軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

99 紙鎧

リュックサックに虚ろが掛けたのは、本来は目を閉じて瞑想していないと浮かない魔法。

「あっ…」

唐突に今朝の出来事を思い出した僕はリュックサックを肩から降ろした。ふよふよと地面すれすれに浮かぶリュックサック。

「プロテクション」

防御力+1のリュックサックの上におっかなびっくりバランスを取って乗ったら、その勢いですすすっと滑るように進んだ。

ここから、さらに先へ。

「ダブルウィンド」

両手の掌に微弱な風魔法をつけて後ろに翳すと、どんどん加速しだして、地上すれすれをぎゅんぎゅんと疾走りだした。

怖かったので弱めに掛けたのが丁度良かった。

ちなみにこれも僕のオリジナル初級魔法で、トリプルウィンドまで使える。威力は3分の1になるけど、そこはロマンなので。

楽しーい。

苦行の重みから一気に楽しい乗り物に。

今なら素直に言える。リュックサックをくれたお爺さんにありがとうございますと。踏んづけてるのを見られたら怒られるかもだけど。

すれ違う大人がぎょっとした顔で振り返り、子供達は羨望の眼差しで見てくる。

「ちょっと、今のはなに?」

「ママー!あれ欲しい。ねえ買って買って買って!」

男の子が目をキラキラさせて、母親のスカートを引っ張ってる。

「でも、あんな空飛ぶ魔道具なんて見た事ないし」

「欲しいー。ねえ!欲しいー」

ふふっ羨ましいでしょう!

これはどこにも売ってませんが。

ドヤァ……

掌の方向で、右や左に方向転換して、するすると障害物を躱しながら街中を疾走していく。

右よし左よし、ご安全に!

前方に見えた銀ピカの存在が気になる。

どうやら、ピカピカの鎧を着た人がファンサービスで手を振りながら走ってるらしく、ふらふらと右や左に移動して挙動がまるで読めない。

「一度、止まろう」

安全第一だしね。

ところが、ここで完璧だと思えた試作機リュックサック一号の思わぬ欠陥が判明してしまう。

・・・どうしよう。

こ、れ、は、ノーブレーキだったぞ。

うぇぁああ!

止まれないんですけど。どんどん鎧が近付いて来て、このままでは……ぶつかっちゃう!?

慌てて右に避けるっ。

「ちょっなんで同じ方向に来るの!?」

気が合うのか、決め顔で余所見しながら走ってくる人が急に同じ方向に曲がってきた。

ぶっぶっぶつかるぅ。

「痛っぁ」

ピカピカの鎧を着た人とぶつかってしまいリュックサックが地面に刺ささって止まる。ぴえん。

「くそっ。ちゃんと前を見ろ!俺は森林警備隊だぞ。街のこの辺りにオークが出たと聞き、現場に急行しているというのに」

「え?オークなら」

さっき倒したましたけど?

「お前、オークが出た場所を知ってるのか?」

「ぐぇっ。あっちにいました」

首を絞められながら来た方向を指差すと、すごく見下した表情で見てきた。

「つまり無様に逃げてきた訳だな。そんな変な魔道具に乗って。おっと、俺の助けを呼ぶ声が聞こえる!」

「いえ、それはげほっ」

幻聴だと伝えようとしたら、突き飛ばされて咳き込む。

「……行っちゃった」

走り去る銀ピカを呆然と見送ってると、何かキラリと光る物を落した。

「あれ?森林警備隊さん!!何か落しましたよーー」

銀ピカ鎧の一部だろうか、これは僕のせいじゃないよね?恐る恐る近づいて拾いあげようとすると、掌から出ている風のせいで鎧のパーツが転がっていく。なんて事だ。落とし物も拾えないなんて。

「うわわ、待ってよー」

ん?風魔法はそこまで強くないのに。

疑問に思って観察すると、軽すぎる鎧は、紙と木枠に薄い金属が貼り付けられて作られていた。

「……紙?」

何だコレ?

エクスとぶつかった森林警備隊の新人は、町人から緊急討伐依頼を受けて現場へと急行していた。息切れもせずに走る姿を見て、すれ違う町の人達は感嘆の声を漏らす。

その秘密は、紙で出来た軽い鎧にある。

「ふふふ、いい。流石は紙鎧。これは軽い!先輩たちも馬鹿だな。どうせ街から出ないなら、ずっと紙鎧でいいのに」

ここ最近。

平和で見せ場が無いなんて聞いていたから、ここで上手くやれば先輩達を出し抜けるかもしれない。

期待感でぷくっと鼻が膨れる。

なのに、颯爽と駆け付けてヒーロー参上となるはずが、現場で待ち受けていたのは非難の視線だった。

「何やってんだ!遅いぞ、森林警備隊っ」

「そうだ!そうだ!」

「オークはとっくに倒しちまったぞ!」

壊れた店。

これ見よがしに落ちたままの小魔石。

俺の見せ場を奪いやがったのは、いったい誰なんだ?悔しいが、マニュアル通りに手柄に便乗するべく英雄を探す。

「落ち着いてください。小物が入り込んだだけですから!えっと、それでオークはどなたが倒してくれたんですか?森林警備隊を代表して感謝申し上げたい」

居合わせたベテラン冒険者の顔を見ると、気まずそうに顔を反らした。こいつらじゃないのか?

「ちっ、欠陥魔法使いのエクスさんだよ!てめぇらなんかよりよっぽど優秀だ」

不貞腐れ気味に一人の冒険者がゲロった。

「……欠陥だと?たかがオークぐらいで。俺の手柄を奪って何を偉そうに」

しまった!

ここは英雄を讃えて勝ち馬に乗るべきところなのに、嫉妬からミスを犯して被害者感情を逆撫でてしまい被害者のおばちゃんにギロリと睨まれる。

「はあ?たかがオーク!?あんたが遅いから、私の店はそのたかがオークに壊されたのよ!……それに、その鎧はいったい何の冗談?」

「は?俺の輝く鎧に何か文句でも?」

んん?

疑念の視線に誘導されて、自分の鎧を見ると壊れて内側の紙の素材が覗いている。…これは不味い。問題ありまくりだろ!なんで?

あっ、あのガキとぶつかった時だ!

視線が集まる。

良くない意味で。

「え?本当だ。見てみろよ。あいつ、あんなハリボテ鎧で俺らを騙していたなんて。ひくわー」

「森林警備隊って本当に仕事してるのかしら?」

「ひょろい少年より無能なのは証明された」

「待っまってくれ!俺の話を…」

「森林警備隊に真相を確かめないとな」

「隊長の勇者イゼルの銅像を、このまま建てさせて良いのか?」

「きちんと実力を示して貰わねーと納得出来ないな」

「「そうだ!そうだ!俺が文句を言ってやる」」

……終わった。

俺の輝かしい出世ルートが。

(俺は、いったいどこで間違えた?)

こうなってしまっては本部の耳に入るのは防げないだろう。虚栄の象徴である紙鎧の秘密が暴かれてしまい、胃が痛い。