軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

対面

研究施設の中は、シーンと静まり返っている。そんな中、ボナンザさんの足音だけが響いている。俺達は気配を隠して進んでいるのに、ボナンザさんは全く気にすること無く堂々と進む。

しばらく一緒に行動してわかったのだが、ボナンザさんには『隠密』という概念が存在しない。元々存在感が有り余っている人ではあるが、本人にも存在感を隠す気が全く無い。

今回の潜入も、2階の住民にはバレているだろう。もし気付かず寝ている奴が居たら、逆にびっくりするぞ。

気配察知で探索すると、やはり10人が一部屋に集まっている。気になるのは、1人だけ別の部屋に留まっていることだ。余程の変わり者か、マジで気付いていないかのどちらか。どちらにしても変な奴だ。

「1人で残っている人がコーリーさんだと思います……」

「うむ。間違いないだろうな。先に行くならその部屋だ」

ルナが小声で言うと、リリィさんもそれに同意した。コーリーという人は、余程の変わり者だったらしい。

2階は数部屋の小部屋に別れている。宿屋に近い構造だ。まあ、宿舎なのだから当然だな。

リリィさんには1人だけ居る部屋に行くことを勧められたが、話をしている間に10人が騒ぎ出したら面倒だ。10人が固まっている部屋の前に立ち、中に居る人に向けて威圧の魔法を使った。当分の間、騒がれる心配は無いだろう。

部屋に入ったら防音の魔道具を起動するつもりなので、ボナンザさんとルミアに廊下の監視をお願いした。

「じゃあ、話をしてくる。悪いけど、ボナンザさんとルミアは廊下で監視していてくれ」

「承知いたしました」

「ルミア? どうしてカベルちゃんのことをルミアって呼ぶの?」

あ……しまった。ボナンザさんの前では『カベル』と呼んでいたんだった。面倒だなあ。適当に誤魔化そう。

「愛称だよ。俺たちはルミアと呼んでいる。神の名前だが、別にいいだろ?」

「……そうね。まさしくルミアって感じのコだもんね。このコが本物のルミアだったら良かったのにねぇ」

本物なんだよね……。教えないけど。

1人だけ居る部屋に向き直し、扉を開けて中に入る。

部屋の中は小さなクローゼットと2つのベッドがあるだけで、他には何もない。かなりシンプルな部屋だ。ベッドと壁の隙間に、誰かがシーツを被って隠れている。

シーツを剥ぎ取り、リリィさんが顔を確認した。

「……久しぶりだな、コーリー」

リリィさんはそう言ってコーリーに手を差し伸べると、コーリーの手を引いてベッドの上に座らせ?た。

リリィさんは誰に対しても『君』を付けて呼んでいるのだが、コーリーだけは呼び捨てだ。それだけ親しい間柄なんだろう。

ひとまず本人であることが確認できた。防音の魔道具を起動する。

コーリーは、リリィさんよりも少し若いくらい。濃いめの茶髪で、耳が隠れる程度のボブカット、丸い顔と丸い目が特徴的な、背の低い女性だ。

「……え? リリィ? ルナも……あとは誰?」

コーリーは俺たちの顔を順に確認し、怯えた顔で呟いた。

「あんたらが召喚した、使徒じゃない方だ。会うのは初めてだな」

“じゃない方”という呼び方は久しぶりだな。不本意だが、自己紹介としては一番伝わりやすい言い方だと思う。

コーリーとは、今までに会ったことが無い。と言うのも、この人は俺との関わりが一番薄い形成担当だった。

魔導院における役割は、大きく分けて3つ。ルナが魔法陣と設計担当で、リリィさんがエンチャント担当。形成担当の人は、作業場に籠もってめったに出てこない。そのため、魔導院に出入りしてもあまり会わなかった。

「え……どうして? なんで一緒に居るの? じゃあ、そっちの2人は使徒?」

コーリーはクレアとリーズを見て言う。かなり混乱しているらしい。クレアは黒髪だから分からなくはない。でも、リーズはどう見ても獣人だ。どうして使徒が獣人なんだよ。

「違うぞ。まずは落ち着け。ちょっと話があるんだ」

「さっきの凄い物音は何? ルナ、何なの?」

コーリーは、戸惑いを隠さずルナに助けを求めた。

「コーリーさんに話があったので、ここに来ました。少し手荒な方法になってしまいましたが……」

「だったら手紙くらい出してよ! 何? あたしをどうする気?」

コーリーがあたふたしながら言うと、リリィさんが言葉を返した。

「手紙を出そうにも、読んでもらえるか分からなかったからな。王の呼び出しにも応じなかっただろう?」

「……何のこと?」

王からの要請は、コーリーまで届いていなかったようだ。おそらく教会が意図的に止めたのだろう。教会は本当に国と王を舐めているな。

「国からの呼出状が来ていませんか?」

「見てないなぁ……そんなの、来てたかな?」

コーリーは、そう言いながらクローゼットを開けた。

中には、くしゃくしゃのまま服が積み上げられている。その奥に、いくつかの未開封の封筒が押し込まれていた。

ルナは呆れた顔を手で覆って言う。

「それですよ。読んでいないじゃないですか……」

読んでいないだけかよ……。何でもかんでも教会のせいにするのは良くないな。

「なるほどな……コー君、こいつは本物で間違い無いぞ。この協調性の無さ、いい加減な性格、どう見てもコーリー本人のものだ」

リリィさんはうんざりした様子で言う。

コーリーがミルズに乗っ取られている可能性も考えたが、その心配は無いようだ。安心した反面、残念でもあるな。ミルズに会うチャンスが1つ減った。

複雑な心境の俺を他所に、リリィさんとコーリーは会話を続けた。

「どういうこと?」

「こっちのことだ。コーリーは気にしなくていい。それよりも、使徒召喚について聞かせてほしい。何故、教会なんかに手を貸したんだ?」

「……言わなきゃダメ?」

「ダメだ。使徒召喚を止めるために必要なことなのだよ」

「止めちゃうの……? 困る! 止めさせないでよ! 魔導院には迷惑掛けないから!」

「何故困る? 困る理由があるなら話せ」

リリィさんがアドリブを利かし、既に延期が決定していることと術式を回収したことは伏せた。重要なカードなので、今切り出すには惜しいと考えたのだろう。

「……言えない。そんな用事なら帰って!」

話が進まないので、情報を1つ開示しよう。俺は会話に割り込んだ。

「いや、帰れないな。王は、使徒召喚を中止する方針を固めた。諦めて話せ」

「王の方針なんて関係ないもん。こっちで勝手に召喚するから」

あ……使徒召喚の儀式って、絶対に王城でやらなければならないことではないな。術式と術者が揃うなら、どこでも実行できる。

わざわざ王城でやっているのは、国の協力を得るためだ。仕事の斡旋や身分証と衣食住の提供など、国はいろいろなサポートをしている。

「勝手にそんなことをして、呼び出された使徒はどうする気だ? 国の補助が無ければ、まともに生活できないではないか」

「呼び出されないから。絶対に失敗するから。生活なんて関係ない」

コーリーはそう断言した。意図的に失敗させるつもりなのか。

「どうして失敗すると言い切れるんだ? まさか、あんたも複製を作ったのか?」

「あんなの、1人じゃ無理。ていうか、あれの複製なんて、誰がどうやって作ったの?」

術式の複製は相当難しい作業らしい。主任の腕は大したものだな。しかし、誰が作ったかは知られていないのか。まあ、作れる事が知られていたら、魔導院で呑気に暮らしていないよな。必死で隠したのだろう。

しかし、本物を使っても失敗すると断言できるのか。

「なあ……絶対に失敗するなら、術者10人が無駄死にになるだけじゃないか。そんなことをして誰が得するんだよ」

「今は誰も得しないよ。今後のためだもん」

今後のため? 失敗したという実績を積み上げて、使徒召喚を止めさせる? だったら今回の中止案に乗っかってもいいよなあ。言っている事が支離滅裂だ。さっぱり意味が分からない。

「リリィ、悪い。通訳してくれ。同じ言語を喋っている気がしない」

「コー君、諦めろ。それがコーリーだ。こいつの考えていることは、私にも理解できない」

「えぇ? リリィなら理解してくれてると思ってたのにぃ……」

コーリーは、不満げに頬を膨らませた。

「ねぇ、術式が失敗するとどうなるの? コーリーは失敗させたいんでしょ?」

今まで静観していたリーズが、突然口を挟んだ。こういった話の時は興味なさげに突っ立っているだけなのだが、珍しいな。

リーズも、術者が死んで終わりになることは知っているはずだ。こんなことを聞いて、何がしたいんだろう。

「……それ、聞くの? 言えないよ。言えないから、帰って」

コーリーは再び口を閉ざしてしまった。リーズの指摘に重要な意味があったらしい。そろそろ切り札を出しておくか。

「術式は俺たちが回収したぞ。使徒召喚を行うことはできない」

「は? なんで? 返して! それが無いと……」

「返してほしいなら訳を話せ。場合によっては協力するぞ」

コーリーの目的が共感できるものだった場合、術式を返すのも吝かではない。

「教会を潰すの。使徒召喚だけじゃないよ。教会そのものを潰すつもり」

俺の目的に近いな。どちらかと言うと、ボナンザさんの目的に近いのかな? 俺の目的は、今の教会を無力化すること。ボナンザさんの目的は、教会を物理的に潰すことだ。

それぞれが教会を敵と見做しているのだが、方法と結末がそれぞれで微妙に違う。

目的はわかったが、使徒召喚と繋がらないんだよな。別に使徒召喚に拘る必要は無いだろう。

「なぜ使徒召喚なんだ? 潰すだけなら使徒召喚なんて必要無いだろ」

「……使徒召喚ね、使徒が居ない状態で使うと、行き場の無い魔力が大爆発を起こすの。教会が更地になるよ」

物騒過ぎた……。ボナンザさんよりも過激だぞ。

殺されかけた腹いせに、教会をまるごと吹き飛ばすつもりだったのか。これは絶対に人には言えないな。爆心地に居るコーリーは、おそらく死ぬだろう。命がけの復讐だ。倍返しどころじゃない。万倍返しだ。

理由は復讐だけではないだろうが、この人の思想は相当危ないな。

せめて無関係の人は巻き込まないであげてほしいが、コーリーにとって教会関係者は全てが敵なのだろう。完全に皆殺しにするつもりの計画だ。どう考えても危ない人だぞ。

「それを聞いてしまったら、尚更止めないといけないじゃないか……」

「教会を破壊しながら乗り込んでくるような人に言われたくないよ!」

うっ……それを言われると耳が痛い。焼こうとしたことならいくらでもあるし、今日もかなり破壊した。あ、帰り際に証拠隠滅しないと……。

やろうとしていることはコーリーと同じだな。でも、全然同じじゃない。

「俺はできるだけ人が死なないように配慮している。あんたとは違うぞ」

人死には気分が悪いので、極力非殺傷魔法で対処している。教会関係者であっても、この方針を貫くつもりだ。

「まぁ、コーリーだからしょうがない。コーリーはそういう奴だ。複数の手段が選べる時は、一番被害が大きい方法を選ぶ」

リリィさんが諦めたようにため息をつきながら言った。

なんて迷惑なやつなんだよ……。ルナとリリィさんが辞めた後に連絡を取らなかった理由が理解できた。この人の行動に巻き込まれたくない。

術式はこのまま回収だな。この人に渡したら危険だ。一応説得を試みるが、深く関わらないでおこう。