軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

隠し扉

昨日1日様子を見て、 人体実験(パッチテスト) の結果が出た。食毒不明な山菜を少しだけ飲み込んで、体調が悪くならないかを確認する作業だ。

昨日に引き続き今日も体調は万全なので、試した果実は食べても問題無い。

でも、物によっては量で中毒を起こしたり、遅効性の毒だったりするので確実とは言えない。これは徐々に確認するしか無いな。

バナナのような木の実、あれはバナナだ。味はバナナほど甘くないが、食感と匂いがバナナだった。でも何故か種があるんだよな。バナナの種なんて初めて見たよ。

パパイヤみたいな物もパパイヤなんだと思うが、パパイヤの味を覚えていないので断言できない。たぶんパパイヤだ。

なんにせよ、毒がなくて良かった。今後は積極的に採取しよう。ヘビでも居れば肉にも困らないのだが、まだ見ていない。でかいネズミなら食べられそうだけど、ちょっと怖いな。肉で食あたりにはなりたくない。

翻訳の指輪が完成しているので、今日から本格的に調査を始める。

俺はルナと資料を漁る。クレアは掃除の合間に合流すると言っていた。リリィさんとリーズは、この宮殿の仕組みを調べると言って歩き回っている。

薄暗い図書室の中で、ルナと並んで本を読む。全員分の指輪を作ってあるので、いざとなったら全員で資料を漁ることはできる。しかし、今は急いでいないので2人だけで十分だ。俺とルナが資料をリストアップして、その後みんなでじっくり読む予定だ。

俺にとって一番得意だからなのか、この指輪を付けるとすべてが日本語に変換される。これで不具合が無ければ申し分ないのだが……。確認してみよう。

「なあ、ルナ。今俺の言葉はどう聞こえている?」

「突然、どうしたんですか?

普通に話しているようにしか聞こえませんよ?」

不具合が直っているな。最初にこれが渡されれば苦労しなかったのに。いや、その場合はルナと仲良くなることは無かったか。不具合バンザイ、不具合サイコー。

「だったらいいんだ。不具合、直せたんだな」

「あ……。ご不便をお掛けしてすみませんでした。

前回の複製品は金が使えませんでしたので、そのせいだと思います」

精度が上がるというのはこういうことか。素材だけで変わるのなら、もっと金を使えばいいのに。金貨を勝手に鋳潰すのは犯罪になるのかな。

雑談をしながらも、一応作業もちゃんとやっている。今やっているのは資料の選別。関連する本を入口の近くに積み上げていく。

うっかり扉を閉めてしまわないよう、注意が必要だ。ルナにしか開けられないので、うっかり閉めてしまうとかなり面倒なんだ。

次から次へと本を引っ張り出して中身を確認する。見るのはタイトルと目次だ。

数冊の本を抱えて床に下ろすと、ルナが困った顔で話し掛けてきた。

「読めない本があるのですが、見ていただいてもいいですか?」

ルナが何度も開かれてボロボロになった本を持ってきた。これだけ読まれているということは、重要なことが書かれているのだろう。

ルナから本を受け取り、中を開いてみた。すると、ミミズが這ったような汚い文字で、何かを書き殴ってあった。

この指輪の特性で、汚い文字は汚いまま認識される。言語は理解できても、汚い文字では読めないのだ。気合を入れて解読を試みる。

『ヤシュキンの月 2日

今日の天候は晴れ。今日も晴れ。今日もあの娘に会うことができた。気持ちも晴れわたり、実に素晴らしい1日だった。いつか気持ちを打ち明ける日が来るのだろう。その日が待ち遠しいと同時に恐怖でもある』

ん? かろうじて読めるページを読んでみたんだけど、様子がおかしいな。暗号か?

『ヤシュキンの月 18日

もうすぐ雨季だ。空気が湿ってきたことが肌で感じられる。そろそろイモの収穫の時期だ。彼女の愛もそろそろ収穫の時期だろう。心の準備を進めよう』

どこを縦読みすればいいのかな……。それともアナグラムか? いや、まさかね……。

『モルの月 3日

外は雨。心の中も土砂降りだ。中も外も雨。何故僕では駄目なのだ。僕はいつでも君を見ているというのに』

ゆっくりと本を閉じて床に叩きつけた。

「ただの日記じゃないか!」

しかもフラレているじゃん。可哀想に。

すっげえ時間の無駄だったぞ。なんでこんなに大事に保管されているんだよ。

「どうしたんですか?」

「いや、何の意味も無いただの日記だよ。書いた人が気の毒だから、焼いた方がいいかもしれない」

著者は故人だろうから、確実に死体蹴りだ。俺なら耐えられない。

「本当ですか? この本の題名は『預言者ディエゴの書』なんですけど……」

「紛らわしい題を付けるなよ……」

たぶん昔の偉い人の日記だな。汚い文字が暗号のようだったから、遺族が勘違いして保管していたのだろう。

毎日開いて書き続ければボロボロにもなるよな。このボロさも雰囲気があるんだよ。いかにも重要な資料っぽい。

「どんなことが書かれていたんです?」

「本人の名誉のために伏せておくよ」

日記を拾い、ホコリを払ってマジックバッグに仕舞った。近いうちに焼却処分しようと思う。1000年前に死んだ人だろうけど、供養してやる。

引き続き本を漁る。本の山が2つできた頃、図書室の前でリーズが何か騒いでいる。

「こんさん、ルナ、ちょっと来てー!」

リーズは図書室の正面にある扉の形をしたレリーフの前に立っていた。初めて来た時にリーズが違和感を持った場所だ。俺には『何か彫られているな』としか感じられないが、リーズは気になる様子だ。

「どうした?」

「やっぱりこれ、扉だよー。文字が書いてあるけど読める?」

リーズが扉の上に指を差して言う。ここに来た時に隅々まで確認したが、文字なんて見当たらなかった。今更確認したところで、そんな物あるわけがないだろ……。

と思ってレリーフを注意深く覗き込むと、確かに文字が書かれている。

「なんだこれ……」

「あっ! 指輪の効果ですね。

古代語で書いてあるんですよ。絵のような加工をされていますが、これは古代語です」

模様だと思っていた物は、フォントが違うだけで古代語だったらしい。ややこしいことをするなよ……。とりあえず読んでみよう。

『エルミンスール大聖堂』

扉の上部にデカデカと書かれていた。この部屋の名前なのかな。

レリーフには、他にも断片的に何かの文字が書き込まれている。

書いてある文字をまとめると、礼拝堂兼謁見の間のような用途の部屋のようだ。扉を開けて中に入るよう促す内容になっている。

ということは、開くはずだよな。

「ねっ! やっぱり扉だったでしょ? ねっ」

リーズが嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねている。

「ああ、そうだな。お手柄だ。よくやった」

リーズの頭をわしゃわしゃと撫でた。髪の毛がボッサボサになったが、それでもリーズは満足そうな笑みを浮かべてながら「うふふっ」と笑っている。

「本当によく気が付きましたね……。

でも、どうやって開けるのでしょうか」

ルナも感心したようだ。ここに書かれている文字は、文字だと言われないと読めないような文字だ。意識しないと気が付かないだろう。

開け方は、たぶん図書室と同じじゃないかな。

「ルナが魔力を通せば開くんじゃないか?」

「そうですね……試してみます」

そう言ってレリーフに手をかざしたところで、リリィさんがクレアの腕を引っ張ってきた。

「待ってくれ。

これでみんな揃ったな。何が起きるかわからないから、集まっておいた方が良いと思ったのだよ」

「ちょっと……まだ掃除が終わってないんだけど。どうしたの?」

戸惑うクレアに軽く説明をして、扉を開ける。

ルナがレリーフに手をかざして魔力を通した。すると、レリーフから光が溢れ、『ゴゴゴ』と音を立てながら真ん中で分かれてゆっくりと奥に向かって開いていく。

扉の向こうには真っ白な狭い空間があり、真ん中に大きなシャボン玉のような玉が浮かんでいる。転移魔法が発動した時のような、空間を圧縮したかのような玉だ。

「この奥に行けばいいのかな」

「危なくないですかね……」

不安そうな4人を尻目に奥に進む。これはたぶん転移魔法だ。長老の転移魔法は上手く発動しているんだ。悪いようにはならないだろう。

淡く光る玉に触れると、一瞬意識が遠のいて吐き気がこみ上げた。車酔いに似た感覚だ。口を押さえて膝を突き、辺りを見ると暗い廊下の真ん中に居た。後ろには、暗闇にぼんやり光る玉が浮かんでいる。

すぐに4人が後を追ってきた。ルナとクレアは俺と同じように口に手を当ててよろめいている。リーズとリリィさんは割と平気そうだ。体質なのかな。

「大丈夫か?」

「はい……なんとか。

勝手に行かないでください……。突然消えたので、心配しましたよ」

ルナが俺の服の裾を握って上目遣いで言う。他のみんなも不安そうな顔でこちらを見ている。

「悪かった。なんとなく大丈夫かな、と思ったんだよ」

「なんとなくで行動しないでよ……。リーズと一緒じゃない」

クレアから苦情が飛んできた。リーズと同じか……。それは拙いな。今後は気を付けよう。

リーズはクレアの隣で首を傾げている。心当たりが無いようだ。リーズも少しは自覚して自重してほしい。

廊下は真っ直ぐ前に続いている。おそらく帰りは背後の玉に触れるだけだ。またあの気持が悪い感覚に襲われるのかと思うと、少しうんざりする。

まあ考えていても仕方がないな。とにかく前に進もう。

廊下の広さは4mくらい。壁には竜のような飾りが施してあり、荘厳な雰囲気だ。廊下の先にはもう1つ大きな扉がある。

扉に手を掛けようとした時、扉の向こうから人の形をした半透明の影がスルリと抜けてきた。

「うわっ!」

「ゴーストです!」

ルナが叫ぶと、全員が一斉に後ろに飛ぶ。

突然のことだったから武器を構えていないぞ。そもそもゴーストに物理攻撃は効かないよな。

「どうやって戦えばいいんだ?」

「待て! 吾輩は敵ではない。警戒を解いてもらおう」

ゴーストの声が響き、影のようだったゴーストが、次第にハッキリと見えてきた。

絵画の中の貴族のような仰々しい服を身に纏った、40歳くらいの男だ。白髪交じりの短い髪をつんと立て、キリッとした顔をしている。顔は男前なのだが、しゃくれすぎて尖った顎が気になる。

「敵じゃないって、どういうこと?」

クレアが恐る恐る聞くと、ゴーストがふんぞり返って喋る。

「吾輩は偉大なる預言者にして大聖堂の守護者である。まずはお主らの目的を聞かせてくれたまえ」

「えっと……あんたはここの地縛霊ということでいいのか?」

「違う! 守護者だ! 地縛霊などではなぁい!」

ゴーストが尖った顎を突き出して怒鳴った。

悪霊ではないようだが、こいつの目的がよくわからないな。ゴーストと何が違うのだろうか。会話ができるなら話をしてみよう。