軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

呼び出し

エルミンスールの滞在期間は2泊3日。その間、俺は図書室に籠もり、資料を漁った。多少は参考になったが、まだ足りない。あとは試行錯誤を繰り返すのみだな。

他のみんなは、カベルに料理と道具の手入れを教えている。掃除もだ。次来た時にも同じ惨状が広がっていた場合、カベルに何らかのお仕置きをしようと思う。ご飯抜きかな。

出発前日の夕食を終え、いつもの歓談の時間だ。カベルの警戒も解け、今は普通に会話ができるようになっている。

持ってきたリンゴと桃は、すべてカベルに渡した。でも買ってから結構時間が経っているので、すぐに食べないと腐ってしまう。出発前に食べておこう。

「カベル、持ってきた果物なんだけど、何個か出してくれるか?」

「え……申し訳ございません。もうありません。できれば追加を……」

全部食べたらしい。え? 袋いっぱいに詰まっていたはずだけど……。それぞれ20個ずつくらい。

「なんだよ。焼きリンゴを作ろうと思っていたのに」

今回はお預けだな。ダッチオーブンと材料があればいつでも作れる。

「それは何ですか! 是非! 作ってください!」

「材料が無いだろう……。また持ってきてやるよ」

「コーさん、カベルさん、申し訳ありません。プミラもパーシチも、時期が終わってしまいました。来年までは手に入りません」

カベルは世界が終わったような絶望の表情を浮かべて固まった。

桃は夏の果物だけど、りんごは秋から冬にかけて穫れる果物だった気がする。日本のものとは品種が違うのかな。

季節的にはもうすぐ冬本番といった時期だ。前回が今年のラストチャンスだったのだろう。今手に入ると言えば、柿とか栗だな。野生の柿を食べるのはリスクが高い。高確率で渋い。店で見かけたら買ってみようかな。

エルミンスールでの用は終わった。カベルの話はもっと聞いておきたかったが、聞きすぎると何も喋ってくれなくなるからなあ。次の目的地は、ガザル連合王国のエウラ。帝国にも近いので、情報収集にはちょうどいい。

ミルジアの越境許可証は、まだ半月分残っている。途中でどこかの街に寄り道するつもりだ。日本風の何かがあれば、買ってみようかと思う。

「エウラ……やっと行けるのね……」

クレアが感慨深く言う。クレアは、俺たちと出会う前から行きたがっていた。薬師の聖地みたいなものなのだろう。話によると、湿地帯のど真ん中にあるような街だそうだ。足場が悪い。ついでに、魔物も凶暴で強力だと言う。

「すぐに、というわけじゃないからな。過度な期待をするなよ」

ミルジアでイレギュラーが発生した場合、エウラ行きはキャンセルされる。無いとは思うが、問題が多い国なので油断はできない。

「わかってるわよ。行けなくなっても文句は言わないわ」

クレアはプイッと横を向いて言う。

できれば俺も行きたいんだ。クソ不味いポーションから脱出するチャンスだ。しばらくはおとなしくしていよう。

「じゃあ、行こうか」

「それでは、お気を付けて行ってらっしゃいませ」

カベルがメイドのように深々とお辞儀をした。こんなに行儀が良い人じゃなかった気がするんだけど。もしかして、ルナたちはこんなことまで教えたのか……。

カベルの丁重な見送りを受けて出発する。一番近い街までは、全力で走って10時間くらいだと思う。途中でテント泊だな。

ジャングルを抜け、荒野に出た。サイクロプスとスライムが大量に居る地帯だ。今回は狩っても困るだけなので、避けて走る。まあ、スライムは潰すんだけどね。

「そういえば、成長したスライムを見たことが無いんだが。本当に居るのか?」

「この辺りには居ないと思うわよ。サイクロプスが食べちゃうから。居るとすれば、もう少し街に近い場所じゃないかしらね」

「コー君、そんなことを言うと、寄ってくるぞ」

俺の質問にクレアが答えると、リリィさんがおちゃらけたように笑顔で言う。日本語で言うところの『噂をすれば影がさす』みたいなものかな。どこの国でもあるあるなんだな。

途中で休憩を挟みつつ、荒野を走ること約6時間。荒野のど真ん中で野営の準備を整える。もう少し走れば街なのだが、到着が夜になってしまう。街に入る手続きと宿を探す手間を考え、時間をずらすことにしたのだ。

「じゃあ、俺はこっちで水の確保をしておくから。その他の準備よろしく」

場所を決めたのはいいが、とんでもなく乾燥した地帯を選んでしまった。あちこち移動しながら、水蒸気を集めていく。

「いつもすみません。でもその魔法って、魔道具にはできないんですか?」

ルナが訝しげに聞く。

あれ? どうして魔道具にしていないんだったっけ……。なんとなく作成リストから外れて、そのままになっているぞ。たぶん作れるよな。

「ごめん。なんとなく作っていないだけだった。設計しておいてくれ……」

「わかりました。作っておきますね」

笑顔で去っていった。

ルナはこの魔法を何度も見ているので、作ろうと思えば作れたはずだ。俺が作ろうと言い出さなかったから、何か問題があると思っていたようだ。

仕組みはただの除湿機。出した水は煮沸して飲んでいる。単純な工程で作れるはずだ。

食事を終え、テントの中で水を出す魔道具を作る。設計は終わっているので、今はリーズが作業中だ。今回は俺はほとんどノータッチ。完成形がどうなるかは聞いていない。

「できてからのお楽しみですよ」

ルナがそう言うので、完成するまでわからない。

これのことは置いておいて、他にも気になっていることはあるんだよな。

「リーズが買ってきた謎の魔道具、あれの解析はどうなった?」

「結局何も分からないままです。リーズさんはマップみたいと言っていますが……」

リーズの説明では要領を得ないようだ。説明が下手だから仕方がないよな。今解析しているのは、B5サイズの謎の板だ。魔導院でも研究していたので、解析に一番近い。

解析が完了している『高圧洗浄機』と『結界』は、修復して使える状態にしてある。可動するエルフの魔道具になったので、今はとんでもない価値があるそうだ。

結局、骨董市で一番賢い買い物をしたのはリーズだったな。金貨10枚の投資が、今は100倍近い価値になった。売るつもりは無いけどね。

「完成したぞ!」

リリィさんの声が聞こえた。エンチャントが終わったらしい。さっそく完成した魔道具を見せてもらう。

見せられたのは普通の水筒だ。竹を切って円筒にした物に、蓋を取り付けただけの簡素な水筒。

「ただの水筒にしか見えないぞ」

「工夫はここですよ」

と言って、蓋の上を見せられた。そこには、1本の金属製のストローが刺さっている。これが本体のようだ。

「腰にぶら下げて歩くだけで、いつの間にか水が溜まっている。どうだい? 便利だろう?」

リリィさんが得意げに顎を突き出し、胸を張って言う。背後に『ドヤァ』という文字が浮かんで見える。

埃などが入らないようにフィルターが取り付けられ、そのまま飲んでも平気な工夫がされていると言う。確かに便利だ。

「いいじゃないか。ありがとう」

試しに腰にぶら下げてみるが、邪魔にもならず、ちょうどいい。水筒本体に加工しなかったのは、すぐに壊れるから。市販の普通の水筒にも取り付けられるので、かなり使い勝手が良いと思う。魔道具の名前をどうしようかな。

そう悩んでいると、リーズが突然顔色を変えた。

「誰か……来るよ!」

辺りは真っ暗、時間も夜だ。こんな時間に誰が来たというのか。マップも合わせて確認する。

反応は、人間が14人。『敵対』が5人と、『注意』が9人だ。排除するべきか迷う割合だな。

「盗賊でしょうか……」

「違うな。盗賊だったら全員が『敵対』になるはずだ。ミルジアの兵士だろう。

やましいことはしていない。堂々としていれば平気だよ。一応準備はしておこう」

野営をする時は、革の服を着たまま生活している。靴を脱いだとしてもすぐに履ける状態にしているし、武器も近くに置いている。マジックバッグの中身も、必要最低限しか出さない。そのうえで警報の魔道具を発動し、気配察知で周囲を窺っている。

要するに、常に厳戒態勢だ。敵が迫れば応戦し、危機が迫れば直ちに離脱する。その準備はいつもやっている。でも夜中の来訪者というのは、今回が初めてだ。

「リーズ、道具は仕舞っちゃって」

クレアがそう言いながら、リーズの道具をまとめている。マップの情報を見る限り、相手の到着まではまだ5分くらい猶予があるようだ。できる準備はしておこう。

「念のため、全員分のシュラフを出すぞ。怪しまれると面倒だ」

シュラフも無しに野営をするのはおかしいからな。マジックバッグの存在を疑われたら拙い。

越境許可証とアレンシアの身分証を手元に残し、準備は完了だ。

不審者ご一行様が到着したようだ。テントの出入り口の前にずらりと並ぶと、不躾に出入り口を開け、1人の男が覗き込んで言う。

「おい。そこにいるのは誰だ」

予想通り兵士だ。面積が狭い鉄の鎧を着ている。

「アレンシアから来た冒険者だ。こんな夜中に、何か用か?」

兵士は、俺の顔を見てぎょっとした。おかしな顔はしていないと思うんだけどなあ。

「……ふむ。越境許可証と身分証を出せ」

いつものやりとりだ。兵士に身分証を渡して様子を見る。

すると兵士は、驚いたような顔で言葉を出した。

「まさか……本当に居るとは……。

冒険者コー。バルーチの街で手配書が出ている。一緒に来てもらおう」

雲行きが怪しくなってきたぞ。手配?

「どういうことだ? 捕まるようなことはしていないはずだ。理由を言え」

「理由は知らない。とにかく、丁重に迎えろと言われている。手荒な真似はできないのだ。素直に従ってほしい」

この兵士の反応は『注意』だ。おそらく本当のことを言っている。しかし、後ろに控えている兵士のうち、5人が敵対の意思ありの赤色表示なんだ。素直には従えない。

「そう思っていない奴も居るだろう。そこのそいつらとかさ」

覗き込んでいる兵士を押しのけてテントから身を乗り出し、『警戒』の5人に指をさす。すると、5人はビクッとしてバツが悪そうな表情を浮かべた。

「あぁ、それは悪かった。彼らは非番なのに駆り出されて、気が立っているのだ。酒も飲んでいる」

もっともらしい言い訳だが……。ビクビクする5人を見る限り、たぶん本当なのだろう。遊んでいる最中に呼び出されたら、誰でも不機嫌になるよな。

「だったら連れてこなければいいだろう」

「諸君らが盗賊だった場合、9人では足りぬよ」

酔っぱらいを戦力に数えてもいいのか? まあ、そんなことは気にしても仕方がないな。

「まあ、そう言うなら行ってもいいが、今日はもう遅い。せっかくテントを設営したんだ。今すぐ行かなくてもいいだろ?」

「ふむ……まぁ良いだろう。我々は君たちが逃げないよう、朝まで見張りをさせてもらう。気を悪くしないでくれたまえ」

兵士はそう言ってテントから離れていった。

ご苦労さんなことだ。兵士というのは、そんなことまでしなきゃならないのか。物凄く面倒な仕事だな。

その言葉通り、14人の兵士がここを囲むように位置についた。ここまでされると、逆に逃げたくなるよな。

「ごめん、なんか呼び出しを受けちゃったよ」

「何の用なんですかね?」

「まあ、行けば分かるだろ」

足には自信があるんだ。逃げようと思えばいつでも逃げられる。俺たちに追いつけるとすれば、ボナンザさんくらいだ。あんな化物がゴロゴロ居てたまるか。

元々ミルジアの街には立ち寄る予定だった。余計な用事が増えてしまったが、大きな問題にはならないだろう。