軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23話 女子会

ある日の放課後、カトリーナは料理部の部室の扉の前にいた。

ほとんどの生徒が帰ったあとの時間を狙ったので、廊下には誰もいない。

彼女はネネに用意するよう命じてあった特注道具を使って扉の鍵を開け、スルリと侵入を成功させる。

料理部は下位貴族や商家の娘を筆頭に、王宮の侍女を目指す特訓場所として人気の部活だ。

原作ではお菓子作りが大好きなヒロインのミアも入部していた。

(ミアったら最初は裁縫部に入ろうとしていたけれど、ちゃんと料理部にしてくれて良かったわ。クッキー作りの腕前がちゃんと上がっているか、今度確認しないと。それよりもあれはどこかしら……ふふ、あったわ)

部室の隅に部活用エプロンワンピースが干されているのを見つけ、カトリーナはニヤリと笑った。

制服を汚さないため、部活で料理を作るときはそれに着替えるのだ。襟がセーラータイプで可愛らしく、紺色のワンピースの胸元には持ち主の名前が刺繍されていた。

その中からミアのものを見つけたカトリーナは、ポケットからハサミを取り出してワンピースのスカートを縦に切っていった。

そう、縦というところがポイント。

「ミアの感想が楽しみね…………っ」

楽しみではあるが、ふとアルトの悲しむ顔が頭を過ってしまった。

白鳥の会であれほどカトリーナを褒めてくれた人を傷つけてしまうことをしている……という事実に、どうも罪悪感が芽生えてしまう。

ちなみに家族は『どんなに悪いことをしてもカトリーナを変わらず愛するよ』レベルになっているので、さほど気にならない。

それはそれでどうかと思うが、断罪後の田舎スローライフが保証されたということなので問題ないとしておく。

(きっとアルト様は今カイン殿下とわたくしの仲を修復しようと、板挟み状態で辛いはずよ。早くわたくしが悪女すぎて更生の余地がないと見限ってスッキリしてもらうためにも、確実に悪行を重ねないと! それに残り数か月が勝負だし)

そろそろ王家の中で、カトリーナの王太子妃としての適性が疑われ、婚約破棄について検討が行われる時期。

今こそコツコツと小さな嫌がらせを重ねて、悪女ポイントを稼がなければいけない。

そうしてしばらく大人しくしたのちに、婚約破棄の決定打になる大きめの事件を起こすのだ。

手を抜いてはいけない!と罪悪感を頭の奥に追いやったカトリーナは、スカートの裁断を続ける。

「よし!」

そして作業を終えると、鍵をしっかり閉め直してから屋敷に帰った。

***

それから数日後の夜。カトリーナは秘密裏に自室へと、ミアを招いていた。

今夜は令嬢二人によるパジャマパーティーの日。

だが、ミアはパジャマではなく、料理部のワンピースを着ていた。

「見て見て! ワンピースが綺麗に裁断されていたから、リメイクがしやすかったの」

ミアはカトリーナの前でくるっと回って、直したワンピースを披露する。

切られた幅広スカート部分には、水色と白のストライプ柄の布が継ぎ足されていた。くるりと回ったことで開いたスカートの隙間からストライプ柄がのぞき、印象が華やかに変わっている。

直し方も丁寧で、まるで最初から料理部のワンピースのデザインはこれだったと思うほど違和感がない。

これをミア本人が縫ったというのだから、なおさら感心してしまう。

「あら、なかなか良いじゃない。本当に裁縫が好きなのね。なら、この機会にスカートの裾にレースも足したらどうかしら?」

「それ可愛いかも! あ、でも改造しすぎたらカイン様からの印象が……」

「大丈夫よ。通常スチルではレースはなかったけれど、何故かパッケージではレースが付いていたわ。それに可愛いほうがミアに似合うから、カイン殿下も喜ぶはずよ」

「そうかな? えへへ、頑張っちゃお」

ミアは両手に拳を作って気合を入れた。

その姿があまりにも可愛くて、カトリーナの顔も綻ぶ。

「ちなみに、クッキーの味は改善したのかしら?」

「そろそろチェックが入るかと思って、作ってきたよ。食べてみて!」

ミアはお泊りセットの鞄から缶を取り出し、カトリーナに差し出した。

カトリーナは一枚摘まむと、パクっと頬張る。

サクサクと歯触りの良い食感で、ナッツの香ばしさが効いており、以前食べた小麦粉を焼いただけの塊とは大違い。

太鼓判は押せないけれど、かなり美味しくなっていた。

「あと一歩、ってところね」

「厳しいっ……! でも、あと一歩なんだね。良かった~少しは成長できてるみたいで」

「ふふ、ちゃんと練習して偉いわよ。残りのクッキーは料理長に渡すから、明日の朝にでもアドバイスをもらいなさい」

「ありがとう、カティ。もっともっと上手に作れるようになるね!」

何度も嫌がらせを受け、まわりが同情を向ける中でも悲劇のヒロインぶらず、ミアは気丈に振舞っている。

カインとも友人以上恋人未満を貫いて清い関係を続け、落ち度を作らないよう己を律しているようだ。

嫌がらせにも屈しない姿勢と、持ち前の明るさで、生徒の支持は公爵令嬢のカトリーナから男爵令嬢ミアへと完全に傾いてる。

「事前予告していても、愛用している制服や教科書を破られるのはどこか悲しい面もあるはずなのに頑張っているわね」

「だってカティが施してくれているんだもん」

努力を労うようにミアの頭を撫でれば、彼女はふにゃりと顔を蕩けさせた。

けれども、すぐに笑顔を消してしまう。

「どうしたの?」

「……最近、カティひとりが悪を背負っていることが正しいのか、それが気になって。だって国を救うことに繋がるようなことを頑張っているんだよ? 田舎領地でスローライフも良いかもしれないけれど、もっとカティにとって幸せな道が本当はあるんじゃないかって。私、カティには心からの幸せを掴んでほしいって、断罪を回避できる方法がないかって考えちゃうの」

なんて心優しい子なのだろうか。

ミアだけでなく、家族やアルトをはじめ、カトリーナは心優しい人に恵まれたと改めて思う。

「もうミアったら。断罪されたほうがわたくしは幸せになるって、断言できるわ。だってカイン殿下のことは観賞用の推しであって、異性としてはまったく意識できないんだもの。そんな人と結婚して子どもを作るなんて嫌よ。それなら独身のまま遠くから皆を見守っていたいわ。あなたはカイン殿下とわたくしに不幸な結婚をしてほしい?」

そう問いかけると、ミアは大きく頭を横に振った。

「分かっているなら良いの。断罪と婚約破棄はセット。カイン殿下とわたくしを助けると思って、ミアは自分の役目を突き進みなさいな」

「――っ、私、カティの幸せのために頑張るね!」

「その意気よ。さて、そろそろ最終段階。今は隠せているけれど、わたくしがミアと接触していると知られたら計画が水の泡。わたくしからレクチャーできることはもうないから、今夜を境に距離を置きましょう。ちゃんとわたくしを真の恋敵と思って、ひとりでやってみなさい」

「はい!」

ミアの力強い返事に、カトリーナは満足げに頷いた。

すると、元気を取り戻したはずのミアが、またもじもじと何か言いたげに見つめてくる。

「次はなんなのかしら?」

「もう、しばらくカティと話せなくなるんだよね?」

「えぇ、そうだけれど。やっぱり嫌だとか言わないでよ? 計画の成功率を上げるためには――」

「分かっているけど、やっぱり寂しいの! 今夜は客室じゃなくて、カティの部屋で一緒に寝て良い? 寝るギリギリまでお話したいな」

「――っ」

美少女ヒロイン・ミアの上目遣いに、カトリーナの胸がぎゅんと高鳴った。

突き放しつつも、実はカトリーナも友人のミアと話せる時間が激減することが寂しいと少しばかり思っていたのだ。

ついでに、女子のお泊り会は前世からの憧れ。

可愛いパジャマを着て、同じベッドに寝転がって、きゃぴきゃぴしてみたかった。

「し、仕方ないわね。今夜だけ一緒に寝ることを許可するわ。光栄に思いなさい」

「カティー♡」

「ぐえっ」

ミアが勢いよく抱き着いたので、ベッドに腰掛けていたそのままカトリーナは押し倒されてしまう。

このヒロイン、なかなか力が強い。

部屋の隅からネネがどす黒いオーラをまき散らしているが、ちゃんと殺意は抑え込んでいるので、あとで軽くフォローすれば大丈夫なはずだ。

こうしてカトリーナはその晩、ミアとベッドで寝ころびながらカイン語りに話を弾ませた。