軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3-3

その数時間後。

(――どうしてこんなことになっているのかしら)

結果として、アイリスは『自分で誘う』を果たせなかった。

そして予定なかったことが目の前で展開されている。

アイリスは防寒具を着込み、いびつな形の雪だるまを形成しているところだ。そんな彼女の向かいには、大きな雪ダルマを作っているヴァンレックとアリムがいた。

アリムはヴァンレックに手伝ってはもらっているが、自分なりに立派な雪だるまを作ろうと必死だ。

理由は、ヴァンレックに勝ってアイリスに褒められたいから。

(アリムが楽しそうなのはいいのだけれど)

おやつを食べたのち、アリムとひとまず運動でもしようという話になった。

そうしたら彼が雪遊びがしたいと希望した。

アイリスは前世、そんなに雪も積もらない地域に暮らしていたので、初雪に胸が踊っていたし、了承した。

メイドたちに寒くないよう厚着に整えられて、冬国を感じる耳まですっぽりと覆うもこもこの帽子もセットされ、玄関の外へ出た。

空気はとても冷たかったが、この地の防寒着だと全然つらくない。

手袋で大量の雪を集めて大きくしていく感触も気に入った。

夢中になって二人で雪だるまのボールを作っていたら、ヴァンレックが来たのだ。

『俺も、する』

白い吐息を大きく出しながらそう告げた彼は、馬を降りて走ってきたのか、息が切れていた。

そうして、気付いたら父と子のバトルが始まっていた。

(大公様、お忙しいのではないかしら)

雪が降って騎士団のほうは忙しそうだった。

とはいえ、子供と接することに慣れてほしいと思っていたので、喜ぶべき展開だ。

しかしアイリスは複雑な心境でもあった。先日から始まった一緒の食事に続き、こうして『旦那様』とまたしても接点ができたことに、少し戸惑いも感じている。

「君のほうは問題ないか? 初めてのようだが」

「あっ、はい。大丈夫です」

ひとまず二段目の雪玉を、手袋をした手でぺたぺたと丸く形成しなから答えた。

ヴァンレックはこうやってアイリスを気にかける。

しかも『初めて』という理由付けで声をかけられるのは、数回目だったりする。

「本当に大丈夫か? 教えが必要ではないか?」

どうしてこう構おうとしてくるのだろう。

(六歳の子供に集中したほうがいいですよ)

アイリスは、アリムへと視線を移動する。

するとヴァンレックが気付き、「あっ」と言った。

「アリム、また俺の雪を取るんじゃないっ」

「僕より大きなものを作ったっ、やーっ」

「俺のほうが身体も大きいのだから、仕方ないだろう」

「パパなんて僕よりちっちゃくなっちゃえっ」

アリムは本気で『パパ』に勝ちたいようだ。自分よりも立派なものを作らないで、と理不尽にも訴えかけている。

(そこまでして私にいいところを見せたい、と……)

ヴァンレックが目の前で普通に話している様子も新鮮だった。

怖い大公様、という印象は微塵も感じない。

(冬用の軍服もあるのね)

雪が降りそうだと想定していたのだろう。ヴァンレックの軍服のコートは普段より厚めだった。黒い手袋も防寒性に優れていそうだ。

「パパもアイリスに褒められたいんだねっ?」

「なっ、ち、違うぞっ。別にそんな……だからっ、雪を取っていくんじゃないっ」

「目を離したパパが悪いー!」

あははと声を出してアリムが笑う。

彼を持ち上げたヴァンレックは、まったく困った奴だと顔に出ていた。

(これはこれで親子らしいわね)

いったいなぜ、ヴァンレックが積極的に加わったのかは謎だが、競い合っているアリムはアイリスだけの時より楽しそうだ。

(ま、いっか。父と子らしい触れ合いよね)

雪だるまを作ることに集中した。

やはりヴァンレックは時々声をかけきた。

アリムと一緒に面倒を見られているのではないか、とアイリスが感じ始めて間もなく、その感覚は正しかったのだと実感できるようになる。

「こうすると形を整えやすいから」

「はい」

「うん、上手だ」

彼はよく隣を覗き込んできて、手本を見せてアイリスの雪だるま作りも見た。

おかげで進行はスムーズだ。気付けば雪だるまの身体が三人同時に完成していた。

「顔の材料はこちらに」

「わぁ、すごいですねっ。旦那様、その箱はいったいどこから――」

「部下たちに協力してもらった」

「あとでお礼を言わなきゃですね」

お手数をかけたなと思ったものの、箱の中の素敵な素材にアイリスは心がときめいた。

(うわ、うわああぁあぁっ、雪だるまを作っている感がすごいわ!)

雪だるま作りは初めてだ。棒切れ、ニンジンや大きなボタン、マフラー……使えそうなものがたくさん入っている。

「あれ、このマフラー名前が書かれて――」

「シーマスのだから気にしないでいい」

今頃寒くて困っているのでは、とアイリスはマフラーを持ち上げた状態で固まってしまった。

すると、ヴァンレックはむすっとしたように言う。

「夫人の役に立てるのなら嬉しいとか。他の部下たちも、作り始めたのを見た時には、材料集めに自分たちで動いていたようだ」

「そう、だったんですか」

通りで用意がいいと思ったら、ヴァンレックが声をかける前には材料集めが始まっていたらしい。

「アリム、腕ならその長い枝のほうが――」

「パパは口出し不要っ」

「そんな勇ましさをいつの間に身に着けて……あ、夫人、ニンジンの向きはこうだ」

「あ、はいっ」

やはりヴァンレックは二人の面倒を見ていた。

(放っておいてくれてもいいのに)

律儀、な人なのだろうか。

(私は『悪女』なのにな)

この世界で優しくされるには、遠く離れて新しく人生をスタートしなければならないと思っていた。

だから、なんだか耳先が熱くなるようなくすぐったさを覚えた。

三人の雪だるまは、ほぼ同時に仕上がった。ヴァンレックは手慣れていたが、彼はアイリスとアリムの進行具合を見守っていたので当然だろう。

「見てアイリス! うまくできたでしょう?」

アリムが腰に両手をあて、えっへんと胸をはる。

(――か、かわっ)

アイリスは可愛いと頭に浮かんだ拍子に、動くことを忘れてしまった。

「夫人」

「はっ」

声が聞こえたほうに顔を向けると、ヴァンレックが横目に見ていた。

なんだか彼の『夫人』という丁寧な呼びかけも、妙にくすぐったい気持ちにさせてくる。

アイリスはパッとアリムのほうへ向き直った。

「そ、そうね、とっても上手よっ」

しゃがんで目線を合わせて答えた。

アリムの目が輝きと共に見開かれ、ふわふわの銀色の尻尾が左右に激しく揺れる。

「僕が一番っ?」

「ふふっ、アリムが一番よ」

「やったー! アイリスのは一番小さいね。今度コツを教えてあげるねっ」

「楽しみにしているわね」

すると彼が、アイリスの袖を引いてヴァンレックのほうを指差した。

「パパのは? アイリスの目から見て、どう?」

かなり上機嫌になったらしい。競い合っていたことも忘れたみたいだ。

「え?」

「パパも上手でしょ? 僕に初めて雪だるまを作って見せてくれたのは、パパなんだ」

アイリスはアリムに促されるまま顔を向けた。そこに立っていたヴァンレックが、何やらビクッと身体を揺らす。

そんな彼の隣にある雪だるまの存在が、アイリスの目を引いた。

確かにかなり上手だ。そしてアリムに雪を取られたり、彼の手前あまり注力しなかったようなのに、それでも左右の二人の雪だるまより頭が抜きん出ている。

アイリスはじーっと見たのち、つい吹き出してしまった。

「旦那様すごいですね。私、こんなに大きな雪だるまを見たのは初めてです」

「っ」

前世でも、そして『アイリス』の記憶にも、こんなに大きな雪だるまは見たことがない。

「じゃあアイリス、パパの雪だるまも合格? 気に入った?」

「とても気に入ったわ」

「やったねパパ! どっちの雪だるまもいいんだって!」

アリムが嬉しそうに駆け寄ってハイタッチする。

両手を掲げた彼に、何やら頬の下を赤く染めたヴァンレックが身を少し屈めて、自分の大きな手の指先をちょこんっと合わせる。

(あら、一緒にこうしっかりと遊ぶのは初めてだったみたい)

今になって我に返ったんだろう。アイリスは、にこにことほほえましい気持ちで父と子の様子を見守る。

すると、ヴァンレックの目がこちらを向いた。