軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幕間3

王都がオルスレインの目抜き通りの一画。

いつものように街路樹の木陰となるベンチに腰かけていたモーシェ・バルシャイは、連絡員から緊急用の報告を受けるとさっと表情を強張らせた。

「――なんだと?」

ただならぬ様子に、少し離れたところで周囲を警戒していたイヴリー・コーエンが近づいてくる。

「何かありましたか?」

モーシェは眉を寄せたまた低く呻いた。

「……同胞たちが拘束されたらしい」

「拘束? まさか、憲兵にですか?」

「いや違う。ただの市民団体だそうだ」

その言葉に、イヴリーが面食らったように目を瞬かせる。

「 市(・) 民(・) 団(・) 体(・) ?」

「ああ。よくわからないが、市民の権利を妨害したためだと主張しているようだ。おそらく過激派の言いがかりだと思うが、今、憲兵局が事態の収拾に当たっているらしい」

拘束されているのは、中央特務機関の諜報員たちだった。

これが憲兵局の手によって行われたことであれば抗議もできるが、相手がただの市民だというのであればそうもいかない。

そもそもモーシェは大臣という立場上、中央特務機関と接点はないことになっているのだ。

もちろん、実際は違う。補佐役という名目で同行しているイヴリー・コーエンは中央特務機関の上官のひとりであるし、モーシェ自身も外部監査役として諜報員たちの育成に携わっていた。それに、現在拘束されている諜報員たちはイヴリーの部下だ。

今回のアデルバイド訪問に彼らの同行を依頼したのはモーシェだった。

シラ・ナバム亡き今、東シュキタル議会はモーシェを筆頭とする和平派ではなく、敵対する反和平派が優勢となっている。この状況を打開するためには、東西の和平を確約したという親書が不可欠だった。

そんな折、モーシェが育てた諜報員から、シラ・ナバムの暗殺に【 暁の鶏(ダェグ・ガルス) 】が関与しているようだという情報が入った。黒幕は、 同郷(東シュキタル) の反和平派だろうとも。

例の西との会談は極秘事項だった。なのに、シラ・ナバムの《砂漠の薔薇》が奪われたということは――敵は、前もってその情報を知っていたということだ。

つまり、内通者がいる。

【 暁の鶏(ダェグ・ガルス) 】は、反和平派に、依頼の報酬としてクリシュナの脱獄を要求していたという。であれば、この催事展は格好の機会になるだろう。

通常であればシラ・ナバムの死で頓挫するはずの計画が、滞りなく開催されたことでモーシェは確信を強めた。

それからすぐに古い友人であるイヴリー・コーエンに協力を求め、アデルバイドを非公式に訪れたのだった。

ただ、いくら志を同じくするとはいえイヴリーとモーシェは属する組織も立場も違う。どこから情報が漏れるかわからない以上、味方に内通者がいることは伝えていなかった。彼は純粋にモーシェが《砂漠の薔薇》を探しに来ていると思っているはずだ。

(……ここまでか)

モーシェは難しい表情のまま結論を下した。

件の諜報員は最後の連絡で《砂漠の薔薇》を回収したと言っていた。潜入先に正体が露呈するのは時間の問題で、そのため【 暁の鶏(ダェグ・ガルス) 】の潜入は打ち切り、ここアデルバイドで合流する予定だったのだ。

だが――

モーシェは、ふと視線を感じて顔を上げた。

目の前には幼い子供が所在なげに立っている。すでに顔見知りとなったクッキー売りの少年だ。

そのどこか困ったような表情を見て、モーシェは全てを悟った。

「―― 今(・) 日(・) も(・) 、 な(・) い(・) んだね?」

少年がこくんと頷く。

「……そうか」

落胆を隠しながら銅貨を数枚握らせる。いつもより多い金額に、少年はぱっと顔を輝かせた。

「 最(・) 後(・) の(・) 日(・) だからね。特別だよ」

モーシェたちがアデルバイドに入国してから、今日で、ちょうど七日目になる。

猶予は七日間。それ以上は何があろうと待つことはない。

それはもう、何年も前から続く決まりごとだった。

モーシェと、 彼(・) との。

つまり――

モーシェ・バルシャイは瞼を閉じると、額に指を押し当て天を仰いだ。

つまり、バスケス・ジェイは失敗したということだ。