軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アニメ化記念小話「はじまりのその前に」

「しょけい?」

コニーはきょとんと目を瞬かせた。ケイトが慌てたようにしぃっとコニーの口元に指を当てる。

「あまりおおきなこえでいったらダメよ」

少し前にパメラ・フランシスのお誕生日会で仲良くなったばかりの、甘い焼菓子のような匂いがする愛らしい女の子は、そう言うと困ったように眉を寄せた。

それから周囲の様子をきょろきょろと窺う。といっても、ここはケイトの部屋なので隅の方に侍女がひとりいるだけだ。

それでもケイトは声を潜めた。

「なんだか、よくないことばみたいなの。しってる?」

「うん。ええと、ジンドウニハンスルコウイ、のことでしょう?」

コニーは少しだけ得意気に言った。ちょうど今日、お父様が言っていたのだ。

正直意味はよくわからなかったけれど、まるでよく知っている事柄であるかのように告げる。

ケイトが感心するような表情でコニーを見てきたので、コニーはさらに得意な気持ちになった。

それから、お父様の憂鬱そうな表情を思い出す。いつものように目覚めの紅茶を飲みながら、今日、サンマルクス広場で「しょけい」があるのだと言っていた。けれど、詳しいことはよくわからない。その言葉を聞いたお母様が、すぐに、子供の前で言うことではないと怒ったからだ。前から思っていたが、お父様はうっかり者のようだ。

そして、コニーは気づいていなかったが、幼いコニーは子供らしく浅はかで、考えなしで、愚かだった。

だから、新しくできたばかりの友人にほんの少しだけ見栄を張りたくてこう言ったのだ。

「――みにいってみる?」

ケイトは驚いたように目を丸くした。それからすぐに首を振る。

「ううん。〝わるいこ〟だって、おこられるわ」

コニーもそれはわかっていた。でも、同時に不思議でもあった。

「どうして、おこられなきゃいけないんだろう」

「え?」

「だって、おとなたちはみてもいいのに。同じことをしているのに、こどもだからっておこられるのは、おかしいよ」

わたしたちは、なにもしていないのに。

そう言うと、ケイトは黙り込んだ。何かを考え込むように何度も瞬きをしていたが、けっきょく答えは出なかったらしい。

「そう、なのかな……?」

「そうだよ! たぶん、おとなたちは楽しいことをひとりじめしようとしてるんだよ!」

つまるところ「しょけい」というのはワクワクして、楽しくて、素晴らしいものだと、その時のコニーは本気でそう思っていたのだ。

「だからさ、みにいこうよ!」

コニーは満面の笑みを浮かべると、ケイトに向かって手を伸ばした。ケイトは困ったようにコニーの手と笑顔を交互に見つめていたが、しばらくするとその手を取る。

それから、ふたりでこっそりと屋敷を抜け出した。運が良いのか悪いのか、ロレーヌ邸はサンマルクス広場からさほど離れていなかった。

ケイトと手を繋いで歩きながら、コニーの胸はドキドキと早鐘を打っていた。まるでおとぎ話に迷い込んだ冒険者にでもなったかのような、不思議な高揚感が身体を包んでいる。

やがて、通りの向こうにやわらかな緑が広がりはじめた。サンマルクス広場はもうすぐだった。

その時、空気がふっと張りつめたように感じられ、コニーは思わず顔を上げた。

視線の先にあるのは見慣れた時計塔。

そして次の瞬間、まるでコニーが来るのを待っていたかのように——

りん、ごん、と鐘が鳴った。