軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35話 都会見物にアクシデントはつきものです?

一日経って醜悪な容姿から元のイケメンに戻ったスカルゴは、ケーナ宅にて食事を取るようになった。

勿論招待したのは我等が母ケーナが強引にである。

ルカはまだ面と向かって話す事も出来ないが、徐々に「お兄、ちゃん」と口にするようになっている。

イイ気になったスカルゴはついついクセで【 薔薇は美しく散る(オスカル) 】を発動させかけて、ケーナの睨みに屈して乾いた笑いを浮かべていた。

なにせケーナの【呪装】術である。

ここにいる間だけにでもキーワードを聞き出さないと、歓談中に 何かの拍子(キーワード) で 猪八戒(ブタ) に変わったら目も当てられない。

使者の仕事どころか大司祭としての顔すらも丸潰れである。

「母上殿~! お願いします~」

「さあ?」

朝の拝み倒しから始まるスカルゴ。

パンを千切りながらのケーナは食事を優先させた。

食卓にはとてもファンタジーの中とは思えないブレックファーストが並んでいた。

技能(スキル) には貴重品の砂糖も胡椒もバターでさえも、この世界でありふれた材料から簡単に作れてしまうので、マレールの宿屋で出されたような硬いパンはロクシーヌは作らない。

逆に塩と山羊乳から山程のバターを作り、各家庭へ配った。

その上でロクシーヌさんの美味しいパン教室が開かれ、もうこの村には硬いパンは存在しないと言えるだろう。

いきなり食生活から産業革命である。

パン焼き用専門の釜まで作ったのだから。

「スカルゴ様のそれは自信過剰からの慢心と言えます。頼りきった結果、それ以外での自分の表現を忘れ去った為でしょう。つまりは只の見得、哀れですね」

「ごふっ!!」

この辺りで野生に生える果物、アケビに似た果実を搾ったジュースを口にしたスカルゴにタイミング良くロクシーヌが突っ込んだ。

食卓に巻き散らされそうになった瞬間、ロクシリウスがお盆で壁を作る。

「……きた、ない」

「す、すまないっ」

ジト目のルカに見咎められ、ロクシーヌが差し出したタオルで口を拭いつつ頭を下げる。

それを見ていたケーナが「ぷっ」と噴き出す。

「大丈夫よスカルゴ。あれ一回きりだから、キーワードも設定してないよ。安心して行っておいで」

「おや、ケーナ様にしてはお珍しい?」

「そこまで息子に苦行を施すって、どんな鬼母に認定されてるのよ、私……」

「ふぉ~~~~~」

表情の変わらないロクシーヌのビックリした声に苦い顔で返す。

それだけ聞くとスカルゴは内臓が裏返りそうな溜め息を長~く吐いて、椅子にへにゃへにゃと座りこんだ。

「ここで陛下から任された仕事を失敗するかと思いました……」

「だったら徹頭徹尾真面目にやんなさいよね。城を出てから帰るまで、途中の私でわき見するからよ」

「以後留意いたします……」

楽しそうな顔の母親にたしなめられて、しょんぼりと肩を落としたスカルゴ。

椅子に乗ってケーナの肩越しに手を伸ばしたルカに頭を撫でられ、苦笑する。

「ありがとうございます、ルカ」

「……うん」

「あと、ごちそうさまでした」

「はい、お粗末様です」

ロクシーヌに礼を言って席を立ったスカルゴは、部屋を退出しようとして思い出したように振り返る。

明日の早朝にでも村を発つそうなので、今夜からは打ち合せも兼ねて宿屋で食事をするそうだ。

「そう言えば、マイマイがルカに会いたがってましたよ。陛下から直接指名が無ければ、アレが率先して来ていたでしょうな」

「あー、そっか。伝言ありがと、スカルゴ」

「いいえ、それでは母上殿。また機会がありましたら。ルカも壮健でな」

ひらひらと背中越しに手を振って去る。

優しい目で見送ったケーナは背が見えなくなると、腕組みして考え込んだ。

「ちょっと仲間外れっぽかったか?」

学院に常時居なければならない仕事である限り、村に引き篭もったルカとマイマイが会う機会など早々無いだろう。

あちらが動けないのであれば、此方から動くしかない。

「よしっ」と気合を入れて席を立つと、ロクシリウスに旅の準備を頼んでルカと一緒に家を出た。

目指すは今さっきスカルゴが向かった場所、マレールの宿屋である。

丁度、いつもの農作業前に飯を喰いに来ていた村人達とすれ違い、挨拶を交わして店に入る。

「おはようございます。マレールさん、リットちゃん」

「おや、ケーナじゃないかい。おはようさん」

「おはようございます、ルカちゃん。ケーナおねーちゃん」

「……おは、よう。リット」

親子親子子と挨拶を交わし、カウンターまで近寄ったケーナは「少々相談が」とマレールの手を止めさせた。

訝しげに首を捻る彼女に娘さんを貸して欲しいと頼み込む。

「リットをかい? お酒を作る手伝いでもさせるつもりかい?」

「いいえ。ルカを連れて上の娘に会いに行くつもりなのですが、リットちゃんもどうかな? って。 ほらリットちゃんもこんな機会でもなければ王都に行く事なんて出来ないでしょう。ここはひとつ社会勉強のつもりで、彼女を預けて貰えませんか?」

「ん~~。そうだねえ……」

「お店の手伝いならウチのシィを出しましょうか? それとも無料ビール一樽がいいですか?」

引き合いに出されたリット自身は「え?」と疑問顔で硬直している。

マレールはチラチラと娘とケーナに視線を動かし、真摯な視線に根負けして「はー」と溜め息をついた。

「商売上手だねえ、ケーナはさ。分かった、その条件でウチの娘を預けるよ」

「じゃ、後でロクスに一樽持って行かせますね。それじゃあリットちゃん、お出かけの準備しようね?」

「え? え? ええええええっ!?」

「一緒に、行こう。……王都、楽しい、よ?」

「もう出るのかい、せっかちだねえ……」

「馬車を使いますからねえ。同行者が居ると術でひとっ飛び、って訳にも行きませんし」

ルカがリットの手を引いて奥に引っ込むのを見たマレールはケーナに頭を下げた。

「済まないね、ケーナ。あの子の事をよろしく頼むよ」

「なーに言ってるんですか、マレールさん。私だってあの子にはお世話になりましたし、お友達ですし。出来るのはコレくらいですよ」

「ケーナが来てから、この村も昔に戻ったみたいだよ……」

「随分引っ掻き回してますしねー、村長さんが倒れない程度には」

肩をすくめるケーナにマレールが笑い出した。

何事かと奥から顔を出したガットも理由を聞いて噴き出す。

なけなしの着替えを小さなリュックに詰めて戻ってきたリットとルカは、爆笑する大人達を見て首を傾げた。

出発は午後からになった。

一応ラテムも誘ったのだけれど、未だに前回の件でラックスがお怒りモードだった為、許可が下りなかった。

本人的に言うと生まれはヘルシュペルなので大都市は見慣れているとの事だ。

同行者はロクシリウスで残るのはロクシーヌである。

たまにはロクシーヌを連れ出したいケーナだったが、本人から「誰彼構わず喧嘩を売りますが宜しいですか?」と宣言されたので諦めた。

「あとお願いね、シィ。たぶん戻る前に……」

「分かっております。ヘルシュペルからの荷物の受け取りと、酒類と魔道具の引き渡しですね。 承りましたので、御安心下さい」

「ん、宜しく」

移動は 自動走行(ゴーレム) 馬車をほぼノンストップ(食事時以外)で走らせれば、片道十日の所を四~五日で済む予定だ。

馬車内は広いので四人が雑魚寝をしてもお釣りが来る。

途中から面倒になったケーナが【行軍】まで使ったので、実質四日で到着した。

問題が持ち上がったのは王都に入る前からだ。

何故か王都に出入りする人達からの注目度が半端ない。

流石のケーナでも、前回村に向かう途中にすれ違った旅人達がゴーレム馬車を見て、都市伝説並みの噂話が広まったなど知るよしもない。

エーリネ商隊経由で顔見知りになった馬車預かり所に行って初めて、そこのオヤジさんから聞く事になった。

「な、なるほど……」

「いやー、一時はエラい騒ぎになったっぺよ。貴族の遣いとかがひっきりなしにオラ達ントコ来てな。あの馬車の持ち主教えろってっちゃあ、もうえらい剣幕でよ」

「それはご迷惑をお掛けして済みません」

深々と頭を下げるケーナに対し、オヤジさんは赤黒く日焼けした顔を破顔させた。

「んで、コレさ尋ねられったら答えちゃっていいぺさ?」

「はい、お仕事のご迷惑になるのでしたら私の名前をどんどん出しちゃっていいですよ」

「お貴族様ァ、しつこいってよぉ。ケーナちゃんも気ィ付けた方がよかんべ」

「はい、お気遣いありがとうございます」

そこから宿屋に移動する間に三人の執事に遭遇し、金貨単位での売却を求められた。

学院長並みの術者でないと動かせないと説明してお帰り頂いた。

しつこい者にはロクシリウスから【威圧】や【眼光】が飛ぶ。

「ヤレヤレ、あんなのがひっきりなしに来るんじゃ、ゆっくり休憩もできないねー」

「潰しますか?」

「なにを!?」

事態を重く見ている大人とは対象的に子供達は椅子を窓際まで持って行き、宿屋前のごった返す人混みを面白そうに眺めていた。

どうやらカラフルな 竜人族(ドラゴイド) が珍しいようだ。

「困った時のコネ頼み! ロクスちょっと アレ(・・) 捕まえて来て」

「 アレ(・・) ですね、判りました」

主の意味の通じない発案に即答すると、スタスタと部屋を出て行くロクシリウス。

何を話しているのかさっぱり分からない、ルカとリットは不思議そうな顔をする。

二人の様子に苦笑したケーナは、「どこに行きたいか相談しなさい」と促した。

観光客用に配られる簡略化した王都地図をベッドに広げ、楽しそうに歓談する子供達。

暫くすると空気荷物を背負ったロクシリウスが戻り、見えない何かを床にドサリと落とした。

その際にケーナとアイコンタクトをして、子供達に声を掛ける。

「では、御嬢様方。市場にでも出掛けましょうか?」

「……ケーナ、お母さんは?」

「私はまだ馬車の事を聞きに来る人がいるかもしれないから、今日はここに残るわ。ロクスの言う事を良く聞いて、はぐれないようにね?」

「……ん」

「はい」

部屋を出た子供達の声が遠ざかると、ケーナは部屋の扉に【 鍵掛け(ロック) 】を施してから、ロクシリウスが見えない荷物を置いた所に【 解呪(ディスペル) 】を唱えた。

現れたのは後ろ手に縛られロープでぐるぐる巻きにされた挙げ句、猿轡をされた若い男だった。

どう見てもその辺にいる普通の町民にしか見えないが、ケーナの【サーチ】にはその男性がレベルを持つ者として認識されている。

「ぶはっ! おいおい嬢ちゃん、俺みたいなもんを誘拐しても金はせびれねぇぜ」

「アガイドさんが隠者にお金出すかは疑問ですねぇ」

縛っていたロープを解いたケーナの顔は笑っているが、目は笑っていない表情。

それを見た男は自身が経験した中で最大級の警鐘が脳内に響き渡り、観念して床に腰を下ろした。

「はいはい、降参。要件は何だ?」

「貴族さん達を追い払うのにアガイドさんから貰った紋章出して平気かなーって?」

「あー成る程。嬢ちゃんが心配してんのは侯爵閣下の立場か?」

一介の冒険者と癒着しているとかでアガイドの立場が悪くならないか、と心配するケーナ。

しかし、男からすればしつこい貴族に付きまとわれ、ぷっつんしてとんでもない魔法をぶっ放さないかが心配されていた。

すでにこれについては宰相から国王に報告されて、国から貴族達に早まらないように釘を刺されている。

何を早まらないかが理解されてないが、相手が大司祭の母親だと分かった者達は早々に手を引いた。

危険なのは相手を たかが冒険者(・・・・・・) だとしか考えていない連中だ。

どちらが危険なのは自明の理で。

その辺りの事情を聞かされた彼女の反応は「ふぅん」だ。

呆れ顔の隠者にニタアと黒い笑顔を返したケーナは、愉快そうに告げた。

「つまりそいつらは遠慮無くぶっぱしていいと。報復はドラゴンかクリムゾン・ピグか【 隕石落下(ギガ・ストライク) 】か、どれがいいかなぁ~」

「あんまり王都を壊してくれるなよ……」

苦い顔で言う隠者だが最初の二つは兎も角、最後の単語は何の事か分かっていない。

城なんぞ一撃で粉砕する最悪の攻撃魔法だなんて知る由もないからだ。

今の世の術者が扱おうと思ったらMP不足でHPまで消費して命を喰われるであろう。

彼女が何なのかを知る騎士団長のシャイニングセイバーと、その息子スカルゴの見解から言わせてもらえば敵対しない限り無害である。

放置しておくのが一番と国は考えていた。

「つか俺、どうやって捕まったんだろう?」

「まあ、ロクスだったからねえ これがシィだったら生爪剥がされてた可能性が……あるわな」

「アンタん所の使用人はどーいった職人なんだよっ!?」

何故かぼちぼちと話していたら長年の友人みたいな雰囲気になった。

彼はこの後ココでの会話を宰相に報告に行くらしい。

なんでもケーナの監視は様子見程度くらいには緩くなったと聞かせてくれた。

隠者は窓から気配を消して出て行ったので、鍵を開ける。

入れ替わりにロクシリウスに引率されたルカとリットが戻って来た。

楽しそうに会話する子供達とは対照的に疲れた感じのロクシリウス。

「二人共何か面白い物はあった?」

「全部!」

「う、ん……」

「よかったね~、何か買って来なかったの?」

「……どれ、選べばいい、か。分からな、かった……から」

「ロクスさんがあめ玉買ってくれたの」

難しい顔のルカと、ポケットから小さい紙包みを取り出してケーナに見せるリット。

中にはベッコウ飴に似た、丸い琥珀色の飴が並んでいた。

「ロクスは疲れた顔してっけど、どうしたの?」

「貴族の遣いと誤解を受けまして、市場の者から敵視されました。あとスリが多いですね」

「ああー、服装がまずかったかぁ。次は冒険者風とかどう?」

「次は是非ともケーナ様もご同行下さい」

ちゃかす感じの会話に、聞いていたルカとリットも服裾を引いて、一緒に行こうとアピールする。

「明日は朝からみんなで出掛けよう」と約束して二人を撫でる。

夕食前だから飴はひとつだけと言われたリットとルカは、紙包みを開いて中身を半分こしてから好きな大きさの飴を思い思いに口に含んでいた。

それをにこやかに見ていたケーナとロクシリウスは子供達に聞こえない小声で短い会話をする。

『なにやら此方を伺う視線が有りましたね。数は一かニ』

『暴挙にでる 貴族(ヤツ) は居るらしいから、先ずはその手下から殲滅かなあ』

『了解致しました』

「その飴が終わったら下降りてご飯にするわよ」

「はーい」

「……うん」

その晩、日付が変わろうとしている時刻。

元廃屋界隈、今は一晩で廃屋が城に化けてしまい昼間は市場に次いで二番目に人が多い場所だ。 夜は少しの篝火と兵隊の詰め所ぐらいしか 人気(ひとけ) がない。

そこと住宅地の中間地点はまだボロいながらも人が住んでたり住んでなかったりする、いわゆるスラムっぽくなっていた。

かつては大商人が建てたと言われ、栄華を誇っていた時には三階層の御殿だった家。

今や半分は倒壊し見る影もない。

その地下室で獣油のちっぽけな灯火の光源の中、数人の男達がかくかくしかじかと悪巧みをしていた。

「それでその冒険者の娘を攫って脅迫する ハズ(・・) だったんだが……。肝心の人質はどうした?」

訂正、既に暗礁に乗り上げていた。

「そ、それが横合いからかっさらうつもりだったんですが、全員失敗しやした」

「何やってんだテメェら! 依頼はもう受けちまってんだぞ! 期日は明日だってんだろうが!!」

顔の半分に深い傷痕を残す強面の男、フェルスケイロにおけるアンダーグラウンドの一角を担う『渇きの蠍』のお頭は不甲斐ない部下を一喝した。

……が、少ない光源の中、そこに集まる面々を見渡して苦い顔になる。 明らかに招集した人数より足りない。

「他の奴等はどうした?」

「そ、それが……」

下っ端を纏める隊長の位置にいる男は強張った顔で昼間の信じられない出来事を語った。

手始めに肩がぶつかったフリから脅迫に繋げる古典的な手口を使った三人は、見習い執事のような猫少年に全身の関節を外されて地面に這いつくばるだけの蛸人間と化した。

二段階作戦でスキを見て子供を攫う係りが二名控えていたが、雲一つない空から降り注いだ落雷によって別室で唸るだけの重傷患者に。

詐欺の手口は界隈一だという優男は、顎の骨を砕かれて歯も全部折られた醜い容姿に。

スリ職人で仲間一のベテランは両腕の骨を砕かれ、その場の稼ぎを全て暴露されて衛兵にしょっぴかれてしまった。

その他にもお頭の逆鱗に触れるのが怖くて果敢にアタックした者は全員が手足か顎や鼻を折られるなど、体の何処かをことごとくブチ壊され再起不能になっている。

聞かされたお頭と幹部二名の顔はどんどん青くなっていく。

「おいなんだその執事は……。悪魔か?」

「大の大人が揃っていて小僧一人に手も足も出ないのかッ!」

出るわけが無い。

今現在で言うならばこの王都で二番目にレベルの高い人物である。

レベル一桁程度のチンピラなど箸にも棒にも掛からない、只の雑魚以下だ。

『ク、カカカカッ、小僧共ガ馬鹿ナ所業ヲシタノウ』

いきなり誰の物でも無い第三者の声が暗闇に響き渡った。

嗄(しわが) れた老人のモノだ、同時に足を地面に縫い止められたように体が芯から凍ったようになる。

そこに居た四人の荒くれ者は氷原に取り残された遭難者みたいにガチガチと震え出した。

覚えの無い体感に、 声だけ(・・・) で本能がこの世の恐怖を警告する。

なんとか動く眼球だけで声の聞こえてきた方を見ると、ソコには地下室の暗闇より尚、 昏(くら) い闇がそこにあった。

闇は人の形をしていて、首の無い人の体を形作っていた。

暗闇と昏闇の違いがソレを一際浮き彫りにさせている、肌は人のモノではなくそれ自体が樹皮で、樹が人なのか人が樹なのか。

右胸に当たる部分に 虚(うろ) が有り、 魄磁器(はくじき) の頭蓋骨が鎮座していた。

双眸には白い瞳の黒い眼球が嵌まっている。

何時出現したのか、何時から居るのか、それは自然に男達の直ぐ脇に居た。

「……………………」

何かを言おうとした男達は口を開こうとしたが全て言葉にならなかった。

只、顎が震えてガチガチガチと言う四重奏を奏でるだけでしかない。

コレはなんなのか? 何をもたらすのか? 自分達はどうなるのか? 何ひとつ話す事も動く事も敵わない。

『オ主達ノ放ツ臭イ強欲ノセイヨ、ソレニ釣ラレ出テ来タダケジャ。ナニ心配スル事モナイ、命マデハ奪ウナト 盟主(アルジ) ヨリ言ワテオル。ン? 儂ガ何者ナノカ気ニナルノカ?』

聞きたい事を勝手に答えてくれる。

脳味噌を人では無い手で撫でられた様におぞましさは残っていた。

しかし、化け物の名を聞けばこの先は破滅しか残らないのではないだろうか。

疑問は尽き無いが自分自身の自由も無く。 そして最期の希望は 潰(つい) える。

『儂ハ五大公ガヒトリ【イグズデュキズ】ヨ。 最近ノ若イ者ハ知ラヌ者ガ多イ 故(ユエ) 、聞キ流セバ 好(ヨ) イゾ』

…………聞き逃せなかった。

御伽噺の闇の使徒。

物心付く頃に母親に聞かされる、暗い昏い夜を支配する悪魔。

誰もが恐れ震え絶望する逃れえぬ闇の代名詞。

最期に男達が見たものは、全てを覆う絶望の暗黒だった。