軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第15話 取らぬクリスタル・ドラゴンの皮算用

帝都ぶらり旅から帰ってきた俺達は、商業通りで買ったお菓子等を食べながらまったりと過ごしていた。

「リリィ、ちょっといいか?」

「んー?」

名前を呼ぶと、リリィがとてとてと寄ってくる。ほっぺたにはさっきまで食べていたケーキのクリームがついていた。

「パパな、明日ちょっと出かけないといけないんだ」

クリスタル・ドラゴンは帝国領の端、グエナ火山にのみ生息している。普通の方法で移動しようとすれば2日、改造魔法車でも3時間は掛かる。討伐する時間も考えれば、丸1日掛かると思っていたほうが良いだろう。

クリームを拭き取りながら告げると、リリィは涙目になった。

「りりーおるすばん…………?」

「…………そうだ。でもひとりじゃないぞ。ジークリンデおねーちゃんが遊びに来てくれることになってるんだ」

「うー…………」

…………あれ、思ったよりテンション上がってないな。昨日は最終的に結構おしゃべりしてたような気がするんだが。

「りりーもいっちゃだめ…………?」

リリィが瞳に涙を溜めて、上目遣いに見つめてくる。反射的に「いいよ」と言ってしまいそうになるが、今回ばかりは連れて行く訳にはいかない。

「…………ごめんな。今度またお出かけしような」

頭を撫でても、リリィの機嫌は復活しなかった。

その日の夜、折角自分の部屋が出来たというのに、リリィは枕を持って俺の部屋を訪ねてきた。

「…………ぱぱといっしょにねる」

ベッドに入れてやると、リリィは俺の腕を抱き締めながら眠りについたのだった。

「さて、行くか。ジークリンデ、リリィを頼んだぞ」

「任せておけ。夜には私のことをママと呼んでるさ」

「…………あんまり変なことさせるなよ」

自信満々の表情を浮かべているジークリンデとは裏腹に、俺は早くも不安な気持ちになった。

「…………ぱぱいってらっしゃい」

「いってきます。おねーちゃんとなかよくな」

脚に抱きついてきたリリィの頭をそっと撫でてやる。

…………リリィは俺から離れることに不安を感じている。しかし学校が始まればそうも言っていられない。今のうちからこういうことに慣れさせておく必要があった。『俺離れ』というか。

そんな訳で、朝うちを訪ねてきたジークリンデとバトンタッチする形で俺はクリスタル・ドラゴン討伐に出発した。

移動方法はエスメラルダ先生に用意してもらった改造2輪魔法車。普通の魔法車と違うのは、『スピードに制限がない』という所。魔力を込めれば込めるだけスピードが出る。

俺が乗れば、この世で最も速く飛ぶと言われているソニック・ドラゴンよりも速く走るだろう。

俺は先生の店で2輪車を借りると、帝都の門をくぐりアクセルをフルスロットルで回した。

────景色が一瞬で流れていく。魔力を車輪の回転に変換することのみに特化させた鋼鉄の馬が、唸りを上げて草原を疾駆する。

「この感覚、久しぶりだな」

学生時代はジークリンデへの借金を返済する為によく乗り回していた。今はリリィのローブを作るために乗っている。10年あれば人間変わるものだ。当時の俺は、まさか10年後自分に娘が出来ているなんて考えもしなかった。

事故を起こさないように周囲に魔力を張り巡らせながら、俺はクリスタル・ドラゴンの生息地であるグエナ火山へと爆進した。

「…………どうすっかなあ」

道中で考えるのは、クリスタル・ドラゴンの倒し方だ。

まずは昨日調べた情報を整理しよう。分かりやすく魔法省の図鑑形式で思い浮かべてみる。

・名前…………クリスタル・ドラゴン

・種族…………ドラゴン

・大きさ…………10メートルほど

・特徴…………グエナ火山に生息するクリスタルを身に纏うドラゴン。主に鉱物を主食とし、結晶で出来た長角にエネルギーを凝縮させている。身体に散りばめられているクリスタルは魔力を吸収する性質を持ち、魔法による攻撃一切を無効化する。クリスタルの硬度は9。グエナ村では神の使いとして崇められている。帝国の定める討伐難易度は最高ランクのSSS。討伐記録は過去に1度しかなく、それも80年ほど前。アダマンタイトで出来た槍を使用したらしい。

…………魔法省の図書室で得られた情報はこんなところだった。

一応討伐記録があるから倒せなくはないらしいことは分かった。アダマンタイトはこの世に3種類しか無いとされる硬度10の金属だが、その原料、精製方法、全てが謎に包まれている。金を積んで手に入る類のものではなく、よって俺には用意出来ない。物理攻撃で倒すってプランはナシだ。

となると残りは魔法攻撃で倒すってことになるんだが、御存知の通りクリスタル・ドラゴンに魔法攻撃は通用しない。クリスタル・ドラゴンが生成する鉱物には魔力を吸収する性質があるからだ。一攫千金を狙う数多の魔法使いを屠ってきた『魔法使い殺し』の二つ名は伊達ではないだろう。

「…………とはいってもなあ」

その話を聞いても…………俺にはどうしても自分の攻撃が無力化されるビジョンが湧かないのだった。

魔法攻撃を無力化すると言っても、それ俺以外の話だろ? と思ってしまう。

魔力を吸収するとは言え無限に吸収出来る訳がなく、単純な話、クリスタル・ドラゴンの許容量以上の魔力を流し込んでしまえばいいんじゃないか。これまでただの一人も魔法使いがクリスタル・ドラゴンに勝てなかったのは、それが出来る魔法使いがいなかったというだけの話。なら俺がその一人目になってやればいい。

魔法省の図鑑には魔法による討伐記録が追加され、俺は素材が手に入ってハッピー。リリィは最高のローブを身に纏う。まさに良いことづくめ。

さらに、だ。

エスメラルダ先生に聞いた所、クリスタル・ドラゴンの角はなんと杖の素材として最高品質らしい。それを聞いてしまえば、俺にはもうリリィの杖とローブが空を飛んでいるようにしか見えない。

グエナ村で崇められているんだか知らないが、倒しても俺の心は痛まない。俺は善人では無いからだ。

そんな訳で、俺はクリスタル・ドラゴンの事を「まあぶっちゃけ余裕で倒せるだろ」と楽観的に考えていた。

この時は、まだ。