな」

「討伐部位の提出のみで、1体あたり大銀貨1枚です」

「やれそう?」

「はい」

出来損ないの猿みたいな見た目だ。緑色の皮膚が気持ち悪さを演出している。

体はゴツゴツとしていて肌の質感もわるく、知性が感じられない目をしている。見ていると不安な気持ちになるな。

「■■■■■■■■■■、ファイヤーウォール!」

俺が観察しているうちに、ルナは何かの詠唱をした。相変わらず魔法の詠唱は聞き取れない。一向に耳が慣れない。

目の前に現れた炎の壁は、どんどん前に進んでゴブリンの集団に襲いかかる。

10mほど進んだ炎の壁は、焼け焦げたゴブリンを量産して消えた。

「ゴギャアァ」

一気に5匹仕留めたみたいだ。やるじゃないか。

俺も負けていられない。

俺とルナの前に耐熱の壁を作り、炎の柱を発生させる。温度は……鉄が沸騰するくらいでいいかな?

「ふん!」

突如として現れた火柱が、8匹ほどのゴブリンを飲み込んで一瞬で黒い塊にした。

「やりすぎです!」

だよねー。2800℃くらいの温度。一撃オーバーキルを狙ったんだけど、オーバー過ぎた。

「ごめん。討伐部位残ってないね……」

「■■■■■■■■■■、ファイヤーウォール!

もったいないですが仕方ありません」

ルナの魔法がまた3匹のゴブリンを焼き焦がした。

残りは6匹。この程度ならナイフだけでイケそうだな。

「せっかくだからナイフを使おうと思う。ルナはどう?」

「大丈夫です。強い魔物ではありませんから、油断しなければ問題ありません」

焼けた地面を踏み込んで、ゴブリンに立ち向かう。地面が熱い。

確実に1体ずつ撃破していこう。

振り下ろしたナイフはゴブリンの肩に当たり、抵抗なく腕を落とした。

腕を無くしたゴブリンは、怯むこと無く向かってくるので、横に薙いで首を落とした。

このナイフ、かなりよく切れるな。

横目でルナを確認すると、つたないながらもナイフを振り回してゴブリンをズタズタにしていた。

討伐部位さえ無事なら状態はボロボロでもいい。ゴブリンは練習台としてとても優秀だな。

討伐部位は確か耳。耳さえ無事ならあとはどうなってもオッケー。

さっきの魔法? 耳どころか原型すら残っていないよ。アレを持ち帰ってもゴブリンだと理解してもらえないわ。

「グゲッ」

「グギャッ」

「ゴゲラァァァ」

断末魔の悲鳴に個性が出るね。向かってくるゴブリンにナイフを振って首を落とす。冷静に対処すれば流れ作業だ。

ルナはずいぶん慣れてきたようで、舞でも踊っているかのように優雅にナイフを振っている。

ルナが纏う魔力から、身体強化を上手く使えていることが窺える。やはり実戦に勝る訓練はないな。

ただね。さっきあと6匹だったわけだ。もう何匹倒したかわからない。増えてるよね? 絶対。

足元にはゴブリン死体が散乱している。邪魔なので遠くに蹴り飛ばしながら戦っている。

ルナは移動することで場所を確保しているので、さらに優雅に見える。

とは言え、無理はさせられないので、常に視界に入るよう工夫しながらゴブリンの一番多い場所に陣取る。

ゴブリンは、森の奥から次から次へと湧いてくる。森の奥にゴブリンのベルトコンベアでもあるんじゃないの?

量産型ゴブリン工場的な。

ゴブリンコンベアから量産型ゴブリンが吐き出され、俺の目の前まで来て首を落とされる。

この作業はいつ終わるんだろう。残業は嫌だぞ。日が暮れる前に帰りたいんだから。

百匹ほど始末しただろうか。ここで突然のラッシュだ。一気に大量のゴブリンが出てきた。在庫一掃か?

ルナは……。心配ないな。相変わらず優雅に舞っている。

あの戦い方だと、1対1よりもむしろ今みたいに大群の雑魚を相手にする時のほうが優雅で美しい。

前方から来る攻撃を避けながらクルッと回って背後の敵を斬りつける。

横から不意打ちを仕掛ければステップで躱しながら別の敵を刺す。

ひらひらと避けながら、確実に敵を減らしている。

ずっと見ていたくなる光景だな。金が取れるぞ。

俺の方は、蹴り飛ばして首を落として蹴り飛ばして……さすがに飽きた。変化が欲しいよ。

と思ったら、ゴブリンの産出が止まった。在庫切れか?

終わりが見えたので、今居るゴブリンを一気に片付けよう。

向かってくるのを待つのではなく、こっちから高速で踏み込んで首を落とす。

ついに最後の1匹を仕留めた。

周囲を探ると、奥からデカイのが1匹、ゆっくりと向かってきている。ボスかもしれない。

「ルナ、大丈夫か?」

「はい……。何とか。

でも、しばらく動けそうにありません」

「まだデカイのが1匹居る。俺が相手をするから休んでいてくれ」

「はい。すみません。お任せします」

そう言うと、その場で倒れ込んでしまった。身体強化、切れた時が一番しんどいんだよな。

バッグから毛皮を取り出し、その上にルナを寝かせて回復魔法を掛けておく。しばらく休めば大丈夫だろう。

畳一畳ほどの毛皮。王城の倉庫に有ったやつだ。5枚ほど貰ってきた。

ゴブリン(大)は、獣道ならぬゴブリン道を通り、目視できる距離に到達していた。

様子を窺うようにゆっくり向かってきている。

さっきまでのゴブとは違い、かなり強そうだ。さくっと首を落として終わりとはいかないな。

ここは足場も悪いし、ルナが休んでいる。ここでは戦いたくないな。

ナイフの切れ味はだいぶ落ちている。後半は速度と力で強引に切っている状態だった。

刃が欠けてのこぎりみたいになっているし、先端は折れている。買ったばっかりなのに……。

さっと終わらせたいから、アンチマテリアルライフルの準備をする。

せっかくだから遠距離射撃の練習をしよう。

弾丸を10発浮かべてスタンバイ。

慎重に狙いを定めて、まずは一発目。

『パァン!』

乾いた音を立てて発射された鉄の弾丸は、ゴブリン(大)の左腕に命中。穴を空けて怯ませたが、効果的な一撃ではないな。

『パァン!』

二発目。鎖骨のあたりに命中。でもまだ元気だ。焦ったのか、速度を速めて向かってきている。

『パァン!』

「ゴバァッ」

三発目はきれいに右目を貫いた。後ろに大きくのけぞったゴブリン(大)は、そのまま倒れて動かなくなった。

気配察知で確認すると、生命反応なし。人形と同じ状態だ。

残りの弾丸を消してゴブリン(大)を回収した。

こちらに到達する前に始末してしまったので気が付かなかったが、錆びついた大剣のようなものを片手で持っている。

片手で持てるのか。力強いな。もしこんな剣で殴られたら痛いじゃないか。

特殊個体かもしれない。コイツだけはマジックバッグに詰め込んでおこう。

ルナはまだお休み中なので一人で作業する。切れ味の落ちたナイフで、耳をこそぎ落とす。

……耳って、上に向かって引くと割と簡単に千切れるよな。

試してみたら、耳の下半分が千切れた。素直に切ったほうがいいわ。

そういえば魔石は有るのか? 有るのなら回収しておきたいが……。

ゴブリンの死体を拾い上げてナイフを当てる。お約束だと心臓付近だよな。

胸の辺りを切り開くと、小指の先程の小さな石を見つけた。

これだな。

片っ端から回収していく。

半分ほど終わったところでルナが復活した。

「具合は?」

「もう大丈夫です」

手伝うと言うルナを強引に休ませて、回収を進める。そういえば昼は何も食べていたいな。腹が減った。早く終わらせて何か食べたい。

「ゴブリンは食べられないの?」

「え? 無理ですね。毒はありませんが、臭くて固くて不味いらしいです」

だよね。まあ、食べられたとしても食べたいものではない。逆に食べられなくて良かった。

何とか日が暮れる前に終わらせることができた。

このままキャンプでもいいのだが、ルナにはキツイだろう。

薪が無い、食料が無い、拠点の設営ができていない。これらの作業を今からやると、確実に日が暮れる。

それに、宿から出る時に今日の分の支払いをしてきたから、お金がもったいない。

山積みのゴブリンに火をつけて灰にしておくことは忘れない。

耐熱壁を展開して火力を6000℃まで上げて一気に終わらせる。さすが太陽の表面温度、あっという間に終わった。

ルナが力ない眼差しで眺めていたが、きっと感動しているのだろう。

「これは……何ですか? さっきも使っていましたよね?」

「ファイヤーウォールだよ」(ドヤ

「絶対違います……」

後始末は終わった。あとは帰るだけだ。パッと見る感じ、ゴブリンは250匹以上居たと思う。

ざっと数えて金貨25枚分。損失はナイフ二本、金貨6枚。

ルナのナイフも確認したのだが、似たようなものだった。

刃こぼれが酷くて真ん中辺りが大きく欠けている。

一日でブッ壊したんだが、武器屋のおっちゃんに怒られるかな……。

長引いたら危なかったかもしれない。

まあ、そうなる前に落雷の魔法で一撃なんだけどね。

「ゴブリンがあんなに出てくるとは思わなかった。俺の判断ミスだ。ごめん。

遠距離で魔法攻撃ならもっと安全に倒せたはずだ」

「判断ミスは私も同じです。

無事だったんだからいいじゃないですか」

「それはそうだが……。俺が無茶をしようとしていたら止めてくれ」

「コーさんは常に無茶ですよ?」

え? そんなことは……無いと思うよ? たぶん。きっと。

「家に帰るまでが冒険だ。帰ろう。具合はどう? 走れそう?」

「はい。大丈夫です」

ギルドへの報告は明日にする。疲れたし、ゴブリンの数も確認したい。

俺達は宿に帰り、食事を終えて一息ついている。

今日はできれば風呂に入りたかったが、疲れのせいで外出するのが億劫だ。

「今日もありがとうございました」

「いや、今日はルナも頑張ったじゃないか。

あのナイフ捌きは見事だったよ。また見たい」

「いえ……、あの時は私も必死だったので。

教えていただいた身体強化のおかげです。

すごいですね、アレ。全身が研ぎ澄まされるというか、周りがすごくゆっくりに見えました」

おや? 俺の感覚とは少し違うみたいだな。俺の場合、ゆっくり見えるのではなくて相手の少し先の動きが読める感じ。

ちょっと面白いな。また誰かに教えて感想を聞きたい。

「良かった。上手く使えているみたいだね。

次は、できるだけ普段から瞑想状態で居られるようにしようか。

意識して魔力を循環させている状態、と言った方がわかりやすいかな?」

「わかりました。

私もその感覚もわかるようになったんです。

身体強化は循環する魔力の量と速度を上げるんですね?」

「そうだね。それが俺の身体強化だよ。よく頑張ったね」

「ありがとうございます」

嬉しそうに俺の腕にしがみついてくる。さっきの戦闘の興奮が未だ残っているのか、さっきからずっとテンションが高めだ。

なんと言うか、ルナのおしりに尻尾の幻が見えるようだ。超高速でブンブン振っている気がする。

とりあえず、二人でゴブリンの数を数えたのだが、魔石が全部で278個、耳が276匹分あった。

魔石を何個か取りこぼしているな。数が合わない。耳が少ないのは、俺がうっかり8匹ほど炭にしてしまったから。

「……お風呂に入りたいです」

ルナの悲痛な願いだ。俺も風呂に入りたい。さっき体を拭いて服を着替えたのだが、いまいちスッキリしない。

あれ? 魔法で水を出して洗濯機みたいに渦を作れば、体も洗えるんじゃね?

服を脱いでさっそく試そう。

「え? 何で脱いでいるんですか?」

「風呂に入りたいが、今日は外に出たくない。

だから、魔法の水で体を洗ってみようかと思ってね」

さっそく水を出して体を包み込む。王城から貰ってきた石鹸を取り出し、溶かしながら水を回転させた。

今、俺は竜巻の中に居るみたいなことになっていると思う。

10秒ほどで水が消え、清々しい気分だけが残る。成功だ。

「どうですか?」

「ああ。まるで風呂上がりのようにさっぱりだ」

「私もお願いします!」

言い切る頃には服を脱ぎ終わっていた。服を着たままでも良かった…って言おうとしたのに。

わざわざ服を着させる必要は無いよね。せっかくなのでそのままお風呂の魔法(仮)を使う。

「すごひ……」

目がトロンとして恍惚の表情。言葉にならないようだ。

「どうだった?」

「最高です。この魔法は覚えたいです。

今度教えてください」

「なあ、こういう魔法は魔道具にできないのか?」

「え? ……できる、と思います。

たぶんエンチャントはコーさんにしかできないと思いますが……。

今の私たちでも作れると思いますよ! 水を出すだけなので、材料は銀板だけです。

今度の露店で材料を買いましょう」

ルナの魔道具フェチが顔を出したぞ。魔道具については任せよう。俺は仕上げと手伝いをするだけだ。

「じゃあ、露店の時は買い出しをお願いするよ。

依頼の店もあるから、ゆっくりというわけにはいかないけど」

「はい! お任せください!」

お風呂の魔法は『ウォッシュ』と名付けておこう。服にも使える。

服を並べて『ウォッシュ』を掛ける。ルナの服は革製なので慎重に。

大変だった洗濯が、ものの数分で終わってしまった。汚れを桶の中に流して、作業終了だ。

「コーさん、その服は今洗わなくても良くないですか?」

うっかり今着ていた服まで洗濯していたよ。

「ごめん、つい」

「もう……。

でも、お洗濯ありがとうございました」

今日の昼はなかなかの重労働だった。さっぱりしたことだし、少し早いけど休むことにした。