作品タイトル不明
無双
コーリーのせいで離脱のタイミングを失ってしまった。大量の警備と審問官と雑魚神官に囲まれている。しかも、最初よりも確実に数を増やして。
絶対コーリーが 引き連れて(トレインして) きたんだろ。こいつ、最悪だな。
警備たちは壁の穴以外からも集結し、囲まれてしまった。
コーリーは、接近する警備にようやく気付いたようで、突然叫んだ。
「うわっ! 追手だ! あたしは逃げるからね!」
気付くの遅いわ……。
コーリーは颯爽と走り出したが、その先には既に警備が待ち構えている。
俺たちも退路を確保しよう。まずは雑魚を片付けたい。威圧の魔法を撃って、弱いやつを排除する。回避できないような雑魚には用は無い。回避した強い奴だけを相手にすれば十分だ。
ただ、今回はとにかく人数が多い。ざっと見た感じ、100人以上居ると思う。いちいちターゲットを選んでいたら、それだけでかなり時間が掛かるぞ。
この威嚇の魔法、ターゲットの指定は必須ではない。無関係な人に被害が出ないように工夫しているだけだ。今はこの周囲に無関係な人間は居ないので、ターゲットの指定をせずに威圧垂れ流しで行こう。
パーティメンバーとルミアは、普段つけている腕輪の効果でレジストできる。ボナンザさんもたぶん余裕で回避できる。
「威嚇の後、攻撃を開始する。備えろ」
そう指示を出し、威嚇の魔法を発動する。有効範囲内に居る全ての生き物に、威圧が襲い掛かった。腕輪のレジストが効いているので、パーティメンバーは無事だ。
ボナンザさんを見ると、少しよろけた後すぐに持ち直した。治癒の魔道具を使った様子はない。気合だけでレジストしたらしい。マジか……。そんなことが可能なら、この魔法の運用方法を考え直す必要があるな。
改めて警備達を確認すると、その数を大幅に減らしていた。治癒の魔道具は人数分準備できなかったようだ。今立っているのは、20人ほどだ。
「うぐっ……またあの奇妙な術か! 貴様、三度に渡る教会への破壊行為、許すわけにはいかん! 直ちに処刑する!」
いきなり処刑とは、物騒だなあ……って、1回多くない? 今日は壁1枚だからカウントしないとして、俺が壊したのは2回だぞ?
「待て。俺じゃない……」
と言い掛けて言葉を飲み込んだ。うっかり「俺じゃないのが混じってる」って言いそうになった。「残り2回は俺ですよ」って自白しているようなものだ。危ない、危ない。
「この状況で、まだしらを切るか! 二度も教会を破壊し、さらにコーリーと共謀して教会を内部から破壊した罪! 死を以って償え!」
わお。コーリーの仲間ということにされている。
「それはマジで知らないわ。あいつは無関係だから。一緒にしないでくれ」
コーリー? 威圧の魔法をモロに受けて気絶しているよ。正直邪魔だし、そのまま寝ていてくれると助かる。
「ふざけるな! 目的は何だ!」
聞く耳持たずといった様子だな。弁解は不可能か……。コーリーと関わってしまったばっかりに、罪状が1つ増えてしまったぞ。まあ、いまさらだな。
1人の審問官と話をしているうちに、戦闘が開始されていた。気が付いたら残り1人になっている。話の途中だが、もういいか。鉄の棒で審問官の顔面を殴り飛ばすと、仮面が割れて倒れ込んだ。
「よし。帰ろうか」
この場を離れようと声を掛けると、誰かの怒鳴り声が聞こえた。
「待てぃ! このまま帰れると思っているのか!」
声がする場所に目をやると、倒れたコーリーの向こう側に見覚えのある神官が立っていた。
いつかのクソ神官だ。名前は知らない。かなりイラッとする奴だったことは覚えている。他にも数人隠れているようだ。
無言のまま殴り掛かると、横から神官が飛び出してきてクソ神官を庇った。俺が振る鉄の棒の直撃を受け、ふっ飛んでいった。
クソ神官は一歩身を引くと、自分を庇った神官には目もくれず話を続けた。
「使徒でもない下賤な貴様を拾ってやったのは我々だ。恩を忘れた不届き者めが。万死に値する」
相変わらずのクソっぷりでイラッとする。会話を続けるだけで不快指数がうなぎ登りだな。
「お前は頭がイカれているのか? 俺は教会の手助けを受けたことなど一度も無い。俺の行動を妨げたことは何度もあるがな。
教会は俺たちをこの世界に引き込んだ元凶で、独善的で自己中心的なクソ集団だろ? 恩などあるわけ無い」
「せっかく生かしてやったというのに……恩知らずのゴミムシめ」
我慢の限界を超えた。剣先を転移させてクソ神官の顔面に当てた。クリーンヒットしたが、治癒の魔道具ですぐに回復された。
殴ったことで少し冷静になり、クソ神官の思考がちょっとだけ理解できてきた。
たぶん、クソ神官は召喚当日に俺を殺すつもりだったのだろう。生かしたことを恩だと思っているらしい。マジでクソだな。
「ゴミはお前だろう。どういう育ち方をしたら、そんな考え方ができるんだ? 俺と同じ知能があるとは思えない。両親のどちらかがゴブリンなのか?」
人間とゴブリンのハーフと言うなら、なんとか納得できるぞ。この世界のゴブリンは、だいぶ馬鹿だから。
「黙れ!」
クソ神官は怒鳴りながら持っていたメイスを俺に投げつけた。俺はそれを受け取ると、ボキッとへし折って捨てた。
それを見たクソ神官は、近くで倒れている神官からメイスを奪い取って言葉を続けた。
「卑しい生まれの人間は、高潔な人間を敬うことを知らぬようだな。やはりこの世界には相応しくない。だから早めに始末しろと言ったのだ」
クソ神官は、苛ついた顔でメイスを地面に突き立てた。
おそらくクソ神官の中では、地球はこの世界よりも劣る世界だと思っているらしい。こいつにとって使徒召喚は、使徒を劣る世界から高潔な世界に引き上げることだ。純粋に善意からの行動だろう。
でも、この善意の根拠は腐った教会の考え方だ。これだけ拗らせているということは、相当昔から考え方がおかしかったはずだ。ルミアが神をやっていた時から腐っていたということだ。
ルミアに非難の視線を送りながら文句を言う。
「どういう指導をしたら、こうなるんだ?」
「あ……申し訳ありません。私の影響力は強くないのです……。私が何かを言ったところで、何も変わりません」
ルミアは申し訳なさそうに呟いた。
言われてみれば、神ができることはかなり限られている。一部の信徒に、少しだけ言葉を伝える程度だ。拙いな。俺の予定が狂う。解決するための魔道具を考えておこう。
教会の考え方は仕方がないかな。偏った考え方の人間が集まると、偏りが加速する。この考え方は、長い時間を掛けて培った教会内の常識なんだろう。
このまま話を続けても、いいことは何もないな。さっさと終わらせよう。これ以上邪魔が入ると面倒だ。
「クソ神官は俺が引き受けるから、みんなは退路の確保を頼む」
周囲は倒れた神官たちに囲まれて、足場がとても悪い。ここから道路まで、転がって邪魔になっている人間を除ける作業をお願いした。他にも数人の神官が潜んでいるようなので、そいつらの排除も任せる。
「逃がすか!」
クソ神官が、近くを通過しようとしたクレアに襲いかかる。
「お前の相手は俺だよ」
鉄の棒で腹を殴る。クソ神官は苦痛に顔を歪ませたが、治癒の魔道具ですぐに回復した。この魔道具、邪魔だなあ。
治癒の魔道具は、ボナンザさんたちが持っている物と同じだ。ドッグタグのような小さな金属片。すぐに起動できるよう、ブレスレットの形で左腕に装着している。
まずは治癒の魔道具を引き剥がそう。
急接近して左腕を掴むと、メイスで俺の腹を突いて振りほどかれた。狙いが読まれているらしい。そして、意外と戦いに慣れている様子だ。
転移剣で左肩を狙う。振り下ろした鉄の棒が、離れた先に居るクソ神官の肩にめり込んだ。このスキに治癒の魔道具を掴み取れば……と思ったのだが、クソ神官は俺の行動よりも早く、治癒の魔道具を握り込んでしまった。
治癒の魔道具は、使う時に手で握る。ダメージを与えてからではダメだな……。
『……ヲ………ル』
突然、頭の中で声が聞こえた。使徒召喚の術式が暴走した時と同じだ。今日はそんなに魔力を使っていないはずなのに。頭がズキズキと痛む。
痛みに意識を取られ、戦いに集中できない。適当に鉄の棒を振るうと、クソ神官の左の肘に当たった。腕があらぬ方向に曲がり、手が開いた。チャンスだ。治癒の魔道具を引きちぎる。
その瞬間、酷いめまいにも襲われた。体調は万全だったはずだ。魔力も回復している。それなのに、魔力が枯渇したときのようなめまいと吐き気だ。意識が遠のく。治癒魔法を使ってみたが、効果は得られない。
『………ダ……』
頭の中で聞こえる声は止まらない。まだ戦闘は終わっていない。かなり拙い気がする。身体強化も安定しない。動きも鈍り、相手の動きがよく見えない。
自分の体が思うように動かせない。クソ神官の攻撃が当たる。二の腕、肩、脇腹と、次々に打たれた。激しい痛みがあるはずなのに、それを全く感じない。まるで自分の体ではないようだ。
俺の異常に気付いたのか、みんなが援護に来る姿が見えた。俺がまともに動けたのは、ここまでだ。
体の自由が効かない。だが、体は動いている。まるで俯瞰で見ているかのように感じられた。
俺は鉄の棒を投げ捨て、冷静な様子でマチェットを取り出した。それは人間相手に使う武器ではない。「マチェットから手を離せ!」この思いは、俺の体には届かない。
『この時を待ってた……』
頭の中に響く声は、今はハッキリと聞き取れる。どこかで聞いた覚えがある声だぞ……。甲高い女の声だ。
『やっと自由になれる……』
何の事を言っているのか、さっぱり理解できない。俺の体は、なおも俺の意志を無視して動き続けた。
クソ神官が持つメイスを切り裂き、そのままクソ神官に襲い掛かる。死んでも構わない相手だが、俺が殺すのはゴメンだ。気分が悪い。振り下ろされたマチェットがクソ神官に到達する、その瞬間。リーズの鉄の棒がクソ神官にクリーンヒットした。
ふっ飛ばされたクソ神官に、リリィさんが追い打ちを掛ける。2人掛かりでボッコボコにされた。
俺の体は、まだマチェットを離そうとしない。立ち塞がる連中は全員倒した。すぐに武装解除するべきだ。この思いも、やはり届かない。
みんなは必死で叫んでいるが、その声はここまで聞こえてこない。俺の体は何かに操られるように、勝手に動き続ける。
敵を見失った俺の体は、近くに居たリーズに襲いかかった。リーズは鉄の棒で受けながら、蹴りで反撃する。横腹に蹴りを受け、ふらりとよろけた。
よろけた先にはルナが居る。俺のマチェットは、そのままルナを射程内に捉えた。鋭い突きがルナを襲う。
突き刺さる直前、ボナンザさんがルナを突き飛ばして俺の前に出た。俺のマチェットがボナンザさんの腹を貫く。
「ちょっと……何やってるのよ……」
ボナンザさんは力無く呟くと、ゆっくりと目を閉じた。
俺の腕には、肉を貫く嫌な感触が残っている。ここでようやく体の自由が戻ってきたようだ。
「すまない! すぐに回復させる!」
マチェットを引き抜くと、すぐにルナが駆け付け、ボナンザさんに治癒魔法を掛けた。
ボナンザさんは意識を失ったが、腹を刺されただけだ。大した怪我ではないと思う。少し様子を見よう。