軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第72話 デート開始

「ぶッ──ゴホッゴホッ!?」

俺の言葉にジークリンデは思い切り咳き込んだ。

「お、お前……いきなり何言い出すんだ!?」

「暇なんだろ? ならいいじゃねえか、俺に付き合ってくれよ」

良い提案だと思ったんだが、しかしジークリンデの反応はあまり良くなかった。

「や、でもだな、私制服だし……それに今日は朝バタバタしていたから髪だって……」

さっきまで怒っていたかと思えば今度は急にしおらしくなるジークリンデ。慌ただしく服や髪を直し始めるが、正直おかしな所は見当たらなかった。女性にしか分からない違いというものがあるのかもしれないが、男の俺にはさっぱりだ。

「制服だとマズいのか? なら日を改めるが」

「あ、いや! 大丈夫だ! 行く! ちょっとだけ待ってろ!」

そう言ってジークリンデは姿見の方へダッシュしていく。

数分後、妙にもじもじしたジークリンデが戻ってきた。

「ど、どうだ。おかしい所はないだろうか……?」

そういって、俺の前でじっと身体を縮こまらせるするジークリンデ。

…………やはり、何が変わったか分からなかった。

帝都の街並みは十年経っても全く変わらない。ジークリンデに言わせればかなり変わったらしいんだが、エルフの国やゼニスなど様々な場所を見てきた俺には、魔法学校に通っていた頃と全く同じ顔をした風景がそこにあるように感じられた。例え建っている店が変わったとしても、街の匂いまでは変わらない。

「……こうやって並んで歩いてると昔を思い出すな」

ジークリンデとは上級生で初めて同じクラスになった。

下級生、中級生とお互いにその存在は知ってはいたし(ジークリンデは学力で、俺は実技と総合成績で主席だった)顔を合わせた事も勿論ありはしたが、初めて話したのは同じクラスになってからだったはずだ。きっかけはもう思い出せないが、コイツの性格的に恐らく俺から話しかけたんだろう。

クラスでは「真面目でつまらない奴」と思われていたジークリンデだったが、話してみると案外面白い奴で、いつの間にか放課後はコイツと一緒にいるのが当たり前になってたんだよな。俺みたいなその日の気分で生きてるような奴によく付き合ってくれたよ。

「本当にな……あれからもう十年だ。まさかまたこうやってお前と歩くことになるとは思いもしなかったぞ」

昼間の商業通りは人通りが多く、パッと見渡すだけでも人間、エルフ、獣人、竜人など様々な種族で賑わっていた。人目があるからか、それとも制服を着ているからか、それとも生来の性格によるものか、ジークリンデは硬い表情を崩さす景色を眺めている。傍からは魔法省の役人が巡回に来ているようにしか見えないだろう。その場合、隣を歩く俺は助手か何かだろうか。少なくともデートという雰囲気ではないのは確かだ。

…………そもそもだ。

軽い気持ちでデートという言葉を使ったはいいものの、俺たちの間柄にその言葉が適切なのかどうか、俺ですら分かっていない。デートというのは恋人同士で出掛ける行為を指すからだ。

入学式に母親として参加して貰った以上、ジークリンデにはこれから先、少なくともリリィが独り立ち出来る間は母親役をして貰う事になる。そのこと自体はジークリンデも了承していた。

だが、恐らく俺たちは一つ大きな見落としをしている。

俺も先生に言われてハッとしたが…………ジークリンデにリリィの母親をやって貰うということは────つまり俺とジークリンデは夫婦になるということなんだ。そこをコイツは分かっているんだろうか。入学式でメディチに突っ込まれた時の反応を見るに分かっているようには見えなかったが。

いくら恋愛事に興味がなさそうなジークリンデとはいえ、ハイエルフについて調べる代償として好きでもない男と夫婦扱いされるのは御免被りたいんじゃないか。今日はそこんとこをはっきりさせるいい機会かもしれないな。

俺と夫婦になる事を覚悟の上で、それでもリリィの母親になりたいというのであれば、その時は改めてお願いする事にしよう。

「────お」

記憶と完全に合致する風景を見つけ、思わず足を止める。

「どうしたんだ────ああ」

ジークリンデも俺の視線の先に気が付いたらしい。商業通りの一等地、高級ブランド『ビットネ・アルキュール』本店の向かいにある古ぼけた魔法書専門店。ジークリンデに連れられて度々冷やかしに行った記憶があった。

「懐かしいな。ちょっと入ってみようぜ」

学生時代の俺は勉強にあまり興味がなく、熱心に本棚を見つめるジークリンデの横顔を眺めるくらいしかやることがなかった魔法書店だが……一児の父親になった今、新しい発見があるかもしれない。

「いいのか? お前、昔はいつも暇そうにしていたじゃないか」

言いながらも、ジークリンデは俺の後ろをついてきた。

昼間なのにどこか薄暗い店先に立つと、少し埃っぽい特有の匂いに引っ張り出されるように昔の記憶が噴き出してきた。