軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

202 馬車旅1

揺れる馬車の客室でルカの心配そうな顔を見て、こんな時に自分が二人いればと思う。

「あ! そうか分身すればいいんだ」

「どうしたんでい」

「大魔導師エクスが奇跡を起こしましょう」

もちろん初級魔法に分身なんてないけど、僕はステージ3の魔術師だから自分の体の中に棲まう相棒をひっぱりだせばいいだけ。

体の奥からきゅぽんと引っ張り出すと、眠ってたのかこてんと首を傾げて可愛い。

「あのさ、お願いがあるんだけど。クイーンをエスコートして欲しいけど出来る?集合場所はドワーフ王国」

「うん!できるよ。まかせて」

「よろしく」

頼もしくひょいっと馬車から飛び降り、したしたと走る背中を見送る。

「ルカ、これで大丈夫だよ。旅の荷物に悩み事はいらないから」

「エクス!」

浮かれたルカが嬉しそうに頭をぐりぐりしてきてちょっと照れる。

夕暮れの門を潜り抜けフォレストエンドを飛び出し、向かうはドワーフ王国。

いきなり決めた旅だけどわくわくしてきた。

「楽しいね、エクス」

「うん」

今回はちょっと長い旅行になりそうだ。

馬車は、本気の徒歩に負ける乗り物なので何日かかりそう。

陽が落ちると少し冷えてきた。

「へくちゅ」

「ファイヤーエンチャント、ウインド、アイスボール、ウインド、ライト」

ちょっと気づくのが遅れたけどあっという間に快適空間の完成!

「ありがと。気が利くじゃない」

「どういたしまして、お嬢様」

頭に涼しい微風をあてながら足元はぽかぽかでクッションふわふわでとても快適。

ルカもご機嫌、あれ斜め?

「でも、一つの毛布で温め合うのも憧れてた」

「毛布あるよ?いる?」

残念な顔でふるふると首を横に振られ、くま吉には肩を叩かれた。

「そういうところだぞ相棒」

「どういう意味?」

「それはだなぁ、そのなんだ。あれでい。主、なんだっけかなぁ」

ちょっと安心。

ルカの出すクイズは僕らにはちょっと難しいと思ってたら、筒を2本アイテムポーチから出してきた。

「これは?」

「御者さんにもあげて」

「うん! 喜ぶと思う」

同じ魔法をかけて前の窓を開けて半身を乗り出す。

うひょー、向かい風が寒いっ。

「休憩ですか?エクスさん」

「いえ、これをどうぞ」

「これは?」

「温かい風と冷たい風が出ます。体温調節に使ってください」

「うおっ!?す、凄いですね」

「どうぞ」

「ありがとうございます!エクス様」

乗り出した半身をぐねぐね動かしながら客室へ戻る。

「よいしょっと」

「おかえりエクス」

にこにこルカにお出迎えされて心が安らぐ。

「あああああああ、なんだ?この魔道具は!このような奇跡があるとは。気持ちEEEーーーー!!!!!」

ヒヒィーン。

「ひゃう」

「うるさいから閉めようか」

歓喜が限界突破してしまった御者さんの声を窓を閉めてシャットアウト。

「エクス!あの人、凄い喜んでる」

「さすがだぜ相棒」

「あそこまで喜んでくれるとちょっと嬉しいかな」

楽しそうにはしゃぐ二人を見てなんだか気持ちがぽかぽか。

完全に陽が沈み外が暗くなってきた。

ホーホーホー。

キングオウルの鳴き声がガラガラという車輪の音に混ざり、静寂さが気持ちいい。

「ねえエクス。今度は私が魔法を見せる番」

「何やるの?楽しみ」

妖艶に笑うルカが馬車の中で立った。

背が高いと立てないらしい。

僕は余裕で立てるしジャンプまで出来る。

「明かりを消して」

「うん」

きゅっと固く蓋をしてライトを消すとルカの顔が見えなくなった。

「私の命題は布と相性がいいの」

「そうなんだ。何か出すの?」

首を横に振ってるような気がするけど、ごめん暗くてよく見えない。

「幌は布で出来てるの」

「そう言われればそうだね」

上を見上げると幌のせいで真っ暗。

「星を浴びましょう。シースルー、キルト」

「うわっ」

星が降ってきた。

突然暗闇が割れ、視界いっぱいに広がる輝く夜空。

それでいてふわふわした揺れるクッションを背中とお尻に感じながら、空調の効いた快適な部屋にいる非日常感に感覚がバグりそう。

骨組みだけ残し透明になった幌。

「凄い!凄いよルカ!」

「ふふっ」

「相棒、お楽しみはこれからだぜ」

「まだあるの!?」

駄目だ。想像がつかない。

魔法の光?

でもそんなの野暮だし。

「さぁ遊びましょう。もう寂しくないわ。ドール、レイン」

「うわっ!あぷぷ」

空から大量の柔らか縫いぐるみがどさどさ降ってきた。

生き埋めになる僕。

慌てて足をじたばたして縫いぐるみの海を泳ぎ水面?に顔を出す。

「ぷはっ」

見上げれば縫いぐるみの海に立ったルカが、星の光を浴びて銀の髪が艶やかに輝いていた。

ふわふわと踊るように近づいてきて、恋愛の女神フィーネのように笑いながら差し出された白磁のようなひんやりした手は僕を引き上げる。

「ひゃっほーう。最高だぜぇぇぇ!」

くま吉がごろごろ縫いぐるみの上を転がっていて、思わず二人して笑ってしまった。

「僕らも寝よう」

「ええ」

背中に沈み込むような柔らかさ。

スライム枕とはまた違った弾力が気持ちいい。

ゆっくりと星空が流れていく。

「凄いね!ルカ」

「わたしもエクスが隣にいて良かった」

仰向けになってルカの冷たい手を握り、仲良く浴びる流れる星天は生涯忘れらない景色になりそうだ。