軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第90話 リリィ、ピンチ

(ぽよぽよ、いるかな…………)

翌日、リリィは登校すると急いで自分の机の中を確かめた。帰る時にスライムをそこに収納した為だ。脱走してたらどうしようとリリィは不安でしかたなかったのだ。

「あっ!」

ぽよぽよはリリィの机の中で四角くなって眠っていた。ぴっちりハマっていたので自力では動けなかったのだ。最初こそ焦っていたぽよぽよだったが、持ち前の頭の悪さですっかりリラックスしていた。住めば都という言葉は机の中にも当てはまるらしい。

「んしょ、んしょ…………」

リリィはスライムを机から引っ張り出す。びよーんと伸びてすぽっと抜け出たスライムは、ぱちっと目を覚ますとリリィの手からぴょんと飛び跳ねて床に着地した。

「ぽよぽよ、ごはんだよー」

「?」

リリィはリュックから袋を取り出すと、そこから木の実をひとつ取り出してスライムに差し出した。スライムは木の実に気が付くと勢いよくリリィの手に跳びついた。手のないスライムは顔からいくのがスタンダードスタイルだ。

「あははっ、くすぐったい!」

手ごと食べられたリリィは笑いながらもう片方の手でスライムを撫でる。ひんやりとした手触りについ何度も撫でていると、いつの間にか周りにはクラスメイトが集まっていた。

「リリィちゃん、なにやってるの?」

「えっとね、ぽよぽよのごはんもってきたの!」

「ごはん?」

「ぽよぽよ、きのみたべるってぱぱがいってた」

リリィは袋に入れた木の実をクラスメイトたちに見せる。クラスメイトたちは袋の中を確認すると、揃って口を開いた。

「リリィちゃん、わたしもたべさせていい?」

「おれもやりたい!」

「わ、わたしも……」

「いいよー!」

リリィは一人一人に木の実を手渡していく。受け取ったクラスメイトたちが順番にぽよぽよの前に手を差し出すと、ぽよぽよは突然の御馳走タイムに飛び跳ねながら皆の手の上を移動していく。ブルースライムの朝ごはんとしては木の実一つでも十分だったが、出された分だけ食べてしまうのがスライムという種族である。

(そーだ……!)

リリィはノートを一枚破くと、何かを書き始める。書き終わると、木の実の袋と一緒に教室後方の棚の上に置いた。そこにはこう書いてあった。

【ぽよぽよのごはん きのみをひろったらいれてね】

木の実を皆でシェアしようというリリィの考えだった。この考えは皆に受け入れられ、1年1組の生徒は登下校中しきりに木の実を探すようになったという。

ハイエルフは非常に頭の良い種族である。リリィはすぐに言葉をマスターしたし、魔法陣だって一発で出せるようになった。

だが、頭が良い事と勉強が好きか嫌いかは全くの別問題である。そしてリリィは勉強があまり好きではないようだった。

(べんきょーおもしろくない……りりー、おそとであそびたい……)

エスメラルダ先生による初めてのまともな授業『火魔法初級編』、開始5分のことだった。周りの生徒が初めての魔法に瞳を輝かせる中、リリィは教科書ではなく、意味も無く教室を歩き回るぽよぽよを視線で追いかけていた。ぽよぽよと一緒にお外で遊んだらどんなに楽しいだろう、そう思わずにはいられない。

「────リリィちゃん。火魔法の魔法陣は何色になるかね?」

「!?」

急に名前を呼ばれ飛び跳ねるリリィ。慌てて教科書をめくるが、何を言われたか聞こえてすらいなかった。

「あわわわ…………えーっと、うんと……」

いくら教科書を探しても、質問の答えは見つからない。何を訊かれているのか分からないのだから当然だ。

(どーしよ……きーてなかった……)

リリィは助けを求めるように隣に座るレインに視線を送るが、レインはそれに気が付いた上で教科書から目を動かさない。授業は真面目に聞くもの、と思っているレインにとってリリィは完全に自業自得。助ける気などさらさらなかった。

(いい気味ね。怒られちゃえ)

エスメラルダは困り果てたリリィを見ていやらしい笑みを浮かべる。授業を聞いていない子には容赦しないのがモットーだった。

「リリィちゃん、分からないかい?」

「え、えっと…………りりー、きーてなかった……」

「あらら、それは大変だねえ」

聞いてなかったと白状しても教える気はないエスメラルダ。エスメラルダはリリィが集団生活に慣れていないことをヴァイスから聞いていたので、その辺りもしっかり教育するつもりだったのだ。あの甘やかし具合から察するにその辺りは手付かずだと確信していた。

(…………おや)

エスメラルダはリリィがもう少し反省してから教えるつもりだったのだが、その時教室のどこかから小さな声があがった。

「リリィちゃん、まほうじんの色だよ……!」

「……!」

声の主をきょろきょろと探すリリィ。一人の女子生徒がリリィに小さくピースサインを送っているのに気が付いたリリィは、涙目で頭を下げた。もう少しで泣いてしまうところだった。

(えーっと、ひまほーのまほーじんのいろは…………)

教科書をパラパラとめくるも見つからず、リリィはまた困り果てた。目にはまた涙が浮かぶ。

(あっ……!)

涙がついに零れ落ちそうになったその瞬間、リリィは思い出した。火魔法は一度使ったことがあったと。パパとピクニックに行った時に使った魔法が確か火魔法だった。

あの時の魔法陣の色は────。

「あかいろ!」

「正解。座っていいよリリィちゃん」

はふー、と大きな溜息をついて着席するリリィを見て、エスメラルダは内心安心する。

(どうやら皆と仲良くなれてるみたいだねえ)

リリィは残りの時間、真面目に教科書とにらめっこしていた。エスメラルダの狙いはバッチリハマったと言っていいだろう。