軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

114 魔王フール2

魔石をいつ落とした?

イゼルはぼんやりと記憶を辿る。

酷く曖昧だ。

いくら腑抜けたとはいえ、ジェネラルオーク如きにここまでの敗走するのか。というかジェネラルオークに遭遇した辺りから妙に状況がちぐはくだ。元請けがあのタイミングで逃げだす?現実的ではない。そうか。

「これは、現実ではないッ!」

白く濁った辻褄の合わない世界。

イゼルは首を振ると目を開き幻惑の世界から抜け出す。

懐を確認すると、その手にはしっかりと持ち込んだ魔石を握っていた。

安堵と同時に得体の知れない恐怖が背中を流れる。

「ぷくく、こいつ。レジストしたよフール」

不愉快な子供のような声の方向を見ると、蹲ったジェネラルオークの上に人が魔王のように座っていた。さっきのは暗いオーラを纏った美丈夫の周りを飛ぶ小さな悪魔の声だったのだろうか。

男が口を開いた。

女とも思ったが、やはり男のようだ。

「見せたのは未来。あのまま狂っていれば楽だったろうに」

「誰だ!何の目的だ?」

疑問が口をついた。

周りの部下達の多くは唸り声を上げて泣きながら意味不明の行動をしていて、どうやら目の前の男に自分も幻惑系の上級魔法を掛けられていたらしい。とにかく時間を稼がなくては。

「私は魔人フール。ゴミを世界から根絶する者なり」

「「魔人!!」」

僅かにレジストした部下達の間に動揺が走る中、イゼルが食い下がる。

「何故だ?元は同じ人間だろ?仲間じゃないのか?そうだ!勇者になっていい暮らしをしないか?私が勇者協会に推薦してやる」

ところがこれが禁句だったらしく、美丈夫の顔が歪む。

さらに傍らの悪魔は、その火を大きく燃やすよう男に空気を吹き込んだ。

「ぷくく、懐かしいね 勇者(フール) 。ああああああ!思い出すよあの濃厚な絶望の味を」

フールの瞳が暗く燃えた。

「勇者?勇者の末路を知っているか?血みどろの果てに魔王を殺した私に国が何をした?政略結婚のためだけに恋人は殺されたのだぞ!死にきれなかった私は、姫からその事実を知らされ国を滅ぼし魔人に成った」

「待ってくれ!そんな過去があったなんて知らなかった。それなら金はどうだ?」

フールの怒りは消えない。

「街に入れないのに金に何の価値が?不愉快だ。のうのうと生きて美味しい思いをしているやつが憎い。何故?魔王を殺した私は恋人を殺されて、少し街を守っただけのお前は大魔導師に認められた!私とお前の違いは何か言ってみろ! エクスぅぅぅーーー」

「怒りの味おいちいいいいい」

不幸を背負わされた者の性なのか、輝く者を見ると無性に苛立つ。

姫様が授けた大魔導師という眩い光に、誘われるようにやってきたらしい。

著しく客観性を欠いているが、狂人の中でそれは正義の行いだった。

そんなフールは重要な事を思い出す。

「そうだ!エクスはなぜ現れない!どこに隠れている?」

その問いに対して反応は二つに割れた。

「それは大魔導師エックス?」

「エクス君?」

エクス君って誰だよ。とフールが呆れる。

「大魔導師の方だ!」

「会ったこともないし街の誰もその姿を見た事がない。空を浮いていたとか馬鹿には見えないとか噂されておる。儂らも新聞で読んだだけだ」

フールは首を捻る。

「どういう事だ?では、エクス君とは何者だ」

「孫請けのエクス君は」

「そんな雑魚の話はしていない!もっと強者だ」

フールが怒気が増し、エバソンが気絶しそうに答える。

「で、でも、エクス君が新型結界も魔物の群れの討伐も全部やってたから」

怒りから驚きへ。

「なん…だと……」

興味を示したのか、ふわりと降りて歩いて近づくフール。

「スティールメモリー」

「あがっ」

そのままエバソンの顔面をアイアンクローするとガクンと白目を剥いた。

どうやら記憶をぐんぐん吸っているようで、エクスを虐めている姿がフールの脳内に再生されていくと、突如はらはらと泣き出した。

「嗚呼、まるで過去の自分のようではないか。可哀そうなエクス。どうやら滅ぼすべきはエクスではなくこの愚かな街のようだ」

「いいね!フール。またスタンピードで恐怖のフルコースが食べたいいいい」

異様な光景に、イゼルの目が光った。

突如、無防備に隙を見せて泣き出した魔人。右手にはドラゴンソード。豪運持ちのイゼルはこれを好機と捉えたのか、暴挙に出る。

「死ねえ!……魔人め」

油断しているフールの心臓へとドラゴンソードを突き立てると安堵の息が漏れた。

ザクっと深く突き刺さった感触に手が震える。

「「おおーっさすが、隊長!」」

「ていっ!」

そこへ副隊長がさらに念を入れて槍を突き刺してきた。

弛緩した空気が流れる。

だが、悪魔はいっこうに消えないどころか魔人も痛がらない。次第に不穏な空気へと変わり静寂に響くのは無慈悲にぱたぱたと響く羽音。

「ぷくく、フール。まずはこいつらの悲鳴を前菜にしよ」

異様な空気にイゼル達は武器を手放して離れた。

単純に抜けなかったからだ。剣を体から生やしたままのフールからは一滴の血も流れないし、それどころか自虐的に嗤って自己紹介をしてくる。

「私の命題は再生。言い遅れたが死ねない。そうだな、全員。ここで全部脱いで貰おうか?」

「えー?フール!こいつら、痛い痛いしながら殺そうよー」

この男、文字通り血の通わない男。

暗く燃える瞳に見つめられ、イゼル達は縮みあがった。