軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

128 食事のマナー

「お食事が出来ました」

ライ姉に呼ばれて、食堂へ。

さて、エクス家の夕食の風景を紹介しよう。

ライ姉が給仕をして、ルカが優雅に、僕が庶民的に、ニトラが野性的に食べる。

ちなみに、ライ姉にも一緒のテーブルで食べようと誘ったけどメイドごっこがしたいのか断られてこんな形に。

「御主人様、ぶどうジュースのお代わりはどうですか」

「ありがとう」

ルカの耳がピクリと不機嫌そうに動いた。

「エクス、前から気になってたけど、なんでそんな呼び方させてるの?」

「ええ?強制してないよ」

「奥様。なにか変ですか?」

ルカは貴族のお嬢様だから、本物のメイドを見たことがあるのだろうか。僕もライ姉も実は詳しくなかったりする。

「ええ。ご主人様呼びさせるなんて、変態貴族か娼館ぐらいでしょ」

「うっ、そうなんだ」

「では、なんとお呼びすれば?」

たぶんライ姉が憧れてるメイドは娼館の先輩。それがスラム街から抜け出す1番身近なルートだから。

「知らない。自分で考えて」

「えーと、それならエクスはどう?」

「駄目です。拾って頂いたのに呼び捨てなんて出来ません! ボス、マスター、旦那様、エクスさま、エクスさん、エッくん」

ぶふーっ!

「ひゃうっ」

「危ねえ!主」

「げほっごほっ」

「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

久しぶりに聞いた呼び名のせいでジュース吹いた。5年ぶりかと思いながら、ライ姉から渡されたハンカチで口元を拭う。

「ありがとうライ姉」

ルカの瞳が暗くなった気がした。

咄嗟にカバーに入ったくま吉を汚したから怒っているのかな?事故なんだ。

くいっと紫の液体を再び飲む。家でもジュースを飲めるなんてまるで貴族みたいだ。あぁ、ぶどうジュース美味しい。

「ねえ、エクス。エッくん。さっきのエッくんって、いったい誰が呼んでたのかな?」

「ぶふっ。いきなり、な、何を?·····師匠だけど」

ドキドキと心臓が痛い。

さらに追撃してしまってごめん、くま吉。

よく分からないけどルカから凄い圧を感じるんだ。僕に疚しいところなんて無いはずなのに。

「それで、その師匠はどんな人?」

「す、凄い人だよ」

「美人?」

「·····うん」

あれ?おかしいな、空気が冷える。

「へーそう。何歳?」

「知らない。60歳は確実に超えてると思うけど」

「そうなんだ」

ふわっと春の訪れ。

ルカから負のオーラが消えた。

僕の師匠はハイエルフのエリーゼ。初恋の人。完璧な美を備えた歳を取らない種族。これは、黙っていた方がいいかも。

「えっと、それよりルカに相談があるんだけど」

「何?」

なんだか嬉しそう。

「セーラさんが自動車の試作を作る助手が欲しいってお願いしてきたんだ。誰か知らない?」

「自動車! そうね。アミンを頼りましょう。任せて」

おっと、相手は女王様だよ?さすがルカ。

「ありがとう」

「他にはないの?」

わくわくした視線。お願いされるのが好きなのだろうか。

「定食屋の店長が、冒険者が依頼を受けないから新鮮な食材が手に入らないってボヤいてた。だから明日は森に採りに行こうかと思うけど野草の知識が無くて困ってる」

「なんで言わないの?一緒に行ってあげるのに」

「おうよ、相棒。任せとけ」

ううーん。嬉しいけど。

「でも、食材が生えてるらしい森の浅い場所は、スタンピードの防衛拠点を作るとかで、いっぱい冒険者とスラムの人達が入ってるかも」

あっ、ルカが黙った。

「では、奥様。私が代わりについて行きます」

「ニトラもがんばる」

ルカが寂しそう。

「えっと、明日は皆で森の奥まで入ろうか?それならルカも来れるし」

ぱああと表情が明るくなった。

正解だったかな。

「ありがとうエクス。私に任せなさい」

「へっ男を見せるじゃねえか相棒!」

少し気がかりなのは森の奥に入るには、火力が不安なところ。そうだ!

「そういえばさ、セーラさんから雷剣の簡単な作り方を教えて貰ったんだ」

「え?あれって遺失魔道具よね」

「それが、刀身に僕のスタンをかけて、鞘を絶縁体で作ればいいだけだって。簡単でしょ」

「絶縁体?」

「この世には電気を防ぐ素材があるんだ。ラバーっていうそうだよ」

「そうなんだ。知らなかった。やるじゃない」

「でも絶賛したら、本人は微妙な顔してた」

「バカね。エクスの初級魔法に心酔してるくせに、自分の初歩知識を褒められて素直に受け取れないなんて」

ルカなりに褒めてるのかな?

優雅に背筋を伸ばしたルカのナイフが光り、まるでオーケストラのように食事が再開された。同じ食事をしてるとは思えない洗練された美しさ。

少し自分の作法が恥ずかしくなってニトラを見ると、手掴みで汚れた指先をぺろぺろしながら美味しそうに食べていた。不思議とその所作は汚いはずなのに不快感は無い。

「ニトラはフォークを使わないの?」

「なんで?手づかみのほうがおいしいよ」

それはちょっと衝撃的な発言で、曇りなく笑うニトラの食べ方を見てなぜかゴクリと喉がなった。

「そんな事より、主~」

「なあに?クレイジーベア」

水玉模様のくま吉が何か言いたそう。

「俺っちは汚れちまった」

「あわわ」

そうだった、ごめん。

ルカとライ姉に甲斐甲斐しく拭かれてるハーレムなくま吉様を横目に、無意識にニトラの真似をして肉を手づかみで頬張ってみた。

「美味っ」

食材の温かみと触感が脳髄にガツンと響き、指先をしゃぶる感覚が面白い。ニトラの言っていた意味が分かり疑問が解けていく。

これは新発見!

そんな感動を邪魔するかのように、つつーっと手のひらに油が垂れる不快感が。

「うわわ」

「持ち方がちがう?」

ニトラ先生を見ると汚れているのは指先だけ。あれ?簡単そうなのに、この食べ方意外と難しくない?

手がべたべたして気持ち悪い。

くっ、まさか。

ニトラからマナーを教わるなんて。

「クリーン」

心地良い声が、手のベタつきと邪悪な心をしゅわしゅわの泡で浄化していき、スッキリ!

魔法を使ってくれたのは、もちろんルカ。天使のように微笑んでいる。

「ありがとうルカ」

お礼を言うと、すごく嬉しそうに笑ってくま吉を抱きしめた。それを見てなんだか心まで満たされる。

ふーっお腹いっぱいだ。