軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-7

だが、そんな心の用意は必要なかったらしい。

その夜、ダイニングルームで三人の夕食があったのだが、審査されるような視線をヴァンレックからは感じなかった。

同じ食卓についた際に緊張はあったものの、意外と普通だった。

使用人たちは、成婚してようやく夫婦が揃った〝家族〟の食事に、ほっとしているのも見受けられた。

どうやら『子息が新しい母親に慣れる間の期間が置かれた』とメイドたちは思っているようだとは、アイリスは寝支度の際に聞いて分かった。

(まぁ会話だってあるし……?)

夫に冷遇されている妻だとしたら、こんな好待遇はなかったはずだ。

化粧台の前、メイドに髪に櫛を入れられているアイリスは、湯浴みのぽかぽかとした心地で今にも眠りたい心地だった。

子供と遊ぶのも体力がいるし、かといって引きこもりのうえこれまで栄養不足だったこの身体は、体力がなさすぎる。

だが、ここでそのままメイドたちの世話に甘えて、眠りこけるわけにもいかない。

――緊張、はない夕食だった。

理由はヴァンレックの〝子育て〟が、なんともぎこちなかったからだ。

(というか、下手)

衝撃的な事実だった。

おかげで緊張なんてする暇もなかったのだが、アイリスはこれまで帰ってきた際にアリムと交流するヴァンレックを眺めていた時の違和感の正体に、気付いてしまった。自分の子なのに、ヴァンレックはどうも子供の接し方に不慣れすぎる。

アリムがウィンナーを刺したフォークを向けて『あげる!』と言うと、戸惑う。

そのお返しがほしくて彼がアピールすると、どうしようと悩む間が置かれる――などなど見ていられない瞬間がたくさんあった。

(見ていられなくて、つい助言ばかりしてしまったのよね……!)

そもそも六歳の子供なのに、テーブルで向かいあって座って、どうする。そうアイリスはまず思った。

テーブルがそれなりに小さくて、伸ばした腕が届く範囲なら、まだ分かる。

しかし、彼の食卓は十、数人は座れそうな立派なものだった。その中央にアイリスはアリムと並んで、ヴァンレックはその向かいに腰かけたのだ。

(隣に座ってください、なんて言ったらさすがにだめだと思って言わなかったのだけれど……彼、もしかして子供との接し方に、全然慣れてないの?)

それは思ってもみなかった誤算だった。

帰宅した際にアリムを抱き上げる仕草は自然だったし、二人で過ごす時間も設けられている。

その間にアイリスは自分の仕事を片付けるわけだが――。

(そもそもあの状態で、大公様、子供との遊びに付き合えるのかしら?)

想像もしていなかった問題が頭に浮かぶ。

「奥様、いかがされましたか?」

鏡越し――ではなく、直に横から顔を覗き込まれて、アイリスは「わぁーっ」と声が出てしまった。

覗き込んだメイドが、驚いて姿勢を伸ばす。

「も、申し訳ございませんっ。ものすごく百面相されていましたものでっ」

「え」

よく見れば、メイドの表情は心配そうだ。

彼女の後ろでベッドを整えているメイドたちのほうを確認してみと、必死に顔を背けているが、口元が緩んでいる。

(嘘……私ってもしかして、顔に出やすい?)

この世界の『アイリス』はそうではなかったはずなので、前世とそこが変わっていないことにも衝撃を受ける。

てっきり、この『悪女顔』なら表情なんて変化しないと思っていた。

しかし中身が変われば、そういうことも変わってしまうのか。

「……えぇと、その、旦那様はもう少し子供との接し方を覚えたほうがいいような、と考えていたのよ」

みんな気付いている可能性を考え、そう告げた。

メイドたちは顔を見合わせる。

「正直に答えてくると助かるわ。どう思う?」

主人に対して文句を言いづらいのは理解できる。彼女たちは、過ごしていてとても優秀なメイドたちだとはアイリスも理解していた。

許可して促すと、彼女たちは少しぎこちないがいい父子だと答えてくる。

「お二人がおられる部屋にわたくしたちは入ることがありませんので、旦那様がお相手されている際の状況は見ていませんが、アリム様の日頃のご様子からそれを感じます」

「入らないの?」

「はい。呼び出しがあれば、入室して後片付けなどは行います」

「アリム付きの子たちも?」

「終わったあとにしか合流しません。わたくしたちのほうが接する機会は多めかと」

「旦那様がお部屋までアリム様を送り届けた際、預かる流れだと聞いています」

なんだか違和感を覚えた。

(本来は忙しくて手が届かないから、使用人を使うものだけれど)

本当に『付きっきり』みたいだ。

しかし、食事の世話を焼くということにも、とことん向いていない。

(あのぎこちなさを、まずはどうにかしないと)

アリムはヴァンレックがすごく好きみたいなので、気付いていない様子だ。

しかし、いつか寂しい思いをしたり、誤解が重なって切ない青春時代を過ごしたりすることになるのではないか。

アイリスはそんなところまで妄想が飛んだ。

「やっばり隣に座ることからすすめましょうっ。あ、でも『お前ごときの立場で』と怒られたり……」

「まぁ、奥様」

メイドの声を聞いて、アイリスはハッとした。

(――か、考えすぎて口に出してたああああぁあぁっ)

振り向くと、メイドたちは一人も動かない状態でアイリスを注視している。