軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27 落日のギルド5

エクス達の甘ったるい空気とは対照的に、ギルマスと受付嬢の間には、帰り道ずっと険悪なムードが漂っていた。

それは別れ際にギルマスが発した『すまない、エクスさん。身を引かせて頂きますっ!』という意味不明な発言のせいだ。

もちろんこれに納得いかない受付嬢は、ついに不満を抑えきれなくなり、人差し指を突き付けて激しく糾弾し始めた。

「ギルマス!さっきの腑抜けた会話はいったい何なんですか!」

「そ、それは、だな」

実は、ギルマスはエクスが街から出ていくと子爵に処罰されてしまうという裏事情があった。

尤も執事イエスマンより預かった大金(金貨11枚)を既に使い込んでしまっているのが原因なのだが。

それを知らない受付嬢には、ギルマスの不可解な行動が理解出来ない。

「確かに、エクスさんとの交渉は絶望的でした。ですが、私達も次の街まで追いかけていく熱意を見せれば、まだチャンスはあったのに!」

だから、次の街に行った時点で私の命はアウトなんだとギルマスは不穏な事を言い出す受付嬢を必死で止める。

「駄目だっ!エクス君を我々のせいで他の街に追いやる事など出来ん」

つまり、エクスから無自覚に放たれた「出ていきます!」という一手は、ギルマスにとって致命の一撃だった。

期せずして、まるでエクスを思いやったような発言になり、奇跡的に受付嬢の会話と噛み合う。

「たしかに、そうですが?」

「心配するな。私にはまだ秘策がある」

交渉という平和的な手段が無くなった以上、ろくな方法でない事だけは確かだ。

「秘策ですか?」

「あぁ、この件は現時点を以て君から私へと責任が移る。君はもう悩まなくていい」

受付嬢がトーンダウン。

「は、はい」

「それよりも君の役目は、冒険者達に3日だけ待って貰うように説得する事だ。出来るね?」

微笑むギルマス。

「分かりました。私もエクスさんが帰ってくるまでに女を磨かないといけませんし」

「頼んだぞ」

ご機嫌にスキップしだした受付嬢を見送ると、ギルマスは足早に倉庫の中を歩き回り足を止めたのは、太い柱の前だった。

「・・・ついに、使う時が来たか」

きょろきょろと人がいない事を確認すると、すっと柱の中にある隠し部屋にギルマスが消えた。

「欠陥魔法使い如きに使うのは勿体無いが、私の身の安全には変えられんからな」

その部屋に一つだけある宝箱を開けると中にあった、怪しげな黒い瘴気を放つ指輪を取る。

これこそが彼の秘策!

【隷属の指輪】

装着者の全能力を1段階下げる。

装着者の心エネルギーを吸収。

装着者は念話を強制受信。

装着者は外せない。

「ふふふ。隷属の指輪だ。説得が無理なら強制すればいいだけ。エクスー、私の提案に満足せず欲を出した事を生涯後悔したまえ」

ギルマスはニヤニヤと笑いながら、魔道具と一緒に入った鑑定紙を読みだしたが、だんだんと表情が歪んできてついに鑑定紙を握り潰した。

「クソっ。なんて事だ!・・・全能力を1段階下げるだと?隷属の指輪を、初級魔法しか使えぬエクスに使ったら、魔法が使えなくなるではないかっ!?」

思わぬ一文を発見して歯噛みする。

これに期待していただけにショックもでかい。

今までエクスに対して、初級魔法しか使えない事をさんざん馬鹿にしてきたが。まさかその事を逆手に取られて自分が苦しめられるとは!?

「なぜ?お前は初級魔法しか使えないのだ!エクスーー、せめて中級くらい覚えとけ」

魔導師に詳しくないギルマスは、エクスが覚えていた上級魔法を自ら捨てた事など知る由もない。

教えてあげたら、もっと怒るものと思われる。

「ぬぐぅぅぅ。あんっの!初級魔法使いがっ!ようやくギルマスまで登りつめたのに、あんなのに躓くとはっ!」

怒りに任せて壁を叩いた。

思いの外、痛かったらしくその顔は苦痛に歪む。

頼みの綱であった隷属の指輪を、斜め下の方向でエクスに無意味化された事により、依頼失敗が確定した。

ギルマスは頭を掻きむしる。

「依頼は失敗だ。返金出来ないから子爵から逃げないと命が無い。しかし、逃げるのにも金がいる。なのに手元には、金が。金がない」

1日前にうっかり新築を購入したのは、人生最大の失敗だろう。完成していない家は現金化する事すら出来ない。

金が、金が欲しいっ!

無いと死ぬから。

「はぁぁぁ・・エクスぅーーー。お前が金貨11枚をプレゼントしてくれなければ、豪邸なんて私は建てなかったのにいいい」

ちょっと意味が分からないが、彼の中ではそうなのだろう。

ついには青ざめる。

これから起きる断罪イベントに震えていたギルマスだったが、ピタリと動きが止まると、暗い笑いをした。

「ん?待てよ。ふふふ」

閃いたのだ!

九死に一生の一手が!

逃走資金が見つかった。

「金ならあるじゃないか」

血走った目のギルマスが開いた扉は、あろうことか、ギルド金庫だった。中に詰まった眩い大量の銀貨が鏡のようになり、醜い豚顔が映る。

「さすが私だ。これで、やり直せるっ!なに、冒険者諸君も私のためなら文句は言うまい」

仲間の金を躊躇いなく鞄に詰めて、金になりそうなアイテムもついでに放り込んでいく。

「おっと、これも持って行くか」

最後に隷属の指輪をバッグに追加。

指輪から、暗い瘴気が絡み付くように立ち昇った。

机にバサッと地図を広げて、逃走ルートを検討。

「門は駄目だ。私は有名人だから捕縛される恐れがあるからな。大森林の脇を抜けて街道に入るべきか。よし、これで行こう」

薄暗い夜を歩く。

生ぬるい風が頬を撫でる。

森に入ると、濃密な木の香りがした。

マナが満ちている。

パリパリと、森の中を横一文字に走った蒼い光が目に焼き付いた。

「なんだ?今のは。噂の新型結界だろうか」

結界はたしか魔物にのみ効果があったはずだ。

遠くで魔物の遠吠えが聴こえる。

「まぁいい。非常に業腹ではあるが、ここは引いて私は必ず再起する。エクス、覚えておけよっ!」

こうして、ギルマスはギルドの共用金を持って街を脱出。逃避行が始まった!