作品タイトル不明
第132話 リリィ、人気者だった
それから、いくつの店を回っただろう。
「リリィちゃんなら、うちでプリン食べていったわよ」
「いい林檎が入ったからな、持たせてやった。皆で食えよ」
「野菜は嫌いって言ってたけど、絶対食べなきゃダメだって言っておいたわ。リュックに色々詰め込んだから、何かに使ってちょうだい」
行く先々でリリィは何かを貰っていた。どういう事情か知らないが、いつの間にかリリィは有名になっていたらしい。リリィがこんなに愛されているなんて全く予想してなかった。
まあ、あんなに可愛いんだ。人気者になるのも頷けるか。
「…………ふふふ」
思わず笑みが漏れ、慌てて引っ込める。今はニヤついてる場合じゃない。
結局、商店街にリリィの姿はなかった。どうやら学校方面へ向かったらしい。だが、勉強嫌いのリリィが休みの日に学校へ行くとは考えづらい。見当がつかないまま、足だけが前に進む。
「くそ……どうする」
道の先には、三叉路がある。
一方は学校方面、もう一方は住宅街。この二択を外せば、発見は一気に難しくなる。だが、どちらかを選ぶ決め手は、今のところ何もない。
答えが出ないまま、選択の瞬間が近付いてきた。角を曲がれば、分かれ道だ。
どっちに向かった、リリィ──
「──ッ!?」
俺は咄嗟に木陰に隠れていた。何故隠れたのかは自分でも分からない。
「良かった……マジで焦ったぞ」
学校へ続く道の方から、リリィが戻ってくるのが見えた。くまたんとぽよぽよも一緒だ。
胸に詰まっていた鉛のような不安が一気に吹き飛んでいく。全身から力が抜け、その場にへたり込みそうになるのをぐっと堪えた。
「それで、リリィは何をやってるんだ……?」
三叉路の真ん中で、リリィはくまたんとぽよぽよに向かって、やけに真剣な表情で何かを説明している。その姿はまるで戦場で兵士を鼓舞する上官だ。問題があるとすれば、肝心の部下に緊張感が全くないことだ。くまたんはゴロンと寝転がって空にお腹を晒しているし、ぽよぽよは疲れているのかその場でべちょっとなっていた。スライムの生態は未だに謎だ。
「……お」
暫く見守っていると、リリィが住宅街の方へ歩き出した。少なくとも、家に帰る気はないらしい。ここで見つけられなかったら、本当に洒落になってなかったな。
連れ戻すことも出来る。出来るが……まあ、もう少しだけ見守ってみるか。リリィがどんな「冒険」をしてるのか、気になってきた。
普段なら透明化の魔法を使って隠れるんだが、あれは一度リリィに見破られかけたことがあるからな。まあ、あんなものがなくても俺の尾行技術なら子供に気付かれることはまずない。
俺は距離を取りつつ、真剣な顔つきで住宅街の道を進んでいくリリィの後を追った。
リリィはこの世の全てが珍しいと言わんばかりに、頻繁に足を止めてはくまたんとぽよぽよに話しかける。道端の石ころ、庭先の花、洗濯物──大人なら視界の端で流してしまうもの一つ一つに、ちゃんとリアクションを返していた。
道中、若い女性が声をかけてきた。怪しい雰囲気はなく、むしろリリィを心配してくれている様子だった。
「……お、一緒に行くのか?」
どうやら女性はリリィに同行することになったらしく、二人は並んで歩き出した。どういう流れでそうなったのかは分からないが、大人が一緒にいてくれるのはありがたい。もしかしたら知り合いなのかもしれないな。
道すがら、リリィはすれ違う人々にぺこりと頭を下げたり、挨拶を返されたりしている。
なるほど──こうやってリリィは知り合いを増やしているのか。自分が同じくらいの歳だった時を考えると、リリィの物怖じしなさは凄い。当時の俺は自分から大人に話しかけるなんて中々出来なかった。
二人と二匹はあてどない足取りで進んでいたが、女性には目的地があったらしく、分かれ道で解散の運びとなった。リリィは女性の背中が見えなくなるまで手を振り、そのままずんずんと先へ進んでいく。一体どこへ向かっているんだろうか。この先に何があるのかは俺も知らないぞ。
住宅ばかりの、代わり映えのない景色がずっと続いていた。「もう二度と来ることはないだろうな」と思わせるような通りだが、リリィにはその一つ一つが新鮮らしく、くまたんやぽよぽよと何やら相談しながら歩いていた。大人には見えない何かが、あいつには見えているのかもしれない。
どれくらい歩いた頃だろうか。
ふと、リリィが足を止めた。
「お……?」
視線の先には少し古びた看板が立っていた。どうやらこの先に小さな公園があるらしい。
リリィはぱっと顔を輝かせると、一気に駆け出した。置いていかれまいと、くまたんが短い足で全力疾走し、ぽよぽよが必死に跳ねて追いかけていく。