軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

60 門番

執事イエスマンに、出口の門を押さえられているなんて知らないエクスは暢気なものだった。

「あぁ、このクッションいいなぁ」

馬車の座席シートはふわふわしていて気持ちいい。4人乗りらしく、ルカと仲良く横に座って乗っている。贅沢だ。

ルカは街の景色を楽しそうに眺めている。

一旦、門の前で止まった。

ぶるる。

馬は早く行きたいのか不満そうに鼻を鳴らすんだけど、手続きがあるからね。御者さんの声が聞こえた。

「お勤めご苦労さまです。私達3名は、隣町のシープタウンまで3日の予定です」

「あー。お祭りに行かれるんですね。よい旅を!」

なんだか気持ちいい事を言って貰えて

出発進行っ!

門を潜り抜けた時だった。

魔道具の警戒網にかかり、警報が鳴った。

ピーッ!

ひゃっ何事?

僕はルカと顔を見合わせた。

心配そうに長い睫毛を開き、僕を見つめてくるルカの手をぎゅっと握った。警戒して外を見たけど、ここからでは襲ってくるモンスターの影は見えない。

馬車はそのまま進行してるみたいだし。

何かあったのかな?

振り返って門を見ると、騎竜に乗った門番さんが凄い速度で駆けつけてきて、馬車の前に回り込んだ。

「その馬車は、そこで止まれ!」

え!?

鋭い声が響くと、

指示に従い、急停止させられた馬が「ヒィヒィーン!」と嘶く。

「うわわわ」

急停止の反動で、ルカが座席から飛び出しそうになった。

僕に勇気を!

ぐいっと引き寄せて抱き締めていた。

さすが僕なんて思っているとバランスを崩してしまい、ごちんと前の座席で頭をぶつける。痛てて。

「大丈夫?ルカ」

「あ、ありがとう。近いよエクス」

僕は椅子にやられるへっぽこ勇者らしい。

まぁそれでもお姫さまは守れただろうか。

なんだか分からないけど、僕たちの乗っている馬車を取り囲むように人が集まってきた。

外は緊迫した空気。

何かあったのかもしれない。

なにかに巻き込まれた?

御者さんと門番さんの声が聞こえる。

「な、何事ですか?私達は何もやましい事なんて」

「誤作動かも知れないが、この馬車に所属不明の4人目が潜んでいる可能性がある。安全のため確認させてくれないか?全員いったん降りてくれ」

馬車の小窓が開けられて、御者が申し訳なさそうに声を掛けてきた。

「すみません。なぜか検問にかかりました。協力して貰えませんか?」

「ええ、構いませんよ。降りようかルカ」

「うん」

扉を開けると、門番の人が怖い顔をして槍を構えてる。え、えーと。

「君たち、早く降りなさい」

「は、はい」

門番さんに急かされて降りたら、門番さんは誰も乗っていない馬車に槍を向けた。え?

「隠れている4人目に告ぐ。観念して出てこい」

衛兵さんたちも加わり、馬車の下や上を調査していく。凄い。・・・さすがプロだ。誰か潜んでいたなんて僕は全く気付かなかった。

「駄目だ?4人目がどこにも見つからん」

しかし、プロの目を持ってしても見つからないらしい。

「取り逃がしたのかもしれんぞ」

「慌てるな、犯人は息を潜めて、意外と近くに隠れてる可能性が高い」

慌てる若い門番さんをベテラン門番さんが宥めると、落ち着いた様子で僕たちに話しかけてきた。

「ところで、君たちは所属不明の人物に心当たりはないか?」

「所属不明ですか?」

「なんでい。なんでい。さっきから必死に探してるが、その馬車には誰も乗ってねぇぞ。ボンクラが」

うわわっくま吉、言い方。

まぁ、くま吉は異界の目を持っているから、隠れんぼは通用しないのだけど。

カラーン!

槍が地面に落ちる音がした。

音の方を見たら門番の人がびっくりしすぎて槍を落としたらしい。そしてファイティングポーズを取っている。武道家だったの?

「うわっ!?なんだ。ぬ、縫いぐるみが喋ったぞ?ひぃぃぃ」

「あわわわ、ヤバいです隊長」

あー。くま吉が迷惑かけて、ごめんなさい。

不審者を探していたとはいえ、喋る縫いぐるみはやはり不審すぎるよね?

だが、熊はお気に召さないらしい。

「おうおう、俺っちが喋って何か問題あんのかい?いってえ、どういう了見でい!」

「す、すみません門番さん。くま吉、じっとしておこうか。ほら、お仕事を邪魔しちゃ駄目だよ」

「離せ、相棒〜」

僕が慌ててくま吉を掴んで謝ると、衛兵の人が槍を拾って怯えながら、くま吉に穂先を構えた。槍使いに戻った。

「坊や、それはいったい?」

「すみません。くま吉は、虚ろの住人。精霊みたいな者です。危害は加えませんので安心してください」

「この唐変木め。俺っちは悪くな、むぎゅ」

ちょっと黙ろうか?くま吉ちゃん。

「本当に大丈夫なんだな?」

「ええ、くま吉は撫でてやると喜びますよ」

「むむむーー」

これは、お仕置きだよ。

くま吉が、お仕置きから逃れようとばたばたと暴れだした。

門番のおじさんの顔が困惑に変わる。

「いや、遠慮しておこう」

「そうですか」

僕はしょんぼりした。

ほっとするくま吉。

「本部。こちらは2番出口。現地確認した。先程の未登録は喋る精霊だと思われる」

『了解、通常業務へ戻れ』

門番さんは魔道具でどこかへと報告したみたいだ。

「協力感謝する。よい旅を!」

「はいっ」

こうして証明書を持っていないため魔道具に感知された所属不明のエクスは、本人は無自覚なまま高度なトリックを使い、執事イエスマンの監視を出し抜いて脱出に成功。

3日間の旅行へと出掛けたのであった。

「相棒、さっきのは酷いぞ」

「ええー。門番さんを邪魔したくま吉が悪いんだぞ」

「ねぇエクス。さっきのは何か変だったような?」

くま吉が、びたびたと太ももを叩いてくる。

ルカは何かを悩んでるみたい?

「どうしたの?」

「まぁ何でもいいわ。貴方と一緒なら」

考える事をやめたのか、ふふっと微笑んだ。

戯れてくるくま吉と低次元な争いをしながら、馬車は再び進みだした。

おおっこれが、馬車旅か。

歩くよりずっと早く着けそうだ。