軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18. 思いついたらとりあえず動こう

「本当に愚か者って存在するんだわ」

居心地悪そうに座っているマイクの前で、レイラは一人憤っていた。

マイクに薬を渡して一週間後。

マイクが来たら教えてほしいと伝言していた門番から知らせを受けて走ってきたレイラは、青い顔で膝を突いたマイクの様子に目を丸くした。

しどろもどろに「お姫様と知らずご無礼を・・・・」とつぶやく様子に、何かを悟り。

ここでは目立つからと恐縮するマイクを自室へと引っ張り込んだのが30分前のこと。

「誰も来ないから大丈夫」と裏のバルコニーから部屋へと招き入れ、驚くユリアにお茶を淹れてもらい、話を聞いた。

どうやら、レイラの様子から後進の兵の中に想い人がいると思ったマイクは(まあ、間違ってはいない)、何か情報を得られるんじゃないかと国境兵の駐屯所へと直接薬を持って行ったらしい。

何の伝手もない飛び込みだったが、今後に備えて傷薬や痛み止めなどは大歓迎だと話を聞いて貰える事になった。

そこで、商品を取り出し説明していたらしい。

レイラの薬には、そうと分かるように薬のラベルに花の絵が描いてある。

たまたまその絵を、過去にマリオンに傷薬を分けてもらったことのある兵が見かけ、おせっかいにも「彼女の薬を持ってきてる商人がいるぞ」とマリオンに伝えた。そして、過去の報告でマイクの存在を知っていたマリオンが駆けつけるという事態になったらしい。

誰かに仕える侍女と思っていた少女が、まさか後宮の主人の一人とは思いもよらなかったマイクは、突然現れた”レイラちゃんの想い人”に目を回すことになる。

さらにそこで知ったレイラの正体に危うく気が遠くなりかけた。

ところで、自国の王子に「あなたのおかげでレイラが健やかに過ごす事ができた。感謝する」などと礼を言われ、一周回って正気に戻った。

そうしてつつがなく、というか思いもよらず”想い人”本人に直接クスリを納めることに成功した挙句、次いでとばかりに「もうご存じでしょうが・・・」と道中集めた隣国の様子を報告することとなった。

おまけにマリオンから「もしできるなら・・・・」とレイラへの手紙まで預かってしまい、これは一大事と一直線に帰ってきたらしい。

震える手から手紙を受け取りつつ、マリオンに伝えたという隣国の様子とやらが気になって、話を聞いたところで冒頭に戻るのである。

「なんで素直に「お願いします」が言えないのかしら。そのせいで大変な目に遭うのは誰だと思ってるのかしら!」

鼻息荒く憤るレイラと恐縮するマイクにお代わりの紅茶を注ぎながら、(それよりも一介の商人の話がトップまで筒抜けって、北の砦って風通しが良すぎやしないかしら?)とユリアはこっそり思った。

「結局、最大の問題は干ばつの影響で起こってる飢饉なんだよね。どうにかできないのかしら?」

ひとしきり怒りを発散させた後、レイラは渇いたのどを潤しながら首を傾げた。

「食糧支援などをするにしても、受け入れる体制がないことにはどうにもなりませんしね。要望もないのに、他国のことに勝手に口を出す事もできません」

少し困ったように答えるユリアに、レイラは、そうよねと口をつぐむ。

「・・・・・民間同士、でもだめ?」

少し考えた後、レイラは顔をあげた。

「それは…、どうでしょうか?そんな話は聞いたことがありません。そもそも国を越えて一地域を助ける規模の財を持つ者も、運ぶ伝手もないですし・・・・・」

首をかしげるユリアに、レイラは、半ば宙を見上げつつ思案顔で言葉を続ける。

「例えば、ね。一人ひとりの力は弱くても、みんなで力を合わせてはどうかしら」

「・・・・・みんなの・・・・で、ございますか?」

「そう。さっき、マイクさんの話を聞いてて思ったのよね。こんなこと可笑しいって、思ってる人ってたくさんいるんじゃないかなって。でも自分の力じゃどうすることも出来ないって悲しんでる人。

だけど、例えばさ。

一人の人が用意できるのはパンひとつでも、10人いれば10個。100人いれば100個になるでしょう?荷車だって、ひとつしか用意できなくても、そんな人が集まれば100台になるかもしれない」

「・・・・・それは・・・・」

どこかぼんやりとした瞳で語られるそれは、まるで夢の世界の出来事のようだった。

個人のささやかな善意が誰かの命を救う。

「教会の慈善事業を国を越えた規模でやろうというのですか?」

驚いたようなマイクの声に、レイラはぼんやりとしたまま視線を向ける。

「教会……そうね、教会の炊き出しみたいな……ああ、でも駄目ね。教会では国や地域によって信仰する神様が違ったりするもの。それでは軋轢が起きてしまうわ。何か……だれか………たくさんの人に慕われて、国を越えた影響力もある人………」

つぶやき考え込むレイラに、残された二人は顔を見合わせた。

「レイラ様はどうされたんでしょう。こんな事はよくあるのですか?」

不安そうな顔を向けられ、ユリアは困ったように首を傾げた。

「ごくたまに昔の記憶を思い出そうとされるときに似たような状況はありましたけれど、ここまでは・・・・」

ついには目を閉じてしまったレイラだがその口元が何かをつぶやいている様子で眠ってしまったわけではないのが分かる。

指先も何かをたどるようにかすかに動いていた。

「まるで瞑想をしているようですね。それか何かの神託を受ける巫女のような・・・・・」

その様子に、マイクが小さく囁いた。

なぜか大声を出すのがはばかられたのだ。

今、レイラの邪魔をするべきではないと、なぜかそう感じた。

どれほどの時間、息を殺してレイラを見守っていただろう。

それは途方もなく長い時間のようにも、一瞬の刹那のようにも感じた。

唐突にパチリと目を開けたレイラは、息を吹き返したかのように大きく深呼吸をすると、真剣な顔で宣言した。

「ババ様に手紙を書くわ。誰か、お使いをしてくれる人を探してもらえるかしら」

「・・・・・・ババ様、ですか?」

「それはいったい?」

困惑気味に首をかしげる二人に、レイラがなんで伝わらないのかと不思議そうに首を傾げた。

「森のババ様よ。私に薬のことを教えてくれたお師匠様でもあるの。ババ様なら、きっとこの状況を助けてくれると思う。”最後の願い”を使うわ」

まるで何よりも大切なことを告げるかのようにキッパリと言い切ると、レイラは席を立った。

「便箋とインクを用意しなくちゃ。紙は何でもいいの。ただし、インクはダメ。決まりがあるのよ。材料を取りに森に行くわ。多分、昼過ぎには戻るから、大鍋にお湯を用意してくれると嬉しい。それから、出来るだけ早く王妃様に会えるように手配をお願い。じゃあ、行ってくるわね」

まるで嵐のように早口で言い切ると、レイラは止める間もなくバルコニーから外へと飛び出して行ってしまった。それでもちゃんと採取籠とマントを掴んでいったのはさすがというべきだろうか。

最も、残された方は、訳が分からず立ち尽くすのみだったが・・・・・。

「森のババ様って、分りますか?」

「レイラ様は生まれたばかりの時、森の別荘の番人一家に預けられて、そこでお育ちになられたと聞いたことがあります。その一家の祖母が薬師でその方に師事していた、と。

なので、おそらく生国アルライドにある森へと、手紙を届けてほしいのだと思いますが・・・・・」

この国に来たばかりの頃に聞いた記憶をたどりながら、ユリアも自信なさそうに答える。

何しろ、明日のことを考えるのに精いっぱいの時期だったため、思い出話をゆっくり聞いている時間も少なかったのだ。

老婆の話も、なぜそんなに薬草に詳しいのかと尋ねた時に作業の片手間に話してくれた知識だった。

「アルライドですか。今回問題を起こしたイルジルとは反対方向にある国ですから、影響は少ないでしょうし、それほど苦労なく国境は越えれると思いますが・・・・・遠いですね」

国を一つ越えた先にある小国で、馬を乗り継いで走らせたとしても1か月はかかるだろう。

それも、何の問題もなくたどり着けたとしての話であり、実際は、山賊や獣の対策など心配は尽きない。

そんな長距離の強行軍を耐えられるのは、国の騎士くらいではないだろうか。

「それを含めての王妃様の面会かもしれませんね。とりあえず行ってきます。マイクさんはどうされますか?」

「・・・・・乗り掛かった舟ですし、今後どうなるかも気になります。できることがあるようなら、しばらくは定宿にいますのでご連絡ください」

とっさに応えたのは、何を考えてのことではなかった。

言ってしまってから、らしくない言葉に自分で驚いたほどだ。

だけど、後悔は湧いてこない。

そして、自分の商人としての勘が、きっと面白い事が起こるぞとささやいているのを感じて、マイクは自分の直感を信じることにした。

「いいのですか?」

「もちろんです」

確認の言葉にも目を合わせてはっきりと頷く。

「わかりました。何かあれば頼らせていただきます」

正直、手持ちのカードが少ない中、動いてくれる手駒は喉から手が出るほど欲しいところだ。

それが、長年の付き合いのあるマイクならば、なおのこと。

誰とも知れない少女の手を受け入れ、助けてくれた人物をユリアとて信頼していたのだから。

無言のまま握手を交わすと、二人はそこで分かれ、それぞれに動き出した。