軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13.

明日になれば、エミリアの気分も落ち着いているだろうか。

メアリから就寝前のハーブティーを受け取りながら、ジュリエットはぼんやりと、近頃のことを考えていた。

――浮かれていたのかもしれない。

オスカーのリデルに対する想いや後悔を知り、彼と共に過ごす日々の中で、自分でも無意識のうちに、かつて叶わなかった恋をやり直せるような気がしていた。

オスカーと視線が合うだけで頬を熱くし、胸の奥に乙女らしい小さなときめきを覚えて。

そんな風だから、エミリアがそんなジュリエットを見てどう思うかなんて、考えもしなかった。

(誰より大切な、娘のことなのに……)

せっかく近くにいられる機会を与えられたのに、それを十分に生かせない自分に対し、自己嫌悪に落ち込んでしまう。

「お嬢さまは、エミリアさまのことが本当に大切なのですね」

ハーブティーを飲む様子をじっと見つめていたメアリが、突然そう呟く。

「え……」

「誰かと喧嘩して、そんな風に傷ついたお嬢さまを見るのは初めてのことです。酷いお顔ですよ」

あんまりな表現だと思ったが、化粧台から取り出した手鏡をかざされ、ジュリエットは納得した。

なるほど、これは確かに酷い。まるで世界が終わるような顔をしている。

「だって……わたしが悪いの。エミリアさまの気持ちも考えずに、自分のことばかりで……」

「そんなの、普通の人間なら当たり前じゃないですか。エミリアさまのことになると、お嬢さまはまるで母親みたいなことをおっしゃるのですね」

母親だもの、という言葉をジュリエットはぐっと呑み込んだ。

前世のことは内緒だとかそういうことを抜きにしても、自分の最近の行動を振り返ってみると、胸を張って言える言葉ではないような気がする。

「でも、お嬢さまは昔からそうでした。まだお嬢さまが病気がちだった頃、教会にある女神さまの像に、なんとお願いしていたか覚えていますか?」

「……なんだったかしら」

それは恐らくジュリエットの中にある魂が、まだ『ジュリア』のものだった頃の話だ。

メアリは嘆息すると、どこか懐かしげで寂しげな表情を浮かべる。

「〝女神さま、お願いです。わたしが死んだらきっとお父さまやお母さまが悲しい思いをするから、わたしの身体を誰か可哀想な人にあげてください〟って……。毎回のように、そうお願いしていたんです」

「そうだったの……。いえ、そうだったわね」

ジュリアのその願いのおかげで、リデルは新しい身体を得ることができた。そして今、ジュリエットとして生きている。

前世の記憶があるのか、ないのかは別として、きっとこんな風に女神に魂を救われた人は、自分以外にも大勢いるのだろう。

「誰かのために生きようとするところは、昔からずっと同じ。メアリは、たまにはお嬢さまご自身の幸せを考えてほしいと思っております」

「わたしは――」

扉が外から叩かれたのは、ジュリエットが口を開いた丁度その時だった。

開いてみると、そこにはライオネルが佇んでいる。

「失礼いたします、ジュリエットさん。実はエミリアさまが、先ほどの件を謝罪したいと裏庭の噴水前でお待ちで……。よかったら、付いてきていただけませんか?」

「エミリアさまが……。もちろんです」

彼女に拒絶されてから、もう一時間は経とうとしている。

「ではわたしも――」

「ライオネルさんもいるし、わたしひとりで大丈夫よ」

付いてこようとするメアリを部屋の中に押しとどめ、ジュリエットはライオネルに続いて廊下に出る。

夕飯を終えてしばらく経った夜の屋敷内は灯りも消えて薄暗く、人の気配もほとんどない。

特に裏庭のほうは、元々日中でもひと気のない場所だということもあり、歩みを進めるにつれ静寂が際立っていく。

「あの、エミリアさまはどうして自室ではなく、裏庭なんかに――」

沈黙に耐えきれず口を開くと、ライオネルは振り向かないまま答えた。

「人目につかない場所で謝りたい、とのことでした。気恥ずかしいのでしょう」

「そう、ですか……」

少しでも場の空気を明るくしようと話題を振ったのだが、ライオネルの返事はどこか素っ気なかった。いつも優しく気遣ってくれる印象の彼のそんな態度に、少し違和感を覚える。

だが、この先でエミリアが待ってくれているのだという思いが、ジュリエットにその違和感を見過ごさせた。

やがて裏庭に到着したジュリエットは、噴水の陰から人影が覗いていることに気づき、急いで駆け寄った。

そこにいるのがエミリアであると疑いもしていなかっただけに、月明りの下に姿を表した人物を見て一瞬固まってしまう。

「ミーナ、さん?」

「ジュリエットさん。――ごめんなさい、エミリアお嬢さまのためなんです」

突然の謝罪の意図がわからず首を傾げたその瞬間。

首の後ろに軽い衝撃を覚え、ジュリエットの意識は暗転した。