軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

136 ハイエルフのエリーゼ1

すやすやと寝ていたエクスの呼吸が不規則になり、忘れたい記憶が蘇る。

『エリーゼ、僕は貴女が好きでした。期待に応えられなくてごめんなさい』

効果時間延長の真価に気付いていれば黙って身を引かなくて良かったのかな。

ぐるぐると考えは巡るが、悪夢は過去の再生にすぎず何も変わらない。

裏切りの魔導師は。

うなされながらあの日の悪夢を見ていた。

◇◆◇◆◇

なぜこんな夢を見たかというと、ハイエルフの師匠エリーゼが《赤の森》で旅支度を済ませたからだろう。

「ロンロンー!置いて行くわよ」

「待って、エリーゼ」

「エクス、師匠に魔法を掛けて黙って出ていくなんてお仕置き決定かな」

状況が分からないから少し時を戻そう、なに僅か4日ほどだ。

一陣の風が吹き、一年中赤い深紅の葉が舞い散る。

ゆったりと銀の空魚が空を泳ぐ幻想的な《赤の森》のツリーハウス群のベッドの上に、透明さを帯びた肌に煌めく銀髪の現実離れした美女エリーゼが寝ていた。

世話をしている牛族のような爆乳のロンロンが体を揺するが。

「ねえ、エリーゼ。寂しいよー。いいかげんに起きて」

「……」

死んでいるかのように起きない。

あの日から5年と少し。

エクスの師匠であるハイエルフのエリーゼは、延長の魔導師となったエクスに掛けられたスリープをきっかけに眠り続けていた。

「キスをしたら起きるのかな?」

魔が差したロンロンは、気づけば芸術的な美しさの唇に吸い寄せられるように近づくが、ファーストキスの危機に気づいたエリーゼはここでようやく覚醒して必死に抵抗する。

「いただきまーす。はぁはぁ」

「んんんん!ちょ、ちょっとロンロン!何を???近いんだけど」

事情を理解出来ていない受け入れ拒否のエリーゼに、ロンロンは頭をホールドしてぷんぷん怒りながら唇を奪おうと必死に。

「なんでそこで起きるの!エリーゼも実は私の事嫌いなの!?」

「や、め、な、さ、い。このお馬鹿」

エリーゼが勝ったのでロンロンは枕とキスする事に。

「ひどい」

「こっちの台詞よ。友達だって信じてたのに!」

エリーゼの至極まっとうな怒りは、ふらふらと起き上がったロンロンの孤独な闇のような瞳に飲まれた。

「ひどいよ。5年もずーっと寝てたからキスしたら目覚めるかなって思っただけなんだもん」

「5年?」

「うん。エッ君は書き置きを残して旅に出るし、エリーゼは5年も寝たままで、その間、私はずっとひとりぼっち」

「あはは。ちょっと寝過ぎたかな?1人にさせてごめんね」

優しさがざくっとロンロンの爆乳をえぐる。

そう、この女。

友達が少ない。具体的に言うとエリーゼとエクスの2名だけ。

「ひどいよ!」

「おいで~ロンロン」

「うわわん。エリーゼ!寂しかったよ」

両手を広げたエリーゼにロンロンは抱き合うのではなく、爆乳で顔をホールドした。

むにゅっとされながらエリーゼは嫌な顔をする。

そんなんだから貴女はと。

エルフのロンロン。

お馬鹿+爆乳=うざい。

しかしながら自分でもイケるんじゃね?という幻想を抱かせる罪な女は、里の男共の好意を独り占めにし、里の女共の敵意を独り占めしてしまった哀しき二冠嬢王。

なんて可哀想。

俺が友達にと思った男性諸君は惑わされているから注意されたし。

ようやく落ち着いたのか解放されたエリーゼはある事に気づく。

「あれから5年か。え?ちょっと待って! エクスは人間よ」

「うん?」

焦ったエリーゼは本棚に駆け寄り本を取り出した。やはり。

「不味いよロンロン! 人間はすぐおっさんになって死ぬらしいのに」

「えー、エリーゼ心配しすぎ。エッ君は小さいし、まだ5年だよ」

「はぁ、これを見なさい。もう大人になってるかも」

そう言ってエリーゼが出した本の名前は「人間説明書」。なんだこれ、およそエルフしか読まないような珍妙なタイトルは。

「ほ、本当だ」

ようやく事態に気づいて焦り出すお馬鹿なロンロン。

これならもっと早く気づいておけば。

エクスが成長を犠牲にして魔導師になっているなんて知らないエリーゼは焦ったように立ち上がった!

「ロンロン!エクスに会いに行くわよ。今すぐ!いいえ、4日で支度して」

「7日は欲しい!」

「だめ、4日よ」

やはりエルフは時間の感覚がズレている。

速い行動だと思っているようですがエリーゼさん。

まだまだ人間を知りませんね。

ちなみに噂ではハイエルフは伴侶が死ぬと、ショックで10年ぐらい眠ってしまうとか。

樹人は100年なんて言うし、長命種の常識は人間の非常識。

◇◆◇◆◇

悪夢を見続けているのかエクスの額に汗が滲み苦しそうにした。

「ううう…」

「この子はこんなにも抱えてどうしたもんかね」

額ににじんだ汗をおばちゃんはタオルで優しく拭き、ちょっと自慢の胸を押し当ててみると、落ち着いたのか子供のように、すぴぴぴーと寝息をたてた。

「私もまだまだ捨てたもんじゃないね。このまま息子になりなよエクス君。そうだね、起きたら母親らしく親子丼でも作ってあげようじゃないかい」

ふとよからぬ顔になったおばちゃんは、隣の部屋からリィナを抱えてきて同じベッドに放り込んだ。

「リィナ。あんたには私譲りの武器があるんだから、頑張りなさい」

「うみゅー」