軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ/最終話(下)

膝の上に座らせていたアリムを強く抱き締めた。アリムは嬉しそうに笑い、もっと抱き締めていいよと言って足をばたつかせる。

するとヴァンレックが、アイリスをアリムごとひょいと持ち上げて、自分の上へと移動した。

「な、何してるんですかっ」

「このほうが君の顔がよく見えるから」

笑いかけてきたヴァンレックの金色の目が、温かみを持って潤んでいて、アイリスはハッとした。

「アイリス、愛してる。俺にとって、君が初めて愛した女性なんだ」

「っ」

「どうかこの先もずっと、俺の妻でいてほしい」

ヴァンレックが恥ずかしげもなく言う。

そこまで真摯に告げられたら、アイリスもここではぐらかすのも悪い気がしてきた。

「私も……ヴァンレック様が、好きです」

さらに自分の頬が熱くなるのを感じながら、アリムを抱き締めて勇気をもらい、アイリスは告げた。

「さっき、離れてほしくないと言われた時、ヴァンレック様に愛した女性がいなくてほっとしすぎたのも気絶した原因と言いますか……」

「あ、そうかっ。アリムを実の息子設定にしていたせいで、これまでの俺の好意はことごとく流されていたのかっ」

「今になって気付いたのですか?」

ブロンズが、思わずといった様子でツッコミを入れてきた。

(彼が気付いているということは、メイドたちにも筒抜けだったのね……)

どうりで、微笑ましく見守られているなと思った。

「陛下の命令をこなそうと必死になっていた俺の嘘が災いしたようだが……相思相愛の夫婦だろう? 離縁の話は、なくなったと取ってもいいんだよな?」

「は、はいっ。私もずっと一緒に暮らせたら嬉しいです」

するとアリムがすぐ「やったー!」と叫んだ。

「それなら、外で気にして待っているみんなにも教えにいこうよ!」

「えっ、みんないるの?」

「僕、少し成長したから人の気配が読めるんだ。アイリスがずっといてくれるなんて嬉しいなぁ。大好きな二人が一緒にいてくれるのが、本当に嬉しいよ!」

アリムが腕を広げ、ヴァンレックとアイリスを一緒くたに抱き締めた。

彼の腕は小さいので、アイリスはヴァンレックのほうへ身を寄せた。彼もアリムが抱き締められるように気を利かせる。

「それじゃあ、気になっているみんなに報告に行きましょうか」

「うん!」

「そうだな。シーマスたちも、ハラハラしているだろうしな」

立ち上がり、二人でアリムを挟んで手を繋ぎ、歩き出す。

ブロンズが扉を開けるべく先に進む。

「二人の子供なら絶対に可愛いよ! ねぇ、いつ頃になりそうなの? 僕が一番目の友達になっていい?」

「ごほっ」

アイリスは、ヴァンレックと同時に真っ赤になって顔をそれぞれ左右に背けた。

「あのねアリム……それはまたおいおいに……」

「夫婦でしょ?」

不思議がるアリムに、ヴァンレックが「んんっ」と咳払いして、言う。

「その前にすべきこともある。それをしないと、夫婦としての実感も湧かないだろうし、そう急かしてやるな。俺もせっかくここにいるので、してもいいんじゃないかとは考えていたんだが――アイリス」

「は、はいっ」

まさか初夜でもするつもりなの、とアイリスは慌ててヴァンレックを見た。

「結婚式をしよう」

「――はい?」

待って、結婚式がどれくらい準備必要だ思っているの、とかアイリスは頭の中にいろいろと浮かんだものの、彼ならしてしまえそうだなとも感じて、結局は口から出てこなかった。

そして、その予感は的中することになる。

◇∞◇∞◇

十一月一日は、王都にとって冬入りを祝う日だ。

これから三日間かけて王都ではお祭りが行われるのだが、そんな冬の特別な一日目、王城は例年の数倍とも感じるほどの祝いの装飾に彩られた。

本日、国王による冬入り前言の式典、続いてヴァルトクス大公の結婚式が執り行われることになったのだ。

(私を絶対に逃がしたくないという陛下たちの意思を感じるわ……)

準備は一般的に見ても、かなり短い。

結婚式を挙げてくれるヴァンレックには嬉しさを覚えた。ウエディングドレスの準備も、アイリスにとっては初めての経験だ。

しかし、王城での打ち合わせで走り回っている人々、行ったり来たりする神職機関の人たちの忙しさを見て、少しだけ後ろめたさを覚えた。

時々お茶に誘ってくれた王妃は、気にしないで男どもに任せなさいと言った。

式典で見た国王は、心なしか美しい笑みが少しお疲れ気味だった。

とはいえ、誰もが大袈裟なくらいにアイリスを祝福した。

悪女であると家族におとしめられ、結婚するまで寂しい日々を過ごした令嬢。それが、ヴァルトクス大公との結婚で幸せな愛され妻となった。

その逆転劇は民衆を熱くしているとのことで、挙式の時間には式典以上の人々が王城の周囲に押し寄せた。

そのため、王の間での盛大で厳格で素晴らしい結婚式をしたのち、国王の演説用のバルコニーにアイリスはヴァンレックとアリムと出ることになった。

「ヴァルトクス大公妃殿下だ!」

「大公様ー!」

「お幸せに!」

「神獣様もいらっしゃるわ!」

顔を見せるなり一瞬にして人々の祝福で空気が揺れる。

「ははぁ、国王である私よりも人気だ」

国王は冗談まじりで言ったが、嬉しそうだった。

「アイリス、弟を皆に受け入れさせてくれたことも、感謝する」

彼はそっと呟いた。

アイリスも、それを実感して胸がいっぱいになった。感動の涙をこらえて「はい」と答えた。

ヴァンレックも驚いているようだった。

「……なぜ俺も祝われているんだ?」

「我が弟よ、そこは素直に受け止めろ……お前は昔から真面目すぎるというか、お堅いというか、鈍いというか……」

「陛下、進行をなさってくださいませ」

王妃が、国民に手を振りながらこそっと言った。

国王がうなずき、前に出る。

「祝いに集まってくれた皆に礼を告げる! 今日、愛し合った二人の希望により、遅れていた結婚式をここで迎えることになった。その目撃者となって我々は幸運だろう」

国王が告げると、民衆は沸く。

「神獣は人に御心を近付こうと、生まれた瞬間に人間の幼子の姿となる。本来の姿に戻るまでヴァルトクス大公に託していたが、神獣はヴァルトクス大公に嫁入りしたアイリス・ヴァルトクス大公妃も気に入った。二人によって神獣はどんどんご成体へと近付かれるはずだ。二人は心を通じ、神獣はそんな二人を愛した――これほどめでたい婚姻はないだろう」

その通りだと人々が言い、祝福の言葉がいたるところから飛び始めた。

なんて壮大で素晴らしい光景なのだろうとアイリスは思った。

こんなにもヴァンレックの妻として、みんなに望まれていることも嬉しかった。

「アイリス、感動してるの?」

アリムがぴょんっと飛び込んできて、アイリスは彼を抱っこした。アリムが目尻を小さな指でそっと拭う。

「ええ、嬉しくて胸がいっぱいになっちゃったの」

「アリムに先を越されたな」

「嫉妬しないでよ〝パパ〟」

「お前、わざとだよな?」

どうにか国民たちに笑顔をたっているヴァンレックが、アリムと見つめ合う。

「だが俺も、アリムに負けるつもりはないぞ」

「えっ――」

肩を抱き寄せられたと感じた一瞬後、ヴァンレックの端正な顔がぐんっと近付いて――アイリスは目尻に口付けられていた。

柔らかな温もりが、そこにたまっていた涙の粒を吸う。

国民たちが拍手喝采で盛り上がる。

バルコニーの向こうで待機していた護衛のシーマスたちが拍手し、近衛騎士隊もメイドたちも笑顔で続く。

アイリスは真っ赤になった。

「ヴァンレック様っ、みんなが見ている前でするなんてっ」

アリムを抱っこして両手が使えなかったので、アイリスは一歩下がってヴァンレックから逃れようとする。

「誓いのキスはまだ見せていないぞ」

「え」

「さあもう一度、今度は〝みんなに〟見せてやらないと」

優しく抱き寄せられて、顎をそっと持ち上げられる。

待って待って、そうアイリスが思っている間にも、ヴァンレックの唇が近付き、そして間もなく二人の唇が重なっていた。

人々の「それが見たかった!」という声、「お幸せに!」という声――。

たくさんの祝いの言葉を恥ずかしく聞きながら、けれど嬉しさが勝ってアイリスも最後は笑って、ヴァンレックと唇を重ね直していた。

我慢できなくなったアリムが神獣の姿になり、アイリスの胸から飛び出す。

そして彼が晴れた空に放った黄金色の花火は、まるでこの先の繁栄さえ祝福するかのように美しく、誰もの記憶になる素晴らしい日になったのだった。