作品タイトル不明
茶番劇
昨日は夜遅くまで作業をしていたが、材料がなくなったので途中で切り上げた。結局、キャパシタは俺の理想には程遠い出来にしかならなかった。
サイズを大きくして、複数個揃えることでどうにかなるかな、というレベルだ。結局、大型車のバッテリーくらいの大きさになった。金属塊なので、相当重い。理想は単三乾電池1本分くらいなのだが、到底無理だ。
試作品はそれなりに作ったが、充填はまだしていない。俺の魔力が全快するまで待つことにしたのだ。そのおかげで、今日の体調はとても良い。倦怠感が抜け、なかなか清々しい気分だ。
「おはよう。今日は材料でも買いに行こうか。続きがやりたい」
「そうですね。もっと 金(きん) があれば、小さくできると思うのですが……」
金(きん) は、銀鉱石と銅鉱石に少しだけ含まれることがある。俺はそこから取り出して使っているのだが……。
「そういうことは早く言ってくれ……。神代金貨を使えばいいじゃないか」
一般的には、魔道具に使う金と言えば大昔に使われていたという『神代金貨』が主流だ。エルフの村で受け取った物があるので、俺は数枚所有している。
「それを使うのは惜しくない? コーは作れるんだから」
クレアは使いたくないようだ。ゲームなんかでも、レアアイテムの扱いで結構性格出るよな。すぐに使っちゃう人と、クリアするまでアイテムボックスの肥やしになっている人。俺は使っちゃう派なんだけど、クレアは肥やしにする派なんじゃないかな。
まあ、神代金貨は高値で売れるので、今使わなくてもいいか。俺が作った金は出処をあかせないから換金できない。先に使った方がいいだろう。
外出の準備が整ったところで、スマホが震えだした。相手は善だ。こんな朝早くから、珍しいな。通話状態にして話を始める。
「どうした?」
『ボナンザさんのお店が、誰かに包囲されてるみたいなんだけど、どうしたらいいかな?』
善の落ち着いた声が聞こえる。割と緊急事態なのだが、その危機感は感じられない。平和ボケしているのかな。
「とりあえず、そっちに行くよ」
ちょうど外出しようとしていたところだ。買い物はキャンセルになってしまったが、まあいいだろう。
通話を切ると、すぐにボナンザさんの店に転移した。
転移先は店の応接室だ。この部屋から突然出ていくと不審に思われるはずなので、マップで状況を確認したら転移し直す。
店の周囲は、10人以上の人に囲まれているようだ。全員が敵対反応。襲撃の準備をしているということで間違いないだろう。
しかし、困った。今のままではこちらから手出しすることができない。向こうはこちらを見ているだけだ。それだけでは攻撃する理由にならない。今こちらから攻撃を仕掛けたら、通り魔と変わらないぞ。せめて夜なら、誰にも見られないんだけどなあ。
敵の確認を終え、マップで人が居ない場所を探す。裏庭が良さそうだな。
もう一度転移して、出入り口から堂々と店に入った。善の居場所は確認済みなので、ズカズカと善の前まで進む。
「様子はどうだ?」
善は椅子に座って呑気に構えている。声を掛けると、ビクッとしてこちらを振り向いた。
「うわっ! 早いな……。今通話を切ったばかりじゃないか」
「ちょうど出発の準備をしていたところだったんだよ。それより、どうなっている?」
「今はボナンザさんが調査しているよ。たぶん教会の人間だろうけど、監視されているだけだから安心しろって」
ああ、それは大嘘だろうな。教会の人間だろうけど、マップの反応を見る限り、いつ襲われてもおかしくない状況だ。こんな嘘をすんなり受け入れるなんて、バカ正直を超えてただのバカだな。
一条さんとアーヴィンは、緊張した面持ちでそわそわしている。しっかりと危機感を持っているようだ。これが正常な反応だと思うんだけどなあ。
善と話をしていると、出入り口の扉が開いてボナンザさんが入ってきた。
「うん? あんたたち、いつの間に来てたのよ。気付いてると思うけど、ここ、包囲されてるわよ。相手は12人。全員が教会の下っ端神官ね。ちょっと喧嘩を売ってきたから、もうすぐここにやってくると思うわ」
喧嘩を売ったって……何をしたんだよ。でもさすがはボナンザさん。行動が早くて助かる。向こうから襲ってきてくれれば、攻撃する理由なんか考える必要がなくなる。
俺が「了解」と言って手を振ると、善が戸惑いながら声を上げた。
「来るって、どういうことですか?」
「ずっと見られてたら気分が悪いでしょうが。こっちから攻撃を仕掛けると面倒だから、来てもらえるようにしたのよ」
ボナンザさんの言葉に、善の顔がすぅっと青くなった。ようやく危機感が芽生えたらしい。遅いわ。
店の従業員たちは、フロアの椅子とテーブルを撤去し始めた。奴隷らしき人たちは、店の奥へと避難を始める。善たちが居るテーブルも、フロアの隅に寄せる。
程なくして神官たちに動きが見られた。周囲を囲んでいた神官たちは、出入り口の前に集結している。間もなく襲撃だろう。フロアに緊張が走る。
『バァン!』
勢いよく扉が開けられた。先頭の神官が、扉を蹴ったようだ。足だけが建物の中に侵入する。
「神妙にせよ! 貴様らに教会襲撃の疑いが掛かっておる。おとなしく教会に来てもらおう!」
先頭の神官が叫び、フロアに上がり込んだ。後ろからもゾロゾロと後続の神官が入ってくる。その中には、見覚えのある奴が居た。
「フィリスさん……?」
真っ先に反応したのは、善だ。それを見たフィリスが喋りだす。
「使徒様が何故ここに? もしや、使徒様を拉致したのもボナンザなのですか?
使徒様、もう安心です。早くここから脱出しましょう!」
フィリスは他が何も見えていないようで、善を見つけるなり、視線を善から移そうとしていない。
「フィリスさん、あたしたちは自分の意志で城を出たんです。戻る気はありません」
一条さんは、震えながらも毅然とした態度で答えた。
「美織様もいらしたのですね。何故ですか? せっかく神送りが決定したのです。神のもとで働く、名誉ある職務です。それを放棄するなんて考えられません。どういうおつもりでしょうか」
この人、どうも自分が知っている世界が全てだと思っている節があるんだよなあ。自分の考えが絶対的に正しいと考えているみたいだ。その考え方の根拠になっているのが、教会の教えだな。
思い込みが激しいというか、独善的というか。全ての信徒がそうなわけではないが、教会関係者はその傾向が強い気がする。元教皇のカムロンも、少しそんな感じだった。
口ごもる2人に変わって、俺が答える。
「教会には付き合いきれないってさ。神送りも、当然拒否だ」
「コー様? あなたの入れ知恵でしたか。余計なことをしないでください。
……まさか、今回の襲撃にもあなたが関与しているのですか?」
あれ? 意外だな。全くバレていなかったのか。疑われるくらいは覚悟していたんだけどなあ。
ボナンザさんの日頃の行いが悪すぎたおかげで、俺はノーマークだったらしい。
「襲撃が何のことかは知らないが、使徒を連れ出したのは俺だな。まだ使徒について何かやるつもりなら、俺は遠慮なく止めるぞ」
襲撃については知らないフリをしておく。ただ、その後に続けた言葉が関与した証拠になるんだけどね。決定的な証拠じゃないから問題無い。
俺たちがフィリスと話をしている間、周囲からは『ガスッ』とか『ボコッ』とか『バキッ』とか、何かを殴る音がずっと聞こえていた。ボナンザさんが侵入してきた神官を殴る音だ。会話を終える頃には、フィリス以外の神官は全員床に転がっていた。
「使徒ではないあなたに、何ができるというのですか! 皆さん、すぐに捕らえますよ!」
フィリスの怒鳴り声がホールに轟き、外に抜けていった。その言葉を受け止めるべき人たちは、ホールの床でご就寝中だ。
「フィリスしか残っていないぞ?」
フィリスは辺りを見回し、愕然とした。むしろ、よく今まで気付かなかったな……。やっぱりアホなのかな。薄々感じていたことなんだけど。
「そんな……刺し違える覚悟はできています!」
そう言って武器を構える。神官らしく、ごついメイスだ。なかなか痛そうだな。でも、ボナンザさんが持つハンマーの方が痛そうだから、脅威には感じられない。
マチェットだとオーバーキルになりそうなので、訓練用の鉄の棒を構える。まあ、鉄の棒と言っても形はショートソードだ。武器としては成立している。
「今日はあんたらが襲撃者だ。遠慮はしないぞ?」
覚悟しているらしいから、最悪死んじゃっても仕方がないかな。手加減はするけど、危ないと思ったら本気を出すつもりだ。
「ちょっ……ちょっと待ったぁ!」
善が突然大声を張り上げた。
「勝手に城を抜け出したのは、悪かったと思ってる。でも、城に帰るつもりは無いんだ。分かってほしい……」
説得を試みるつもりのようだ。話せば分かるとでも思っているのかな。それは同じ価値観を持つ相手にしか通用しない。考え方が合わない人が相手だと、話し合いをすることで諍いが起きるんだよ。話せば分かるなんて、世間知らずの幼稚な戯言だ。
「善様……彼の言うことに耳を傾けてはいけません。彼は異端者なのです。間違った考えに毒されてはなりません。どうぞ、こちらへ」
ほらな。話し合いは無理だ。でも、善はまだ何か言いたげな様子だ。しばらく静観しよう。
「フィリスさん。僕は今、教会を信用することができません。どうか、今日のところは引いてください。いずれ納得できる時が来たら、僕から教会に伺います」
「駄目です。善様に何を言われようと、力尽くで連れ戻します。それが善様のためですから」
フィリスはそう言ってメイスを構え直した。
はあ……やれやれ。無駄な時間だったな。フィリスはスキだらけなので、威嚇の魔法で気絶させて終わりにしよう。
「コー、ごめん。フィリスさんの相手は僕がする。コーは後ろで見ていてくれ……」
善が覚悟を決めたような真剣な顔で、一歩前に出た。やる気らしい。でも、善のロングソードは城に置いてきた。今は丸腰だ。俺が持っていた鉄の棒を渡す。
善とフィリスの戦いが始まった。初めはメイスと鉄の棒で打ち合い。『カン』と音を鳴らし、火花を散らせる。それを何度か繰り返し、魔法の撃ち合いが始まる。
フィリスが動きを止めて詠唱を始めると、善もそれに合わせて詠唱を開始した。いや、殴れよ! スキだらけじゃん! 動きを止めているんだぞ? 台本でもあるかのようだ。まるで実戦っぽくない。
火の玉が善に向かい、同時に善からも火の玉が発射される。火の玉同士が衝突し、相殺された。格闘ゲームの技の相殺みたいだ。
「善様……この短期間で私に追い付くとは、お見事です」
「フィリスさんの指導が良かったんですよ……」
何だよ、この茶番は! その魔法みたいな奴、全然凄くないからな! 同じ詠唱魔法でもルナの方が圧倒的に高威力だから!
それからも、魔法の撃ち合いが続く……。
「いつまでやるんだろう。もう飽きたぞ……」
「もういいんじゃない? あたしが殴って止めるわよ?」
ボナンザさんもさすがに飽きたようで、退屈そうに言った。ボナンザさんは他の襲撃者を縛り上げた後、俺たちの横で観戦している。
「……いいじゃないですか。本人たちのやりたいようにさせましょう。お茶を淹れてきますね」
観客サイドには、もう緊張感は微塵も残っていない。お茶を飲みつつ、善とフィリスのお遊戯会を眺めた。